戦いの前のお茶会
いつもよりちょっと長いです。
師匠は集中してギルちゃんと意識を共有する。
バルちゃんはシュルリとマジックバッグから離れ、師匠の側に付いた。
私はマジックバックから「おぼろげマント」を取り出し師匠の周りに広げた。
マントと言ってもただの大きな布にボタンと紐を付けた物。
小さな師匠はマントを広げるとすっぽりくるんでしまいそうになる。
ゆったりと師匠の周りが見え辛くなっていく。
目を閉じて集中する姿を他人にじっと見られるのって嫌だ。
師匠は気にしないかも知れないけど、師匠も大人の女性ですからね。
急に着替える時に必要になるかな、とか、ちょっと見られたくない物を作ったりしている時の為に作った物だけど意外と役に立つ。
錬金中、お客さんに見られたくない材料の時にこのマントを広げるのが今の一番の使い道だ。
ランさん曰く、おぼろげではなく全部隠す事も出来るようだ。
ただ、ランさんが私に説明している途中で数字を沢山話し出した辺りから私の頭がパンクした。
私の理解が出来た範囲で作ったらおぼろげなマントになった。
出来上がったマントをランさんに見せると、「まあ、いいんじゃない?」と言われた。
全部消えれるマントを作ったら泥棒さんに欲しがられたり、それこそ覗き魔がよだれを流して欲しがりそうだ。なので作らないでいいと思う。
師匠に、どうですか?と、このマントを見せたら、「便利すぎる物は作るなよ。あと、お前のそれ。失敗は失敗だ。失敗は成功の元とかはな、努力した奴が成功した時に使う言葉なんだよ。失敗した奴が笑いながら言う言葉じゃねえな。お前はもっと勉強しろ」と、杖でバチコンと叩かれた。
ある時、師匠が珍しく工房から出て来た日があった。
私が薬を作ってる横で私のおやつを食べながら煙草を吸っていた。
「ロゼッタ、魔女ってのは何なんだろうな?薬師とも違う。魔術士とも違う。魔力だけでもなれず、運によって選ばれた者だけがなれる者。世界の理から外れてるよなあ。魔力もなあ、なんだろうなあ。世界を巡る輪の中にあるんだろうな。言葉を紡ぐように魔力は織られて魔力になってるんだよなあ。」
煙草の煙をぷはーと吐き出して、結局こんな煙のようなもんなんだろうなあ、と言った後、クッキーをパキッと割り、こっち側と向こう側、見てる方向が違うだけなんだよなあ。と言った。
「私にはまだ解らんよ。ランなんかこんな話、好きそうだよな。あいつはそっちをしっかり勉強すりゃいいのによ、金儲けばっかり覚えやがって。誰に似たんだか、碌でもねえな」
師匠はお茶をティーカップにコポコポと入れ、ぐびりと飲んだ後、また煙草を吸っていた。
「私の力は作られた物なのかねえ。誰の為に、何の為に、この力があるんだろうな。便利な物作ってもよ。そのせいで困る奴が出てきたりすんだよ。火もよ、必要だがな、炎となれば恐ろしいよな。水もな、無いと困るが濁流となって押し寄せると命を奪う。世の中バランスで成り立ってるんだな、片側に力が向きすぎるとな、壊れちまうんだよ。ロゼッタ、お前は自分の力を信じろ。過信はするな。慢心もするな。私はなかなか出来ないがな。大きな力を持つとな、使いたくてしょうがない奴が多いんだよ。それにな、自分が思ってる程、自分の力は使えないんだよ。腕はな、二本しかねえだろ?守れるもんを選ぶのは辛いぞ。過ぎたる力は持つもんじゃねえな」
ババアになると独り言が多くなるな。と、言って師匠は煙草を吸っていた。
私は薬を作りながら、師匠はすごいですよ。かっこいいですよ。と思ったが言えなかった。
だって私の言葉は飛んでいってしまいそうに軽いから。
いつか私が、師匠に言葉を返せる時の為に師匠の言葉を忘れないようにしておこうと思った。
私は師匠を隠して周りを見ると、国王陛下は目を瞑り、他の人もジッとしていた。
待ってるだけなんて時間がもったいない。
「師匠は時間がかかると思います。お茶を入れますね」
と言って、宜しいですか?と、タウンゼンド宰相に尋ねると、陛下が黙って頷かれ、了解を取った。
マジックバッグから追加のお茶を取り出した。
カップは執務室にある物を使っていいですか?と聞くとこれも了承された。
お菓子を配っている時に、せっかくなので試しで作っている携帯食料も配った。
話し合いにお茶とお菓子があってもいいでしょう。
騎士さん達に意見聞いてもいいですか?と、タウンゼンド宰相に同じように断って、しょっぱいのと、甘いのと、とにかくバターが多い奴と3種類を騎士団の人とハワード隊長に渡した。
