今は追いかける事しか マーク視点
「黒い角」がギルドでの報告を終えたのは、ジェーン様がギルドを出て暫く経った後だった。
ひらひらと手を振ってジェーン様が出て行くのを眼で追い「あ」と思った時にはもう、ギルドのドアは閉まっていた。
「アラン」
私が思わずアランを呼ぶと、アランはチラリとドアの方を見てから「なあ、あとこの書類だけだろ?」とギルド職員に聞いてくれた。
「ええ。後日報告があります。報酬はいつも通り振込で?」
「ああ、買い取りの分と分かるように分けて振り込んでくれ」
「かしこまりました。明細は後日でも?」
アランはチラリと私を見ると苦笑いして頷いた。
「ああ。急いでるんで。悪いな」
「いえ、ではそのように」
私の様子にパンデやジャックも笑っているが、ジェーン様に置いて行かれたようでソワソワしてしまった。
ジェーン様に告白をし、思った通り振られてしまった。
告白をあの時にするつもりはなかった。
が、焦っていた。
どんどんジェーン様に置いて行かれて、色々な人に囲まれて笑っているであろうジェーン様を想像すると苦しかった。
年上なのに、余裕を持つなんてこれっぽっちも出来やしない。
告白後もジェーン様に嫌われてはないと思う。ただ、避けられてしまうかもしれない。今迄通り話が出来るかと不安に思う気持ちはある。
振られた身だから、かえって堂々とアタックしようかとも思うが。
ギルド職員が書類をまとめるのを眼で追い、サインを急いで終わらせる。パンデ達にもサインを急かし、私達が全員がサインを終えるとギルド職員は書類にサッと目を通した。
「以上です」
「さ。アラン、行きましょう」
その言葉を聞いて、すぐにアラン達を引っ張りギルドを出ようとした。
「マーク、ジェーン様、何処に行ったかな?子爵邸か?」
私の後を追いながらジャックが私に聞いた。
「アランは何か聞いていますか?もう、コロンを出て行くとか」
私の言葉に、「急ぎとは聞いてないけどなあ。でも、サイパーの方に行くって言ってたよな?まあ、門の方かな」とアランが頷いた。
「あー。手続き長いよなあ、まあ仕方が無いんだけどさ」
パンデが呟き、アランが頷いて門の方へと目を向けた。
「いつも通り振り込みにして貰った。一週間後に薬師棟から質問状が改めて届くらしい。それに答えたら特別ボーナスもくれるんだと。今回のクエストは、ジェーン様との共同クエスト扱いになってたぞ。俺ら、魔女様とのパーティーになってたな。コロンでは魔女様、魔法使い様と組んだ冒険者は初らしい」
「お。すげえ。ジェーン様は良かったのか?」
「さあな。ま、ギルド長が話しているだろ」ジャックが、「ひえー。俺ら凄いな」と言って笑っていた。
「それよりも、ジェーン様を。この辺りにはいませんね」
私は急いで辺りにジェーン様がいないかと見回したがどこにも見当たらなかった。杖を振って探知をしたいが、街中でむやみに杖を振る事は禁止されている。
「おい、マーク。門番がジェーン様が来たら連絡をくれるって言ってたからまだ大丈夫なはずだ。サイパー領に行くかもって言ってたから、南門かな。そっちに行ってみるか」
「ええ。なんだか気持ちが急いてしまって」
「ま、気持ちは分かるけどよ」
私が門の方へ速足で歩いて行くのを、ジャックが笑いながら追いかけてきて、背中を叩いた。
「俺も、フォル殿達にお土産渡してないからな。急いで門の方へ行こう」
「ええ。そうしましょう」
「ジェーン様、フォル殿に乗って行くって凄いよな。マーク、神殿にさ、女神の使いの神獣の像があるだろ?フォル殿達ってあんな感じだよな。俺、神殿の像で一番神獣の像が好きだったんだよな」
「ああ、空の神使様はウェル殿に、大地の神使様はフォル殿に。命の神使様はなんとなくアル殿に似てますね。鞭が命の紐の様ですから。そもそもジェーン様が女神様のようですから、使い魔殿達は神使様で間違いないですね」
私の言葉に「まあなあ、反論は出来んな」と皆が笑い、大通りを小走りで進んで行くと、少し先の人気のカフェの周りに人だかりが出来ていた。
「うん?どうした?なんかあったのか?」
アランが見ている人に声を掛けると、「あのカフェに魔女様がいるらしいの。皆、入りたいけど満席で入れないんですって。出てくるところを皆、待ってるのよ」との返事を貰い、カフェの周りをよく見ると、二階のテラスに防御膜が薄く張ってあるのが見えた。
「ジェーン様がカフェにいます!私達も急ぎましょう!」
