追いかける背中
師匠が煙をふーっと吐きだした。
皆が師匠を見る。
師匠がゆっくりと首を振る。
「いいか、私じゃない。私を狙っても無理だからな。分かるだろ?大物狙って糸切るよりも、手堅い小物を釣り上げたいのさ。私に手え出して、噛み千切られたくないだろう?噛み砕いて飲み込んでやるさ。狙いはロゼッタだ。ロゼッタも安く見られたもんだ」
私。
「魔術士、治療師にとって魔女は目の上のたん瘤に感じるのかねえ。普段は薬屋と言ってバカにしたり、まがい物扱いするくせによ。ここしばらくロゼッタのポーションが活躍したからかねエ。薬師でも作れるが、まあ、あの量はロゼッタにしか無理だろうなア。自分らの所にロゼッタを取り込んでポーション作らせるか、始末するかしたかったようだなア」
師匠はもう一度煙草を吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出した。
「ヘンリー。そしてジョージ、お前は次の王だ。お前らどうするんだ?」と、陛下に聞かれた。
陛下は静かに目を閉じ、王太子に話し出した。
「ジョージ、お前がマイネンを捕らえに行け。第一騎士団と急ぎ合流しろ。王宮での誘拐騒ぎだ。舐められたものだ」
師匠はニヤリと笑われ、杖でコツンと床を叩いた。
「マイネンは王宮での誘拐にも関与が濃厚だ。事はマイネンだけで収まらん。家族全員捕らえろ。抵抗するなら容赦をするな。ブルワーも行けるか?騎士をこれ以上王宮からは動かさん方が良いだろう。ジョージ、お前は騎士二名と法務大臣と行け。まあ、あまり手荒にすると教会がうるさく言うが、今回は生きていれば良いだろう」
国王陛下がブルワー法務大臣と王太子に話し掛けられる。
国王陛下がやる気だ。
「は。昔取った杵柄、剣を下げていきますか。法務局に戻れば剣もありますからな。今でも忘れんよう、ダンと時々打ち合っております。足は引っ張らんように出来ましょう。ホグマイヤー様に付けられた稽古を思い出しますな」
ブルワー法務大臣もやる気だ。
なんか師匠の周りって脳筋率高い。
「いいか、ジョージ。お前が先頭に立って剣を取れ。国を守り、敵を討て。付け込まれるなよ。悪い奴やズルい奴はよく見てるもんだ。初陣祝いだ。私が格安でお守りをしてやる、まあ、私が暴れるついでだな。魔女に手を出すとどうなるか教えてやろう。お前らもよく見とけ。うちの弟子に手エ出したらどうなるか教えてやろうなア」
師匠もやる気だ。
イライラしてるから激しく暴れそうだけど、大丈夫かな。
そしてお金は取るのね。
流石師匠。
ちょっと師匠の顔が裏通りの人になってるけど、気のせいだと思いたい。
「は、大叔母様有難き幸せ」
「大叔母様、有難うございます」
国王陛下、王太子殿下が頭を下げる。
見えないけど部屋中の人が頭を下げている。
「まあ、私が好きに暴れるついでにこいつは守ってやる。ジョージ、ちびんなよ。しっかりケツ締めてけよ。事後処理はお前らでどうにかしろ。私はやりたいようにやるぞ。小細工や面倒臭い事はお前ら得意だろ?ジョージ坊主は何があっても死なせんが怪我は自己責任だな。勲章の範囲だろ?ロブも年食ってるがそこらの奴には負けんだろ。私の留守の間、ランは私の使い魔を付ける。お前ら、ランに手エ出すなよ?あいつは出されたその手を切り落とすぞ。過剰防衛を教えてやらんといかんな」
師匠はふむ、と顎に手をやった。
ランさん、ちょっと怖い。けど、やらないとも言えない。
皆は頭を下げたままだ。
