花まつりの後で
「ううう・・・。飲みすぎた・・・・」
私は飲みすぎて浮腫んだ顔を触った。
「うぷ・・・。気持ち悪い・・・」
ガンガンと痛む頭を抑えながらとトイレに行った後、揺れる世界に眉間に皺を寄せながら目を瞑って歯を磨いた。
ふらふらしながら部屋に戻り、パタンとベッドに倒れ込むと二日酔いの薬を飲み込んだ。
「酒は飲んでも吞まれるなって、チェルシーさんが言ってたっけ?あれ?どうやって部屋に戻って来たんだろう?フォルちゃんかアルちゃんが運んでくれたのかな・・・。ああ、師匠の気持ちが分かってしまった。師匠も、飲みすぎた次の日は、「次、呑むまで、もう飲まねえ」とか言ってたな・・・。ああ、もう、二度とこんなに飲まない・・・多分・・・」
ぶつぶついいながら、暫く目を瞑っていると薬が効いてきたのか幾分気分は良くなった。こめかみを押さえながら部屋を出て、薬局に下りるとランさんからの書置きを見つけた。ランさんの書置きは相変わらず語尾が伸びてなくて、ランさんだけどランさんじゃないみたいで面白い。
『ロゼッタへ
飲みすぎ大丈夫?昨日言ってた、新しい薬の話。頑張って商品化しましょうね?私的には、火傷の薬が良いと思うの。あと、ブルワー夫人や王妃様も会いたがってるわよ。ロゼッタの劇での悪役の希望を聞きたいみたいな事を言ってたわ。劇の事、色々希望を言ってもいいんじゃない?二人に会ったら、うちの商品を売って来てね?。それと、ルークさん?しっかりこき使っていいんでしょう?部屋は二階のロゼッタの隣の空き部屋使えばいいわよね。ロゼッタ、表情が大分良くなったわ。旅に出て、良かったわね。
ラン』
「流石、ランさん。私、表情良くなったのかな・・・。ああ、ただ、新しい薬ってなんだろう・・・。火傷の薬・・・。記憶が・・・、やばい、怒られる・・・」
笑顔で「うふふー」と言いながら怒るランさんを想像してしまい、ブルリと震えてしまった。
「思いだせ。思い出すんだ」
自分のポンコツの記憶力が恨めしい。
「ううう」と言いながら薬局を出ると皆もついて来て、師匠の工房に入るとソファーにぐでーっと伸びた。
「お茶は如何ですか?苦しそうですね?ぷくく」
伸びている私にルークさんがお茶を淹れてくれた。
「有難う、ルークさん。美味しい。うう・・。なんとなく思い出してきたぞ。携帯食料の大きさを変えるか、新しい味を試すかを話した・・気が・・・する、うん、多分。それと、ゼンさんの温泉の話はしてないはずだから、温泉の成分に近いクリームを作れないかって感じで話したのかな・・・。うん、きっとそうだ。火傷の薬か・・・。最近は美容の薬ばかりだったから、傷や、火傷の薬は良いと思う」
禿げ薬を美容に入れ込んでいいかは謎だが、お肌ツルツル薬として人気なのだから美容の薬で問題ないはずだ。
こめかみをぐりぐりと指を抑えながら、「アルちゃーん」と言うと、アルちゃんがソファーに上ってきた。
「二日酔いには仕事が一番よね。アルちゃん、上級の薬草、ホワイトシャークの油、雪松の実、あとは・・・。上級虹アロエ出してくれる?それと、モラクスさーん」
コクンと頷いて、ペッっとアルちゃんが材料とモラクスさんの本を吐き出して、足りない物はウェルちゃんが店から持って来てくれた。
モラクスさんの本に魔力を注ぐと、モラクスさんが出て来た。
「なんだ。ロゼッタ。調子が悪そうだな」
「ただの飲みすぎです。モラクスさん。コレ、祭りのお菓子です」
「ふむ」
モラクスさんはお菓子を受け取ると手のひらで消した。
「ルークさん、薬用の瓶を沢山持って来て下さい」
「ぷくく。私も、楽な姿になってよろしいか?」
