その訓練は必要ですか?
真面目な話を終え、私はお茶を入れ替えた。
「では、ポーションバッグの話をしましょうか」
皆は携帯食料を食べながら頷く。
「おお、ポーションバッグは大変助かりました。普段の戦いでは割れる事を恐れ、ポーションは自分で持つのはせいぜい一本。それをバッグに二本入れて傷薬も入れられる。頑丈ですから、割れる心配なく戦える。あれは戦いやすかった。邪魔にもならず、薬が側にあるのは安心感が違います。販売をされるのですかな?」
ブルワー法務大臣がお茶を飲みながら聞かれる。
「お役に立てて良かったです。販売は少し先になると思います、今準備中です。先日、透明という言葉が国法の本によく出てくると知りました。お好きな色は何ですか?その色を薄くして作り直し、ブルワー法務大臣の好きな刺繍を入れようと思います。何か好きなモチーフはありますか?天秤や剣、なんでも良いですよ」
「嬉しいですな。この間のバッグも良いですが、好きな色ですか。うーん。ピンクも好きですが、青ですか。好きなモチーフ・・・。剣と杖をお願い出来ますか?こう、交差する感じが良いですな」
「ペンや羽ではなく?杖ですか?」
「ええ。魔女様からの贈り物ですから。以前貰った物は妻に贈っても宜しいかな?妻は眼鏡入れを壊してしまい、眼鏡を入れる物を欲しがっていまして。あれは見た目よりも衝撃に強いですし、軽いですから。ピンクは妻が好きな色なのです」
ブルワー法務大臣はちょっと照れながら奥様の事を言い、私は頷いた。
「どうぞ奥様にお贈り下さい。新しく作る物は薄い青にしましょう。ピンクとの相性も良い色ですし、二つ並べても可愛いと思いますよ。奥様の方もおそろいの刺繍をしましょうか。ハワード隊長にはネーロさんの刺繍の予定ですが、希望はそのままで良いですか?ジロウ隊長は以前、第四のマークをお聞きしたの覚えています?やはり、森かスレイプですか?ウィリデさんの色で刺繍をすると緑色のポーションバッグでは目立ちませんから、緑以外のお好きな色を教えてください。縁取りをします」
「あー、成程。じゃあ、自分もウィリデに杖がいいですね。杖の場所やデザインはジェーン様が決めて下さい。緑以外の好きな色・・・。黒か紺ですかね。ハワード隊長はどうです?」
「是非、杖を。ネーロに杖のマークが欲しいです」
ハワード隊長の返答にホーキンス隊長も頷かれる。
「魔女様のマークがあると有難みが増しますね。私は何だろうな、麦か。王都の街並み。手を引く親子・・・やはり街並みが良いですかね。薬局屋のシルエットも良いですね。マークはお任せします。私にも杖も付けて下さい」
「杖ですね。分かりました。出来上がったらご連絡します。これは贈り物ですから請求書は行きませんからね」
私はメモを取りながら、皆の希望を聞いて行く。
「有難いですな。ところで、ホグマイヤー様はまだお出かけですか?」
「ええ。ふらふらと元気にしてそうです。お披露目には、来るか来ないかは当日にならないと分かりません。お披露目の後に薬局の裏の食堂でパーティーをするのですが、それも参加出来るかはまだ返事がないのですよ。ランさんに聞くと、今までもふらっといなくなる事は多かったらしいので、心配ないと言われました」
「成程。まあ、ホグマイヤー様ですからな。私も剣を振れと言われてますから、これからもダンと身体を鍛えておきましょう」
「ブルワー法務大臣、もっとムキムキになるんですか?頼もしいですね、素敵です。この間、お茶を一緒にしたお姉さんが、マッチョが好きって言ってましたよ。身体を鍛えるのは健康的で良いですね。私も少し鍛えようかな。ジロウ隊長のウィリデさん、また乗らせて頂きたいですし」
ジロウ隊長が塩ナッツを食べて、コレ美味いですね。と言いながら頷いた。
