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薔薇の髪留め

「ジェーン嬢。お久しぶりです!お元気でしたか!!」


「ハワード隊長、私は相変わらずですよ。皆さんもお元気そうですね。援軍って、ハワード隊長達だったのですね?」


「ええ。クルマス隊長からジェーン嬢が、近々サイパーに来られると聞いていましたので、何かあれば駆け付ける許可を頂いていました。しかし、もう訓練は終わられたのですか」


「ええ。火トカゲも無事に狩れました。メッキリイ副隊長はアルちゃんとまだ訓練していますけど」


「火トカゲを?」


「はい。火トカゲを」


「ああ、素材ですか?必要な素材があれば、いつでも申し付けて下されば宜しいですが。第五ですぐに何処へでも駆け付けますよ」


「私は良き魔女ですので自分で狩りますよ。師匠も、自分で狩った方が早いって言いそうですしね。それに、素材に使う物は自分の目で見た方がよいですし」


「で、では。一緒に」


モゴモゴとハワード隊長が言っていると、ドガンっと大きな音がした。私が目線を向けると、暗いモヤが覆う辺りで、メッキリイ副隊長とアルちゃんがお互いが隠れながら攻撃を激しく掛け合っていた。


メッキリイ副隊長もぼやけている所を見ると、副隊長も特殊スキル持ちのようだ。


副隊長クラスになると皆、色々特技があるのだな。


「凄い。アルちゃん相手に」


「メッキリイ副隊長は第三にスカウトされていたのですよ。クルマス隊長の下で海に出たいと断られた話は有名です。隠密は彼の特殊スキルですね」


「スキルは隠さないんですね」


「ええ。隠してもどうせ分かる事ですし。他に隠したい事は本人が隠して戦うでしょう。だから私が分かっているのはそれだけですが」


アルちゃんと戦うメッキリイ副隊長は、影の中を行き来している様にも見える。成程、隠密と言うけれど、何かははっきり分からないし、きっと大隊長とかにしか、細かい事は分からないんだろうな。


私達がアルちゃん達を見ていると、クルマス隊長の笑い声が聞こえてきた。



「はっはっは!完敗だ!ホグマイヤー様以外で手のひらで転がされたのは久しぶりだった!!」


クルマス隊長はハワード隊長にバンっと背中を叩き、自分のびしょぬれの隊服を指さして、メッキリイ副隊長の様子を満足そうに見ていた。



「メッキリイはアル殿との相性が良かろう。ハワード隊長、我らは手も足も出なかった。ドルトン様のお弟子様にも手伝って頂いたが、ジェーン様にはかすりもしない。使い魔殿に遊ばれて終わりだ。ジェーン様はホグマイヤー様とは違った強さをお持ちだ」


「ええ。美しさと強さを兼ねそろえているのが、ジェーン様ですよ」


「ああ。驚いた。ここまで何も出来ないとは。しかし、とても有意義な時間だったのは間違いない」



びしょぬれの隊員達に私が杖を向けてそよ風に少し熱を加えた物を流していくと、フォルちゃんも一緒に風を流してくれた。



「お披露目の時にも、痺れるような魔力を感じたが、私が魔力を出されただけで恐ろしいと感じたのは二人目だ。全くとんでもない魔女様だ。今日ほど自分がオースティン国民で有難いと思った事はない」


