悪因悪果 前半ガレル令嬢視点 後半?視点
時間的には第六章から第七章くらいの事です。第六章の幕間で入れるか悩みました。
「あら?ここは何処かしら」
私は暗い場所に一人ポツンと立っていた。
「あのクソ女の仕業ね!今度こそ呪ってやるわ!」
自分にされた仕打ちを思い出すと、何倍にもして返してやらないと気が済まない。
あのクソ女!!
「ロゼッタ・ジェーン!あいつのせいで私の人生めちゃくちゃよ!」
今迄、あの女のせいで学園時代は素敵な恋人が出来なかった。王宮治療師試験も下位にしか受からなかった。その後、素敵な相手を探そうにもハワード隊長からは婚約を断られた。
「全部あいつのせいじゃない!!何よ!呪い返しなんて!!いい気になってるんじゃないわよ!!あいつ魔女なんて言われていい気になって。バカ女のくせに!!ブスがちやほやされてんじゃないわよ!!」
イライラしながら髪を触ると、顔の痛みが無くなっている事に気づく。
顔が元に戻っている?と言う事は、呪いがあの女に掛かったと言う事?
指先で頬を撫でる。さらりとした感触は以前の綺麗な肌のまま。
元に戻ったの?それとも呪いがあの女に掛かったの?バカ女が爛れた顔になったの?
ざまあ!!
「ふふふ!!ははは!!何よ!!魔女なんて大したことないのね!!何が呪い返しよ!!ブス女の顔がブスになった所で誰も見向きもしないでしょうけど!!あー、どんな顔になったのかしら!!」
私がひとしきり笑っていると背後から声が掛かった。
「モラクスがくれたのは腐り掛けか」
「誰!?」
声が聞こえ、後ろを振り向くが誰もいない。なのに、ギギギっとガラスを石でなぞるような不快な声が辺りに響いていた。
辺りを見回した所で、薄暗く先が見えない。ここが部屋なのか外なのかも分からない。
そういえばここ何処なのよ。
何で私はここにいるのよ?
何故私がここにいるの?
上を見上げるが何も見えない。
空が見えない。床は地面なのか、板なのか分からない。空気の反響がおかしい。
私は杖を取り出そうとしたが杖がない。辺りを見回しながら少しずつ後ずさった。
「誰よ!!?出て来なさい!!うぎゅ!!??」
私が叫ぶと喉が閉まった。
喉の中が掴まれている。
目の前に槍が見える。
「煩いなあ。バカは嫌いじゃないけど面倒なんだよネ。モラクスから獲物を貰えるっていうから来たけど、コレはイマイチじゃない?まあ、せっかく貰えるんだから頂こうかな。ぷくく。モラクスは僕に代わりに何を要求するのかな?借りをコレで返すつもりかな?思ったより安かったな。それにしても、魔力も少ないし魂の色も汚れているネ。まあ、おやつにはいいけど」
身体が震えようとしているのに、ピクリとも動かない。
苦しい!息が出来なくて顔が熱くなる。助けて!助けてよ!ねえ!!
「モラクスのお気に入りに手を出すなんて愚かで可愛い子だネ。僕、馬鹿な子大好きだヨ。愚かで哀れで可愛い。さあ、どうしようかな。ゆっくり遊んでもいいけどモラクスと話す方が楽しそうだ。ダカラ、モウネテゴラン」
ああ・・・。
最後にそう聞くと私の視界はゆっくりと上下から暗くなった。
◆◇◆◆◇◆◆◆
僕はモラクスに貰った女の魔力を吸い取ると、女の前に姿を出した。
女の魂を抜き取って丸く固めると少しちぎって、一口で食べた。
あまり美味しくないな。
死なせちゃ駄目って言われたから、食べてちぎった残りを女の身体にポイっと投げて魔力を戻すと、槍を振って元の世界に戻した。
「モラクス。いるかい?」
「なんだ」
僕が呼びかけると、煩わしそうにモラクスは現れて浮かんだ。
「さっき貰ったおやつ。食べた。あまり美味しくなかったヨ。全部食べないでおいたヨ。器に戻してあっちの世界に戻しておいた」
「これでお前への借りは返したな」
「えー。やっぱり?安く返された気がするヨ?この本はどうする?低級悪魔だヨ。魔法使いに呪い返しをされて簡単に傷ついている。弱いネ。ぷくく、可哀そうな本だネ。僕の事怖いのかな?震えてるのかな?可愛い。ぷくく。君は誰かな?うん?レヴィの下っ端?名前はないの?モラクス、どうする?」
「本は好きにしろ。お前の借りは本込みだ。まあ、本は消した方が良いだろうがな。我の契約者に手を出そうとしたんだ。魔法使い達も腹を立てている。お前が逃がすと我ら五匹を敵に回すかもしれんぞ。お前が我らの相手をするのなら好きにしろ。レヴィアタンも下っ端が我らに手を出したんだ。消したところで何も言わん。ああ、ジュリエッタが関わっているのを知ればまた羨ましがるかもしれんがな」
僕は急いで、首を横に振った。勘弁してヨ。
