思い浮かぶのは師匠とランさん
ケーキの上に飾ってあるオレンジを口に入れるとアルちゃん達に聞いた。
「あ、美味しい。ねえ、アルちゃん。ゼンさんの魔力の方向って分かる?」
「こっち」
アルちゃんは鞭でケーキを器用にペロリと飲み込むと、そのままピンと真っすぐに南を差した。
「うーん、南。ウェルちゃん、アルちゃんが差した方向って、地図だと何処かしら?」
「そうね、多分、この辺ね」
ウェルちゃんはジッと南の空を見つめた後、ツンっと地図を嘴で突いた。
地図の場所は国の南の端っこ。コロン領から南西に進んだ先だった。
「ほー。ゼンさん、南の端にいるのね。むむむ・・・。それなら、ゼンさんの所まで転移で飛んで、ゼンさんと会った後に、王都に一度戻るのはどうかしらね」
「転移?」
口の周りにクリームをつけながらフォルちゃんが私に聞く。
「そう。皆はゼンさんの魔力を覚えているんでしょ?私はまだそこまで分からないから。皆が分かるなら私に場所を送って貰って、ゼンさんの所まで転移するの」
コクンとアルちゃんが頷いてフォルちゃんを見ると、フォルちゃんも頷いていた。
「大丈夫そうね。ゼンさんの所に転移をして、一旦、王都へ戻るでしょ。で、王都の用事が終わったらまた転移でゼンさんの所に戻ってそこからまた旅を始めるの。サイパー領までも地図だとそんなに遠くはないし。うん、ゼンさんに突撃しよう。ゼンさんが元気かどうか確かめて元気なら一緒に祭りにも行ける。ランさんから薬の材料も貰って師匠の工房の掃除もした方がいいと思うのよね・・・。師匠はまだメリアなのかしら」
私がケーキを口に入れながら、地図を眺めて皆に聞くと、皆もうんうんと頷いた。
「そうと決まればウェルちゃんには先に王都に行って貰ってもいいかな。ランさんからの魔蝶やら、魔鳩やらの返事も溜まってるのよね。帰る前に連絡しておかないとランさん怖いもの」
私はそう言いながらランさんの笑顔が顔に浮かんだ。
にっこりと笑って、けしからん胸の前で腕を組むランさんを想像して、ブルリと震えてしまった。
師匠は容赦なく怖いけど、ランさんは静かに怖い。
「ロゼッター?」って聞きながら笑うランさんに何度びくびくした事か。
「おい、お前アホだな」と言って、バチコンと師匠に叩かれるのは痛いし怖い。でも、ランさんは笑顔なのに怖い時がある。
師匠もランさんに怒られると分かると、すぐに逃げる。
「ラン。あいつ、怒ったら怖えよな。ロゼッタ、お前の尻ぬぐいは私がしてやるだろ?だから、ランの相手はお前がしてくれ。めんどくせえ事は嫌いなんだよ。いいか、お前が代わりに謝っておけよ。弟子の仕事だな。ランには私は仕事でいないと言ってくれ。働き者の良い師匠と言っておけよ。じゃあな」
師匠はそんな事を言うと、綺麗に消えていく。
そして、その後すぐにランさんが私を見つけ、私が代わりに怒られる。
私は師匠が散らかした部屋を片付けたり、師匠が勝手に名無しの薬局払いにした酒場の飲み代を払いに行ったり、師匠が壊した物を片付けたりすることになる。
「二人共元気かな」
師匠達のお土産も先にウェルちゃんに持って行って貰おう。
私はマジックバッグから色々荷物を出していき、ウェルちゃん用に作ってある、マジックバッグに入れ替えていった。
「ウェルちゃん、配達先は多いけど、一番に名無しの薬局に行けばランさんが振り分けてくれると思うの。王宮に行く時は、薬師棟は分かるでしょう?一番に薬師棟に行って頂戴。今回の報告を一番に届けたいからね。その後は王太子殿下かしら?国王陛下や王妃様は・・・王太子殿下に任せよう。ウェルちゃん、その後も王都中を回ることになるわね。サミュエル君に・・・ハヤシ大隊長にブルワー法務大臣にも。王宮は王子様達にもあるし・・・。ウェルちゃん、急ぎだから転移で王都まで飛ばしていい?」
私が行先を確認しながら、ウェルちゃんに説明をしていると、ウェルちゃんはメモをジッと見ながら頷いてくれた。
「ランさんにちょっと手紙を付け足した方がいいわね。分からない時はランさんに聞いて頂戴」
私がまたペンを持ち、ランさん宛の手紙を書き足す間にアルちゃんがウェルちゃんに色々と渡していた。
結局ウェルちゃんはマジックバッグ二個分を持って転移する事になった。
「じゃ、転移先は名無しの薬局のドアの前に飛ばすわね。皆に宜しく伝えて」
「任せて、ロゼッタ」
「帰りはゼンさんの所にいると思うから魔力を辿って帰って来てもいいけど、明日の夜までには私も王都に帰るから、ウェルちゃんは王都にそのままいてもいいわよ」
「分かったわ。好きにしていいのね。ロゼッタも気をつけて」
「ウェル、僕達がいるから大丈夫だよ」
フォルちゃんの言葉にコクンと頷いたウェルちゃんに向かって私が杖を振って魔力流すと、ウェルちゃんは一回り大きくなった。
「じゃあ、いってらっしゃい。ウェルちゃん。転移」
魔法陣を出してウェルちゃんに杖を振るとピカっと光ってウェルちゃんは消えた。
「さてと、ケーキも食べたし、じゃあ、私達も行きましょう」
私が杖を出して立ち上がろうとすると、こちらを覗いているウェイターさん達が目に入った。
「会計と、持ち帰り用におすすめのケーキを十程お願いします」
「かしこまりました」
せっかくゼンさんに突撃するならと手土産のお菓子も購入する事にした。元気になっているのなら一緒に食べよう。
「では。アルちゃん、ゼンさん迄の道順を私に送ってくれる?」
ペロっと舌を出したアルちゃんからゼンさんの魔力が送られてきた。細い細い糸の魔力が遠くに繋がっている。遠くにゼンさんの魔力の色を感じた。
「成程、これを辿っていくのね。大丈夫、行けそうよ。皆も準備はいい?」
コクンと頷く二匹を見て、ケーキを受け取り私は靴を鳴らして魔力を出した。