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サイパーの魔物湧き レイ視点 1

時系列的にはロゼッタがホングリーに行くちょっと前です。

「うんうん。レイ、美味しいね。もぐもぐ。バターたっぷり。うんうん、パンのおかわりある?」


「はい、お師匠様。今日はドーナッツもありますよ。口の中を飲み込んでから喋って下さいね」


「うんうん、ごくん。わーい。どこの?マッシュさんのところ?あ。新しくできた、ドンドンさんってところかな?何味?いくつあるの?」


「えっと、味は三種類程。何味かは聞きましたけど、食べてからのお楽しみにされて下さい。スープのおかわりはいかがですか?昨日、ドンドンさんがご挨拶に来られてお師匠様にドーナッツを食べて欲しいって言うので、今朝届けて貰ったのですよ。揚げたてらしいです」


「へー」


お師匠様はくんくんと、僕が出したドーナッツの匂いを嗅いでのんびりとスープを飲むと、むしゃむしゃとお腹を揺らしていました。


「あー。やっぱり我が家が一番だねえ」


「解呪は大変でしたか?」


「うん。あの、ハゲゴブリン子爵。恨まれすぎだよね。呪い返しすると、呪いを送った相手が可哀そうだから解呪したけど、あれはまたすぐに呪われるね。もう、知らないけど」


「はい、知らなくて大丈夫です。フォルディ子爵のことはサイパー侯爵とクルマス隊長に連絡してますから、もう、ここに来ることはないと思いますよ」


「そ?じゃあ、まあ、勝手に呪われてもらおうかな」


そう言うと、お師匠様は「うーん、いいね。なかなかじゃないかな、これは砂糖たっぷりかかってるから生地は甘くないんだ。うんうん。まあまあだね」とご機嫌で僕が出したドーナッツを食べだした。


「ドンドンさんに伝えておきます。プレーン以外の味を頂きましたよ。お師匠様は珍しい味が好きでしょう?」


「うん、こっちはイチゴ?いや、クランベリーだ!うん。いいね」


ご機嫌でドーナッツを食べだしたお師匠様は僕がお茶を淹れると、ゆっくりとお茶を飲み、解呪の疲れを取っていた。


一昨日の夜に「おい、急いで解呪をしてくれ!俺は子爵だぞ!」と、お師匠様がハゲゴブリンと名付けたフォルディ子爵が飛び込んできました。


「は?」と言って、おやつの時間を邪魔されたお師匠様は杖を振って、子爵を追い出そうとしたのですけど、お師匠様は素晴らしい魔法使いですから、子爵が持っていたネックレスに本当に呪いが掛かっているのを瞬時に見抜かれたのでした。


「あー、めんどくさいー。あー、やだやだ」と言いながらも、優しいお師匠様は「はー。レイ、ちょっと出かけるから、留守番頼んだよ?」と言って、失礼なフォルディ子爵をボコボコにして喋れなくすると浮かせたまま、アッと言う間に転移して行ったのでした。


僕は急いで礼をして、お師匠様を見送ると、引き出しの中から魔鳩を取り出しました。


「えっと。フォルディ子爵とかいう、失礼な人が来ました……っと」


お師匠様は自分からサイパー侯爵や第六の隊長に連絡をする事は殆どありません。お師匠様が自分から連絡するのは魔法使い様達か、名無しの薬局、それとお気に入りのお店に注文する時だけです。


