マークさんとデート 2
警護のリーさんはご飯を食べずにドアの前で立っている。リーさんは三匹と話して連携を取っているようだ。
「デザートです」
食事の最後にデザートが運ばれて来た。ソースがかかった色々なチョコレートケーキの横に果物が添えられていた。
「とても美味しそうです。チョコレートケーキも綺麗ですね。マークさんは甘い物はお好きですか?」
「ええ。ジェーン様は甘い物はお好きですか?」
私はチョコレートケーキを一口食べて頷いた。
「私は甘い物好きです。王都ではよくお菓子を沢山買いに行きます、店の皆で食べたりしますよ」
私が答えて果物を食べると、マークさんはにっこり微笑んでいた。
「私も学園時代は王都にいました。王都の甘い店は私も色々行きましたね。私は魔術科の方で薬師科の先生はあまり知りませんが、ジェーン様を教えられた先生と私の先生が同じ方もいらっしゃるかもしれませんね。懐かしいですね」
マークさんの学園時代の話しを聞いたり、王都の店の話をして私達は食事を終えた。
マークさんとのデート(仮)はとても穏やかに進んだ。ご飯を美味しく食べ、街を眺めながらゆっくりと歩き、薬剤の店にむかった。薬剤店に今日入った物は色々な原石だった。
「ゆっくり見られて良いですよ」
私に声を掛けられて、マークさんは店主さんと話をしていた。私が商品を見出すと、マークさんは私を一人にしてくれた。分別が苦手な私はゆっくり見て確かめていく。ランさんなら、ひょいひょい良い物と悪い物が分かるのに。
「店主さん、色々沢山買っても宜しいですか?あちらにある、薬草も束で買っても良いですかね?」
私が話し掛けるとにっこり微笑み、お好きなだけどうぞ、と言って貰った。
ライラさんに送る御守りの石と紐も買った。石の色は碧色と透明な水晶にした。御主人の色を知らないから透明を添えるのがきっと良いはず。明日にでも魔鳩を学園に飛ばして、手紙と御守りを渡したい。
王都の皆にもお土産を買おうと、私はご近所さんの顔を思い出しながらせっせと買い込んでいった。魔女のお祝いを貰っている人には御守りをお返しであげるのもいいかもしれない。ホーソンさんやキムハン副隊長にあげるポーション袋の横に守り石を付けるのも良いかも。
私はふむ、と考えながらカウンターを往復しながらどさどさと商品を置いていった。
師匠には変わった物をあげよう。変な物が好きだし色々買って送ろう。師匠の趣味って変わってるわよね。
店主さんに煙草も出して貰って師匠の煙草も買った。師匠が煙草を吸うのを、煙になってしまうものを吸う気持ちが分からないとランさんが言っていた。
「だってー。この吐き出してる煙がー、お金と思ったらー勿体なくてー。食べたり飲んだりじゃなくて、灰と煙よー?しかも体に良くないー。師匠の煙草は理解出来ないなー」
師匠が煙草を吸ってるのを見てランさんが言っていた。
師匠はわざとすーーーーーーっと大きく吸って、ぷはあーーーーーっと煙を出して、ひひひ、ガキだな。と笑っていた。
ランさんのお土産は一番難しい。お金の無駄にならない様な物を買わなくては。私は店の隅にあった、コロン領の歴史の本や、薬剤の本を買う事にした。
「知識はー、重くないしー、腐らないしー、無駄がないのよー。どんな情報も意味があるのよー、一ルーンでも価値があれば頭に入れるべきー」
ランさんの言ってた事を思い出し、私は師匠とランさんのお土産も選んで、カウンターにどさどさ商品を置いた。慰謝料はまだある。
ふははははは。
私が沢山購入したからか魔女だからか、店主さんは色々おまけをしてくれて館に帰ってじっくり中身を見ようと楽しみが増えた。
「では、また」
マークさんが店主に挨拶をし店を出ると、私達は街の外れの高台にむかった。高台に行く間、魔法の事を話したりコロン領の事を聞いたり冒険者の仕事の事を聞いたり楽しく過ごした。マークさんって穏やかね。手を繋ごうとかもしてこないけど、階段などでは手を貸してくれるし。
高台に着くとコロン領が見渡せて、とても綺麗だった。周りには何もなく、風が気持ち良い所だ。
「綺麗ですね」
私が振り向きマークさんに言うと、マークさんは私の方をじっと見て頷いた。
「ええ、とても綺麗です。もうすぐすれば、夕焼けも綺麗に見えますよ。風魔法、試されますか?」