「新しい携帯食料にどうでしょう、持ちやすさや、食べやすさ、味等参考にしたいので感想をお願いします」
私がそう言うと騎士の人達はチラリとタウンゼンド宰相を見られたが、宰相が頷かれると食べてくれた。
背の高い騎士団の人は「しょっぱいのが一番美味いです。色がオレンジって面白いです。一回り大きい位でもいいです」と言い、
ドア前にいた騎士さんは「寒い所ではバターの奴がいいですけど、暖かい所では胸やけするかも。長細く作れたらポケットに入れても邪魔じゃなくて便利だと思います」と言われ、
ハワード隊長は「甘いのが一番好きです。ただ、お茶が欲しくなります」と言った。
「ほうほう、好みで別れますね。今聞いた事を改良して、お試しで騎士団と軍団に渡してみてもいいですか?アンケートに答えてくれるなら無料で配りますよ。ちなみにお二人は第一騎士団ですか?」
私がメモを取っていると、いつの間にかこちらを見ていた国王陛下と王太子殿下も欲しそうなので、もうついでだと思って、
「お腹壊しても私のせいにしないで下さいね、試作品ですからね。不敬とか言わないで下さいね、あと、騎士に合流されるならポーション、ハイポーション、傷薬等ありますよ。買います?」と、言って国王陛下、王太子殿下、宰相から法務大臣、お付きの人にも皆にお菓子を配った。
「大隊長来るまで時間あるだろうし、皆さんどうぞ」
私が言うと、王太子がふっと笑った。
「すまん。戦が始まると思っていたのに、お茶会が始まるとは思わなかったんだ。ハイポーション三本とポーション六本買えるかな?私の騎士にも配りたい。ブルワー法務大臣はどうかな?はは、流石、ホグマイヤー様の弟子だな」
「毎度有難うございます。請求はランがします。ここにサインをお願いします。コレ忘れるとランから怒られますからね」
私は商品を取り出し王太子に渡していく。
「腹が減っては戦は出来ぬ、ですよ。師匠は、食える時に食えっていつも言いますよ。私達も、薬作り出すとご飯食べる暇もない時があるんですよ。どんな時も誰でも腹は減ります。ただ師匠待ってるだけじゃ、師匠に怒られますからね。時は金なりです。情けない姿師匠に見せてたら、杖で叩かれ瘤できますし。守って貰うだけの女は一ミリも魅力の無い、クソ女らしいですからね。そんなのこちらからお断りですよ。あ、おまけで傷薬三つ付けますね。すぐ行かれるならポーション入れる袋、コレどうですか?特別サービスで付けますよ。色は黄色とピンクしかないんですけど。ポーション割れにくくなりますよ」
有難う、頂こう、と、王太子殿下は笑われ、黄色の袋を選ばれた。
しっかり食べておこう、と、携帯食料も皆で食べられた。
「頭の瘤は儂も大分やられたな。あれは痛い。ジェーン嬢。貴女にも迷惑ばかりかけるが、宜しく頼む。ブルワーの分のハイポーションとポーションも買えるかな?すぐに行くならブルワーも薬はポケットにでも入れておいた方が良くないか?」
私はブルワー法務大臣の分のポーションの準備もし、小さな袋もおまけで付けた。
「先程の袋にポーション入れておきましょうか?割れにくいですよ。ただ色がピンクしかないんですが。良かったら使って下さい。ここにサインをお願いします。傷薬おまけしますね。請求はランが来ます」
サインはタウンゼンド宰相がしていた。
ブルワー法務大臣、ピンクの袋悪くない。
この袋、売れるかもね。
軍団や騎士にも可愛い色を作ってみようかな。
「ハワード隊長、第五の副隊長を暫く借りれるか?」
タウンゼンド宰相がハワード隊長の方を向かれて言われた。
「は。期間によりますが二週間程度なら問題ないかと」
「そうか、そう長くはかからんようにしなければな。ハワード隊長、しばらく第五でジェーン嬢の専属警護を頼む。出来れば副隊長のキムハンを付けて欲しい。名無しの薬屋、姉弟子共々の警護だ。ホグマイヤー様が心置きなく戦えるようにしなければ。王都の店だからな。本来なら第二の管轄だがな、今回ばかりは第五主体で第二軍団との連携が良いだろう。経験の長いキムハンなら二つの軍団と上手く連携が取れるであろう」
「は。ジェーン嬢だけでなく薬屋や姉弟子も、という事であればキムハン一人では手に余るかと。第五からキムハン以外にも隊員を何人か交代で薬屋に置きましょう。第二軍団の方には私の方からも連絡をしておきましょう」
「うむ、よかろう。ハヤシ大隊長には私からも話を通すが、反対はせんだろう。ハヤシからも第二には連絡を入れて貰う」
皆でお菓子とお茶を食べながら話し合いは進んでいった。