お姉さんとチョコケーキ
ポーションバッグの刺繍の注文も済み、大通りの店を覗きながら私は店に帰る事にした。モラクスさんの勉強代のお菓子や本を買わないといけない。
それに久しぶりに、ぶらぶらしたい。最近忙しすぎよ。
そんな事を考えながら最近出来た大通りのお洒落なカフェを覗いていると、カフェテラスから声が掛かった。
「ロゼッタさん、こっちこっち!!」
私が声をした方を振り向くと、魔鳩ポッポ屋の受け付けお姉さん、チェルシーさんがテラス席から手を振っていた。
「あ、チェルシーさん。今日はお休みですか?」
私が挨拶を返すと、頷かれ、自分の隣の席を指す。
「ロゼッタさん、招待状有難う、楽しみにしているわ。ね。こっち来て一緒にお茶しましょうよ。なかなかゆっくり話す時間もないし。一人でカフェ巡りもいいけど、ロゼッタさんと一緒の方が楽しいもの。お姉さんがケーキ奢ってあげるわよ」
「いいですね。私もケーキ食べようかな。おしゃべりしましょう。今仕事が一つ終わったので、一時間程なら時間ありますけど、奢らなくていいですからね。ちょっとランさんに連絡します」
私はランさんに手紙を書くとウェルちゃんに預け、カフェに入り店員さんにチェルシーさんの席に案内して貰った。店に入ると、皆がちらっと私を見たのが分かった。
「玉ねぎ屋パーティ、楽しみね!招待してくれて有難う、お洒落して行くわ!音楽もあるんでしょう?ダンスも出来るわね!」
「ええ、是非、お洒落して来て下さい。マツさん、音楽団の知り合いがいるらしいですよ。ダンス楽しみですね。一緒に踊りましょう」
「ふふ。「夏の恋」を皆で踊る?「冬の愛」もいいわね。ねえねえ、コロン領どうだったの?ランさんはちょくちょく帰って来てたけど、ロゼッタさん、行きっぱなしだったんでしょう?あ、これ、メニュー。私のおすすめはチョコケーキよ」
「あ、チョコケーキ、コロン領でも食べましたよ。ふふーーん。コロン領でデートをしたんですよー。私も中々でしょう?」
私がメニューを見ながら言うと、チェルシーさんは席を私の方に寄せた。
「なに!?聞いてない!!あ!ランさんが慌てて店閉めて行った時ね!?違う?」
私は苦笑いして、店員さんに紅茶とチョコレートケーキを注文した。
「ははは。多分、それです。ランさん、デート中に飛竜から飛び下りてきましたから」
「え、なにそれ!ランさんと飛竜が気になるわ。ちょっと、相手はどんな人よ。何処の貴公子よ。聞かせてよ」
私は、ふふ、と笑ってマークさんとのデートを答える。
「魔術士で冒険者の方です。容姿は、髪は長く、眼鏡をかけたほわっとした顔立ちで、格好良いんじゃないですかね。デートと言っても警護付きですし、使い魔もいますし魔法の話が中心の街歩きなんですけどね。デートのお誘いも第四の隊長と一緒の時に誘われました。でも、楽しかったです。私の事を尊敬して下さってるみたいで。だから、告白とかも何もないですよ。優しくて、穏やかなお兄さんみたいな人ですね」
「えー。イケメン眼鏡って感じ?いいじゃなーい。なにそれー。コロン領で、良い出会いがあったんじゃない?心配してたけど、良かったわ。私の知り合いもロゼッタさんにアタックしたいって何人かいたけど、鉄壁の門番が返り討ちにしているらしいわよ」
「誰か想像は付きますし、答えも間違ってないでしょうけど鉄壁の門番はランさんですね?」
チェルシーさんは紅茶を飲みながら頷く。
「ほら、あれから暫く立つけど、ロゼッタさん、魔女になったじゃない?だからなおさら変な輩を寄せ付けたくないみたいよ。ランさんの気持ちも分かるから、周りもランさん放って置いてるのね。ランさんに打ち勝つ位の人がいたら、幸せになれるわ」
私に紅茶とチョコケーキが運ばれて来た。私は紅茶を一口飲み、チョコケーキを一口食べた。
「美味しい。ランさん野放しですか。無法地帯に踏み込む勇気のある方がいますかね?私の幸せ、ハードル高くないですか?あ、チェルシーさん、お聞きしたい事が」
「え?何?好きなタイプ?私もロゼッタさんのタイプ聞きたい」
チェルシーさんもチョコケーキを一口食べ、もう一つケーキ食べようかとメニューを覗いていた。
