コロン領での日々
ファン草の引っこ抜き作業は隊員達に任せ、私達はテントに戻った。タウンゼント宰相からの魔鳩も少し前に届いていて、浄化まで出来るなら是非ともお願いしたい、との事だった。
ランさんは返信を飛ばし、土地の浄化までする事を請け負った。ランさんは魔鳩を飛ばした後、ウハウハしていた。
日が沈む前に私達は館に戻り、アランさん達パーティは挨拶をされ街へと帰って行った。今後は朝、館に集合しアランさん達と一緒に東の森に行く事になっているらしい。
館で私がジロウ隊長と東の森の浄化の打ち合わせをしている間に、ホーソンさんとランさんが薬を上からスプレーで撒いて来ると言って飛んで行ってしまった。
二人とも元気がありすぎる。隊員のホーソンさんはまだ分かる。ランさんの本業は薬局店員のはず。
ジロウ隊長を見ると事前に聞いていたのか、報告を聞き頷くだけだった。
「明日にはラン嬢は店に戻りたいと言われていましたからね。先程、飛竜が今日の夜に到着すると聞かれたので、明日の朝一番に王都に帰られたいのでしょう」
ジロウ隊長はそう言われ、ファン草を無理なく浄化出来る範囲をアルちゃんと私と話し合って決めた。警護の事も相談され、ホーソンさん以外の警護につく第四の隊員さんの希望等を聞かれたが、私が誰でも良いと答えると、頭を掻かれ悩まれて、女性隊員のユーダーさんとキムハン副隊長に似てる感じのリー隊員を紹介された。
暫くするとランさん達は戻って来た。
「おかえりなさい、ランさん。どうでしたか?」
ランさんは帰ってくると、すぐに食事をメイドさんにお願いした。
「魔物に効いてるかよく分からないなー。スプレーは効果薄いけど、しないよりは良いくらいかもねー。一週間に一回くらい定期的に撒いて貰おうかなー」
ジロウ隊長に作っていた丸薬を渡し、魔物の餌に混ぜて撒く事をお願いした。魔物が多そうな場所を私が地図に示し、第四の隊員さんが東の森に撒いてくれる事になった。
「これも一週間に一回くらい撒いて貰いましょうか。一ヵ月位続けて、魔物の様子を見ましょー。ひどい魔物は討伐してる事を考えて、中毒性の低い魔物だけ残ってる事を考えても半年は続けた方がいいかもねー。討伐した魔物を定期的に私が見れば大丈夫じゃないかな?」
ランさんの提案にジロウ隊長が頷き、今後の方針は大まかに決まった。
「薬師長から魔鳩が届いてー。魔物の生態の本を送ってくれたんですよねー。古い本を見つけたらしくてー。魔物が時々草食べる事が書いてあったんですよー。草食、肉食関係なく、一定の周期や季節で草を食べる事がある魔物がいるらしいんですよねー。今回のファン草中毒もそのせいかもしれませんねー」
「ランさん、元気な魔物が丸薬食べても問題ないですかね?」
「うん、多分、元気な魔物が食べたら苦くて吐き出すかな。人間がそうなんだよねー。魔物が一緒とは限らないけど。元気な人が食べてもお腹が緩くなるくらいだから大丈夫かなー。魔物湧きがまた起こる方が問題だし、魔物がいなくなるのも困るもんねー。とりあえず、薬を撒くくらいしか今は出来ないかな。現場任せにしてるんだから、いいんじゃない?」
ランさんに言われて、皆が頷いた。
次の日の朝。
魔物の丸薬をランさん特製激マズ携帯食に入れ東の森に撒いた。栄養価は高いから、きっと魔物は元気になるだろう。
そして、ランさんは第五の隊員さんと朝の早い時間に王都に帰って行った。
「ロゼッター、またねー。しっかり色々採取してきてねー。お店に注文入ったらとりあえず、ロゼッタに注文書送るねー。浄化がんばってー。アルちゃん、フォルちゃんもまたねー。ジロウ隊長も、ホーソンさんもロゼッタを宜しくねー」
「はい。ランさんも気をつけて。ランさんが店に戻ったらウェルちゃんをこちらに呼びます」
ランさんは手を振りながら第五の人と飛竜に乗り、元気に飛び立っていった。ランさんが店に帰り着くと同時にウェルちゃんはやって来た。しっかり注文書の束付きで。
コロン伯爵の別邸で私は寝起きをし、午前中に土地の浄化をし、午後はコロン領の薬師協会を訪ね、使ってない錬金釜を使わせて貰いコロン領で購入した材料でせっせと薬を作る。
東の森迄はジロウ隊長が毎日スレイプで送ってくれる。見回りも兼ねてるから問題ないらしいけど、私を乗せると遅いと思うのよね。
「毎回ジロウ隊長に乗せて貰うの申し訳ないですが。他の隊員さんでも良いですよ?」
