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お兄さん達の飲み会 ジロウ隊長視点 

少し長くなりました。

最近こうやって一緒に飲む事が増えたな。


王都で時間が会えば飲むようになった、目の前のハワード隊長の顔を見ながら俺はグラスを傾けた。



「ジェーン嬢に振り向いてもらうにはどうしたらいいんでしょうかね・・・」



ハワード隊長は優雅にエールを傾けた後、ふうっと息を吐いた。その時、無造作に束ねた髪の毛がサラッと目の前に落ちたのを、すっとかき上げて耳に掛けた。そのまま頬杖をついて首を傾げている。


一つ一つの仕草が色っぽいな。


そうやって色気を振り撒いてもロゼッタ嬢には効かないぞ、と教えてやらない。俺だって知りたい。



「あー。自分に聞くんですか?自分、知っててもハワード隊長には教えませんよ?」


「っく!!分かってますよ!ただ、思わず出てしまっただけです。ジロウ隊長に教えを乞おうとは思っていません。自問自答しようとしていたのです」


「あー。へー。そうですか。大変デスネ。答えが出ますかねー。出たらいいですネ」



俺は揚げ芋を口に入れながら、ロゼッタ嬢の事を考えた。


せっかく飲むならロゼッタ嬢と一緒に飲みたい。


あー、今、何してるのかな。この間、会えた時は嬉しかったけど、この隊長も一緒だったんだよなあ。ハヤシ大隊長からも、俺らセット扱いにされている気がするな。


まあ。第四と第五で仲が良いのは良い事だ。第六のクルマス隊長も誘って陸、海、空で今度三人で飲むのも悪くないな。クルマス隊長はホグマイヤー様の事が好きだし、ロゼッタ嬢と気が合うだろうな。


あ。でも、これ以上ライバルはいらないか。



「ハワード隊長。第六のクルマス隊長は結婚してましたよね?」


「え?クルマス隊長ですか?ええ。確か、お子さんが二人だったと。少し前に片腕に一人ずつぶら下げて歩いているのを見ましたから」


「じゃあ、大丈夫か」



そうだった。俺も重症だな。



「それにしても、ジロウ隊長は名前呼びも許されてますし。ジェーン嬢と一緒に出掛けていますし。私は一歩出遅れていると思います。贈り物は大事ですよね?ジェーン嬢がオレンジが好きなのは知っているんですが、オレンジばかり贈るのは変ですし。ああ、メリアからまたジャムを送って貰いましょうか。メリアのジャムが美味しかったと言われましたし。本当はネックレス等を贈りたいですが、姉から、装飾品は重いと言われました」


「あー。結局自分に聞いてるんですかネ?ロゼッタ嬢に名前呼びの許可を貰えばいいじゃないですか。ちなみに自分はロゼッタ嬢から名前の話は振られましたけどね」


「っく!!なんと羨ましい!!小さな物だと重くないので、ネックレスよりもイヤリングなら良いかと思って姉に聞くと。「ライアン、馬鹿なの?」と言われました。分かってはいるんです、分かってはいるんですが。もう、どうしていいか」


「あー。成程。うん、その通りかと。ハワード隊長、素敵なお姉さんですネ」


「ええ。姉はしっかり者と言われています」



俺は冷えたエールを飲み干し、目が合った店員にジョッキを見せると静かに頷かれた。


この店は階級が上の隊員がよく利用する事もあって、俺達には奥の方の席を用意してくれる。


こうやって気兼ねなく話が出来るのはいいが、このキラキラ兄さんも普段部下達には見せない情けない顔で話しをしてくるから相手が大変だ。本当、素直で面白、いや、いい奴なんだよな。