私は頷き、風魔法の練習をした。暴風にならないように注意しながらそよ風を作る。それと、風を圧縮する練習をする。失敗すると凄い風が起こってしまい、髪の毛が巻き上がる。マークさんは杖を出し、ゆっくり教えてくれた。
「簡単な魔法が苦手とは、ジェーン様は可愛らしいですね」
「そういう言い方をされると有難いです。一気に魔力を流したり、強い魔法をドカンとする方が得意ですね。昔から魔力だけは多かったんですが、学園時代も下手でした」
「成程。そよ風魔法を教える時に思ったのですが、ジェーン様は順番が逆のようですね。私はそよ風から、強風、暴風と練習したりしていくのですが、ジェーン様はいきなり暴風がお出来になる。その分、制御やコントロールが難しいのでしょうね。そよ風の時にコントロールの練習をしますからね」
「成程。ああ、だから私は薬を作る相性が良いのかもしれません。薬は魔力をドカンと錬金釜に貯めてから作り出せますから」
マークさんは笑って風をくるくると回し小さなつむじ風を作った。
「ははは、薬師の友人はそんな事してませんよ。それもおそらく、ジェーン様のオリジナルかと。ああ、こうやって魔法の話が出来るのは良いですね。アラン達とは出来ませんから。コロンでは魔術士も治療師も薬師も少ないんですよ」
マークさんに教えられて、私の風魔法は上達したと思う。そよ風が辺りを優しく包める程になった。
私は試しに自分の周りを風でつつみ、風を上手く循環させるようにした。髪の毛がふわふわと優しく揺れる。
まだまだだが、これを上手くできれば、師匠が言ってた風の防御膜が出来ると思う。魔力で風を思い切り圧縮出来ないといけないのに、それを柔らかく循環させる。師匠は簡単にしているけど、すごく高度よね。
風魔法の練習をしていると夕日が辺りを照らしだし、マークさんの明るい茶色の髪が明るく光り、眼鏡もキラリと光った。
「マークさん、今日は有難うございました。とても楽しかったです。夕日、とても綺麗ですね。コロンの街の色が変わりましたね」
マークさんは風をひゅんっと起こすと杖をしまった。
「私もとても楽しかった。この時間のこの眺めが一番好きです。ジェーン様と来れて良かった。ジェーン様、宜しければこちらを貰って頂けますか?御守りです」
マークさんの手には小さな黄色の石と紺色の石が着いたお守りがあった。
「いいのですか?私、何もお返しが無いのですが?何かあるかな。この石、光に照らすと中がキラキラして綺麗ですね」
私が御守りを受け取るとマークさんはニコリと笑ってくれた。
「この石を見た時にジェーン様に似てると思いました。魔力が流れた時のジェーン様はキラキラしてます。今後のジェーン様の繁栄と、旅の無事を祈りました。もう一つの守り石は使い魔様達ですね」
「とても嬉しいです。私、もっと魔法頑張ります。マークさんにも今度御守りを渡してもいいですか?今日、沢山石を買ったので選んで作ります。マークさんのお好きな石を一つ入れたいのですが、何かありますか?」
「本当ですか?嬉しいな。では、オレンジか茶色の石があればそれを。私の魔力の色ですので。ジェーン様から頂けるのであれば光栄です」
マークさんはにっこり微笑んで私を見た。
「ジェーン様、初めてお会いした時は魔女様と思って緊張してました。それでも、魔物討伐の時、自分の力が及ばず情けない思いをしていまして、初対面で火魔法を見せて頂いたりと今思い出すと図々しい行いでした。ジェーン様の事を魔女様と尊敬する気持ちは変わりません。短い時間ですが、ジェーン様と過ごすことが出来てジェーン様がとても強く、優しい方だと知れました」
「ふふ。私は優しいですか?ギルドでの様子も見られたでしょう?私は師匠の様になれるように頑張ります。私こそ風魔法を教えて頂いて有難うございます」
私が答えるとマークさんは眼鏡の奥のこげ茶色の垂れ目をニコリとされた。
「ああ、よかった。使い魔殿達も宜しくお願いします」
マークさんと笑って話していると、ごおっと風がなり私の髪が舞い上がった。
何事かと杖を出すと、飛竜の大群が空を飛んでいた。
ウェルちゃんは喜んでいる。フォルちゃんもアルちゃんも楽しそうだ。
「え、何かしら」
マークさんも杖を出し、空を見上げている。
一匹の飛竜がどんどん近づいて来た。
「ロゼッター!!!」
飛竜からジルちゃんを抱えて飛び降りて来たのはランさんだった。