「あー、まあ、リーなら良いんですけど。もう一人のユーダーでも。でも二人は警護で後ろか前を守るのが役目ですからね。他の奴はな・・・。まあ、諦めて自分で勘弁して下さい」
「いや、ジロウ隊長が良いなら、私は良いですけど?」
私はジロウ隊長からはお爺さんと師匠の話を聞いたり、ハヤシ大隊長との特訓の話を聞いて、お尻の痛みを忘れながらスレイプに乗った。
ジロウ隊長のお爺さんはジロウ隊長と同じ、黒髪で黒目らしい。黒髪も黒目もいるけど、両方は珍しい。師匠がお爺さんとジロウ隊長を間違えたのは色味もあると思う。
ファン草の浄化作業は無理なく行えている。
フォルちゃんはファン草を引っこ抜く為に土地を掘り返す作業を、アルちゃんが土を食べ、私が燃やし、ウェルちゃんが冷やし、フォルちゃんがまた土を混ぜる。
私は毎日魔法陣を出し、三匹に魔力を分け指示を出す。
アランさん達や軍団の人達は私達の作業の時は少し離れている。
魔法を使う時は皆私達を見る。魔女の魔法は珍しいからかな、皆見るが何も言ってはこない。
ジロウ隊長は私が魔力を使うと、すぐに日陰に座らせお茶やお菓子を食べさせる。ホーソンさんも側にいて飴等をくれる。きっと一度具合が悪くなったのを見てるから心配していると思う。
冒険者のアランさん達も毎日来て東の森を見回りをしている。変わった事が無いか、魔物の変化が無いか等を毎日ランさんに魔鳩を飛ばしているらしい。そういう契約らしくて、アランさん達も契約金が有難いと喜んでいた。
毎日の浄化作業で、アランさん達や、第四の隊員さんや、ジロウ隊長と仲良くなった。薬師協会の薬師さんも初めはおどおどしていたけど話してみると物知りで、従弟が王都で衣料店に勤めていると聞き刺繍の相談が出来るかと言うと、是非訊ねてみてくれと紹介して貰った。今度、王都に帰ったら訪ねてみよう。
館のメイドさん達も仲良くなり、ポーションバッグに考えている刺繍のデザインのアドバイスを貰ったりした。使い魔達も三匹一緒に仕事が出来るのが楽しそうだった。
ウェルちゃんは風魔法と水魔法が得意なマークさんが一生懸命話し掛けていた。一緒に魔法を使っているのを見たりする。
アルちゃんはジロウ隊長が好きなようで、良く頭に乗っている。フォルちゃんはホーソンさんが槍を使った訓練の相手をしていた。
早めに浄化が終わった日等はアランさん達にコロン領を案内して貰う日もある。相変わらず馬に一人では乗れず、私が街に行く時はアランさん達が大型の馬で来てくれてアランさんか、マークさんが乗せてくれる。
コロンの街は、程々に大きな街で可愛らしい街だ。
アランさん達によると、コロン領は本来大きな都市の間にあって穏やかな街らしい。メリアに行く中継地点でもあり、住みよい良い街との事だ。草原や東の森、離れた場所には洞窟もあり、冒険者も多かった。今回、東の森が以前の森に戻る事を街全体が期待していると言われた。
ここ一年は冒険者の人が少なくなって困っていたので、軍団の人達や、師匠、私達の事を感謝していると行く先々で感謝を伝えられた。
子供達からも「魔女様」と言われちょっと触られては微笑まれたり、キャーっと言われて逃げられたりした。
「ジェーン様は人気ですよ。みんなコロン伯爵に困ってましたからね、そこで魔物湧きがあり、もう駄目かと思っていたら、軍団の方と大魔女様が来て下さったでしょう?ジェーン様は深淵の大魔女様のお弟子様ですし、皆憧れているのですよ。第四軍団のスレイプも第五の飛竜も子供達に人気ですね、軍団の方が宿屋や飯屋を使ってくれる事もあり、活気もありますしね」
マークさんが嬉しそうに話してくれる。
なんだか私の知らない所で私の人気が上がっている。
私が困った顔をしているとアランさんが笑った。
「ははは。魔女様ってもっとこう、威張ってるっていうかとっつきにくいかと思ってたんだよ。なんて言うかなあ。神秘的みたいな、怖いみたいな。でも皆、魔女様が可愛いお嬢さんだから嬉しいんですよ。勿論、ジェーン様が魔法を使われている時は、なんかこう、凄い物がありますが。ジェーン様、今日はちょっと冒険者ギルドに顔出して良いですか?子供達がギルドに来てましてね。職場体験なんですよ。昨日は病院だったかな。学校出ると殆どがすぐ働き、王都の学園に行く者は少ないですからね、皆ジェーン様に会いたいだろうから、ちょっと挨拶だけでもいいですか?」
「私、大した事喋れませんけど、良いですかね?」
私が言うと、アランさんは、いいのいいの、と笑いながら冒険者ギルドへと私を連れて行った。