なので、サイパー侯爵や第六には僕が色々と()()()をしています。


先程のように、時々、お師匠様の事を魔法使いと知らずに、解呪の得意な魔術士がいる、と勘違いして駆け込んでくる変な人がいます。


僕も攻撃魔法は少しは使えますが、見習いの僕が貴族に無礼を働いたとなっては大変です。なので、僕は今日の出来事も、サイパー侯爵や第六にしっかりと報告するのです。


お師匠様は面倒臭がって何もしないので、僕がこうやって、第六のクルマス隊長にも報告しておけば、隊員達がお師匠様が留守の間は良く見回りにも来てくれます。


何せ僕はまだ子供なので、とにかく変な人に関わりたくはないのです。


僕が、お師匠様の顔を見ながら、解呪は大変だったのだろうな、と思っていると、お師匠様はドーナッツに手を伸ばしていました。



「あー、レイ、あの、ハゲゴブリン子爵さあ、呪いの他にも生霊たんまりついてたよ?聖水沢山使っちゃったよ。だから、聖水をまた用意してくれる?」


「かしこまりました。お師匠様、教会の方に連絡をしておきます」


「ちゃちゃーっとレイが作ってくれていいよ?」


「はい。教会に行って僕が作ってきます」


「あ、そういうこと。気をつけてね」


「はい」


うんうん、とお師匠様が頷くのを見て、僕は教会にも連絡をする事を頭に入れました。


「レーイ。王都にね、美味しいパン屋さんがあるんだ。レイが転移を覚えたら、お使いに行って貰えるのにね。早く覚えなよ」


「お師匠様、転移はまだ僕にはムリです。それよりも先に解呪や解毒をしっかりと覚えておきたいです」


「ああ、まあねえ。ロゼッタちゃんも転移出来るの遅かったもんね。まあ、でも、ロゼッタちゃんは弟子になって一年ちょっと位で魔女だっけ?二年経ってなかったよね?それで攻撃魔法から治癒、防御、薬までなんでも出来るからねえ。ちょっと自分で言ってて改めてロゼッタちゃんてヤバイって気付いちゃったよ、例外って言葉はロゼッタちゃんの為にあるんだろうね」


「流石、ロゼッタ様ですね」


僕は先輩魔女のロゼッタ様の事を思い出して頷きました。綺麗で、面白くてとんでもなく強くて素敵な先輩魔女様。


お師匠様がこんなに人を褒めるのもありません。


「まあ、ロゼッタちゃんは規格外だから。レイ、僕達は普通の魔法使いとして頑張ろう。まあ、解呪、光魔法ならレイもロゼッタちゃんよりも優れているんじゃないかな?僕も攻撃魔法は負けても解呪ならホグマイヤー様に勝てるからね。一つの事を極めるといいよ」


「はい!僕、頑張ります!」


「うんうん。ああ、ゼンは転移はどうだったかな。そうそう、歩くのが面倒だからって、転移をすぐに覚えたんだった。その代わり、攻撃魔法が苦手だったかな?ゼンは防御に特化しているからね。ゼンの防御壁を破るのはオトモダチも使われたら僕でも無理かな。ゼンも順番が滅茶苦茶だったなあ。まったく、オースティンはおかしな魔法使いばかりだね」


お師匠様はしゃべりながらも、綺麗にパクパクとパンにサラダ、スープに白身魚のフライにソースをかけて食べていました。


お師匠様も見た目は穏やかで、優しそうなのに、第六の軍団達をマフィンを食べながら片手で相手にしているのを見ると、十分おかしな魔法使いだと思うけれど。


「まあ、レイ。一つずつだね。あー、でも、チョコケーキも食べたいなー。ランちゃんに言って送って貰おうかな。星の砂と、レイ、棘貝の毒は抽出できた?結構な量があったよね?」


「はい。中瓶に二十本程出来ました」


「うん。じゃあ、注文で十本はいるでしょ。クリスさんから二本欲しいって言われてたかな。五本位は予備においておこうか。じゃあ三本はランちゃんにあげても問題ないか。よし、緊急魔蝶出して。ランちゃんに『棘貝の毒瓶三本と、星の砂三本で、大通りのチョコチョコチョッコの数量限定ホワイトチョコケーキ三本とレトロ通りのパン屋のお任せパン十個。あと、名無しの薬局のお任せ石鹸十と携帯食料三十と交換して』って言ってくれる?足りなかったら、虹サンゴ一本つけるって言っていいよ」


「え、お師匠様、今から緊急魔蝶の準備をしますので、ご自分でして下さい。緊急魔蝶で僕が注文すると、納品書に文句が書かれてますから。ラン様、怖いです」


「もう、ランちゃんを怖がるなんてレイもまだまだだね。いいよ、僕がするから。ついでにホグマイヤー様の居場所も聞いておこうかな、ホグマイヤー様が来るとすぐに僕のデザート食べていくからね。気をつけておかないと」


お師匠様はスープを食べ終わるとお腹を揺らして緊急魔蝶に喋り掛け、さらに緊急魔蝶を転移をさせました。


「これで、ランちゃんが王都にいれば明日には食べれるかなあ。ああ、また皆でパーティーをしたいね。今度はサイパーでクリスさんとゼンとロゼッタちゃんを呼んでみようかな、あ、そうすると、ホグマイヤー様も来るなあ……」


困ったように言うけど、楽しそうに考えているお師匠様の前にお代わりのスープを注ぐと、ドアベルがけたたましく鳴り響きました。



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