ゼンさんの家へ 2
「えっと・・・。宵闇の魔女様。白群の魔法使い、ベンジャミン・ドルトンの弟子、レイモンド・サリンジャーです。師匠達は僕をレイって呼びます。好きな食べ物はハチミツです。あと、魔女様が魔力を練るのを見たいでしゅ」
しゅ。
見たいでしゅ。
私はパッと手で口元を押さえてしまった。
レイ君、可愛い。
「うんうん!一緒に魔力を練ろうね!!あ!ハチミツのケーキがあったはず!!アルちゃん!ケーキ出して!コロン領の!!」
「ひうぅ」
私がレイ君の言葉に頷くと、ほかほかと赤い顔をした顔のレイ君は変な声を出して耳まで真っ赤になってしまった。
か。可愛い。サミュエル君とは違った破壊力の可愛さだ。
こんな弟がいたらお菓子を沢山買ってあげたい。
「レイ君、私の事はロゼッタと呼んでね」
私がそう言うと、赤い顔をしたままレイ君は頷き、杖を振って魔力を出した。
「はい。ロゼッタ様」
「あ。ロゼッタでいいけど。でも、レイ君は見習いなのか。うん、まあ、じゃあ、様でいいのかな」
「ロゼッタちゃん。レイからはロゼッタ様でいいよ。ロゼッタちゃんは魔女様なんだからさあ。レイはまだ、ピヨピヨ見習いだもんね。ねえ、ホグマイヤー様は元気?」
ベンさんがアルちゃんが出していくお菓子に目を向けながら、師匠の事を聞いてきた。
「う。師匠・・・。はい、多分元気です。国中ウロウロして、今はメリアにいると思いますけど、何処で何してるかはランさんの方が知ってると思います。連絡ないので元気だと思いますよ」
私は師匠の事を思い出して、肩をすくめてしまった。
師匠の声が聞こえる気がする。
「ごめんなさいで済むんだったら、軍団なんていらねえなア?「すみません」なんて言葉だけじゃなくて誠意をみせなきゃなア?現ナマ見せろよ。おい、行った所に飛べって言ったよなア?ああん?その耳は飾りか?よく出来た飾りだなア?ロゼッタ?」
耳を引っ張られる気がして、私は耳を押さえてぶるっと震えてしまった。
どうしてだろう。師匠、いないわよね?
いや、もしかしたら凄く機嫌が良くて、あまり叱られないかもしれない。
「ロゼッタ。お前大変だったなア。まあ、誰にでも失敗はある。うんうん。よし、だからこれはお前に任せるぞ」
うん、師匠の機嫌が良かったら、きっと何かすごくめんどくさい仕事を任されて、笑われて終わりかもしれない。
師匠の事を考えていると、クリスさんが杖を振って椅子やテーブルをセットしてくれた。
「さあさあロゼッタさん。青い顔は止めてこちらに座るといい。挨拶も終わった。ロゼッタさんはゼンに会いに来たのかな?コロン領での仕事は終わったのかい?」
クリスさんがソファーだけでは席が足りず、椅子やティーセットを何処からか浮かせて持ってくると、私に座るように手を振った。
「あ、はい。コロン領の仕事は無事に終わりました。途中、魔物の様子が気になっていたんですけど、コロン領の方では変わりなしでしたね」
私は席に座ると返事をして、お茶の葉を取り出した。
「それで、明日から王都で冬祭りがあるでしょう?花のまつりです。ゼンさんが王都に来るか分からなかったから、もう、私がゼンさんの所に具合を確認した方が早いと思ってしまって飛んできちゃったのです。皆さんにも会えて良かった」
「成程。ああ、もうそんな季節か」
「ロゼッタちゃんがおそろいのクラバットをプレゼントしてくれるって言ってたやつ?」
「はい。皆さんにクラバットを注文しているので、一緒にお祝い出来たらと思ってたんです」
「ごめんねえ。僕は、明日からサイパーの方で仕事が急に入ってさあ。残念だけど、今回はいけないかな。レイも連れて帰んなきゃいけないんだよねえ。せっかく誘ってくれてたのに。祭りの時って、僕達仕事が急に入る事が多いよねえ」
ベンさんの返事にクリスさんが頷く。
「まったくだ。その分、報酬はいいんだが。まあ、魔法使いと言っても働かないと生きていけない」
「・・・・」
クリスさんがアルちゃんにお皿を渡して、アルちゃんはお菓子を盛り付けていった。ゼンさんは黙って頷いてフォルちゃんを撫でていた。
