マークさんからの緊急魔蝶
『ジェーン様!!!!』
お菓子の催促かな?と笑いながら緊急魔蝶を見ていたのに、緊急魔蝶は私の前迄飛んでくると、魔力が弾けて消えた。
パアンっと弾けて消える時に聞こえたのはマークさんの声。
「マークさん?一体?皆、来て」
私は皆に指示を出して急いでキラキラと舞い散る魔力を覚えた。
「何事ですか?」
「分からないわ。どうしたのかしら」
消えて行った緊急魔蝶は綺麗な粒子を撒きながら散っていった。なんだか胸がドキドキする。嫌な予感がする。マークさんが私を呼ぶ声が耳から離れない。
私は急いで魔法陣を出すと、空に向かって、闇魔法を打ち上げた。
「ロゼッタ嬢・・・」
ハワード隊長が私を呼び、振り向くと第五の隊員が集まり、私の方を皆が見ているけれど緊急魔蝶が弾けたのを見た事なんて私はない。なんと話したらよいのか。
「ロゼッタちゃん、どうしたの?緊急弾でしょ?今の」
私の前に魔法陣が現れると、ベンさんがレイ君をぶら下げて現れた。
「ベンさん。友人からの緊急魔蝶が届いたんです。私の名前が聞こえたと同時に魔力が弾けました。今迄こんな事はないのに」
「弾けた?消えたではないんだね?・・・ロゼッタちゃん、すぐに飛ぶといい。消えた魔力を追えるね?・・・友人に何かあったのだと思う。隊長達、異変を感じたかい?探知を辺りにしよう。ロゼッタちゃんに緊急魔蝶を飛ばしたんだ。気をつけないとね。ハワード隊長は急いで、飛竜に乗って辺りを見回るんだ。ハヤシ君にも連絡を取ろう。ロゼッタちゃん、緊急魔蝶を貸してくれるかな?僕がハヤシ大隊長に連絡をしよう。ウェルちゃん、カモメにゼンに知らせるように言ってくれる?クリスさんに王宮関連はお願いしよう。ホグマイヤー様はお出かけだったよね?」
「はい、ベンさん」
「うん、とにかく早く飛びなさい。連絡は僕達に任せて。急いで僕達もサイパーに戻ろう。第六君達、帰りは僕の超特急船で帰ろう。遠慮なく飛ばすから、レイ、皆に祝福と防御膜を掛けなさい」
「はい、お師匠様」
「「「は」」」
「ベンさん、宜しくお願いします」
私は緊急魔蝶をベンさんに貸すと、ドキドキする胸を抑えて急いで杖を振った。
「皆さん、また、すぐに会いましょう。ベンさん、レイ君。ハワード隊長、クルマス隊長、メッキリイ副隊長」
「は。ご武運を」
クルマス隊長達も急いで小舟に皆が乗り込んでいた。
ハワード隊長も簡易の礼をして、ネーロさんに急いで乗っていた。
「ロゼッタ嬢、何かあったらすぐに連絡を。クルマス隊長、私はサイパーには寄らず、すぐに王都へと飛びます」
「ああ。ハワード隊長、逐一連絡を取り合おう。ジロウ隊長にも知らせる。他の隊は任せた」
「はい」
「じゃあ、皆、良いわね。マークさんの所まで、飛ぶわよ。転移」
私は靴を鳴らすと急いで魔力を追って転移をした。飛んだ先は森の中で、見回すが誰の姿もなかった。
「マークさん!ジェーンです!どこですか?」
私はマークさんの名を呼び、辺りを探したが見つからない。ここは、何処?
