王都迄の帰路 ジロウ視点
幕間はここまでです。
コロン領での警護を終え、王都迄各領の見回りをしながら帰路を駆ける。
ファン草の土地の浄化も無事に終わった。後はコロン子爵と領民が時間を掛けながら元に戻していくしかない。子爵になった事で領地も減ったが、今のコロン領にとっては子爵の方が良いだろう。新しくコロン領を任せられた子爵への、陛下の温情だろう。コロン子爵には何の咎も無いが周りの貴族の目の為か。
東の森も焼く事なく浄化が出来た事にホッとする。
作付された小麦畑を見ながら隊列を組み駆けているとリー班長が俺の隣にスレイプを付けた。
「失礼します。ジロウ隊長、次のブール領ですが予定より大分早く着きます。休憩時間を長く取りますか?それともブール領からの出立時間を早めますか?」
「いや、時間は変わらずに行く。ブール領までは近隣の村の見回りを。マイネンの件もあり、最近は第三も見回りが出来てない地域もあるだろうからな、第三に報告をしておこう」
「了解です。各隊員に伝えます。気合を入れませんとな。まだ、惚けている奴がいそうですよ」
俺は苦笑いして頷く。
「ああ、しっかり気合を入れてやるか。全力で一度駆けてやれ。あー、ジェーン嬢には参ったな」
リー班長も苦笑いして頷く。
「ええ。まったく。警護が無事に終わり良かったですが。マイネン側の魔術士は皆捕らえたのですか?」
「ああ。一応な。まだ油断は出来んが。多くの魔術士を捕らえたそうだ。マイネンも拘束され、王都にて調べを受けている。第五が飛んだ時は驚いたが、タウンゼンド宰相が考えられたのだろうな。デートを邪魔して迷惑をかけた事をジェーン嬢に謝ったら、ジェーン嬢は俺に怒ってないって言われたよ。今後の事を考えているだけだと言われたが、あれは考えているだけではないな、怒っていたな。誰に怒ったのかな。怖いな。村で魔術士や不審者の情報が無いかは確認してくれ」
「は、私の方からも副隊長に魔鳩を飛ばしておきます。お二人とも流石ホグマイヤー様のお弟子様ですね。ラン様が飛竜から飛び降りて来た時は肝が冷えましたが」
俺はガシガシ頭を掻く。
「全くだ。さ、無駄口叩かず、駆けるか。リー班長、半分の隊員を連れてあの森の向こうを回って、小さな村を確認してくれ。俺がもう半分を連れてあの草原から回ってブール領に行く。領前で落ち合おう」
リー班長は礼をし拳で胸を叩くと、部隊を半分に分け駆けて行った。
警護はリー班長とユーダーがいて良かった。ユーダーは第五のホーソンと仲が良いようで、ジェーン嬢も楽しそうに話していた。ジェーン嬢の警護に付けた奴が惚けてしまい、使い魔殿にやられるなんて洒落にもならん。俺が気付く前にそんな事がラン嬢、ホグマイヤー様に知れたら第四諸共潰される。俺は背筋がぞわっとしたが、首を振り、手綱を握りしめると皆に声を掛けた。
「さあ、行くか」
声と共に駆け出し、隊員達がついて来る。
久しぶりの全速力は気持ちが良い。草原の上を飛ぶようにスレイプ達は駆ける。コロン領ではジェーン嬢を乗せて、ゆっくりのんびりばかりだった。俺らを乗せていたウィリデを叩いて、お前も気持ちいいだろ?と聞くと、ふんっと鼻を鳴らした。
俺のウィリデはご機嫌斜めだ。
草原や畑に不審な所が無いか確認しながら全速力で駆け、村が近づくと並足でゆっくりと見て回る。道が荒れていないか、川に異常がないか、家畜や畑に問題がないか。村人がこちらを見つけ礼をしてくる、村人に手を上げ、村長を呼び出し、話す。確認後は第三と大隊長に魔鳩を飛ばした。