「そちらも後で聞かせて下さい。私の好きなタイプ知りたいですか?うさ耳バニーのお店に知り合いが勤めてるって言ってたじゃないですか。どんなお店ですか?」
チェルシーさんはメニューから顔を上げ、びっくりした顔をする。
「え。どういうこと。まさか、ロゼッタさん、薬局辞めてバニーになるの?人気出そうだけどランさんが許さないでしょ」
「薬局辞めませんよ。人気出るかな?いえ、どんなお店か聞きたくてですね。色々考えてたらバニーのお店が気になってしまって。あと、変なデートってどんなものか分かります?」
「興味があるのね?お店は殆どが男の人がお客よ。バニーの格好をした女の子が接客するのよ。バニーも、店によってセクシータイプと可愛いタイプとあるのよ。私の友達は可愛いタイプのお店よ。ロゼッタさんは人気出るけど、止めた方がいいわね。お尻でも触られたら使い魔ちゃん達がボコボコにするでしょう?お客さんに怪我人続出しちゃうんじゃない?そうねえ、変なデートねえ。自分本位のデートとか?」
私はチョコケーキを食べながら教えを乞う。
「自分本位・・・」
「うーん、難しいわねえ。一度、デートした男の人が武器好きでね。デートが武器や防具を見るばかりだった事があるの。私は好きじゃないのよ?こういうのは変なデートじゃない?」
「ふむ。武器、防具ばかりのデート。お互いが好きなら楽しいでしょうね」
チェルシーさんは頷く。
「まあ、軍団の隊長の前で誘ったのなら真面目か、策士か、どっちかね。両方もありえるけど。隊長さんも心配ね。ねえ、隊長さんと言えば、第五の隊長さんって凄い良い男って聞いたんだけど、ロゼッタさん会った事ある?」
「第五はハワード隊長です。綺麗な人ですよ。紳士ですけど、ちょっと変な人です。ランさん、ハワード隊長と一緒に飛んできましたから。ランさんと息ぴったりで、仲良しですよ」
ケーキを頬張りチェルシーさんは頷く。
「その人よ!王宮に勤めている知り合いが言ってたのよ。最近隊長になったんでしょう?若くてすごく恰好良いって。ランさん、隊長さんと仲良しなの?飛竜も乗れるし、門番と言うよりもう鉄壁の要塞ね。乗り越えれる人いるのかしらね?ロゼッタさん、コロン領楽しかったみたいね。表情も明るくなったわ。それに、髪も素敵だし」
「そうですか?明るくなったのかな。皆、髪の事何も言わないので気付いてないかと思ってました。気持ちに少し余裕が出たのかな。ただ、最近、ランさんを始め、保護者が増えている気がするんです。私は魔女で強いのに」
私がそう言って髪を触ると、チェルシーさんは笑いながらケーキを追加注文した。私もフルーツケーキを追加する。帰りに持って帰る分のチョコケーキとフルーツケーキも頼む。
ランさんのお土産にしよう。
「あらあら。ロゼッタさんが愛されてるからよ。髪は皆気付いてるわよ、ただ、黙ってるのよ。魔女様は秘密が多い方が素敵だしね。私もロゼッタさんには幸せになって欲しいわ。まあ、人の事より自分の事だけど。今度の週末、知り合いの知り合いを紹介して貰うの。二つ年上の商店に勤めてる人らしいんだけど。私もデート頑張るわね」
「おお!!結果教えて下さいね。あ、遅くなりましたが、これ、魔女のお祝いで頂いたお返しです。良かったら貰って下さい。御守りですよ」
私がチェルシーさんに御守りを差し出すと喜んで受け取ってくれた。
「有難う。大切にするわ。鞄に付けたら勿体ないかしら」
「お好きな所にどうぞ。チェルシーさんの幸せと守護を石に込めましたよ」
「本当?あ!あそこの角に立ってる男の人、恰好良くない?」
「ん?どの人です?あの明るい茶色の髪の人ですか?背の高い人ですか?緑の人ですか?ポチャッとした?」
「いや、もう誰よ。明るい青い髪の人。ちょっとマッチョで良いわよね」
「ああ、あの方ですか。チェルシーさんはマッチョ好きですか。ブルワー法務大臣マッチョでしたよ。でも奥様がいらっしゃいますね」
「あら残念。ふふふ、ロゼッタさんと、こういう風に話せるのは楽しいわ。ロゼッタさんはあそこに立っている人だったら誰が素敵?」
「ええ・・。そうですねえ・・・。うーん。緑の人かな?」
「あー。成程ねー。ふふ、パーティー、楽しみねー」
その後も二人で美味しくケーキを食べ、チェルシーさんの好みの男性像を聞き、理想のデート等を二人で話した。