「ウィリデ、いつでも乗せますよ。ジェーン様は身体鍛えるよりもバランス感覚を練習された方が良いかと。あー、でもある程度は鍛えた方が良いですかね?」
「どうでしょうか。女性隊員と鍛え方を比較するのは酷ですし。彼女らは毎日訓練していますからね。魔術士や治療師も身体を鍛えてはいますが、なんとも・・・。第二ではどうですか?」
ハワード隊長が考えられホーキンス隊長に聞かれた。
「第二は王都の外周の警備を馬でしますので、皆、馬には乗りますね。魔術士、治療師も馬上から魔法、治癒が出来るように訓練をしています。飛竜やスレイプがいる、第五や第四の方が訓練は特殊かもしれません」
ジロウ隊長とハワード隊長が頷く。
「あー、まあ、ジェーン様は身体の訓練はゆっくりでいいんじゃないですか。無理すると身体壊しますよ。魔法の特訓をコロン領でもしていましたし、魔法の訓練が良いんじゃないですか?まあ、魔女様の事は分かりませんが」
ブルワー法務大臣が頷く。
「身体を鍛えるのなら、儂の屋敷でやりますか。ダンも呼んで訓練ですな。ジェーン様に魔法攻撃されるのも良い訓練になりそうです。ダンも喜びましょう」
「うん?あの、腹筋を十回とか、お使いの時に少し遠回りをして歩くとか、夜寝る前にストレッチとかそういうレベルで言ったのですけど。皆さんの鍛えると、私の鍛えるは考えに差が大きい様に思います」
ブルワー法務大臣がゆっくりと横に首を振る。
「いやいや、ホグマイヤー様によく遊んでやろうと言われ、転がされたものです。いやあ、懐かしいですな。ジェーン様も、身体は鍛えた方が宜しいですよ。筋肉は正義です」
「私の訓練は決定ですか?ハヤシ大隊長とブルワー法務大臣と?攻撃魔法なら得意ですけど・・・。弱くするの苦手で、ドカンとしてしまいますよ?あ、でも、お二人ならいいのかな?少し強くなっても大丈夫ですね。防御膜張ればお屋敷も無事でしょうし・・・。私、そよ風魔法の練習をしたいのですけど、そよ風ではお二人の訓練になりませんね」
ホーキンス隊長が眉を片方上げた。
「是非見学をしたいですね。大隊長と魔女様の訓練。まあ、私も稽古を付けて頂ければ自慢出来ますが。魔女様の魔法を、無事に避けれる自信はないですね」
「あー。あの魔法陣でしょう?自分も無理かと。ポーションを持って訓練しないと危険ですね。使い魔殿も参加するでしょうし、四対一ってことですよね?時間制限をつけて貰って避けきる練習なら頑張れるか」
ジロウ隊長が頭にウェルちゃんをとまらせて考えこみ、ハワード隊長は決意を込めた顔で頷く。
「私も厳しいと思いますが、機会があるのなら是非参加したいです。無様な姿をさらさない様にしないといけませんが。飛竜とスレイプ使って良いのならどう戦いますか?ホーキンス隊長は細身の剣も得意でしたよね?ジロウ隊長は双剣も使えましたよね?我ら三人で四対三ではどうでしょうか」
「ええと、やっぱり、私は寝る前のストレッチで十分かと・・・」
私の言葉は皆が戦いの作戦を話す言葉で消されていく。
大隊長達と飛竜とスレイプに掛かってこられる訓練って何?
薬局で腹筋するだけでいいのだけど。足りないなら腕立て伏せ五回足したら駄目かしら。
皆やる気で、話は盛り上がっている。
本気で隊長三人で掛かってくる気なのかしら。
やっぱり師匠の周りの人は皆脳筋ね。
私が隊長達の話を、スンとした顔で聞いていると、ブルワー法務大臣が笑われた。
「ははは、皆で訓練、結構ですな。まあ、まずは無事にお披露目を終え、そして余計な芽を潰しますか」
ブルワー法務大臣はギラリと目を光らせ、お茶を飲まれた。
私達はその後穏やかに話を終え、法務局を後にした。隊長達に王宮入口まで送って貰える私は強いと思う。
門に行こうとする私に、ハワード隊長が薬局迄送ります、と言われ、アルちゃんは影から出ると私の肩に乗った。
ジロウ隊長達とは別れ、二人で並んで歩いた。