村での確認を終え、次の村を目指そうとウィリデに乗る時に、剣に付けた御守りを見た。黒い石が二つ付いている。俺の色だ。
ジェーン嬢は明日の早朝、コロン領を発つ予定だ。明日の昼過ぎには王都だろう。
王都でゆっくりとして欲しいな。名無しの薬局で薬をのんびりと作っていて欲しい。
ジェーン嬢はリボンも菓子も受け取ってくれたが、街歩き後、考えこまれている姿は変わらなかった。命を狙われ、慣れない土地での浄化や薬の作成作業、負担は大きかったはずだ。
王都に着いてからの事を考えていると言っていたが、怒っているのだろうねえ。きっと、王宮に行かれる。タウンゼンド宰相の所か。陛下にいきなりは無いだろうが。ホグマイヤー様の弟子だから、普通、が無い。
俺より、十も歳が下のお嬢さんなのにな。険しい道を選ばれた物だ。
(ジロウ隊長、皆さん、私の警護は終わりです。心配は不要ですよ。私は魔女。魔女の強さをご存じでしょう?)
穏やかな口調で言われたが、警護は終わりと言われた時にピンっと線を引かれた。ホグマイヤー様の強さを知っている。ジェーン嬢も強いのだろう。
不要な警護を甘んじて受けていた。俺らが守られていたのかね。ホグマイヤー様の弟子だしなあ。
辺りを見回し護衛を連れた商人を見つけ、話を聞き、異変は無かったかを尋ねる。
ブール領まであと一つ村がある。隊員に指示を出し、村までの道をわざとジグザグに進んでいく。
隊員が壊れている柵を見つけ、地図に印をつける。村に着き、魔物避けの柵が一部壊れた事を村長に報告し、村や周辺に変わりがないかを聞く。
短い休憩を村で取る事にして、ブール領までは一息に駆ける事にした。
水を飲みながら御守りを見る。
(守護者の皆さんの勇気に感謝を。皆さんの健康に祝福を。皆さんとの出会いの糸を未来に紡げます様に)
特大の魔法陣は凄い物だった。魔女の力を俺らに見せつけたのか。祝福の為だけじゃないんだろうなあ。
俺らは守護者、守る者だ。ジェーン嬢に会う時に、恥ずかしくないようにしないとな。どっかの隊長さんも急いで飛んで来てたしな。綺麗な顔が必死だったと、リー班長から聞いたが、何処迄本気なんだろうな。俺の前で誘う冒険者も強かなもんだけど。
(ジロウ隊長、変なデートってなんですか?)
年相応の悩みを言うのが可愛いんだよなあ。危なっかしくて、つい、守りたくなるが、頼って貰えないのかね。薬を作って、ホグマイヤー様とふざけた事言って、ラン嬢と店で笑っていて欲しいなあ。
ガシガシと頭を掻きウィリデを撫でると、ふんっとまた鼻を鳴らされた。
(ジロウ隊長、皆さん、お気をつけて)
へいへい。おっさんはしっかり気をつけますよ。
命あっての物種だ。大事な物も大切な者を守る為にも、自分の身をしっかり守りますよ。王都に着いたら、薬局に寄れる時間はあるかな。可愛い魔女様に美味い菓子を差し入れするか。ま、ラン嬢が先に手を出しそうだけどな。ホグマイヤー様に瘤作られない様にしないとな。
副隊長に魔鳩を飛ばし、ブール領に返信を送るように指示をする。
「良し、休憩は終わりだ。ブール領まで、一息に行くぞ」
俺が命令を出すと隊員は皆、拳を叩いて、各々スレイプに乗った。
「さあ、行くぞ」
俺も、もっと強くならないとな。
コロン領に背を向け、ブール領迄全力で駆けた。
第四章は少々お待ち下さい。




