注文書の山と手紙の処理
第四章始まります
王都の店に戻った私を待つのは、注文書と、手紙の山だった。
うんざりする量の紙の束を横目に見ながら店の窓を開けていく。籠った空気を外に出すと店に帰って来たな、と思った。
キムハン副隊長達がいないのでランさんに聞くと、暫く前に店の警護は解かれたと言う事で店は久しぶりにランさんと二人きりだった。
私達が話しているとバルちゃんが消えた。ジルちゃんを見るとそのままだったので、バルちゃんは師匠の所に行ったのだと思う。
ランさんが整理した手紙の山を見ていくと、私宛の山が一番大きかった。
「ロゼッター。コロン領に行った位から増え出したんだよー。凄い手紙の量だよねー、受取人指定された魔鳩は相手に帰って行ってるから、ロゼッタ帰ってきたらまた増えるよ?時間も半端だし、今日は明日の準備だけしてゆっくりしましょー。お腹すいてるー?玉ねぎ屋に軽食頼もうかな?」
ランさんは明日の準備をしながら私に尋ねた。
「ランさん、私が軽食注文してきますよ。マツさんに帰って来た挨拶もしたいですし。お菓子の買い置きがありますからお腹空いているなら食べていいですよ」
「うん、お願いねー、奥にお菓子出しといてー。コロン領のお菓子?クッキーもいいなー」
私はキッチンの横のテーブルにお菓子を出すと、店を出た。裏の玉ねぎ屋のドアを開けるとトマトを煮込んだ匂いが迎えてくれた。
「こんにちはー。名無しの薬局です。帰って来たので、挨拶に来ました。マツさんいます?」
私が声を掛けながら店に入ると、エプロンで手を拭きながら玉ねぎ屋の奥さん、マツさんが出て来た。
「ロゼッタちゃん!おかえり!元気だったかい?ランちゃんはちょくちょく帰って来てたけど、あんた、行きっぱなしだから心配したよ。瘦せたんじゃないかい?しっかり食べるんだよ。なんか食べてくかい?」
「マツさん元気そうですね?ただいま帰りました。全然痩せてないですよ。二人分、軽食注文したいんですけど、後で店に届けて貰えますか?トマトの匂いが良いですね。スープもお願いします。マツさん、これ、魔女のお祝いのお礼です。貰ってください。御守りです」
「ええ!いいのかい?有難う、大事にするよ。でも、あんた、こんなのいいんだよ。皆好きで祝ってるんだからさ。食事は色々少しずつ籠に入れて店に届けるよ。しっかり食べな。軍団の人達の警護もなくなったんだろ?無理するんじゃないよ」
「はい、有難うございます」
私は礼をしてお金を払うと玉ねぎ屋を出て、店に戻りランさんに声を掛けた。
「ランさん、軽食注文してきました。色々持って来てくれるそうですよ。ここ、領収書置いておきますね。奥の工房に籠りますけど良いですか?ウェルを店番に置いておきます。用事がある時はウェルに言って下さい」
「了解ー。ウェルちゃん宜しくねー。奥は師匠の工房?店宛の手紙は私が処理するよー。先に食べてるねー。ゆっくりどうぞー」
ランさんは注文書の束をさばきながら手を振ってくれた。
私は手紙の束を持ち、師匠の工房に入った。工房の奥のテーブルに手紙を置き確認していくと両親から以外はよく知らない人達ばかりで、一番上にある師匠からの手紙を読んだ。
「よー、ロゼッタ。虫退治は終わったぞー。もう、聞いたか?今は昔の知り合いに会って、ゆっくりしてからそっちに帰るから、何かあれば連絡しろ。お前が魔女になった事で余計な事を言う奴は潰せ。お前の好きにしろ。王室のババアから何か言われたらヘンリーに頼め。ババアから、お茶とか言われても無視しろ。茶ぐらい勝手に飲んでろって言え。ジョージにも言ってある。困ったらロブにも頼め。使えるものはなんでも使え。私の部屋も工房も好きにしろ。あ、また菓子送ってくれ。コロンから送って来たアンズがいいな。煙草もまた送ってくれ。デート楽しかったか?じゃあなー」
