魔女は静かに怒る
明日の投稿が難しいので本日二度目の投稿です。
王太子殿下は黙って目線で私に尋ねられ、私は頷いた。
「ああ。通してくれ」
騎士は頷き礼をするとドアを開け、タウンゼンド宰相が礼をして入室された。
「ジェーン様。魔女になられた事、お祝い申し上げます」
タウンゼンド宰相は部屋に入ってくると私の前で勇者の礼をした。私は黙って頷いた。
「有難うございます。タウンゼンド宰相もお茶はいかがですか?お菓子もどうぞ」
私がお茶の準備をし、宰相の前に出すと礼をして飲まれた。
「いやはや。魔女様手ずから淹れて貰えるとは。今回は手紙の件ですか?」
「ええ。手紙の件も。先程、王太子殿下にも説明しましたが、ブルワー法務大臣に渡して頂くようにお願いしました。私はアパートを引き払い当分薬局に住みます。安全の為ですね。私は無暗な争いは好みませんし、極力衝突したくないのです。今後、私宛の手紙は薬局でお願いします。後、店の周りの警護をしたいのなら止めませんが、邪魔にならない程度でお願いします」
タウンゼンド宰相は礼をされた。
「全て貴女の望むままに。コロン領では迷惑をお掛けしました。丁度、マイネンを捕縛した後でして。申し訳ありません。マイネンの駒の魔術士が逃げている可能性もあり、飛竜を飛ばしたかったのです」
私は頷き、楽しくない話をしましょうか、と言い杖を取り出す。
「ええ、今度から先に説明を。必要なら話をして下さい。私を使ったり、姉弟子を使うのはやめて下さいね?私、ボードゲームは苦手なのですよ。ランさんに勝った事がありません」
私は杖を振り、コンと床を踏む。魔法陣を出し辺りに魔力を飛ばす。
「タウンゼンド宰相。手紙を集めたかったのですか?ランさんがコロン領辺りから手紙が増えたと言ってましたよ。それなのに、私が言うまで手紙を放って置いたでしょう?宰相閣下が放って置くのは可笑しいですよね?ブルワー法務大臣は王太子殿下と虫退治でしたし、店の様子は知らない。タウンゼンド宰相が飛竜を飛ばされたのなら、店の様子はご存じだったのでは?師匠が優しいから説明しなくても良いと思ったのですか?ランさんは魔女じゃないから?私相手だと言う必要もないかと?ランさん私の百倍頭が良いですよ。それに、私は師匠程優しくないですし。師匠を悲しませたり、ランさん怒らせるならその前に私が潰します」
魔法陣を大きくし、髪を魔力で揺らし、魔力粒子を辺りに散らす。
「師匠からも私の好きにして良いと許可は貰っています。潰せ。好きにしろと。私は言葉通りに動きます。一つずつ駒を動かして行ったり、作戦を練るのは面倒なのですよ。どれが敵か分からない時は私は目の前の盤から駒を一つずつ潰します。自分の持ち駒以外は敵ですからね。分かりやすくて良いでしょう?」
フォルちゃんがドアの前に立ち、ウォンと吠えると部屋が防御膜で包まれた。騎士の方が一瞬動いたが剣を触らず気を付けの姿勢のまま動かない。アルちゃんが私の影から出てきて影を大きくした。
「私達に刃や杖を向けないのであれば私は杖を向けませんよ。ただ、利用されるのは好きじゃない。ズルい男はモテませんよ。店とランさんにも手は出さないで下さいね」
皆が頷かれ礼をする。私が二匹に頷くと、フォルちゃんはしっぽを振り膜を消した。アルちゃんも影を消し、私の影に潜った。
「ジェーン様、申し訳ありません。ご不快にさせるつもりではありませんでした。こちらで内密に処理をしたかったのです。誠に申し訳ありません。国王陛下にもお伝え致します。今度の魔女様のお披露目の前にこの後、陛下とも謁見して頂けますか」
私は頷くと床を踏み、魔法陣を消して杖を膝の上に置いた。
「ええ。マイネン大臣の後始末で大変だった事は分かっています。私が関わっている事を内密にするならもっと上手くして下さい。出来ないのなら先に知っておいた方が気楽です。ご飯食べている時でも、お茶を一杯飲む時でも魔鳩飛ばせますよね?知ってます?時間って作れるんですって。今後報告しないのなら、私も勝手にしますね」
皆が礼をしたまま動かない。
「陛下との話は魔女や魔法使いの事でしょう?今日一度で済んだ方が楽ですしね。あ、タウンゼンド宰相、薬の配達ですが今後一週間に一回でも良いですか?今は週二回来てるでしょう?もし必要なら、王宮から週一回は誰か取りに来てくれれば良いですが。お披露目もありますし、私が配達するの大変になりそうです」