「ドウシタライインデショウネー。あ、でも自分も贈り物をしようかな」


「え!」



俺の返事にハワード隊長がガバっと顔を上げてこちらを見たが、店員が冷えたエールと共にやって来ると、その先は訊ねる事はなかった。



「失礼致します。ジロウ隊長、エールと、第四軍団から魔鳩です」


「あー。ちょっと待って、今読む。あ!やばい。あー、しまった。すまん、コレでフラワーコットンのサミュエル宛で魔鳩を飛ばしてくれ」



俺がチップと手紙と魔鳩代を渡すと、店員はすぐに下がった。



「ジロウ隊長。そう言えば、サミュエルもジェーン嬢から名前呼びされてましたね・・・」


「そうですネ」



ハワード隊長は目元に手を当てるとにエールを飲んだ。



「ああ。どうしたら、いいのでしょうね・・・」


「だから自分に聞いてますよネ」



俺が適当に相槌をうっていると、店員が「何度もすみません」と言ってやって来た。



「ジロウ隊長、魔鳩です」


「ちょっと待ってくれ。今読むから」



俺は受け取った手紙を開いた。



「ジロウ隊長


連絡有難うございます。刺繍の件は明日の朝、ハヤシ大隊長にお目にかかるのでその前にお返事を頂いた方がいいかと。今、ジャスパーの酒場にいらっしゃるんですよね?そちらに伺ってもいいですか?用事が終わるとすぐに帰りますので。