「最後の魔力の場所がここだったんだわ。緊急魔蝶を飛ばした後に移動したんだ。魔力も無いのに、どうやって・・・。皆。急いで探して!!!」
皆は頷き、私は防御膜を張ると魔力を出した。
「マークさん・・。何処?アランさんや皆は?魔力の乱れている・・・。戦闘があったの?」
集中して探知を掛けると、うっすらと私の魔力にひっかっかった。
「いた!!近いわ。皆、このまま北よ!急いで!皆は後からついて来て!私は先に飛ぶわ。転移!!」
皆の返事を待つ前に私が転移をすると、目の前にパンデさんがマークさんを抱いていた。
辺りには魔獣の死体も転がっていた。
「ジェーン様!!」
「パンデさん!何があったの?怪我をしているの?ハイポーションを急いで飲んで!!敵は?」
私は魔法陣を急いで出し、防御膜を張ると慈愛の雨を降らせた。
パンデさんはハイポーションを持つ手を震わせながら、首を左右に振っている。
「ジェーン様・・・。すみません。マークはもう・・・」
「そんな!!さっき連絡が来たのに!!何で?どうして?」
「俺らはクエストを受けて・・・いつも通りだった。いつも通りだったんです・・・。そしたら急にアランが現れた魔獣と戦っている時に『変な魔獣だな』って言ったんです。で、マークが頷いて、『変です』と言って。俺には分からなかった」
パンデさんの声が聞こえているのに聞こえない。
「ああ、なんだろう。でも、おかしいなって。・・・魔獣が遠くからこっちを見ているのに気付いて。俺も様子を見ているといつの間にか取り囲まれていた。あっという間で。アラン達とは分断されて。急いでアラン達と合流しようとしていると、一匹が俺に背後から襲い掛かって、マークが魔法で反撃をしてくれた。俺が魔獣を仕留めて、マークがジェーン様に急いで魔蝶を飛ばして、でも、俺を庇った時にマークは傷を負っていて・・・。なのに、無理に魔力を使ったから・・・・」
「そんな!!マークさん!!マークさん!!回復魔法が効かないの?なんで?約束だって・・・。ずっと頑張るって・・・。言って・・・。どうして?」
私が魔法陣を出して、マークさんに注いでいると、脚を引きずったアランさんをフォルちゃん達が連れてきた。
「パンデ・・・。ジェーン様・・・・」
「アラン・・・ジャックは?」
振るえるパンデさんの声にフォルちゃんが背中に乗せていたジャックさんをゆっくりと降ろした。
「すまない・・・・」
「ジャックさん?うそでしょ?なんで?」
私はおかしな方向に腕が曲がって、眼を閉じているジャックさんを見た。
マークさんも寝ているようだ。顔は汚れているけれど、傷も無い。腰と脚の辺りが黒くぐっしょりと濡れている。
「そんな・・・。どうして?」
私は魔力を出し、髪が揺れるままに、皆に回復魔法をかけ続けた。
パンデさんの傷がなくなり、アランさんも真っすぐ立てるようになっても、マークさんもジャックさんも目を開けなかった。
プツン、と魔法陣を消すと、私はアランさんに聞いた。
「変な魔獣ですって?」
マークさんを見ながら私がアランさんに訊ねると、アランさんは頷いた。
「・・・マークは変な魔獣がいないか、ずっと気にしていた。だから俺らも東の森の事もあるし、変な魔獣がいないか常に気をつけていたんだ。そしたら、普段、この辺りで見ない魔獣がいた。シルバーウルフだった。メリアの方にしかいないはずなのに。そして、単体だったんだ。群れをつくるのに変だなって思って。で、気づいたら囲まれていて。マーク達とはぐれた」
「変な・・・魔獣・・・・」
「眼の色がおかしかった。マークは今日は具合が良くなかったんだ。だけど、いつもの見回りだからって」
「それなのに、無理して、俺を庇って・・・」
「眼の色・・・」
私がアルちゃんを見ると、アルちゃんは近くで死んでいる魔獣を一匹連れてきた。
私が魔獣の眼を見ると目の色はオレンジより少し赤い色だった。
「マークさん・・・」
私はそこでマークさんを襲った魔獣を燃やした。杖を振り、辺りに散らばる魔獣の死体に一匹残らず火球をぶつけて、灰になるまで燃やしてやろうと杖を振るっていると、アルちゃんが何匹か飲み込んでしまい、フォルちゃんがぶつかってきて、ウェルちゃんが私の杖を咥えて取った。
「ううう・・・・。うわああああ!!!」
私は涙が涸れるまで泣いた。