タウンゼンド宰相が頷く。
「一週間に一度で問題ありません。必要なら、軍団か騎士団、魔術士に向かわせます」
「それでお願いします。今後、忙しくなるでしょうから今まで通りは厳しいでしょうね。出来れば班長以上の役職の人を来させて下さい。高価な商品が多いので、責任を取れる方でお願いします」
「分かりました。ハヤシ大隊長にも報告しておきます。新しい魔術大臣にも知らせておきましょう。騎士団の方は王太子殿下にお願い出来ますか?」
タウンゼンド宰相が王太子殿下に向かって言うと、王太子殿下が頷かれた。
「分かった、第一騎士団と第二騎士団には私から伝えておこう」
「はい、宜しくお願いします。ああ、あともう一つ」
タウンゼンド宰相が私の方を向き姿勢を正す。
「何なりとお申し付けください」
「ブルワー法務大臣のポーションバッグ、ピンクのままで良いですかね?新しいバッグ、送った方が良いと思いますか?」
タウンゼンド宰相と王太子殿下は、目を丸くすると思い出されたのか、ふふっと笑われた。
「いや、失礼しました。あの時渡された物ですな?ピンクのままで良いのでは?ジェーン様からのポーションバッグと皆に見せて喜んでいましたよ」
「ええ。ブルワーも、大事に持っていました。気にいってるのではないですか?」
二人はお茶を飲んだ。
「良かった。法務局や大隊長の印等あれば刺繍もして差し上げたいのですが。王族の方は色をお持ちでしょう?法務局の色等あるのですかね?失礼に当たらないなら良いのですが。ピンクでよかったのかしら?と思ったのですよ。気に入ってるなら良いのですけれど」
「成程。アヤメのマークが法務局のドアの前にあるが、法務局の印と言うのはないはずです。タウンゼンド宰相あったかな?国法の本には天秤、ペン、羽が描いてあったか。ブルワーであれば剣でしょうか」
王太子殿下が首を傾げ、タウンゼンド宰相は頷いた。
「無いですな。色と言って良い物か分かりませんが、国法の説明の中に透明という言葉は何度も出て来ますな。全てを見通す事と言う意味で、透明と使われますね。なので、法務局をイメージなさりたいのであれば、黒や濃い色は避け、薄い色が良いかと。白では無く白よりも少し色のついた物が宜しいかと思います」
「ではピンクも間違いではないのですね。ブルワー法務大臣のお好きな色を聞いて、その色を薄くして刺繍を刺して貰いましょう。ああ、お聞きして良かった。ポーションバッグの売り出しにはタウンゼンド宰相もご協力下さいね」
私がニコリと笑うと、二人ともホッと顔をされた。
「ふふ。今度私が怒った時は、杖を振り回してみようかしら」
私がそう言いお茶を飲むと、タウンゼンド宰相は頭を押さえ、国王陛下に知らせてきますと、席を立たれた。私は、王太子殿下に挨拶をすると執務室を出て、他の部署に商品を配り、最後に国王陛下の執務室へ向かった。
騎士に案内されながら行かないと間違いなく迷子になる。騎士がドアの前で同じように取次をし、私は国王陛下の執務室に入った。
私が入るとすぐに国王陛下が礼をされた。
「ジェーン様、魔女になられた事、おめでとうございます。それと、不快な思いをさせた事、お詫び申し上げます」
「有難うございます、タウンゼンド宰相に話しましたから、もういいですよ。話は一度で良いでしょう?国王陛下もお変わりはないですか?」
「はい、あの件も片付きましたからな。どうぞお座り下さい」
私は頷き座るとお茶の準備をした。
「お菓子もありますよ、王太子殿下が注文された携帯食料、召し上がります?」
お茶と一緒に私が差し出すと、騎士の方がちらりと陛下を見たが、陛下は私のお茶を飲み、お菓子を召し上がった。
「ほう、ナッツですか。あいつは小さな頃から好きでしたな。この茶はコロン領の物ですか?」
「ええ、よくお分かりで。このお茶美味しいですよね、少し高いんですけど沢山買ってしまいました。陛下このままお話して宜しいでしょうか?」
陛下は頷かれた。
「この者達は問題ありません。まずは私からマイネンの件を話しても?」
「私が聞いて良いのなら」
陛下は頷き、お茶を一口飲み話し出された。
誤字報告いつも有難うございます。