向けられた殺意 王太子視点
森の中に入り爆発音が聞こえた場所に行くと、騎士達が魔術士達と戦闘していた。私達が駆け付けた時には、魔術士の奇襲に騎士団が押されていた。ホグマイヤー様の雨が降り注ぐ中、辺りは焦げた匂いと煙が鼻についた。
騎士達は背後から火魔法を同時に放たれたようで背中を焼かれた怪我人が複数出ていた。
「怪我人は屋敷へ!ポーションを飲ませろ!一人で戦うな、複数で相手をしろ!」
声を周囲に掛けながら戦闘に参加する私の横を走り抜け、ロイス団長、ブルワー法務大臣が凄いスピードで魔術士に突っ込んでいく。
「後ろに下がれ!!!動けない者を屋敷に連れて行け!!どっせい!!!」
顔を赤くさせたブルワー法務大臣が剣をふるうと、離れている私の所まで風圧が来た。怪我をした騎士は急いで後ろに下がり、火傷が酷い騎士を背負うと足を怪我をした騎士に肩を貸し屋敷へ駆けだした。
魔術士はブルワー法務大臣の風圧に押され、木の間を逃げながら魔法を放っていく。
私は魔法を避けながら隠れている魔術士に騎士達と戦った。
「はあ!!!」
私の後ろにいつの間にかいたロイス騎士団長が、私に向かって放たれた火球を剣で弾いていた。
「殿下、後ろは気になさらず戦って下さい」
ロイス団長の剣は鈍く光っている。
「ロイス、背中は任せる」
騎士二人と一緒にじりじりと魔術士を追い詰めていく。魔術士は手強い相手だが、鍛えられた騎士達は強い。また、ブルワー法務大臣の強さに魔術士は驚いているようだった。
一人、一人、と魔術士が拘束されて行き、残るは一人のみになった。
「くそう!もう少しで、魔術士の世界が作れたのに!何故大魔女は王族なんかを守るんだ!」
目を真っ赤にし、口から泡を飛ばしながら魔術士が叫ぶ。
「何故!何故!魔術士や治療師は馬鹿にされるのだ!!騎士や軍団ばかりが優遇されるなんて、可笑しいだろ!魔力があり、魔法を使う我々の方が選ばれた民ではないか!!産まれた家で人生が決まる等ふざけている!マイネン様がせっかく理想の国を作って下さるというのに!!お前らの!お前らのせいで!!皆死んでしまえ!!呪われろ!!」
魔力で髪を逆立てながら、魔術士は呪いを吐く。
魔術士が火球を飛ばし、私の髪をかすめ嫌な匂いがした。
「くそう!!くそう!!死ね!死ね!皆滅びろ!!呪ってやる!!王家は滅びろ!!」
狙いなど定めてないのだろう、火球が色んな場所に飛んでいき、そして魔術士は倒れた。
まるで、糸が切れたように、突然パタンと倒れた。
ゆっくり近づいた騎士が魔術士を拘束したが、首を横に振った。ブルワー法務大臣が騎士の間を縫い近づいてきた。
「殿下、全員拘束完了出来たようです。逃げた魔術士がいないか、魔術士の一人に尋問を掛けます。殿下お怪我は?」
「いや、無い。奴らを早く王都へ連れて行かなければな。少人数でマイネンを追跡する事になる」
ブルワー法務大臣は「失礼」と言われ、私の肩を触られた。
そこで初めて、私の肩にも火球がかすり、火傷を負っていた事に気付く。
「殿下、ポーションをお飲みください。ジェーン嬢から買っておいて良かったですな。ホグマイヤー様に合流致しましょう」
「ああ。行こう」
私はポーションバッグからポーションを取り出そうとした所で、右手が剣を持ったまま指が離れない事に気付いた。左手を使い、右手から剣をゆっくりと離していく。
初めて人を斬った。そして初めて殺意を向けられた。人が目の前で死んでいくのを見るのも初めてだった。魔術士が吐いた言葉が頭に残る。
どうにかポーションを飲み干し、指が固まったまま、再び震えそうになる手を握りしめ屋敷にむかった。
屋敷の前に着くと、酷い怪我をした騎士団の者が集められていた。ホグマイヤー様が玄関ホールに重傷者を寝かせ、次々にハイポーションを飲ませていた。
