流石私の弟子だな 王太子視点
ホグマイヤー様は騎士に指示を出された。
「おい、縄の上から布も掛けとけ。コレ使って、親指同士を縛れ。手首、腰にも縄を掛けろ。口も塞げよ。よー、ムッツリ、お前は馬鹿だなア。私は王族の味方じゃない。お前がこの国に喧嘩を売ったんだ。私の弟子にもな。国や弟子に喧嘩売るのなら私は買うさ。大事な事だから二度言ってやろう、お前は馬鹿だなア」
軍団隊員が杖を取り上げ、私に持ってきた。私は頷き杖を受け取る。ホグマイヤー様は魔法陣を出し、私が持っている杖に向け魔力を出した。マイネンの杖の飾り石がパリンと割れ、杖が二つに折れた。
「ああ・・・・あああああ・・・・」
マイネンは猿轡をされ、騎士達に縄を掛けられた。
第六のクルマス隊長が私の前に立ち、礼をした。
「王太子殿下お怪我はありませんか?無事に捕縛出来ましたが、王都迄護衛が必要であれば一班付けますが」
「ああ、クルマス隊長、助かった。マイネンが向かう予定だったのは港のようだ。港の方に仲間がいるかもしれない。一班ではなく、三名程借りれるか。私達はこのまま王都に戻る。王都迄ではないだろうが、第三軍団との合流まで借りられれば良い」
隊長は頷かれ、班長と他二名を私の方に礼をさせた。
「では、この三名を。ホグマイヤー様がいらっしゃるのであれば、何かあれば魔蝶で連絡を下さい。マイネンの向かう予定の港の方にこのままむかいます。海、港に異常があればすぐに魔鳩で大隊長に連絡致します」
「ああ、頼む」
私が頷くとクルマス隊長はホグマイヤー様に礼をした。
「お久しぶりです。ホグマイヤー様。お元気そうで何よりです」
「よー。熊。元気か?相変わらずお前可愛いなア。ほら、コレ、うちのロゼッタからの菓子をやろう。おやつだ。帰りに食え」
「は。有難く頂きます」
クルマス隊長はそう言うと、礼をしてお菓子を受け取り私にもう一度礼をすると港へとむかった。
私は猿轡をされても、ぶつぶつ言っているマイネンを立たせ、馬に乗った。
マイネンの捕縛は終わった。魔術士やマイネンが叫んだ言葉が頭の中を反響する。私は一度目を瞑ると皆に声を掛けた。
「さあ、王都へ帰るぞ」
辺りは日が落ち東から夜が迫って来ていた。ギル殿が我らの前を光を撒きながらふわふわと飛んでいる。
ホグマイヤー様は何も言わず、行きと同じ騎士と同じ馬に乗り馬上でお菓子を食べていた。ホグマイヤー様専用の馬係になった騎士は時々口の中に菓子を突っ込まれ、姿勢正しく食べていた。
「美味いだろ。ロゼッタが送ってくれた菓子だ。あいつも、楽しんでるようで良かった。おい、お前らも食うか?この焼き菓子また送って貰おう」
ホグマイヤー様が焼き菓子を皆にぽんぽん投げ渡す。第六の軍団隊員は菓子を受け取ると、遠慮なくパクパク食べていた。
軍団隊員は騎士よりも粗暴に感じるが、日に焼け、潮を浴び、海風をうけている第六軍団は一番それが強い。海を荒らす輩を取り締まっているせいか、「隊服を着ていないと、どちらが海賊か分からない」と、ハヤシ大隊長が笑って言っていたが納得してしまう。
私に第六軍団の班長が礼をし、ホグマイヤー様に話掛けた。
「ホグマイヤー様、お久しぶりです。ラン嬢とジェーン嬢から新しい携帯食料を第六の為に考案して頂けると隊長宛に魔蝶が届きました。果物や野菜を入れ込んだ携帯食を作ってくれるそうなんです。好きな果物等を隊長はお願いしてみると言われていましたよ。有難いです」
「おお、言っとけ言っとけ。なんだ、好きな果物って。あいつは蜂蜜食ったら可愛いな。お前ん所の隊長は相変わらず熊だったなア。ダイキ・クマゴロウだったか?ヒヒヒ」
