狙われた魔女
私はマジックバッグに巻き付いたバルちゃんをすりすり撫でながら、皆の後を付いていく。
バルちゃんを撫でていると落ち着く。
バルちゃんはペロと私の手を舐めてくれると静かに目を閉じてジッとした。優しい子だ。
私達はギルちゃんとハワード隊長について歩いて行った。
すると、西門に行く途中の茂みに法務局の事務官の人がぐるぐる巻きにされて転がっていた。
門番の一人が横に立っていたが、ハワード隊長が頷くと礼をして戻って行った。
「メイスン・・・」
ブルワー法務大臣が呟くと、メイスンと呼ばれた受付にいた事務官の人は怯えた顔でこちらを見た。
「さて、お前のバックは誰かなア?安心しろ。お前は何も喋らなくていいぞ」
師匠がそう言うと師匠はギルちゃんに指示を出した。
ギルちゃんは一瞬でグワッと大きくなり、パクリとメイスン事務官を包みこみ飲み込んだ。
ハワード隊長は目を見開いたが、ブルワー法務大臣、タウンゼンド宰相はピクリともしない。
二人とも、見た事ある反応だ。
「ふむ。ふむ。なるほど」
師匠は頷き法務大臣の方を向いた。
「おい、ロブ。お前、この事務官まだいるだろ?どの程度聞き出していいんだ?」
「一度、話が出来る程度で尋問出来れば、後はまたお好きにされて結構です。王宮でのスパイ容疑、文書偽造等で、どのようにも出来ます」
「じゃあ、一度出すぞ」
ギルちゃんから、ぺっと吐き出すようにメイスン事務官が転がり出た。顔色は蒼白で、歯をガタガタ言わせている。
「よし。じゃ、ヘンリーんとこ、行くか」
「「は」」
「ハワード隊長、急いで調書を作り終わり次第、こちらに来てくれ。そいつもつれてな。調書は形だけで良い」
タウンゼンド宰相がそう言うと、師匠は、なるべく早くな、と言った。
ぐるぐる巻き事務官を立たせ、門に連れて行こうとしたハワード隊長は振り返った。
「は。西門が近いのでそこで調書を取ります。終わり次第何処にむかえば宜しいですか?」
宰相が「今の時間なら陛下の執務室にしましょう」と、ハワード隊長と師匠に言った。
ハワード隊長はメイスンを抱え、礼をした。
「は、すぐに向かいます」
「じゃ、行くか、お前ら歩きでいいな?ロブ、マックス、ロゼッタでいいな?執務室だな」
師匠はタウンゼンド宰相と騎士の方にそう言われ、タウンゼンド宰相が頷かれると転移魔法を展開し、パチンと指を鳴らした。
執務室の中で書類を見ていた国王陛下は、突然の私達の来訪でも驚かなかった。
陛下の後ろに立っていた騎士の方は反応したが、現れた人物を見て剣を抜かなかった。
「よ、ヘンリー、さっきぶり。ジョージを呼べるか?」
タウンゼンド宰相と、ブルワー法務大臣は陛下に礼をしていた。
私も急いで礼をする。
「は。大叔母様」と言い、騎士に目配せすると騎士の方は頷き、ドアの所に立っている別の騎士の方がドアを一度出て廊下で待機している騎士に伝言をしていた。
国王陛下は私達に、楽にしてくれ、と言われ、ソファーを指さされた。
「さ。すぐに来るだろ。それまで茶でも飲むか」
師匠はそう言うと私の方を見た。
師匠はもうソファーに座ってる。
はい。お茶の準備ですね。
私はマジックバッグからティーセットを出すとお茶の準備を始めた。
水筒からお湯を出し、コポコポ注いでいく。
人数分、一応カップも出すけど、国王陛下の分も淹れていいのかな?
私が陛下のカップを準備せず、陛下から仲間外れは不敬だ!なんて言われたくないし、準備だけしておこう。
美味しくなあれ、と言いながらお茶を入れる。
「ヘンリー。そう固くなるな。マックスから話を聞いてるんだろう?事態は最悪じゃない。落ち着け」
師匠がそう言って陛下にお茶を出す。
「恐れいります」
私達がお茶を飲んでいると王太子殿下が来られた。私は王太子殿下の分のお茶も入れる。
「大叔母様、お久しぶりでございます」
王太子殿下が師匠に礼をする。
本当、うちの師匠、無敵。
「ジョージ、元気か?背え伸びたか?ま、座れ。ライアンはまだだが、いいだろ。始めるぞ」
師匠は話し出した。
「結論から言うとな、ロゼッタに法務大臣から魔鳩が来たんだけど、それ、嘘でな。今まだ中、見てる途中だから詳しくは分からんが、黒幕は魔術大臣だ。あいつ、真っ黒だなあ。逃げ出した事務員な、ロゼッタ誘拐して人質にして、国外に逃げようとしたんだな。魔術大臣の駒は少ないんだろうな。ロゼッタを王宮までわざわざ呼び出しての誘拐だ。途中で攫うか、家に直接行けばいいのにな。手っ取り早いのにそれをしない。出来なかったのかねえ。すでに騎士団が動いてるからな。法務局の事務員の奴が勝手に動いた可能性もあるがな。あ、法務局の奴は魔術大臣の愛人だ」
師匠はお茶を飲み、砂糖を一つ入れた。
「先程、第一騎士団をむかわせましたが?おい、第一騎士団のロイス隊長と連絡を取れ。こちらの状況を伝えろ。魔術大臣が逃亡の恐れありともな。大隊長のハヤシも呼べ、状況を説明せねば。ハワードはまもなく来るな」
国王陛下はまた騎士団の方に言い、騎士団の方は別の方に伝言をしたりして忙しそうにしている。
「まあなあ。東の森の魔物も魔術大臣のせいだからな。ただ、今回の魔物が狂ったのはあいつも予想外だったみたいだぞ?ファン草が魔物にも作用するとは思わなかったんだろうなあ。今回の魔物湧きも、自分のせいだと思ってないんだろうなあ」
師匠はそう言い、お茶を飲んだ。
「そのおかげで、相手が油断してる所を叩けたんだ。今回の魔術士隊長と治療師隊長の謹慎も甘くみてたんじゃないか?助かったな。ロゼッタ、ファン草患者の薬を大量に作れ。東の森にまくぞ。ファン草刈り取った後なあ。面倒だな。燃やせれば楽なんだがな。森があるしなあ。まあ、お前ら考えろ。ロゼッタ、ファン草の薬、出来るな?」
「はい。ランさんに手伝って貰えればすぐに出来ると思います。材料に依りますけど。魔物用なら人間用と違う配分になるんですかね?ランさんに言って何種類か配分変えて作りますね。でも、あんまりレアな材料だと大量作成は難しいですね」
私は頭の中で薬草リストを思い浮かべる。
「そこはまあ、いい。どうにかなるだろ。で、次だ。魔術連中は魔女を狙っている」
アホばかりで困るな、と言って師匠は煙草に火を点けた。