ゼンさんの家へ 1
私はアルちゃんから送られたゼンさんの魔力を辿った。
細い魔力の先に意識を飛ばして私の魔力を乗せる。
「転移」
靴を鳴らして魔法陣を出し、思い切り魔力を出すと、ぐんっと身体が引っ張られた。
「おおっと!?」
パッと一瞬で視界が変わると身体がふわっと浮いていた。
目の前の視界が広がってポンっと一瞬空中に浮いたと思ったら、ヒュンっとおへその下が寒くなった。
「うわ!!」
急いで杖を振ろうとした時には、ボシャンと水の中に落ちてしまった。
そうだ。師匠に、しっかり飛ぶ時は移動先を調べろって言われたんだった。調べて飛んだりしないと、死ぬんだった。師匠も崖から谷に落っこちた事があると言っていた。
でも、どうやって転移先を調べるかは教えて貰っていない。
まあ、どうせ師匠に聞いても「こう、ぶわーっとやって、ガッとやって、トンっという感じだな」とか言われるに決まっている。モラクスさんかランさんに相談しとけばよかった。
「ごほっ。ゼンさんの家って水の中なの?鼻に入った。良かった、浅い。なにこの池?温かい?それになんだか変な臭い」
私は水が鼻に入ったせいで鼻の奥がツンとしてしまい、涙目になりながら目を開けた。バシャっと池を見回すと、ポカンとこちらを見ている顔を四つ見つけて八つの目がこちらを見ていた。
「あ。どうも、皆さん」
私は咽ながら杖を振って、魔力を飛ばして挨拶をした。
「久しぶり。ロゼッタさん」
「やっほー。ロゼッタちゃん」
「・・・・」
「んぎゃーー!!!」
ニコニコと笑うクリスさんとベンさん、そして、顔を押さえているゼンさんに、叫ぶ少年。
何で叫ぶの?と我に返り、皆の方を改めてじっくり見ると、ヒラヒラと手を振るクリスさん。
ニコニコ笑っているベンさん。首を傾げて眉間に手を押さえているゼンさん。
うん、そして、バシャバシャと手を振り回している少年。
あれ・・・。
肌が、見えてる。
いや、裸?皆、裸?
「え?は?裸?は?ごめんなさい!!」
私は急いで、くるりと皆に背を向けると回り、ドボン!と勢いよく池に潜った。
上半身だけ脱いでるのか。それとも全部脱いでるのか。
なんで、冬に外で裸なのか。
魔法使いにはそういう趣味があるのか。
見てない見えてない。大丈夫、大丈夫なはず。
ああ、師匠の声が頭に響く。
「お、お前、転移覚えたのか。ちゃんと調べて転移しろよー。ひひひ。急に転移すると、結構、皆驚くんだよな。まあ、私もすぐに忘れるがな。魔力を先に飛ばすだろ?そしたら相手側に転移が来るなって分かるようにしてやるんだよ。魔力を先に飛ばして転移先に魔法陣を先に出してやれ。まあ優しさだな。マナーだな。隠れてこそっと行きたい時はギリギリまで魔力を隠して飛ぶといいな。グワッとやってトンっという感じだな」
そうです。師匠。驚かせてしまいました。そして私も驚いています。
「行った所に転移しろよ」って言われてたんだった。ゼンさんの魔力を辿って転移するって事は、今、ゼンさんがいる所に転移するって事なのね。
これ、問題だわ。
ああ。やらかした。
転移先に裸の人がいたらどうしたらいいんでしょうか。
逆の立場なら、私は雷を落としているかもしれません。
着替え中とかに来られたら困るもの。
師匠も転移する時に魔法陣を光らせてくれていた。
ピカっと来たり、魔力が揺らめくから、あ、師匠来るなって分かるから場所を空けたり出来ていた。そうか、そう言う意味があるのか。
ランさんの呆れ顔も目に浮かんでしまう。
「ロゼッター?ルールには理由があるのよー?先人たちの失敗が積み重なっているのー。ロゼッタがこうしたいって理由だけでやみくもに突っ込むと、失敗するわねー。失敗は成功のもとって本当よ。でも、無駄な失敗は時間もお金も無駄にするわー。知識は裏切らないわよー。だからちゃんとお勉強しましょうねー?」
見習いの時、大量のポーションを作るにはいくつか手順を割愛しても魔力を多く混ぜれば作れるんじゃないかと、手順をすっ飛ばして釜に入れ見事に失敗してしまった。
