魔女と魔法使いのお話
私はモラクスさんにあげられる物を考え、マジックバッグから色々出していく。
「魔力以外ですよね?モラクスさんの趣味が分からないので・・・・。これはどうですか?自分用に買ってまだ読んでない物です。トキメキ☆ぷりぷり☆プリンセスって恋愛の本です、コロン領の女の子に流行っているらしいです。素敵な王子様と平民の女の子の恋物語らしいですよ。本屋さんでお勧めされました。あと、今王都で流行ってるお菓子の詰め合わせなんかどうですかね?食に関しては興味はないですか?」
「なんだ、そのふざけた本は。国家転覆の本か?ははは、良いだろう。宝石や、美しい人間等を差し出す奴が多いのだがな。お前はやはりジュリエッタの弟子だな」
渋い良い声でモラクスさんは笑うと、本とお菓子を浮かび上がらせ自分の手の平に収めると消した。そして、面白そうに私を見た。
「で、何が聞きたい」
「はい。魔女について教えてください。そして、過去に魔女と魔法使いに何があったのか。王宮にお披露目に行かなくてはいけません。師匠は出かけていますし。師匠やランさんに迷惑を掛けず、王室の方と話をしたいと思います。場合によっては潰して良いと師匠から言われました」
モラクスさんは頷く。
「成程な。魔女や魔法使いが生まれると争いが起こる事が多かった。ジュリエッタの時は酷かった。あいつは特別だったからな。そしてお前もな。ただし、ジュリエッタから後の、魔女と魔法使いが生まれてもこの国で争いは起きてはいない。ジュリエッタの力だな」
モラクスさんは私があげた本を手のひらから取り出し、パラパラとめくった。
「ふむ。やはり、国を亡ぼす話だな。ふん。お前も知ってるだろうが、今この国の魔女はジュリエッタとロゼッタ、お前達だけだ。魔法使いは三人いる。大体十年から二十年に一人くらい魔女か魔法使いは生まれると言われている。それは師匠が弟子を育てる時間なのだ。お前もジュリエッタも当てはまらんな」
私は頷き、話を聞く。
「お前も、そのブローチの意味をもう分かっているだろう?それは師匠と弟子を繋ぐもの。弟子に何かあれば師匠が助ける事が出来る。多くの魔女や、魔法使いは弟子が魔女や魔法使いになる時に自分の魔力を込めた石を渡す。ジュリエッタの場合はそのブローチだな。それはジュリエッタの魔力の欠片だ。もし仮にお前が魔女になれず、我らと契約を結ぶ事に失敗した時はジュリエッタが我に対価を払って、弟子の命を助ける。だから魔女や魔法使いは少ないのだ。そして多くの魔女や魔法使いは弟子を一人しか生まない。まあ、生めないが正しいか。稀に、師匠がいない魔法使いや魔女もいるにはいるが、普通はいないな」
私はブローチを触る。黒く光る石。師匠の魔力だ。モラクスさんは本を握り消した。
「昔、ある王がいた。そいつは領土を広げる為に戦争を繰り返した。そして、戦争の為に大量に魔法使いと魔女を生もうとしたのだ。とにかく誰かが我らと契約出来れば良いと思った王が、魔力を多く持つ者を我らと契約させていった。結果、大勢が死に、少ない魔女と魔法使いが生まれた。分かり切った事だな。我らにとっては楽しい祭りだったがな。そうして生まれた魔女と魔法使いは王族を恨み、その国を滅ぼしたのだ。この事から魔女と魔法使いに手を出す者は減ったな。多くの国で今でも魔女や魔法使いに手を出す愚か者は少ないはずだ。我らと戦うと言う事だからな。王との話はこの辺りの事であろう。お前は国を滅ぼすか?」
モラクスさんは楽しそうに私を見た。私はゆっくり首を振る。
「そんな面倒な事、したくありません」
モラクスさんは満足そうに頷く。
