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フルカスとの契約 

私達の目の前に手のひらサイズのハリネズミがちょこんと現れた。



「ロゼッタ。我の(しもべ)のフルカスだ」


「フルカスだヨ。よろしくネ」



ちょこんと首を傾けてフルカスは挨拶をした。


モラクスさんから紹介されたフルカスは、目の色がワインの様に深くドロリとしていた。私に向かってお辞儀をしてニコリと笑う姿は可愛らしいのに、小さな体から大きな魔力を感じ身体と魔力量のチグハグさを気味悪く思った。


「・・・」


私が黙ってハリネズミを見つめていると、フルカスはモラクスさんの脚からソファーの上に登り、「ぷくく」と笑って口元に手を当てていた。


「ロゼッタ。こいつと契約を結んでくれ。あくまで私の(しもべ)だがな。だが、お前との繋がりがあればコイツもロゼッタからの庇護がかかる。まあ、制約もかかるがお前には都合がいいはずだ」


「うーん。成程。フルカス、貴方は私と契約したいの?」


「うん。したいヨ。役に立つヨ。僕、色々動き回るの得意だヨ。敵をトゲトゲでチクって刺してぶらーんと吊るしてあげるヨ。ぷくく」


「まあ、コイツもこう言っている。使える奴と言う事に間違いはない」


「うーん。モラクスさんがそこまで言うのなら、いいでしょう。ただし、フルカス。貴方の姿はこれじゃないわね?噓つきは消すわよ?」


私が杖を出してフルカスに向かって振ろうとすると、モラクスさんはソファーに登っていたフルカスを叩き落とし、「フハハ。もう消されるか」と言って笑った。


「ぷくく。もうバレちゃった。怖い怖い」


フルカスは身体を振るわせて笑い、「ぷくく」と言いながら立ち上がると、くるりと宙返りをした後に全身を鎧で覆われた大柄な騎士の姿になった。顔もすっぽりと大きな兜で覆われている為どんな顔かは見る事は出来ないが、兜の隙間からワイン色の眼だけは見る事が出来た。


「これが僕の姿だヨ。この姿も久しぶりだネ」


喋り方も変わらず、飄々とした雰囲気や仕草は騎士には似合わないが、フルカスの右手には体の倍はある立派な槍が握られていた。



「ああ。我も久方ぶりに見たな。そんな感じだったか」


「うん。ああ、やっぱりこの方が楽だネ」



そう言って槍をブンっと振ったフルカスの魔力量は一気に増した。


「それが本来の姿なのね。成程。モラクスさんの(しもべ)なの?貴方が?うーん。モラクスさん、私はモラクスさんと契約を結んでいる。その上でフルカスとも契約を結ぶんですか?モラクスさんとの契約はそのままで?」


「我はお前の側が気に入っている。ジュリエッタよりもな。だからお前に願おう。我との契約はそのまま結んでおいて欲しい。フルカスとはあくまで仮の契約だ。我がフルカスとロゼッタの間に入るようにしてくれ」


「それで私に何の得が?」


「ふはは。お前も賢くなったな。お前の敵は我の敵だ。我はお前の為に動く。フルカスもだ。面倒事を引き受けてやろう」


「モラクスさんが面倒を?代価無しで?」


「案ずるな。面倒事は得てして快感を生む」


「・・・。はあ。分かりました。じゃあ、無詠唱を教えて下さいね。それと、気に入らなければ私も消していい許可を。今後はこういうことは事前にしっかり教えて下さい。あと、約束を破った時には、モラクスさんに罰を与えていい許可を」


「ふはは!!我に罰か!それを許可しろと!!ふはは!!」


モラクスさんとフルカスは嬉しそうに笑った。


「ぷくく!!いいネ!!いいネ!!。モラクスに罰!!ぷくく!!腹を引き裂くのかな?目をえぐるのかな?ぷくく!!」


「ふはは!!楽しそうだな?お前は一瞬で消されるぞ?良かろう、ロゼッタ。約束しよう」


モラクスさんは頷き、人差し指を振ると魔力を出しながら私の方に差し出した。


「嘘ついたら、モラクスさんの自慢の角を折りますよ?それか可愛いリボンを角につけましょう。あと、私の質問にはなんでも答えて下さいね。嘘は無し。約束を破るのもなし。いいですね?」


