タイムの花の髪飾り
私の側でランさんの話を聞いているキムハン副隊長、渋いおじ様だ。イケおじってこういう人なのね。
強そうだけど物腰も柔らかいし、タウンゼンド宰相が第二軍団とも上手く連携取れるだろうって言ってた訳がわかる。
ふむ。イケ魔女って言葉はあるのかな?と考えながらキムハン副隊長を眺め、野菜やフルーツを多く使える携帯食料を考えた。
ランさんに弟子入り(仮)をしたキムハン副隊長は、剣が使えるようにと片手だけで出来る薬草の選別やごみを取り除く仕事を錬金釜の横でしている。
二階からは掃除をしているホーソンさんの音が聞こえてくる。店にやって来たお客さんとランさんの話し声がし、私は商品を作りカウンターの後ろの棚に置いて行く。
魔女になっても仕事は変わらない。
錬金釜の横に戻ると、キムハン副隊長はフォルちゃんに警護の手順や時間等を話していた。
「フォル殿、ホーソンが主に薬屋に寝泊まりする事になるでしょう。ピットマンとボンジョウは第二軍団と連携を取り、夜は自宅周辺の警護が主になります。ウェル殿が店の周辺の警護をされているので周辺の見回りの時は三人はウェル殿と行動を共にする事が多いかもしれません」
フォルちゃんも頷きながら、キムハン副隊長の説明を聞いていた。
「フォル殿は店の警護が主ですか?ホーソンは槍が得意ですが、狭い店の中ではナイフを使うと思います。フォル殿、宜しくお願いします」
フォルちゃんは静かに頷き、槍の長さやナイフの長さに興味を持っていたので、キムハン副隊長に聞くと、細かくフォルちゃんに教えていた。
私がフォルちゃんの通訳をしながら錬金釜に魔力を貯めているとランさんは薬草辞典を持って来て、キムハン副隊長の前に置いた。
「この薬草は、この毒草と似てるんですよ。混じってないかチェックして下さいねー、終わったらお茶にしましょー」
ランさんには必要のない仕事を態々させているから、本当にキムハン副隊長に教えるつもりなんでしょうね。鑑定持ちのランさんからしたら二度手間だ。
暫くするとお使いからウェルちゃんとボンジョウさんが帰って来た。
「ただいま戻りました。沢山おまけをして貰いましたよ。玉ねぎ屋食堂にも注文を出しておきました。時間はいつもの時間に届けるとの事です。ジェーン嬢のお祝いで、スペシャルデザートをサービスすると伝えてくれと言われました。途中見回り中の第二軍団ウー副隊長に会い、お昼過ぎに一度店に来られると、伝言を貰いました」
ボンジョウさんは荷物を保存箱に入れた後、ランさんからキムハン副隊長と同じように薬草選別の説明を受け弟子(仮)入りしていた。
ボンジョウさんは店のドア付近に机を持って行き、そこで薬草選別をするらしい。ホーソンさんは薬草の瓶を拭きながら、ランさんの危険な植物とそうでない物の話を聞いている。
ランさんって見た目は穏やかだし、けしからん胸を持ってるし最高の先生よね。
やっぱり人間外側も重要なのかしら?まあ、怒らせたらいけない人だけど。
警護が付くと聞いた時は、魔術大臣の部下が店を襲撃したりしてくるんじゃないかとドキドキしていた。
今も油断は出来ないしご近所さんに危害が加えられないとも限らない。
私や使い魔達だと自分の身は守れても皆迄守れる自信はない。軍団隊員さんが来てくれてるのはやはり安心だ。師匠は自分の身は自分で守れって私に言ったけど、隊員付けとけとも陛下に言っていた。
付けて貰って初めて気づくなんて、私はまだ駄目ね。
お昼からの注文書の束を錬金釜の側に置きながら私は苦笑いした。
窓を少し開けているとウェルちゃんは店の外に出て行き、暫くすると戻って来ている。
店の周囲の見回りををしているらしい。
お店に来たお客さんも軍団隊員さんの様子を見てほっこりしてる。私の使い魔も怖がられず受け入れられた。
