調査を終えたので
第八章開始です。
東の森の調査も終わり、私達はコロン領の冒険者ギルドへと戻った。
「では、こちらにサインをお願いします」
「ここ?」
「ええ。ここと、ここにも。はい、有難うございます」
マークさん達と共にギルドで任務終了の報告をし、私は受付のお兄さんに出された書類にサインをしていった。
私は冒険者登録をしていないので報告任務は必要ないのかと思っていたら、「魔女」という肩書はやはり特別らしく、冒険者ランクも関係ないものらしい。
それで、今回のクエスト報告に私のサインも欲しいのだとか。
「クエストを受けたのは「黒い角」だから私のサインはいらないと思うんですけどね。私、王宮薬師からの臨時職員ですよ?おまけみたいなものじゃないのかな?」
私がサインの後にお兄さんに聞くと、お兄さんは「おまけなんて、滅相も無い。通常の臨時職員の方であればサインは一カ所なんですけど、黒い角の今後の事を考えると魔女様とクエストを共にした、となりますし。まあ、ギルドとしても魔女様に名前を書いて頂きたいということでして」
「?」
「そ、それに、魔女様にもクエスト達成したという実績が出来ますので、悪い事はありません。クエスト報酬も魔女様に入ります」
「え。黒い角の分を私が貰う事に?そんなのいらない」
「いえいえ!大丈夫です。今回は成功報酬が別途王宮から支払われます。魔女様分は特別報酬で振り込まれるかと」
「なら頂きましょう。王宮から文句がきたらギルドの名前出しちゃったらいいわね」
「え」
私がホッとしていると、アランさん達はニコニコしてその様子を見てくれていた。
「・・・魔女様は以上です、次に黒い角の方から報告をお願い出来ますか」
「ああ。ついでに買い取りもいいか?」
「ええ。まとめて素材も出して下さい」
私が少し移動してマークさん達が手続きを始めると、ギルド長が私の隣に立った。ギルド長は私に礼をした後に手紙を差し出した。
「宵闇の魔女様、東の森の調査、有難うございました。コロン子爵から手紙を預かり「コロンはいつでも宵闇の魔女様をお待ちしております」との事です」
「コロン子爵に「どうも。コロン領に来た時は子爵邸に挨拶に行くかもしれない。面倒なら行かないから、その時は子爵も知らないふりしてほうっておいて欲しい」と伝えて下さい。子爵に東の森の調査報告が必要ならギルド長からしておいて貰えますか。ギルド長、何か魔物や森の事で気になる事があった時は名無しの薬局に連絡を頂戴」
「かしこまりました」
私はギルド長と話を終え、受付カウンターに目を戻すとアランさん達はまだ手続きをしていた。
「暫く時間が掛かると思いますよ。調査任務は報告が重要ですから」
私の目線に気付いたギルド長がそう話し、私は「ふむ」と頷いた。
「時間が掛かるのはしょうがないわね。じゃ、私はもういいかな。では、ギルド長、お世話になりました」
「いえ、こちらこそありがとうございました。良い旅をお続け下さい」
ギルド長に挨拶をした後、私は目が合ったマークさんに「では。また」とだけ言ってヒラヒラと手を振ると冒険者ギルドを出ていった。
ギルドを出たとたん、私を待っていたのかカラスが目の前に飛んで来た。
カラスは真っ黒な丸い目で私を見上げ、「アー」と鳴いてお辞儀をすると自分の脚を嘴で差して「アー」と鳴いた。
「お手紙ね。有難う」
「アー」
パチパチと瞬きしながらじっとしているカラスの脚にアルちゃんが鞭を伸ばして、ゆっくりと手紙を引き抜いて渡してくれた。
小さな手紙を広げると、ゼンさんからの手紙だった。
「ロゼッタ
薬を有難う。助かった。もう大丈夫だ。 ゼン」
「カラスさん、配達有難う」
私がお礼と一緒にパンを渡すとカラスは嬉しそうに咥え、ペコリとお辞儀をして飛び立った。ゼンさんのオトモダチは皆礼儀正しい。