サミュエル・クランベリー」



「うわー。ハヤシ大隊長か。それなら今日、会っといた方がいいな。もう一度急ぎで頼む」



俺はまたチップと手紙と魔鳩代を渡した。



「ハワード隊長。サミュエルが来ます。すみません。勝手に決めましたが」


「問題ないですよ。サミュエルからも話を聞きましょう。今日までの期限の提出物ってかなり前にお願いされていた刺繍の図案の確認でしょう?」


「あー。時間があると思って後回しにしてしまって、そのまま・・・」


「なんと。マントの図案はジェーン嬢が関わっていることですよ。何よりも優先しなければ」


「あー。そうですネ。すみません」



俺達が話をしていると、店員に案内されてサミュエルがやって来た。



「すみません。突然」


「いや、悪い。自分が悪い。助かった」


「久しぶりですね。サミュエル。どうぞこちらへ」



ハワード隊長は席を詰めて、俺の前にサミュエルを座らせた。



「サミュエルもお酒は飲めましたね。せっかくだから一緒に飲みましょう」


「え。そんな」


「サミュエルは仕事はコレで終わりなんだろ?自分に奢らせて貰うと有難い。ここまで足を運んで貰った礼をさせて欲しい」


「あ、そう言う事なら。じゃあ、僕はワインでお願いします」



俺の言葉に素直に頷き、ハワード隊長の横にサミュエルは座った。ハワード隊長が店員を呼び追加の酒と食べ物を注文した。



「では、ジロウ隊長。この図案の中から選んで頂き、色をこっちから決めて下さい。二種類ずつ希望をお願いします」


「ハワード隊長はどんな感じに?」


「私は飛び立つ飛竜に、色は黒で金を少しだけ混ぜて貰う様にしました」


「あー。じゃあ、自分はこの、駆けるスレイプにするかな。色はこの濃い緑に紺を少し混ぜた奴で。もう一案はどうしようかな。ハワード隊長はどうしました?」


「私は火のシンボルにしましたよ。ジェーン嬢に、太陽の様だと以前言って頂けましたから」


「あー。成程。じゃあ、自分は風のシンボルにしようかな」


「む!私の真似ですね!」


「自分の祝福は風でしたから。風の様に駆けているって言われたこともありますし」


「っく!!」



俺の言葉にサミュエルが鞄からノートを取り出し開いて行く。



「風のシンボルなら、こんな図案がありますよ」


「おー。いいですね。じゃあ、この風のシンボルで、色は先程と同じでもいいですか?」


「色は違う物をお願いします。希望が通らない時の為に違う色を指定して頂いていると有難いですから」


「じゃあ、自分も金を入れて貰おうか。ジェーン嬢の色がいいですね」


「む!」



俺がそう言うと、サミュエルは色々書き留めて、紙をくるくるとまとめて鞄に入れた。



「はい。以上です。これを明日の朝、ハヤシ大隊長に報告します」


「で、これは新しいマントの刺繍に?」


「ええ。ロゼッタ様から防御魔法と祝福を掛けて頂く新しいマントに挿します。今迄のマントよりもうんと防御力がある物になるそうですよ。軽くて丈夫と、ラン様が他にも売り出したいと言われていました。ただ、ロゼッタ様の祝福の効果がどれほど続くのか分からないので、今回はお試しという感じらしいのですが、ハヤシ大隊長は喜んでらっしゃいましたね。値段もお試し料金で卸されるそうですし」


「流石ラン様です」


「本当に」



そこで酒が来て、改めて杯を合わせて飲みだすとハワード隊長がやっぱりサミュエルに聞いた。



「サミュエル。貴方はジェーン嬢から名前呼びを許されていますね?それはどういう風に許されたのでしょう?」



目を大きくしてサミュエルはハワード隊長の方を見た。



「え?えっと、そうですね。仕事でよく話す様になって・・・。僕の方がロゼッタ様よりも年齢が一つ下って聞いて、それならサミュエルって呼んで下さい、って僕が言ったら、ロゼッタ様が「じゃあ、私はロゼッタと」と言って下さいました」



ハワード隊長は手で顔を覆い「はああーっ」と息を吐いた。



「聞いて良いのでしょうか。いや、聞いて、「嫌です」って言われたらどうしたらいいのでしょう。ジロウ隊長もジロウさんですし」


「もう知りませんよ。ロゼッタ嬢なら余程嫌じゃない限り「いいですよ」って言ってくれるんじゃないですか?」


「余程、嫌だったら?」



ハワード隊長は顔を手で覆って指の隙間からチラッと俺の方を見た。サミュエルは耳をピンと立てて目を細めている。目の色が少し変わったのは獣人の本能か。


コイツも面白がっているな。



「ハワード隊長、その時はしょうがないんじゃないですか?余程嫌なんですから。ロゼッタ様の嫌がる事はしない方がいいですよね?「魔女様の御心安らかに」ですよね?」


「はあああ・・・」



サミュエルがニコリと笑ってハワード隊長に言った後にチラリと俺を見るから、俺にも牽制しているんだな。こいつ。



「あー。ちなみに自分もニコラスって呼んでいいですか?って聞かれましたよ。でも、ホグマイヤー様も自分をジロウって呼ぶでしょ?ロゼッタ嬢が、自分のジロウは特別ですよねって言ってくれて、ジロウさんになりました。自分は嫌じゃないんでしょうねー」



俺がサミュエルを見ながらハワード隊長に説明をすると、ハワード隊長は、ガーーン!!と分かりやすくショックを受けた顔をして、サミュエルは目を細めた後にゆっくりとワインを口にしていた。


「ああ・・・。あ!!」



俺らが黙って飲んでいると、何か思い出したのか急にハワード隊長はパッと顔を輝かせた。



「この間、使い魔殿からは名前呼びされました!しかもライライと!これは仲良しという事では!!」


「フォル殿でしょ?喋ってましたね。自分もジローと呼ばれましたよ?じゃあ、自分も仲良しですネー」


「っく!!」


「使い魔様達、皆喋るんですか?ウェル様がこの間店に来てしゃべっていて驚きました」



サミュエルは落ち込んでいるハワード隊長を面白そうに眺めていた。


本当、こいつもいい性格してるんだよなア。


で、俺ら皆、片思いなわけね。



「どうしました?」



俺がニヤッと笑って酒を飲んでいると、ハワード隊長が首を傾げて聞いてきた。



「いいや。俺らの魔女様は可愛いな、って思ったんですよ」


「「全く」」


そこだけは二人共同じように口を揃えた。

いつも誤字報告有難うございます。

あと、一話(二話になるかも)幕間があります。次の投稿は日曜日です。

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