隊員さんに仕事をさせているのは、こうやってお客さんを怖がらせないようにしたのかな?ランさんすごいな、とも思ったけど、タダ働き出来る人達を見つけて喜んでいるだけかもしれない。ランさんのこの行動も私に分かるまでは時間がかかるんだろうな。
お昼からの仕事の準備をしていると、玉ねぎ屋からご飯が届いた。
お昼休憩になるとボンジョウさんはウェルちゃんと店の周りのパトロールに行った。
隊の人はバラバラにご飯を食べたりする事も普通にあるらしい。
「気にしないで、ジェーン嬢のお祝いをして下さい」
ボンジョウさんにそう言われ、私達は店を一度お昼休憩で閉め皆で美味しくご飯を食べる事にした。
「お祝いは大事よねー」
ランさんがご飯を机に並べてそう話すとキムハン副隊長が頷いた。
「久々の魔女様ですからね。皆お祝いしたい気持ちが大きいですね。ジェーン嬢の前は魔法使い様でしたか。その前も魔法使い様でしたから。魔女様にお会い出来るのは皆、嬉しいと思いますよ」
キムハン副隊長からお願いされていた礼を私は食事前に受けることにした。
キムハン副隊長は私の前に立ち、にっこり微笑まれ姿勢を正し私に深々と礼をし、私は黙って頷きを返す。それを見たホーソンさんも目を輝かせ、是非させて欲しいと、ホーソンさんからも礼をされ、私はまた頷きを返した。
ランさんはそれを嬉しそうに見て、「ロゼッター。なんかいい感じよー。強い女って感じー。最強よー。魔女様ーって感じでいいよー」と喜んでくれた。
部屋の隅で、アルちゃんとフォルちゃんが魔女礼ごっこをしていたけど、気にしない。ランさんが喜んでくれたし、皆が満足そうなので良しとする。
ご飯を食べだすと、ランさんが、うーん、やっぱり早く渡そーと言って、鞄をごそごそし、小さな包みを差し出した。
「ロゼッター。これあげるー。魔女のお祝いよー。こんなに早いとは思わなかったから綺麗に包んでないけど、準備しててよかったー」
それは片手サイズで茶色の飾り気のない紙で包んであり、くるくると茶色の麻紐で巻かれた物だった。
「可愛いリボンとか着けてないけどー。せっかくだから早く渡したいもんねー」
「え!有難うございます。開けてもいいですか?」
私が包みを受け取り、ゆっくり包みを開くと、金の髪留めが入っていた。
「可愛い・・・。嬉しい、ランさん、有難うございます。早速着けても良いですか?」
私は髪を緩く結び、左耳の上に飾りをつけた。鏡を見ると、ホーソンさんがお似合いです、と言ってくれた。
「可愛い花ですね。何の花ですか?」
ホーソンさんが聞きキムハン副隊長からもお似合いですよ、と言って貰った。
「タイムの花だよー。ロゼッタ、タイム、好きだしねー。ロゼッタのシチュー美味しいしー。花、綺麗でしょー。隣のおじいさんの息子さんが細工師だから作って貰ってたのー。早めに注文してて良かったー」
ご飯を食べているランさんは私の髪留めを、似合ってるー、と言いながらにこにこしていた。
ランさん、私が魔女になるって信じてくれてたんだ。
私は泣きそうになったけど。ぐっと我慢して、ちょっと変な顔でもう一度、ランさんにお礼を言った。
「ローブも、髪飾りも似合う強い魔女になりますね、ランさん、有難うございます」
私がちょっと涙目で言うとランさんは頷いた。
「ロゼッタなら大丈夫よー。気持ちよ気持ち。心を強くねー。あ、そういえば、王室からと宰相からもー、ロゼッタのお祝いしたいけど忙しいからまた今度ー、って手紙が来てたよー。店宛とロゼッタ宛に来てたけど、間違えて開けちゃったー。ごめんねー」
ロゼッタ、お返事書いといてーっと明るく言うランさんだが、私は涙が引っ込み、胃が痛くなりそうだった。