「はい。間違いありません」


「はっはっは」



二人が話をしていると、私のローブをキュッと引っ張られた。驚いて振り向くと、ハワード隊長の飛竜、ネーロさんだった。



「お久しぶりです。ネーロさん」



そう言って、私がゆっくりと手を出すと、ネーロさんは目を細めて頭を下げて私に角や羽を撫でさせてくれた。


「急に飛んで来て、大変でしたね。ネーロさんは疲れてませんか?」


「キュウ、キュウ、キュキュ」


「あら。何か食べますか?フルーツを練り込んだ、携帯食料がありますよ?他には、果物とか・・・。干し肉とか・・・。ネーロさんの好物は何ですかね?」


「キュウ!」


ネーロさんは私が携帯食料を出すと、パクリと食べて、頬を寄せて、スリスリと甘えてくれた。


「ネーロさん!」


大きいけど甘える姿がとても可愛い。


私がよしよしとなでていると、アルちゃんがぶわっと体を大きくして、ドンっと、ネーロさんの横に座った。


「あら。アルちゃん。アルちゃんも食べる?メッキリイ副隊長との訓練はいいの?」


「今もしてる」


そう言うと、アルちゃんは私の周りを防御膜で覆い、闇魔法で鞭やナイフを出すと、何もない所に投げつけながら、私に甘えるように身体をすり寄せた。


時々、ナイフや鞭が弾かれているので、メッキリイ副隊長にずっと攻撃をしているようだ。


「アルちゃん、凄いわ」


「まあね」



そういうと、アルちゃんはネーロさんにべっと舌を出した。


アルちゃんがメッキリイ副隊長との訓練に飽きると、クルマス隊長がソロン島に来たついでに、島の見回りに行くといい、ベンさん達と一緒に島の反対側へと向かった。


お留守番となった私は海岸でアルちゃん達が準備してくれたテントの中で、お茶をしながらフォルちゃんが海に飛び込んでいくのを眺めていた。



「ジェーン嬢。今、お時間大丈夫ですか?」


「ハワード隊長。ハワード隊長は行かなかったのですね。お留守番組ですか?お茶をどうぞ」


「有難く」



もじもじとしながらハワード隊長はテントに入ってきた。私は杖を振って椅子をハワード隊長のほうに向けるとハワード隊長は座った。



「果物入りのお茶飲みます?」


「あ、はい。あの、コレ、ジェーン嬢ニトオモイマシテ」



勢いよく椅子から再び立ち上がり、片言に喋りながらバッグからハワード隊長が取り出したのは深い赤のリボンが掛けられた箱だった。



「私に?」


「ええ。はい。よければ。はい」



私が受け取ると、ハワード隊長はソワソワと私の方を見ていた。



「開けてもいいですか?」


「はい!」


シュルっとリボンをほどいて箱を開けると、透かし彫りがしてある明らかに高級そうな薔薇の髪留めだった。



「す、すごく綺麗。だけど、コレ、凄くお高いのでは?」


「気にいって頂けましたか!値段は関係ありません。ジェーン嬢に似合う物はないかと色々探しました!花まつりの贈り物は直接渡したかったので」



ニコニコとハワード隊長は頬を染めて話すが、これは絶対高いと思う。うん、高い。太陽の光に当てると薔薇の中央に宝石がキラキラ光っているのも見えている。


「おお・・・」


薄い花びらが綺麗だけど、繊細だからちょっとぶつけたら壊れてしまいそう。ランさんだったら「あらー。有難くー」と言ってニコニコして貰うのだろうし、師匠だったら「まあまあだな」とか言ってポシェットやローブにすぐ着けそうだ。


私はすぐに壊しそう。こう、くしゃっと。


あ。


「ハワード隊長、これ、魔法掛けても良いですか?」


「はい、お好きに」


「防御膜」


杖を出して、髪留めを防御膜で包んだ。頑丈にするにはどういう魔法を掛けたらいいかが分からない。下手にかけて、失敗したら大変なので、今は防御膜で包むだけにしておいた。


「壊しそうなので、防御膜を掛けました。どうも有難うございます。私が贈ったプレゼントに比べると、とても高価なような」


「いいえ。ジェーン嬢から頂いた物は私も大切にとってあります。常に身に付けたいと思う気持ちと、汚したくないと思う気持ちでいつも悩むところですが」


「え。使って下さい。御守りも付けて下さいね?」


「!!ええ!!肌身離さず!!」


「いや、少しは離して下さいね。それにしても、この髪留め、綺麗ですねえ」


「気に入って貰えて良かった。ああ、あ、あの。ジェーン嬢、あの、私からお願いがありまして」



ハワード隊長は私が以前上げた御守りの石を握りしめていた。



「なんですか?」


「私もロゼッタ嬢とお呼びしたいのですが!!そして、私の事はライアンと呼んで欲しいのです!!」



一気にそう言うハワード隊長の顔を真っ赤っかだった。



「ふふ。ハワード隊長、いいですよ。ライアンさん?」


「は!!」


ライアンさんと呼ぶと私の中でもむずむずしたが、ハワード隊長改めライアンさんがあまりにもにっこりと笑うから私もつられて笑ってしまった。


「ふふ、ライアンさんも忙しく飛び回っていたんですね。最近は合う事も少なかったですから。あ、それなのにこの間は、突然呼び出してごめんなさい。でも、おかげで薬を作る事が出来たんです。改めて有難うございました」


「いえ、自分だけでは。ジロウ隊長も駆けてましたから。お役に立てて光栄です」


「本当に助かりました」



私が笑うと、ライアンさんはグッと拳に力を入れていた。



「あ、あの、ロゼッタ嬢。自分は、あの、ロゼッタ嬢の事を」


そう、まっすぐに私の目を見たライアンさんと私の間に緊急魔蝶がヒラヒラと飛んできた。








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