大丈夫って言われてもね。こんな短い手紙じゃ、ゼンさんの様子は分からない。
私は小さな手紙を折りたたんで、ポケットに入れると大通りを門の方へ歩きお洒落なカフェに入った。席は埋まっていたが、冬のせいか二階のオープンテラス席が空いているのを見つけたので私は席を空けようとしていたウエイターさんに指をさして聞いた。
「二階のあの席に座ってもいいかしら。邪魔にならないでしょ?」
「ええ。今の時期は寒いですが」
「問題ないですよ」
私がそう言うと「では」と言われて二階に案内された。
二階のオープンテラス席は景色が良い席だった。春先や秋、夏の夕涼みには人気の席なんだろう。ただ、今の季節は確かに寒い。大通りが見渡せるだけあって、風通りもいいので冬は普段閉めているらしい。
「アルちゃん、地図出して。それと、ペンと紙ね。フォルちゃん、防御膜と温かい風魔法を出来る?そよ風に指先灯すくらいの火魔法を混ぜる感じのやつよ。私は火魔法で少し温めるわね」
フォルちゃんが「出来るよー」と言いながら防御膜で辺りを覆い、私はいつも錬金釜を置いている布と魔法陣入りのお皿を出した。そこに手ごろな石をいくつか出して、お皿の上に置くと杖を向けた。
火の大きさは小さく、小さく。石を熱くするために少しだけ燃やしたいが、加減が難しい。師匠じゃないけど、加減なく打ち込む方が簡単だ。
魔力を調整しながら小さな火球を石に打ち込んだ。
「火球」
ボオっと炎が一瞬上がった。
「うん、もう少し弱くてよかったか。温石を作りたいのにアツアツの焼き石になっちゃったみたい」
焼き石を師匠から貰った趣味の悪い小さな壺や、蓋つきのフライパンや鍋なんかにポイポイ入れて防御膜の中に置いていった。これでいくらかは暖かくなるはずだ。
フォルちゃんが、風魔法をふんわり流してくれれば温かい空気が防御膜の中を包みだした。テーブルの周りはゆっくりと温かくなっていく。
温かい風魔法を私は上手に出来ない。下手したら蒸し焼きになってしまうかもしれない。
「さ、まずは仕事を終わらせましょう」
アルちゃんに吐き出して貰った紙とペンで、簡単に薬師長あての報告書を書いた。後日、詳しい事はランさんに送った土や植物、魔物を鑑定して貰ってからまた報告する事を書いて報告書を締めた。
「とりあえずは、これで良し。ねえ、皆。初めの予定では第六のクルマス隊長に会いにサイパー領に行こうと思ってたんだけどね。ちょっと予定変更しようと思ってるの。今いるコロン領がここ、王都がここ、サイパーがここなのよ。でね、忘れていたんだけど明日の夜から冬祭りなの。三日間祭りはあるから、本番は明後日の昼ね。だから王都にも帰りたいのよね。みんなに会う約束もあるし」
ペンを持ち、指先で地図を差す。
コロン領はオースティン王国の東の端。サイパー領は南西の端っこ。国の端から端になる。
「王都からの人の流れが多いのが東のコロン領。王都から北西の道を北上して、ホングリー領に向かう北。そして王都から船に乗って河を下ってサイパー領に向かう南西が主な移動ルートよね」
王都からハンカチが出たのならこのルートで出た可能性は高い。ハンカチが全部回収出来てないのは気になるので王都以外の場所を調べるなら人の流れが多い場所を順に回るのがいい。
「ただ、ハンカチも回収したいけど、ゼンさんの体調も心配なのよね。祭りにゼンさんは来るかしら?」
考えているとウェイターさんがやって来たのが見えたので、フォルちゃんにケーキやお茶を受け取って貰った。
フォルちゃんの前にはケーキが三つ、私とアルちゃんとウェルちゃんは一つずつ置かれ、それぞれケーキを食べだした。
投稿お待たせいたしました。そして、誤字報告有難うございます。