「ええ。薬局の中で他に人がいない所なら」
そう言うとルークさんは手を振って、瓶を私の前に沢山置くとハリネズミに姿を変えて、チョコチョコとモラクスさんに歩いていった。
錬金釜を出して、薬学の本、薬草全集、治療についての本を開いた。
「ふーむ。火傷の薬でも、応用はいくつか出てるんだ。モラクスさん、皮膚の再生って難しいんですよね。何が効くと思いますか?」
ソファーにドカリと座ったモラクスさんはルークさんと話をしていたが、私は構わず質問した。
「再生?魔力が多いものだろうな。もしくは生命力か。反対に魔力は無いが吸収し、魔力が馴染みやすい物も良いだろう」
私は錬金釜に材料を入れ、魔力を貯めて、普段店で売っている火傷の薬を作っていく。
「ふーむ、なんだろう」
私はモラクスさんの返答に首を傾げながら魔力を出して釜に杖を向けると、ぽわっと錬金釜が光り、トロンとした火傷の薬が出来上がった。少しづつ配合を変えて作っては、瓶に移してランさん宛に置いていく。
「これのさらに上級の物、もしくは、火傷の跡が消えるような物がランさんは欲しいんだろうなあ」
そんなものが出来るのかな?
肌を綺麗にすべすべにするのとは違う。火傷や傷を負った肌を元通りにすることは難しい。時間が経った傷の後は中々消えず、傷跡が薄くなることはあっても、火傷の跡は消えない。ポーションは傷を負ってすぐが効果が強い。治療師専攻の友人とポーションと回復魔法の話をした事があるが、治癒力やら、効能を高めるとか、難しい話になってしまい、要するに、一度人間が回復した後の傷は回復したとみなす為、ポーションも回復魔法も効く事はない、と言う事だろうと思った。
「だとしても、悩んでいる人は沢山いるよね」
本をペラペラ捲って、火傷の手当の章を見つけて読んでいく。
「モラクスさん、どうしたら、一度回復した後の皮膚をまた綺麗に戻せますかね?」
「皮膚も精神も根は同じだ。一度付いた傷は消え辛い。すぐに治療をし、薬を与え、療養をしたとしても傷は出来る。そして痕は残る。お前も自分の事として考えろ。傷は疼いている時は自覚があるが、痛みが無くなると、痕だけだからな」
「私の事?えー?どうですかね?傷・・・。皮膚の活性化・・・。乾燥はよくない・・・。魔力が多い物・・・。生命力・・・。皮膚の完全再生は難しい・・・。スライム?スライムはどうですか!モラクスさん!」
「お前はやはりアホだな。まあ、スライムは悪くはないだろうな」
「え?何故悪口が?よし。一つはスライムを混ぜて作ろう。ただ、比率が難しいな。それに、こう、良く効くって感じになるかな?きっともう、火傷の手当では使われているだろうし・・・。うーん。再生かあ。あ、モラクスさん、火トカゲはどうでしょう?」
火トカゲとはファイアードラゴンとも呼ばれる火山帯に住む、火トカゲの事である。火トカゲは生命力が強く、尻尾を切っても再生する。熱耐性も強く防具に人気があるのだが、とても高価で中々手に入らない。
「火トカゲか。悪くないんじゃないのか。再生能力も高く、生命力もある。火に強く、火傷の治療には良いだろうな」
「え!そうですか!よし!火トカゲを使おう!あ。でも、師匠なら持ってそうだけど高価な材料使ったら、儲けが少ないのかな。材料費を抑えれないかなあ」
「お前はやはりバカだな。ロゼッタ、買うから金がかかるのだ」
「え?泥棒しろと?」
「それもアリだな。だが、狩ればタダだ」
「狩れ?そんな、簡単に・・・。あ、でも、タダですねえ。ただ、本には生息地も書いてないし、勝手に狩っていいのかな」
腕を組み本を睨んでいると、薬師長から貰ったリングが目に入った。