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花まつりの夜 屋根の上 イアン・ホングリー視点

いつも誤字脱字報告、有難うございます。

追加を。ここで出てくるロバートは、ロバート・ブルワー、ツルツル法務大臣です。

「おい。星が降りそうだなア。良い天気で良かったな」



名無しの薬局の上に防御膜と何かしらの魔法を掛け、使い魔のギル殿の上にホグマイヤー様はドスンと座られた。


ホグマイヤー様の言う通りに、王都の空は良く澄み渡り、星の瞬きが見えていた。私は王都の夜空を見上げてから、ホグマイヤー様に目線を落とした。



「王都よりホングリーの方が星は綺麗に見えます。それにホグマイヤー様の髪の方が星よりも輝いています」


「ヒヒヒ。ああ、私の髪は白いからな。暗い場所では目立つだろうよ。それにホングリーは寒いから星は綺麗に見えるよな」



ホグマイヤー様はソファーとテーブルをポシェットから出すと、私の前にソファーをふわっと下ろした。



「おい、イアン、座れよ。ジル、酒だ。ギル、バルに連絡をしろ。つまみをランかロゼッタに用意させて持って来させろ。ウェルで屋根の上に持ってくるように言え」


ホグマイヤー様が指示を出した瞬間には使い魔達は光り消えた。


「それにしても、王都で飲むのは久しぶりだなア。遠い所、よく来たなア」


「ホグマイヤー様からのデートのお誘いであれば、いつでも何処でも駆け付けます。ホグマイヤー様も最近王都に戻られたのですか?連絡が来た時にホグマイヤー様は王都におられるかと思っていましたが。名無しの薬局でジェーン様にお会いした時に「ホグマイヤー様は?」と聞くと驚かれてしまいました」


「ああ。お前に連絡した時はメリアだ。そこで花まつりを思い出してな。ロゼッタもランもうるせえし、顔を見せに帰ってきたんだよ。お前は今朝、着いたのか?私はのんびり、夕方頃に戻ってきたからな」


「はい。孫達と今朝王都に着きました。王都迄駆けたのは久しぶりでしたよ。思ったよりも、孫達がついてこれたので、早朝に着く事ができました。名無しの薬局に挨拶を済ませた後、夜まで時間が出来ましたので、王城に向かいました。孫達にも良い経験になりました」


「ヒヒヒ。ヘンリーには会えたか?王宮の連中も久しぶりにお前の顔を見たら喜んだろ」


「王宮に入ってすぐにロバートと会いましたよ。防具を着ているので、何故かと訊ねたら「花まつりの警護を引き受けた」と、楽しそうに騎士達と共に歩いて行きましたよ。その後、陛下から孫達にお言葉を掛けて頂きました」


「ロブは稽古をずっと続けているからな。じっと座っているよりも、元気な年寄りは身体を動かした方がいいんだ」


「ロバートを年寄りと言っては、いかんでしょう。あいつはまだまだですよ」


「ヒヒヒ、まあ、でも、無事に着いてよかったな。平和は何よりだ。お前がホングリーを離れるのも久しぶりだなア。孫達はずっとホングリーにいたのか?」


「いえ、王都の学園に一年通わせました。もう一年はジェラルドは文官の真似事を。ジャスティンはハヤシ大隊長の元で一年修行ですな。領地が落ち着いているならばジャスティンはもう一年程、国内を旅に行かせると言ってましたが。武者修行でしょうな」


「いいな。楽しそうだな。孫が困ったら呼べよ。一度だけ格安で助けてやろう」


「有難いお言葉。ジャスティンも心強いことでしょう」


「私は優しいからなア」


ホグマイヤー様は、うんうん、と頷くとポシェットから煙草を出して咥えられた。私が立ち上がり、サッと、火を点けると、「お前は、火を点けるのが好きだなア。お前は相変わらず吸わんのか?」と、煙草を口の端に器用に咥えて話された。


「剣を振りますから」


「ふうん」


私が黙って頷いてソファーに座ったところで、ピピピっと声が聞こえ、ウェル殿とギル殿が現れて、テーブルの上に所せましと食べ物を並べた。


「ホグマイヤー様。ロゼッタから伝言です。『師匠、飲みすぎないで下さいね』と言ってました」とウェル殿が言い、「分かった、分かった。ほら、お前らも食べて遊べ、メリアの菓子だ」と言って、ホグマイヤー様が、ポシェットからお菓子を取り出すと、ウェル殿に向かって投げた。


ウェル殿は器用に足でお菓子の箱を掴むと、ホグマイヤー様に礼をし、ピピピと鳴くと飛び立って行った。


「うん、あいつの使い魔は、礼儀正しいな。やはり、師匠がいいからだな。おお、なかなか旨そうだ。ほら、イアン、飲めよ」


私がワイングラスを持つと、ホグマイヤー様がトポトポとグラスに注いでいった。ホグマイヤー様は黙って、辺りを機嫌よく見渡し、自分のグラスに溢れそうに成程ワインを注ぎ、「いい酒だぞ」と言って、グラスを上げた。


「メリアの二十年物ですか。良い銘柄ですね」


「ああ。賭けに勝ってな。戦利品だ。まだあるからな、遠慮せずに飲め」


「それはそれは。私との賭けはして下さらないのに。相手はメリアの魔女様で?」


「ああ。深紅のな。あいつ、勝てると思ってたんだろうな。甘えんだよ。()()を持っているからと、未来を知った気でいやがる。賢いと思い込んでいるだな。うちのランの方が賢いんだがな。だから、あいつが大事にしているとっておきを奪ってやった」