うん、師匠は元気そうで良かった。ウェルちゃんに頼んだらコロン領にお使い行けるかしら。アンズのシロップ漬けをウェルちゃんで買えるかコロン子爵に魔鳩を飛ばしてみよう。
ジルちゃんを呼び、師匠に手紙を届けて貰う事にした。
「師匠、王都に無事に着きました。コロン領は良い街でしたよ。師匠も身体に気をつけて下さいね。私の好きにして良いのなら、好きにしますね。デートはハワード隊長の飛竜からランさんが飛んできました。ジルちゃんいるからって、めちゃくちゃでしたよ。ジロウ隊長は過保護です。馬に一人で乗せて貰えませんでした。王宮から何か言われたらぶっ潰します。アンズ美味しいですよね。私も好きなんですよ。まだあるので送ります。師匠も好きならコロン子爵にウェルちゃんで買い付けが出来ないか聞いてみます。王都には売ってないと思うんです。食べ過ぎない様にして下さいね。煙草は王都のいつものやつ送ります」
ジルちゃんに頼んで手紙と一緒にお土産も沢山送って貰った。
それから両親に手紙を書き、コロン子爵にも手紙を書いた。私は師匠に言われた通りに王宮に魔鳩を飛ばす事にした。王太子殿下か、法務大臣に頼めと書いてあったから、二人にお願いする事にした。
「ブルワー法務大臣お元気ですか?虫退治が終わったそうですね?お怪我等ないと良いですが。師匠は元気そうでしたよ。ブルワー法務大臣にお願いがあるのです。私宛や店宛に知り合いでもない人から色々手紙が来て困っています。手紙の処理が面倒で、薬を作れなくなりそうです。師匠から国王陛下か、王太子殿下、ブルワー法務大臣に頼めと手紙を貰いました。国王陛下宛にこの手紙を渡して下さい。今後誰かに余計な話をされたら私の好きにして良いそうです。潰して良いと師匠から許可を貰いましたので、潰します。王宮にもお茶とかには行きませんよ。王太子殿下にも同じように頼むつもりです。では。ロゼッタ・ジェーン」
次に、王太子殿下にも手紙を書いた。
「王太子殿下、お元気ですか?師匠が虫退治が終わったと言っていました。お怪我等ないですか?さて、知らない人からの手紙が来て困ってますがブルワー法務大臣経由、国王陛下行きでどうにかしてくれるようにお願いをしました。師匠からも好きにして良いって言われているので、今後何かあったら好きにします。王太子殿下にお願いがありまして、王宮からお茶の誘いが無いようにして下さい。あと、携帯食料が出来上がりましたのでお持ちしたいのです。お時間がある時を教えて下さい。タウンゼンド宰相にも話があるのでお会い出来れば嬉しいですが、都合を聞いて貰う事は可能ですか?コロン領の件と言って頂けたら分かると思います。 ロゼッタ・ジェーン」
王太子殿下やブルワー法務大臣にお使い頼むのは不敬かしら。使える物はなんでも使えって言ってたし、きっと大丈夫よね。
私は魔鳩を飛ばし、ふうっと息を吐き、師匠の工房の奥に入った。工房を進み、奥の本棚の前に来た。
「アルちゃん、モラクスさんの本を出してくれる?」
アルちゃんは頷き、私の手に本を出した。
「有難う。モラクスさん、お久しぶりです」
私はそう言うと、杖を出し、魔力を本に注いだ。杖から魔力が帯になり、本が魔力を吸っていく。本はパラパラとめくれていき、モラクスさんのページに魔法陣が浮かんだ。
一瞬魔法陣の光が強くなると目の前にモラクスさんが現れた。
「元気そうだな。魔力も落ち着いたか」
「はい、有難うございました。モラクスさんに色々お聞きしたい事が沢山あります」
「ははは、お前も貪欲だな。良いだろう。お前は我に何をくれるんだ?」
モラクスさんは嬉しそうに目を細めると私を見た。