ジャックに声を掛けて慌ててカフェの方に走ろうとすると、一際大きな魔力が空に向かって弾けた。
「ああ!!」
「マーク、どうした?なんだ、今のは?ジェーン様か?」
私は思わず立ち止まってしまって、魔力残滓がひらひらと落ちてくるのを眺めた。
遅かった。
ゆっくりと歩いてカフェの側に歩いて行くと、興奮した顔の店員や、空から落ちて来るジェーン様の魔力残滓の残りを手で捕まえようとする子供達が溢れていた。
「行ってしまわれました」
私がアラン達の方を向いて言うと、アラン達は「「「ええ!!」」」と驚いた顔をした。
「門からではなく、転移を使われたようです。もう、ここにはジェーン様の魔力残滓しかありません。先程の光が転移だったのでしょう」
がっくりと肩を落とす私を見ながら、パンデも辺りを見回していた。
会いたかった。
旅立つ前に会いたかったのに。
「まじかあ。フォル殿に乗って行くんじゃないのかあ」
「挨拶出来なかったなあ」
パンデも空を見て、ジャックもがっかりして手に持ったお菓子の包みを持ち直していた。
「転移か。何処に行かれたのかなあ。サイパーにもう行かれたのか。王都に戻られたのか。うーん。こんな事で魔蝶使って聞くのもなあ。あ、薬師事務所に行ってみるか。ジェーン様の事、詳しいだろ。ジャックもそこから王都定期便にその荷物、混ぜて貰えよ。「名無しの薬局、使い魔殿」で送るなら、今ならきっと俺らからの荷物も王都に運んでくれるだろ。なってったって、魔女様パーティーの「黒い角」だからな。今日の便がまだでてないなら、一番早く届くんじゃないか?」
私達はにぎやかな大通りを背にして、急いで薬師事務所に向かった。
薬師事務所でジェーン様の名前を出すと、私達「黒い角」の事もジェーン様は話していたらしく、すぐに話は通り、王都行きの定期便に荷物を預かってくれた。
荷物を預けた後、私達はなんとなく、ぶらぶらと歩きながら行きつけの酒場に入り、いつものエールを注文した。
「あー。そういえば、仕事を無事に終えたって事で、カンパイ」
「・・・乾杯・・・」
「ぶふっ。そんなに落ち込むなよ、マーク。またすぐに会えるって」
「そうだそうだ。ラン様に会って俺もまたアタックしなきゃいけないからな。王都に一緒に行こう」
「うんうん。ひょこっとジェーン様達もコロンに来るかもだし」
「そうだそうだ」
カツンカツンと、杯を合わせ、それぞれが勢いよくエールを飲んでいった。
私も頷いて、エールを口に入れたがいつもより苦い気がして、ジェーン様の魔力が散った空を見上げてしまった。
「さ。次のクエストの作戦を練るか。ジェーン様に会った時にはもっと強くなってないとな。それと、ジェーン様から長期依頼を貰ってる。俺ら当分、懐は温かいな」
ドンっと勢いよく飲み干したジョッキをテーブルに置くと、口を拭いながらアランが笑った。
「よし!しっかり稼ごうぜ!」
パンデもキラキラした目でアランが持ってきためぼしいクエストの用紙とジェーン様からの長期依頼の内容を確認していた。
「そうですね、一つずつこなしていくしかないですね。私も広範囲の攻撃魔法をもっと出来るようにしましょう。ジェーン様からの依頼はコレですか。では、明日にでも教会に私が行っておきます」
「ん。マークに教会は任せるか。じゃあ、コロン子爵様には俺が手紙を出しておこう。パンデとジャックは学校と病院を頼む」
「「了解」」
ジェーン様から頼られるように。
少しでも私を思い出して貰えるように。
「よし!じゃあ、国境沿いのこのクエストにするか。明後日からこのクエストだな。で、マークの話を聞かせて貰おうか」
アランの声に皆が頷き、皆がニヤリと私の方に顔を向けた。
「・・・パンデの事を笑えないってことですよ」
私が、エールを口にしながらそう話すと、「「「カンパーイ!!!」」」と言ってアラン達はエールを掲げてから「酒、もっと注文しようぜ!!」「おい、今日は俺らがおごってやるからな!!」と、肩を叩かれた。
ジェーン様にまたすぐに会えるだろうか。
忘れられないように手紙を送ろう。
一度振られたからと言って、諦めるとは言ってない。
しつこいのは魔術士の特性だ。
新しく渡そうと思った守り石は手渡し出来るようにいつでも持っていよう。
今の私ではジェーン様の背中も見れなかった。
私は杖に付けている、ジェーン様からの守り石を撫でて、勢いよくエールを飲んだ。
次回の投稿は月曜日・・・かな・・。
投稿の仕方がまだちょっと慣れませんね。