「よし。それでいい。したくなったらしろ。滅ぼす価値の無い物もある。ジュリエッタはな、この国を守ったのだ。あいつも変わり者だからな。ジュリエッタが昔の馴染みに会ってると言ったのは、おそらくこの国の魔法使い達だろう。王との話し合いは魔法使いも関係するからな。お披露目で魔女と魔法使いが久しぶりに集まるか。我らも久しぶりにこちらで会うかな。王族や国にとって魔法使いや魔女の力は諸刃の剣だが、力を欲するのは何処の権力者も同じよ」
モラクスさんは手の平から先程のお菓子を出すと、クッキーを一枚食べた。
「ほう。面白いな。今度は違う菓子を持って来てくれ。他に聞きたい事は?」
「私の力は限りが無いですね?魔女の言葉は力がある。精神の力が魔力になる。以前、モラクスさんが言われた事です。間違いないですか?モラクスさん、私にこれから魔法を教えてくれますか?」
モラクスさんは頷き、クッキーをもう一枚食べた。
「悪くないな。菓子を食べるなど久方ぶりだ。新しい本も持ってこい。それにしても、ロゼッタ。お前も教えを乞うか。我が言った事はその通りだ。良かろう。ここでこれからも本を開け。ここはジュリエッタの防御がしっかりかかってるから王都で一番安全だ。ここでお前と会う事にしよう」
私は頷き、ミント飴もモラクスさんにあげた。
「モラクスさん、これも絶対食べた事ないですよ。私のオリジナルですから。クッキーみたいに甘くないですけど、どうぞ。今度王宮に言って宰相や王太子殿下と会い、そこで話をしてきます。国王陛下とも話があると思います。師匠の許可が出てますし私の好きにします。あ。モラクスさん、魔法以外の事も聞いていいですかね?変なデートってどんな感じかわかります?恋愛の事も聞きたいです。今日は有難うございました。また呼びますね」
モラクスさんはミント飴も手で消すとにやっと笑った。
「ああ、お前の好きにしろ。暴れる時は言え。それにしても、下らん事を聞くのもジュリエッタと同じだな。人間の恋愛事情等知らん。色欲は我の仕事じゃない。いいか、何かの時は場所を選ぶな、いつでも呼べ。力は貸してやろう。ではまたな」
私が頷くと魔法陣と共にモラクスさんは消え、本も閉じた。わたしはゆっくり息を吐き出すと本を持ち、アルちゃんにまた持ってもらうようにお願いした。
「ここが一番安全でも、私の側にモラクスさんの本を持っておきたいの。アルちゃん持っててね」
アルちゃんは頷き、私が本を差し出すとパクリと本を食べた。
コロン領にいた時からずっと考えていた。何故強い魔女に警護が付くのか。確かに私は狙われていた。魔女になりたてで危なかった。でも、それだけではないんじゃないのか。ハワード隊長が飛んで来たのも変な人だけでは説明がつかない。
モラクスさんの話に答えも混じっているのかも。
まだはっきりとは分からない。師匠も言わない限り師匠にも聞けない。師匠から好きにしろと言われた。それは師匠も好きにすると言う事だ。
参ったな。
私はあんまり考える事が得意じゃない。こういう事はランさんが得意なのよね。私はガーっと魔力貯めて、ドカンと薬を作ったり、行動する方が楽なのよね。
私は師匠の工房を出て、二階に上がった。使ってない部屋を見る。警護で使った為二部屋とも綺麗に掃除がされてあった。
「薬局に住みますかね」
私が呟きアルちゃんを見ると、ウェルちゃんが魔鳩が届いた事を知らせてくれた。ブルワー法務大臣からだった。
「魔女 ロゼッタ・ジェーン様 全て貴女の望むままに。手紙もこちらで処理しますので、今まで来た物は送って頂けると有難い。また、国王陛下より、魔女のお披露目について話があると言う事です。お手数ですが時間を頂き、王宮まで足を運んで頂きたい。お披露目の詳細については同封してあるので読まれて下さい。魔女名の候補も入れております。 ロバート・ブルワー」
私の魔女名候補がかかれた国王陛下からの手紙を見る。教会の印も押してある。
私は店宛に来ている手紙も一緒にしてブルワー法務大臣に手紙の了承の件と一緒に送る事にした。