ヒヒヒ、と嬉しそうに笑って、「相手が勝てると思ったところを勝つのは最高だな!あいつの顔を見せてやりたかったな」と言われた。


「深紅の魔女様もお元気そうで何よりです。ジェーン様も国中をまわると言われていましたが、ホングリーには来て頂けますかな」


「ん?ロゼッタに聞いてみろよ。来て欲しいって言うと、あいつ多分行くぞ。第六の熊もロゼッタに必死にお願いしてたからな。ランも人気者だが、ロゼッタも人気者だな。やっぱり私に似たんだな」


「モテる女は困る」と言い、ワインを飲みながら肉料理を口に入れ、ニコニコしていた。


「私が言うと、負担になりませんかな?無理に来て頂くのは心苦しいですから」


「嫌なら嫌と言うだろ。あいつ、魔女だぞ?辺境のジジイの戯言位、適当にあしらうさ。それにもう忘れてるんじゃねえか?忘れるのが一番だからな。あいつは私と違う」


「私は賢いせいか、忘れる事が苦手なのさ」と言って、舌をべーっと出して微笑まれた。


「ホグマイヤー様。私の命は短い。だからと言って私の言葉が軽いわけではありません。貴方の思い出も、何もかも含め、私はこの命が尽きても、いつまでも貴女をお慕いしています」


「分かった分かった。お前もうるせえなア。ほら、下、見ろよ。庭でもダンスが始まったぞ。ロゼッタの取り合いが始まるな。ロゼッタは可愛いだろう?」


優しい眼をされたホグマイヤー様に私は頷いた。


私の生まれる前から大魔女として国を支えて来られたホグマイヤー様の心に少しでも私の存在を残しておきたい。


会う度に、いや、手紙でも、魔蝶でも、何十、何百、何千と告白をしては振られてきた。挨拶のように思われているのかもしれないが、私には伝える事しか出来ない。


ホグマイヤー様の目線の先を同じように眺めると、ジェーン様を中心に大勢が手を取り踊ろうと輪が出来て行った。


「ええ。美しい魔女様に皆夢中です。王宮でも話があがりましたよ。王太子殿下も、王子様達も皆、顔を綻ばせてジェーン様の話をなさってました。先程、孫達も、顔を赤くしておりました。これは、私が焚きつけなくても、勝手に燃え上がるかもしれません」


「魔女になるのに美しさが必要なのかと、孫から聞かれました」と言うと、「まあ、関係ない事も無いかもな。契約者の中には美しい物が好きな者もいるし、魂の色は外見に出てくるからな。ベンなんて、コロコロして、真っすぐで可愛いやつだろ?それに私が良い例だな」と真面目に頷かれていた。


「本当に」と言って、グラスを一度上に持ち、ホグマイヤー様の前で礼をすると、「ヒヒヒ、男の趣味が悪いのもロゼッタと一緒だな」と笑われていた。


私がワインに口をつけ、「美味い」と言うと、ホグマイヤー様は楽しそうに庭を眺め、大通りの方から聞こえる音楽に耳を澄ませていた。


「よい祭りですな。花のまつりに参加するのは学生の時以来です」



自分の若かった時を思い出し、花まつりでホグマイヤー様に「踊って下さい!!」と言いながら追いかけ回し「ヤなこった!!クソガキ!!」と言われて氷漬けにされそうになったのを思い出した。


「ヒヒヒ。何を思い出してるんだ?お前も歳をとったな」


「ホグマイヤー様との思い出であれば、いくらでも重ねたいです」


「うるせえ、ジジイが」


「貴女は少しも変わらない。いつまでも強く、美しいままだ」


「・・・私も歳をとったさ。立派なババアだよ。弟子も立派になった。いつでも引退出来る」


ワインを飲みながら、私とは目を合わせないホグマイヤー様の前に私は片方しかない手を差し出した。


「なんだ。イアン、おかわりか?」


「いいえ、ホグマイヤー様、踊りましょう」


「お前と?」


「エスコートをお願いします。私はこの通り片腕なので、ホグマイヤー様に支えて頂かないと、上手く踊れないかもしれません」


「・・・お前も物好きだな」


ホグマイヤー様は杖をトンっと下ろすと、私の手を取り、転移をした。



「ここは?」



静かな広い場所で、美しい庭園。


「音楽なら遠くから聞こえるだろう?ジル、音楽を大きく鳴らせ」


遠くから聞こえている音楽を、ジル殿の魔法で大きく、私達の周りに響かせた。


後ろを振り返ると、王宮が見えた。



「ここは・・・」


「王家の花園だ。踊るにはもってこいだろ?ははは、不法侵入で捕まる前に早く踊るぞ。ギル、ヘンリーに花園を使っている事を知らせとけ。よし、イアン。ほら、お前のファーストダンスを貰ってやろう」


「・・・覚えていてくれたのですか?」


「ああ。ババアは最近の事はすぐに忘れるがな。昔の事はよく覚えているんだよ。お前が情けなかったこととか、私を追いかけ回した事とかなア」


「ヒヒヒ」と笑いながらも、ホグマイヤー様はゆっくりとダンスのポジションの姿勢を取ると、抱き着くように私の首と肩に手を置いた。


「片腕の奴と踊るのは初めてだ。どうも、難しそうだな。いいか、エスコートはしてやらん。お前がしっかり、私を抱き止めろ。お前が勝手に片腕になったんだ。責任をもって、私を離すなよ」


「・・・・は!!!命に代えても!!!」


「っぷ!!!バカが!!!」


私がホグマイヤー様の腰に回した腕に力を込めると、もう一度、「バカだな」と言われたが、「はい」と言って私は踊り出した。



幕間はこれで終わりです。第九章に続きます。


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