材料は無駄にするし、釜を洗わなきゃいけないし、魔力はごっそりなくなった。失敗分の弁償はしないでいいって師匠からたん瘤を作られて許して貰ったけど、師匠から「ゴミは引き取れ」と言われて、失敗したポーションの分析の勉強をさせられた。その上、「仕事を引き受けたんなら、最後までしなきゃ詐欺だよなア?」と、大量のポーションを寝ないで泣きながら作らないといけなくなって、大変だった。
ランさんの言葉を思い出しながら「ルールは大事・・・」と呟き、目をぎゅっと瞑っていた。
コレ、普通に軍団に通報案件じゃないかしら。
痴漢魔女なんて言われたらどうしよう。
王都の新しい劇。ポスターの私の目の所が黒く塗られてしまうかもしれない。
あわわわわわ。
私は頭を抱えて、暖かい池の中で、あー、とか、うー、とか、ぶくぶくもごもご泡を出した。私が息継ぎの為に少し顔を出していると、クリスさんの声が聞こえた。
「知った魔力が流れてきたと思ったらロゼッタさんだったね。ロゼッタさんはどうやってここに来たのかな?追跡が上手なようだ。うん、ちょっと、着替えよう。ロゼッタさんもそのままだと風邪を引く。ほら、フォル。ロゼッタさんを温泉から出して、乾かしてあげるといい」
クリスさんの声が聞こえ、フォルちゃんがバシャバシャと近づいて来て、フォルちゃんの上に載せられた。
皆の声や、ザバザバとお湯から上がる音なんかが聞こえていたが、私はその間もぎゅっと目を閉じていた。
「ロゼッタ、乾いたよー」
温かい風魔法が私を包んで綺麗に乾くとフォルちゃんに乗ったままゼンさんの家に案内された。
「あの・・・。皆さん、お久しぶりです・・・。すみません・・・。見たけど、見てないです。お詫びはどうしたら・・・」
案内された家で、私はまず謝罪から始めた。
「えー。僕、気にしないよ?知ってる?こういうの、ラッキースケベって言うんだって。僕達見てラッキーかどうかは謎だけどさあ。僕達が入ってたらホグマイヤー様なんて、「お。いいな」とか言ってポンポン脱ぎだして一緒に入ってきたよね。ランちゃんなら入っては来ないだろうけど、見ても見られてもお金を取られそうだよね?ロゼッタちゃんが気にするなら、美味しいお菓子とかお肉のお土産が欲しいけど」
「ベン、ホグマイヤー様やランさんと比べたらロゼッタさんに失礼だ。ロゼッタさん、何事も失敗をして学ぶといい。謝ってすむ事で済ませれるのは良い事だよ。今日は、知らないことを一つ知ったと言う事だ。転移は気をつけないとね。転移は私達がロゼッタさんに教えたのに、私達も説明をしていなかった。私にも責任がある。でも、ふむ。お詫びと言うなら絵のモデルになって貰いたい。水浴びや、杖を振っている姿がいいだろう。うん。後ろ姿がいいか。裸じゃなくて結構だよ」
「・・・ロゼッタ。気にしない・・・。俺も教えてなかった・・・。でも・・・うん・・・、お願いごと券が欲しい・・・」
「すみません、皆さん。はい、お菓子とモデルと、お願いごと券ですね。申し訳ありませんでした・・・。転移は本当に気をつけます」
私が頭を下げると、ベンさんの後ろに隠れた少年と目が合った。ほっぺと耳が赤くなっている。
「あの。貴方もごめんね?申し訳ありませんでした」
私が少年に謝ると、少年はビクッとして「ひゃっ!」と言った後にベンさんの後ろに隠れてしまった。
「こら、レイ。ホグマイヤー様のお弟子様で、宵闇の魔女様だよ。ご挨拶しないと駄目だよ。せっかくだからレイもロゼッタちゃんにお菓子貰いなよ。それかさっき話していた魔力を練る練習をさせて貰う?」
ベンさんがレイと呼んだ子の頭をむぎゅっと掴むと、ポイっと私の前に出した。見習い魔法使いのエプロン姿が可愛い男の子だ。10歳くらいか、もう少し上かもしれない。
「あの。宵闇の魔女の、ロゼッタ・ジェーンです。ごめんね?今度からはちゃんとこの家のドアの前に転移するからね?ちゃんと覚えたから。お詫びはお菓子でも、練習でも言って下さい」
私が杖を出して魔力を出すと、コクンと赤い顔をして頷いてくれた。
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