私は杖をモラクスさんの指に向けて魔力を出して、モラクスさんの指に自分の魔力を巻き付け誓いを取り付けた。


「むう。制約が多いな。まあ、良かろう」


「ぷくく。モラクスの角にリボン!!ぷくく!!」



モラクスさんの指には金色の魔力で作られたリングが嵌められた。


「では、フルカスの本を」


私が靴を鳴らし魔法陣を出しながら手を出して本を催促すると、モラクスさんはポンっと私の前に本を投げた。


「あーモラクス。大切にしてヨ」


騎士の姿のフルカスの前に本は浮かび、私が出した魔法陣から本を魔力で覆っていく。


「フルカス。貴方はモラクスさんの(しもべ)でも、モラクスさんの契約者は私。私の命令を優先させなさい。言う事を聞かないと消すわ。そして私の大切な人や物にも意地悪したら罰を与えるわ。それは使い魔達にもよ、いいわね?」


「いいヨ。いいヨ。僕、いい子だヨ」


コクコクと私の言葉に頷きながらも、本は生きているようにピクピクと動いている。本からは私の魔力を吸おうと舌舐めずりをしているかのようにジワリジワリと魔力が溢れていた。



「分かったわ」



私は魔法陣を出して、杖を本に向けた。



「約束を守ってくれるなら、私も貴方を大切にする」



一気に魔力を出していき、本を私の魔力で覆いつくす。ゴクゴクと本が魔力を飲み込んでいき、横に立っている、フルカスの身体が金色に輝きだした。


「あ・・・あ・・・・ああ!!!・・・・」


フルカスの声が漏れだし、私がさらに魔力を本に流すと、本が激しく金色に光った後に静かになった。


私は杖を持ったまま、フルカスに向き直った。


「我が名はロゼッタ・ジェーン。フルカス。あなたに私と共にいる事を許します。私はあなたに誠実である事を求めます。あなたの力を私に貸して欲しい」


フルカスは膝をついて、槍を両手で自分の頭上に掲げ、頭を垂れた。



「ロゼッタの仰せのままに」


無事に契約が結ばれると、モラクスさんが頷いた。


「よし。これでいい。ロゼッタ、フルカスは外の世界にいたいようだ。その姿では都合が悪い。他の姿にさせていいか?お前の世界に我らの姿のままは魔力を乱すからな。ロゼッタ、希望の姿はあるか?」


「あ。成程。それで先程のハリネズミに?うーん。じゃあ、人間になれますか?」


「なに?お前は小さき者は好きだと思ったがな。人間のほうがいいのか」


「いいヨいいヨ。じゃあ、こんな感じはどうかな」


フルカスは一回転すると、落ち着いた商人風の紳士になった。


「あ。いいと思います。女性でも男性でも良かったんですが。モラクスさんも、人間の姿なら一緒にいてもいいですけどね?」


「我もか?いや。いい。我は今のままが楽だ」


「ぷくく。モラクスの人間の姿・・・。ぷくく。やっぱり魔女は男好きだよネ。いいネ、いいネ」


口元に手を当てて、嬉しそうに笑うフルカスをモラクスさんが「ロゼッタの趣味も変わったな」と言っていた。



「いえ、男でも女でもどちらでも良かったのですが。フルカス、人間の姿の時は真面目な感じで、丁寧な言葉遣いは出来る?」


「うん?それが好みなの?いいヨ出来るヨ」


私に返事をすると、ニヤニヤ笑いを止めてすっと真顔になり静かにお辞儀をした。


「これでよろしいか。呼び方はご主人様?ロゼッタ様?」


「そうね、いいわ。呼び方はモラクスさんと同じでロゼッタでいいわ。お行儀よくして頂戴ね。私も貴方が私に誠実ならばフルカスさんと呼ぶわ」


「かしこまりました。ロゼッタ」


「うんうん、これなら大丈夫ね。名無しの薬局のお手伝いにぴったりよ。ランさん一人じゃ心配だし。男の人の姿なら安心だわ。魔法も武器も使えるでしょう?配達や護衛にいいわね」


「・・・え?」


「ふはは!!」


私はタダの労働力を手に入れ、ランさんに褒めて貰おうと思った。


「あ、ちゃんと休みはあるわよ?ランさんの側には師匠の使い魔もいるから変な事しちゃダメよ。そうね、人間の時はルークと紹介しましょう。お仕事頑張ってね。ルークさん」


「・・・え・・・?なんだか、ちょっと思ってたのと違うのだが?・・・」


「ふははは!!!良かったな!!ルーク!!名無しの薬局の中なら悪さしたとたんにチリになるな!ジュリエッタの見張り付きだ!!」



しょんぼりした姿のフルカスさん改めルークさんに私はニヤリと笑って、「ランさんに良いお土産が出来たわ」と言うと、フルカスさんに「悪魔より悪魔だ」と言われので、「魔力はちゃんとあげるわよ?お菓子もつけるわ」と言ったら黙った。








あと一話で第八章終了予定です。次の投稿予定は来週木曜日です。

誤字方向、いいね、☆、いつも有難うございます。

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