「ベンさん、仕事なら仕方ないです。師匠もメリアから戻ってくるか分かりませんし。クラバットはサイパーに贈ります。レイ君の分は待っててね」
「有難う、ロゼッタちゃん。レイの分もいいの?よかったねえ。レイ」
アルちゃんがベンさんの前にケーキを置くのをベンさんは目で追いながら、頷くレイ君にもケーキを勧めていた。
「私はランさんが祭りの間、店に一人なのも心配で。祭りの時でも名無しの薬局は半日だけは店を開けるんですよ。祭りで興奮した人がお酒を呑んで喧嘩する事が多いでしょう?怪我人やら二日酔いの薬を欲しがる人が増えるんで稼ぎ時だとランさんが言ってました」
「ランちゃんらしいね」
アルちゃんがお茶を淹れ、皆の前に置くと、ベンさんはケーキを食べだした。
「では、ゼンさんはちょっと診察しましょう」
「いやはや。相変わらず、いい香りのお茶だね」
「うん。美味しい」
「ロゼッタ様。いただきます」
クリスさんはティーカップをゆっくり持ち上げ、ゆっくりと目をつぶると顔を少し振って香りを楽しみながらカップに口をつけていた。
ゼンさんはケーキをちらりと見てからぽそりと返事をした。
「・・・手紙送った・・・」
「ゼンさん、カラス便受け取りましたよ。さ、診察をさせて下さいね。問題無かったらケーキ食べていいですから」
私がそう言うとゼンさんは、顎を掻いてクリスさん達を見たが、クリスさんは「おや」と言って笑い、ベンさんは「ゼン。よかったねー」と言ってアルちゃんが出したお菓子に手を伸ばしていた。
「ゼンさん、手を出して下さい。具合が悪い所はありますか?えっと、手足が冷えていくんですよね。爪の色の変化はなかったですか?」
私はゼンさんが出した手を握りながら、ゆっくりとゼンさんの魔力を引っ張るようにした。ゼンさんは一瞬目を大きくしたが、「大丈夫」と言った。
「薬は効いてますか?魔力の流れを調べさせて下さいね。色々触りますよ?」
私が杖を出し、ゆっくりとゼンさんの魔力と私の魔力を混ぜて流していくと、ゼンさんの身体が金色に光り出した。
「ふむ。治療魔法に近い物だね?回復魔法とは違うようだ」
クリスさんがクッキーを食べながらベンさんに聞いている。
「うーん?そうだね、回復じゃないね。治療師や教会の解呪に近い物じゃないかなあ。どう、レイ。何か分かる?」
「お師匠様、解呪の種類ではないと思います。魔力探索に近いのではないでしょうか?」
レイ君の眼がピカリと光って私を見ていた。
「成程ねー。ロゼッタちゃん、薬師の授業でその魔法、習うの?治療魔法にそんな感じのものあるかなあ?」
「薬師の授業では習いません。回復魔法でもないですよ。ゼンさんの魔力の流れに自分の魔力を乗せて魔力の流れが悪い所があれば光って教えてくれるようにする感じで・・・。レイ君が言う通り探知魔法を混ぜた感じですかね?転移の時に魔力の糸を手繰り寄せますよね?その魔力を水や風の流れが停まる感じって言うのかな。すーっと一定に流れない所に光って印を置く感じです」
「素晴らしい。ロゼッタさんは発想が面白い。パパはびっくりだ」
「成程ねー。合わせ技かあ。光と闇魔法?いや、光と水?でもさ、簡単に言うけど、難しいよ。それ、凄く使えそうだけど、上級治療師なら使えるかな。レオナルド王子に教えてあげなよ。喜ぶと思うよ?レポート書いて薬師長に送るのもありじゃないかなあ。王宮薬師達が喜ぶんじゃないの?誰もまだ使ってないなら儲けれると思うよ?」
「え。儲かりますかね。じゃあ、ランさんにはとりあえず黙る事にします」
ゼンさんに杖を振りながら、ゼンさんの魔力の流れをゆっくりと見て行く。
「レイ、しっかり見せて貰うんだよ。レイはこういうの得意でしょ。魔力の流れを追うんだよ。いいかい、ロゼッタちゃんの魔力とゼンの魔力を見極めるんだ。レイも出来るようになるといいよ。あ!魔力適正検査か!レイ、あの応用だよ。じゃあ、教会が得意かなあ」
「あ、成程。はい、お師匠様」
レイ君は頷いて私の杖先を一生懸命に見ていた。
次回も土曜日投稿です。