「うわあ。怖い怖い。モラクスだけでも嫌なのに、モラクスの他に相手に出来ないヨ。僕、千切られて抉られて消されちゃう。ぷくく。怖いネ。ゾクゾクしちゃう。ああ、でも、一匹だけなら消せるかなあ?相手と一緒に消える覚悟なら出来るよね?ぷくく。嫌だな。モラクス、そんな目でみないでヨ。じゃあ、この子は消しちゃうのがいいネ。レヴィに喧嘩売っちゃうかな。ぷくく。楽しい。僕、優しいから楽にしてあげよー。ぷくく。バイバーイ」
僕は槍を振って本を黒い炎で燃やすと、本は「ぐぎゃああああっ」と汚い声をあげながらドロッと溶けた。
一気に燃やして灰にしてあげる僕は優しい。
本当は槍で抉って、突いて、少しずつ燃やしたかったけど、モラクスとのお喋りの方が楽しい。
「ネ。僕いい子だよ。モラクス、皆にも言っておいてネ。僕も外を見たいなー。君について行けば外も見れるよネ?僕、役に立つヨ?」
モラクスはじろりと見ると。ふむ、と言った。
本当、モラクスって人間臭いよネ。
「ロゼッタはこれからどうするか・・・。お前は我の下に就くか?」
「いいヨ。モラクスの下で。そしたら君の契約者と会えるんでしょ?」
「・・・。ロゼッタにお前を授けるかもしれんぞ?」
「いいヨ。僕を従わせれるならネ?モラクスのお気に入りは二匹同時に従わせるの?僕が勝ったら食べていいんでしょ?」
僕が自分の本を出してモラクスに渡してと笑うと、モラクスはニヤリと笑った。
「ロゼッタは大魔女になるだろう。その時、我はどうなるか。離れるか、それとも・・・」
「モラクス、王になったら?僕はこのままがいいけど」
「ふむ。面白い。いいだろう。まずは我とお前で結ぶか。我らの格で契約等聞いた事がないな。ははは。退屈せんな。但し、ロゼッタとはまだ結ばせん」
「ちぇー。でもいいヨ。モラクスの側にいれば僕にも良い事ありそうだヨ。ぷくく。契約紋刻むの僕、初めて。ぷくく、痛いかなあ。ゾクゾクが止まらないヨ。ぷくく」
「ああ、痛くしてやろう。刻んだ後は我の力が働くから姿を変えられる。その姿ではなく別の姿になれ」
「分かったヨ。君の契約者は何が好きなのかな?魔女って男好きが多いんだよネ?人間の男の姿の方が喜ぶかな?綺麗な男と逞しい男、どっちがいいかな?」
「男よりも使い魔達を大切にしているな。小さき者が好ましいと思っているのではないか」
「ふーん、そう。変わり者だネ。じゃあ、槍を側に置きたいからトゲトゲのネズミにでもなろうかな?さ、紋を刻んで」
僕はゾクゾクしながらモラクスの方を見ると、モラクスは僕の方に長い爪を向けた。
ああ。八つ裂きにされちゃうかな。
僕は舌を出して口の周りを舐めてモラクスを見上げた。
「・・・フルカス。馬鹿は楽しそうだな」
モラクスはニヤっと笑うと魔力を僕に向けて一気に魔力を出し、僕を捕まえ隷属の紋を身体の中央に勢いよく刻んだ。
「フルカス、我が僕として紋を刻む。いいか、我の契約者に手を出すな。その時はすぐに消す。我の命に従わない時もすぐに消す。気に入らない時もすぐに消す」
「うわアアア!!!痛い!!痛い!!ぷくく!!ぷくく!!」
「お前は余計な事しかしないだろうな。何かあれば、すぐに紋は消す。消滅するのはお前だけだ。我は知らんぞ」
「いいヨ、いいヨ。消えちゃうのもまた面白いヨ。ああ、どんな子かな、ちょっとかじりたいネ」
「あいつは我の物だ、手を出すと消すからな。まあ良いだろう。好きにしろ。退屈なのは我も嫌だ」
僕とモラクスに契約が結ばれるとモラクスは魔力を収めた。
ふう、疲れたけど面白かったな。ああ、魂がまだ痺れている。
「忘れてたけど、モラクスがくれた腐り掛け。あれ、生贄だったかもね」
モラクスは眉毛を片方だけ上げて、首を少し傾げた。
「何か感じたか?成程、レヴィアタンがロゼッタを欲しがったのか。まあ、やらんが」
「モラクス、頑張って王になりなよ。」
僕は魔力をポンっと出すと金色のハリネズミになった。
これは間違って食べてよかった。魔女が気に入るのなら今度、小さい物を沢山食べよう。
「なんだ、その色は」
「エ?モラクスの契約者の色だヨ?僕も側で可愛がって貰おうかと思ったんだヨ?可愛いでしょ?モラクスだけ、良い契約者ばかり掴まえていいよネ。早く僕も名前を呼びたいな。僕はなんて呼んで貰おうかな」
「フルカスだから、フルか。それかフール。ルーク。カスはどうだ?はっはっは。カス。いいじゃないか」
「モラクス、酷いネ。フルかルークにしようかなあ。ぷくく。カスって呼ばれたらどうしよう。ちょっと食べちゃおうかな」
ハリネズミの僕は首を傾げてモラクスの肩によじ登った。
「まあ、いい。なるようになるだろう」
「ワーイ。面白い事が起きるといいネ」
「使い魔達を怖がらせるなよ」
「うン、大丈夫だヨ。ぷくく。ぷくく。楽しみだネ」
僕はウキウキして、モラクスの肩に乗って笑った。
幕間はあと三話くらい続きます。
次回は日曜日に投稿します。