「おい、これは騎士団に請求出すからな。お前ら遠慮せずに飲め。怪我をしてすぐに飲む方が後が楽だぞ。飲めるか?無理な奴は私が口移しをしてやろう。ヒヒヒ、なんだよ。慌てて飲むな。ほら、落ち着け。大丈夫だ、マックスか、ジョージかロイスが支払うからな。金はある所から取るもんだ。お前ら全部飲めよ。王宮に帰るまでが戦いだぞ。気いぬくなよ。あ、菓子も付けてやろう。ちゃんと食えよ。ロゼッタはよく送ってくれるんだよ。あいつ、食いしん坊だな」
ホグマイヤー様は騎士に声を掛けながら、一人一人の様子を確認しポーションを飲ませている。ぽわっと、杖から光を出し優しい光が辺りを包む。広範囲の治癒魔法だろうか。私もポーションを飲んでいたが、肩の火傷は消えていった。
慈愛の魔女。ホグマイヤー様の二つ名は多い。
ホグマイヤー様に近づき、手の震えを止めようとしたが怪我をした騎士団や拘束された魔術士を見ると吐き気が込み上げてきた。
「おい、ジョージ。落ち着け。ほら、コレ食え。口開けろ、あーんだ」
口をこじ開けられ、無理やり口に入れられたのは飴玉で、不思議と吐き気が収まって来た。
「誰でも最初はそうなるもんだ。初陣の時はロブもチビリながら戦ってたなア。ダンは初陣後泣いてたぞ。ジョージもちょっとチビってビビっても大丈夫だ。吐く奴も多い。一度は皆通る道だ。まあ、まれにビビらん変な奴はいるがな。そう言う奴は神経がおかしいんだ。頭がパーなんだよ。まともな奴は皆そうなる。いいか、恐れる事を忘れるな、恐れる事は生きる事だ。生きろよ」
「は」
「落ち着いたら、皆に指示しろ、お前は王太子だ。血を流させる事を忘れるな。お前の言葉一つで、首は簡単に飛ぶぞ。いいな」
私はブルワー法務大臣、ロイス団長を見てホグマイヤー様に向き合い、頷いた。
「ホグマイヤー様、申し訳ありません。大丈夫です。魔蝶や、魔鳩の連絡はもうすでに終わりましたか?」
「ああ、魔鳩でヘンリー、ホングリーの所のジジイ、魔蝶でダンと第六の熊、第三にも一応飛ばしたぞ。ダンに港は押さえろと伝えたから第六を動かすだろ。こっちからも熊には教えてやってるから、援軍もすぐ来るかもなア。返信はマイネンの別荘に魔鳩を届けろ、と言った。ここにも誰か残すだろ?返事は、けちけちせず一番早い奴でよこせと言ってある。マイネン追うのは誰にするんだ?」
「ホグマイヤー様と、私、私の騎士二名、ロイス団長と騎士数名で追いましょう。ブルワー法務大臣には魔術士とマイネンの家族、怪我をした騎士を王都に送るのを任せたい。法務局も忙しくなるだろうからな」
「「は」」
ブルワー法務大臣が礼をして出て行こうとするのをホグマイヤー様が止め、薬を数本渡していた。
「ロブ、持ってけ。気をつけて帰れよ。お前はやっぱり剣持ってるのがいいな。ダンと打ち合ってろよ」
「は、有難いお言葉、王都にて無事のお帰りをお待ちしております」
ブルワー法務大臣は私とホグマイヤー様に礼をすると騎士を集め、王都に戻る準備を始めた。
「よし、じゃあ行くか。きっと、辺境の近くか、港の近くで挟み撃ちに出来るがな。私が飛んでお前ら運んでもいいがなあ、馬はなア、可哀そうだよなア。パカパカと馬で行くか」
私は頷き、ロイス団長に指示を出し我々とロイス団長が選んだ騎士三名と馬で追跡を急ぐ事にした。
「今回はギル飛ばしているからな。私も誰かの馬に乗るか。飛んで行くのも面倒だしな。だーれーにーしーよーうーかーなー。よし、お前だ。さ、遠慮するな、こい、抱っこして運んでやろう」
ホグマイヤー様は馬にぴょんっと飛び乗ると、腕を広げ手招きをした。指を刺された、大柄な騎士は顔色を変え目で助けを求めたが、誰も目線を合わせず何も言わなかった。他の騎士は急いで自分の馬に乗っていく。
「うーん。乗りにくいか。しょうがないな、私が前に乗ってやろう。ほら、早く乗れ」
パンパンと、自分の後ろを叩き、騎士を抱きかかえる予定だったのを諦め、ホグマイヤー様は渋々と騎士の前にちょこんと座られた。
青白い顔をしたまま無表情で騎士は馬に乗り、ホグマイヤー様を抱きかかえるように乗った。
「では、いくぞ」
私が号令を出すと、馬は一斉に走り出した。