私やっぱりやばいのね。
私はバルちゃんを高速撫で撫でした。
しっとりした肌が心を落ち着かせてくれる。
バルちゃんは、やれやれって顔でこちらを見てる。
本当優しい子。
「ロゼッタ。ここでの話が終わったら、今日は店にこのまま戻るぞ。少々早いが、しょうがない。これもまた運なんだろうな。物事が動き出す時は一気に動くもんだ。波は待ってくれない。お前に教える事がある。覚悟しろよ」
師匠はニタリと笑い、新しい煙草をトントンと机に叩きつけた。
その師匠の後ろには、師匠と同じように笑う悪魔が見えた。
「お前もな、守って貰うだけの女になんなよ。そんなつまんねえ、くそ女になんな。魅力はねえなア、興味も無えな。お前も戦え。サレ女返上だ。私の弟子なんだろう?ランの妹弟子なんだろう?いつまでもメソメソすんなよ。自分の足で立って踏ん張れよ。過去のお前を見返してやれ」
私はバルちゃんを撫でていた手を離すと師匠に向き、
「やってやりますよ。どんとこいです。私は師匠の弟子で、ランさんの妹弟子です。いい女になってやりますよ!魅力溢れさしてやりますよ!小物だってバカにしたら噛みついて飲み込んでやりますよ!!」と言った。
「よし。ロゼッタ、その言葉。忘れるなよ」
一度口に出した言葉は戻らない。
自分で言った事くらい責任取ってやる。
サレ女返上。上等じゃない。
過去の男も、過去の私も噛み砕いて飲み込むんだ。
狙われるなんて冗談じゃない。返り討ちにしてやる。
師匠の背中を追いかけるんだ。
バルちゃん撫でたいけど我慢する。
震えそうな手も自分でぐっと握りこんでやる。
ちょっと目も潤んでるかもしれないけど、顎を上げて踏ん張るんだ。
ああ、私も脳筋に仲間入りかな。
師匠が私の言葉にニヤニヤしていたら、ぐるぐる巻きを連れたハワード隊長がドアをノックした。
「失礼致します」
ハワード隊長は礼をして部屋に入って来た。
ぐるぐる巻きのメイスン事務官は床に置かれた。
「調書を終えました。ホグマイヤー様にお返しして宜しいですか?」
ハワード隊長が言うと、タウンゼンド宰相が「よい」と短く返事し、ブルワー法務大臣も頷いた。
メイスン事務官はいつから師匠の物なのかな。
「よし、じゃ、続きやるかア」
ニタリと笑った師匠はギルちゃんを出すと、ギルちゃんはグワッと大きくなり、パクリとメイスン事務官を食べた。
うん?食べたのか。包んだのか。
いや見た目はやっぱり食べたのか。
王太子と、騎士団の方は驚いていた。
そりゃね。目の前でいきなりやられたら軽いトラウマになる。
「ヘンリー。誰かロゼッタに付けるか?自分の身は自分で守れるようにはするがな。軍団でも誰でもいいが、ロゼッタに付いてた方がお前らも都合がいいだろう?私がいない間、誰かお守りでいい奴いるならお前らが決めてくれ。ああ、ロゼッタやラン使って小細工すんなよ?ただの見守りだ。軍団は第二でもいいがな。まだランが嫌がるかなあ。あいつ、怒ると恐えからなあ。あと、マックス。今までの話をライアンにしてくれ。ダンにも説明頼む。こいつがどこにロゼッタ連れて行こうとしたか調べるからな。なんか見て欲しい物あるか?なんでもいいぞ」
「誘拐が単独かどうかを。マイネンが黒幕のはっきりとした証拠等分かれば、叩きやすいかと。ジョージとブルワーは話し合い後すぐに第一騎士と合流の準備を致します。大叔母様、宜しくお願いします。」
「んじゃあ、集中すっかア」
師匠がそう言うと国王陛下は目をつむった。




