第六軍団との訓練
私が魔力を出しながらアルちゃん達に笑いかけると、三匹とも魔力を出しながら返事をした。
「全力?」
「全力ね?」
「全力!」
ニヤっと身体を大きくした三匹が笑うと、後ろに下がろうとした隊員達もいたけれど、ぐっと、姿勢を崩さなかった。
「せっかく訓練をするんだからフォルちゃん達も色々と勉強が出来たらいいと思わない?フォルちゃん達が隊員達にする攻撃の度合いは治癒魔法とポーションで私が回復出来るまで。全力を出してもいいけど、相手への攻撃の加減もする。拘束や戦闘不可状態を多く作りだす。出来る?」
三匹が頷くのを見て、私はハルバートをくるくると回しながら魔力を散らした。ベンさんは杖を出して自分に風魔法を掛けると、クルマス隊長の側に歩いていった。
「頑張ろうか、ダイキ君。レイが隊員達をサポートするからね。僕はサポートのサポートだね」
「は」
「第六は強いけど、ロゼッタちゃんは魔力だけならホグマイヤー様よりも上かもしれないんだよね。二人の全力を知らないから、感覚だけの話しだけどさ。ダイキ君、御前試合なら僕とクリスさんとゼン、三人でロゼッタちゃん達に勝てるかも。でも、なんでもありの訓練ならロゼッタちゃん達に勝てる自信はないね。さあ、訓練を頑張ろうか」
「は?ジェーン様は魔女様になって間もないですが?」
「うんうん。そうだけど、才能に時間は関係ないんだよね。僕達もいい所はいくと思うんだけどさあ。絶対勝てるか?って言われたら、どうかなあ。クリスさんは戦闘向きじゃないし、ゼンは気分屋だからなあ。ゼンはロゼッタちゃんに攻撃したくないって気持ちが出たら、訓練でも杖を向けずにオトモダチと遊びそうだしね。僕が何処迄出来るかがカギだろうね」
お腹を揺らして笑いながらべンさんがクルマス隊長にそう言うと、クルマス隊長の喉仏がゴクンと動いたのが見えた。
「お、お師匠さま。ぼ、僕、がんばります」
レイ君はいつの間にかベンさんの横で杖を握りしめてマスクを頭の上に被っていた。
「うん。レイ、負けると分かっているからと言って頑張らないというのは言い訳だ。やるだけやってみなさい」
「はい」
「おお。レイ君、いい返事だわ」
私は杖を振って、光魔法を辺りに出して、金色の蝶をヒラヒラと羽ばたかせた。一匹をレイ君の鼻の前まで飛ばせるとパチンと弾けさせた。
ただの光魔法だけど、風魔法を混ぜて弾ける瞬間にきゅっと固めた風を一緒に弾けさせたので、パアンと言う音と共に風が吹き抜けていった。驚くかと思ったけれど、レイ君は杖を振って防御膜を作り、目をそらさずに私を見ていた。
「ロゼッタちゃん、いじめないでよ。まあ、レイは追い詰められると強いんだ。そこまでが時間かかるんだけどね。まず、身体強化を隊員達と自分に掛けなさい」
「はい、お師匠様」
レイ君は杖を親指で挟んで横に持ち、両手をパンっと合わせると「女神様の祝福を」と祈りを捧げて杖を持ち直すと魔力を出した。
レイ君は丁寧に隊員達と自分に防御魔法と身体強化を掛けていった。
ベンさんは杖を振ってレイ君の魔法を覆うように優しく包み込んでいった。レイ君の魔法を調べてみるが、丁寧にかけてある事が分かった。
「レイは重ね魔法はまだできないんだよねえ。まあ、あと十年もあれば、魔法使いにはなれるかな」
「楽しみですね」
私達が話しているうちに、隊員達の準備は整ったようで、クルマス隊長が隊員達を見回して声をあげた。
「第六軍団!いいか、宵闇の魔女、ジェーン様との貴重な訓練を無駄にする事のない様に全力を尽くせ!」
「「「「は」」」」
「いいか。恐れるな。軍団には軍団の強さがある事を思い出せ。各班で連携をとれ。単縦陣は取るな。独断専行、防御、通信、先行!ホグマイヤー様ではない!行くぞ!!!!」
