再びゼンさんの家へ
「王都から結局すぐに出て来ちゃったな」
ランさん宛の手紙はちゃんと書いてきたし、ルークさんが留守番もしてくれている。会わずに出て来たけれど新薬の為と言えばランさんは怒らないだろう。店でゴロゴロしてる方がにっこり笑顔で叩き出されそうだ。
パッと視界が変わりゼンさんの家まで転移をすると、今度はちゃんとドアの前に飛び、ドアをトントンとノックをした。
私は学習をする魔女ですよ。ちゃんとドアの前に転移しますよ。ちゃんと外に転移してノックしますよ。
ふんふん、と頷いてから家の中に声を掛けた。
「ゼンさーん。ロゼッタです。変わりはないですか?」
「・・・」
「あ、開いた」
返事はなかったが、スーッとドアが勝手に開いたので、私は「お邪魔します」と言って家に入って行った。
家に入ると皆で騒いだ奥の部屋でゼンさんは猫達に囲まれて本を読んでいた。
「ゼンさん、身体の調子はどうですか?」
私が聞くとゼンさんはコクリと頷いて、魔力を出した。
ゼンさんは猫達に干し肉を投げると、杖を振って魔力を出した。
猫達は私とゼンさんにお辞儀をすると、一番大きな猫が大きな干し肉の塊を加えて、部屋を出て行き、皆、ぞろぞろと出て行った。
「ゼンさんの家はいつもオトモダチでにぎやかなんですね。猫さん達もゼンさんを心配していたのかな」
「カラスから師匠・・・。師匠が猫に伝えた・・・」
「あ、クリスさんも心配なんですよ。さ、ゼンさん、手を出して下さいね」
ゼンさんは杖を腰に差し、両手を私に出した。
私はゆっくりと魔力を出して、ゼンさんの魔力の流れを確認していった。
「うん、問題ないようですね。コレ、王都のお土産です。花まつり、楽しかったですよ。来年は一緒に行けたらいいですね。薬師長からもお菓子、貰ったんですよ。王妃様のお気に入りの甘いお菓子ですって。私も食べましたけど、すっごく甘いですよ。一つ、どうぞ」
「・・・・約束・・・・」
「ええ。約束しましょう。薬はもう飲みました?」
コクリと頷くゼンさんにお菓子にお土産の他にものど飴を渡し、体温を測った。
「ゼンさん、今が一番大事な時ですからね。身体を冷やさず、無理をしないようにしてください。魔力を出すのは良いですが出しすぎには注意して下さいね。体調が悪い時に魔力を急に出すと、身体が冷えたり、熱が出たりする人がいますから。それに魔力暴走も稀ですけどあります」
「・・・」
ゼンさんはコクリと頷くと、申し訳なさそうにした。
「・・・すまないロゼッタ」
「謝る必要はないですよ?ベンさんもレイ君も心配していたでしょう?」
ベンさんは首を少し傾げてから、頷いた。
「ロゼッタ・・・。・・・サイパー?」
「サイパー経由でソロン島に行く事にしました。第六のクルマス隊長にお願いして、ちょっと火トカゲ狩ってきます」
「・・?・・」
ゼンさんは首を傾げて私を見ていた。
「えっとですね、花まつりで名無しの薬局に帰って、ランさんと話して、新しい薬を作る事になって、契約者さんと話したところ、薬の材料に火トカゲがあれば作れそうな事に気付いたのです。でも、火トカゲってあまり出回りませんし、自分で狩ればタダですし、上手くいけば売れますからね。がっぽっがっぽです」
コクンとゼンさんが頷く。
「薬師長に、火トカゲ何処にいますか?って聞いたところ、ソロン島って教えて貰いました」
「・・・うん・・・。そうだな・・・」
「沢山狩れたらゼンさんにも持ってきましょうか?え?いらない?でも、火トカゲはゼンさんの薬にも使えそうですよね」
ゼンさんは面白そうに目を細めると、「苦くない薬が良い」と言って、少し笑った。
「頼まれてた第六との訓練は船の上でしてもいいかな。船、走ってる最中に隊員を海に落としちゃダメですかね?」
「・・・舵を切る人間はいる・・・」
「ああ、そうか。船で迷子は私も困りますね。じゃあ、海に雷を落としてみようかな」
「・・・漁師が困る・・・」
「成程、うーん、船は沈めちゃいけないし・・・難しいですね。ゼンさん、船って高いですよね?弁償ってなると大変ですよね?」
「っふ。・・・第六の船・・・。高い・・・」
「ああ。やっぱり。じゃあ、どうしようかなあ。師匠は雷をぶっ放せって言ってたのになあ。船の上は止めた方がいいのか」
やっぱり師匠の言う事は当てにならないな。船を傷つけずにはどうしたら、と考えていると、ゼンさんはまた「っふ」と笑った。
「ロゼッタ、また、来て・・・」
「はい。ゼンさんにも二日酔いの薬、置いていきますね。これ、良く効きます」
ゼンさんは二日酔いの薬を受け取ると、少し考えて、私を手招きして、外に出た。
「・・・」
ゼンさんが杖を振って魔力を空に流すと、カラスがバサバサと飛んで来た。そして、魔力を流し、見つめ合っていると、カラスがコクリと頷いて、飛んで行った。
「・・・カモメ・・・。海では、カモメが手伝ってくれる・・・」
「有難うございます。ゼンさん!」
「いい・・・。薬の礼・・・。ロゼッタ、気をつけて・・・」
「はい!ゼンさん、またすぐに来ますね。ゼンさんは暖かくして、ゆっくりして下さい。あ、私、また使い魔みたいな者が増えました。ルークさんって言います。今度紹介しますね。今は名無しの薬局で王都の守りをして貰っています」
「・・・は?」
「契約者さんに近い者なんです。師匠にはちゃんと紹介しましたよ。『ロゼッタ、面白え事してんな』って言って貰えました」
「・・・・・」
「では、ゼンさん、またすぐに会いましょう」
「ああ・・・。また・・・」
ゼンさんは優しく目を細めると、私の頭をゆっくり撫でて、頷いた。
私は頷くゼンさんに手を振ると、フォルちゃんに乗って、ゼンさんの家を出発した。
ここからは西に西にと、西の港街、サイパーまで走って行く。