「違いますよ、クルマス隊長ですよ。ホグマイヤー様、お変わりないですね」
ホグマイヤー様はお菓子をぽんっと上に投げるとパクっと食べられた。
「しっかり食えよ。食える時に食っとけ。ダイキは相変わらず可愛い感じだったな。あいつはデカい熊みたいで可愛いよなア。副隊長のアンドリュー・メツキワリイノも元気か?」
「クルマス隊長を可愛いと言われるのはホグマイヤー様だけですよ。メッキリイ副隊長です。はい、元気に海に出てますよ。この間もケルピーを一人で二体一気に片付けてました」
「そうか。皆元気だな。お前は確か、ネボスケ・ネルネンコだったか。瘤を作ってやったよなア」
第六の班長は頭を掻いて頷いた。
「わざとですよね?ネルケ・マネンコですよ。目が細いだけです。寝るなってホグマイヤー様に瘤作られたんですけど、ちゃんと目は開いてますからね?」
「ヒヒヒ。悪りい。悪りい。ほら、菓子食え。港は変わりないか?海も穏やかだな?」
班長は頷いて答える。
「ええ、魔物湧きの前も後も変わりはないです。海の魔物の変化もありません。他国の不審船等もないですね」
ホグマイヤー様は頷く。
「ああ、久しぶりに、海もいいな。王都迄のお守りが終わったらお前らの所行くか。古い知り合いに会うのもいいな。どうせ用事もあるし、ラン達も忙しいし私もふらふらしとくかな」
「ホグマイヤー様、街が見えました。今日はあそこで一晩過ごそうと思います。第三の軍団と合流できれば第六の者達は返します」
「ああ。好きにしろ。ネルケ、気をつけて帰れよ。後で、港迄持つように防御膜を掛けてやろう。帰ったら店に果物の希望出してみろ。あと、うちのロゼッタ。あいつ、魔女になったぞ。お前ら知ってたか?」
私の方を振り向きホグマイヤー様は聞かれる。私は驚きホグマイヤー様とロイス団長を見るが皆首を横に振った。
「聞いていません。いつの間に?」
私が言うと、ホグマイヤー様は、そうだったか?と首を傾げ、菓子を食べた。
「ああ、ロゼッタと一緒に王宮でジョージに会って店に帰ったろ?ここに来る前だな。まあ、自衛も必要だし、なってもいいかと思ってな。あいつに魔女になるか?と聞いたら、なりますっていうから、よし、なれ、って言ったらなれたんだよ。あいつ、流石私の弟子だな」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
「ホグマイヤー様、おめでとうございます」
私は馬上からホグマイヤー様に礼をする。
「今度、ロゼッタに会ったら祝ってやってくれ。大事な事だからもう一度言うぞ。流石私の弟子だな」
うむ。と言って満足そうに頷くホグマイヤー様に聞く。
「ホグマイヤー様、ジェーン嬢、いや、ジェーン様はご無事で?」
「まあ、多分な。菓子も送ってくれてるから、大丈夫だろ。ヒヒヒ。お前ら、今度はロゼッタからも瘤作られるぞ。あいつは私より怖えぞ?私に似て良い女だから手エ出したい奴は多いだろうが、ランがいるからなア。お前らもロゼッタやランに手エ出すなら構わんが、その手を切り落とされる覚悟で行けよ?ヒヒヒ」
ロイス団長も他の騎士、隊員達も無言で頷く。
私はポーションバッグを見て、魔女になったと言うジェーン様を思い出す。
凄いな、穏やかなお嬢さんと思っていたが、一歩も二歩も飛び越えて行かれている。
私は焼け焦げた肩の服を見て、自分の剣の未熟さとポーションの有難さを思う。
ホグマイヤー様がこの国を守りたいと言うのなら、私も皆が憂いなく過ごせる国にしたい。
皆に菓子を配られているホグマイヤー様を見ながら街に入って行った。
王太子視点はここまでです。