そう言うと、第六の隊員達はクルマス隊長を筆頭に走り掛かってきた。
身体強化が掛かっているので、ジャンプするように一蹴り一蹴りが早く、私達がいる所迄あっという間に距離が詰まっている。チラリと周囲を見回すと、隊長以外の班は左右に別れ、岩の方に向かって消えて行く者、回り込むように距離を取る者達、そして奥からは魔力が光っている。
「あーあ。そんな事言っちゃうと、ロゼッタちゃん、怒っちゃうよね」
「ロゼッタは強い。誰よりも」
そう言いながらふわっと飛びながら奥に消えていったベンさんのつぶやきにアルちゃんが返事を返し、闇魔法を全開にした。辺りに棘が生えた鞭を地面に生えさせていき、さらに私に防御膜を掛けると、自分の影にトプンと沈み消えた。
「うん、僕達のロゼッタだもの」
「そうね。ロゼッタは一番よ」
アルちゃんの声に二匹も頷き、フォルちゃんは思い切り息を吸い込むとつんざく様に吠えた。ウェルちゃんはフォルちゃんの上に飛び立ち、その吠え声に合わせて水魔法を混ぜ、刃となって向かって来る隊長達に攻撃を仕掛けていった。
「防御!!!」
クルマス隊長の声が辺りに響くと、私はゆっくりとハルバートを向けた。
「皆、有難う。私も師匠よりも弱いと思われるのは嫌。師匠にだって勝つわ。貴方達だって、バルちゃん達よりも弱いって言われたら嫌でしょ?私の使い魔が誰よりも一番可愛くて強いんだから。それに、いざとなったら切り札もあるしね」
クルクルとハルバートを回し、空に向かって投げた。フォルちゃんが後ろに退くと、フォルちゃんを黒い霧が覆った。ウェルちゃんは私の場所まで飛んで来た。
「轟け、雷鳴。痺れろ、針嵐」
ナイフを出して、くるりと回る。
「囲え、土壁」
向かってくる隊員達を取り囲むように土壁で覆い、その中に雷を降り注いだ。隊員達は一瞬影に縫い留められてその場から動けなくなっていた。
「ドガアアアアアアアン!!!!!」
「崩れろ!!」
パチンっと指を鳴らし、ハルバートをキャッチして、私は杖を出して空高く飛び上がった。
「ああ・・・・」
「うう・・・・」
「っぐ・・・」
土壁の中は土ぼこりと煙が立ち込めていた。小さな雷の針が無数に突き刺さった隊員達はうめき声を出し、痺れて動けず倒れこんでいた。アルちゃんが影から出ては動けない人を拘束していく。
「まだ、動いている人もいるわね。レイ君と魔術士が仕事をしたわね?防御膜が間に合ったの?やるわね」
ああ。でも、手加減して戦うのは難しい。ガスがあるなら火魔法は止めた方がいいのかな・・・。島ごと爆発してしまったら大変な事になってしまう。
「ウェルちゃん土壁に水魔法を。足元に泥を作って相手の動きを奪いましょう。フォルちゃん、貴方は身体強化で突撃よ」
「ち、散れ!一カ所に固まるな!魔術士を守れ!!」
隊員の声が響き、
三匹は魔力を最大に出しながら隊員達に襲い掛かった。
私は杖を振って空に浮かぶと、ハルバートを地面に向けた。
「雷、雷、雷」
ドガアアンという音を響かせながら、隊員達に向けて雷を降らせた。
「ぎゃああああ!!!」
「ぐはあああ!!!」
「ポーションを使え!!」
「じゃあ、私はゆっくりと山に向かいます。追いついてこれたらまた、戦いましょう。フォルちゃん達、宜しくね。」
「「「了解」」」
「あーあ。やっぱり、こうなるよねえ。まあ、僕達はサポートだから、良い練習にはなるけどね。レイ、回復魔法。防御魔法。風魔法だよ。ロゼッタちゃん、またねー」
私は返事の代わりに見上げて目を見開いているレイ君と、お腹を揺らして笑っているベンさんを避けるように下に向かって小さな雷を追加で打ち込み、手を軽く振るとふわふわと飛びながら火トカゲがいるという、山の麓に向かった。