マークさんとの秘密
一日遅れました・・・。
突然のマークさんの告白。
私を見つめるマークさんの眼は真剣だった。
マークさんが私を好き?
え?っと思っている間に、自分の顔が赤くなっているのが分かった。
「えっと、あの、うわ」
私がモゴモゴ言っていると、マークさんは上を一度向いて「うん」と言ってから私の方を向いた。
「ジェーン様。好きです。気付きませんでした?アラン達からは結構バレバレって言われてたんですけどね」
「あの、はい」
「そうでしょうね。だから、困らせる事が分かってるのに伝えてしまった」
困った様に笑うマークさんは杖に着けている守り石をゆっくりと触った。
「ジェーン様の眼に私が映ってない事は分かっています。嫌われてないだろうなと言う事も。私の事は良くてお兄さんの様に思ってくれているでしょう?」
「マークさん」
「分かっています。でも、私はきっとずっとジェーン様の事が好きだと思いますよ。この恋が叶わなくても、無くなりませんから。ジェーン様の事が好きなのは勿論ですが。魔女様のジェーン様の事も好きで尊敬しています」
マークさんは私の手をそっと握ると、ゆっくりと自分の手で包み込んだ。
「嫌がる事はしません。すみません。そんな顔をしないで下さい。ああ、パンデの事を笑えませんね」
「マークさん」
「本当に、ジェーン様は魔女様で綺麗ですし強くて素敵です。なのに時々困っているように、迷っているように、苦しんでいるように思えて。貴女はこんなに素敵なのに。私がジェーン様の憂いを払う事は出来ませんか。私ではジェーン様の力にはなりませんか」
包んだ手をぎゅっと強く握ると私の眼を優しく首を傾げて覗き込んだ。
「本当に、可愛い。ジェーン様。宵闇のお披露目、素晴らしかったと聞きましたよ。私も観たかった。その場で一緒に祝いたかった。その後に起こった事件も噂で知りました。貴女が傷ついてないかと心配しても、手紙を送る事しか出来なかった」
「マークさんはランクの試験終えて、コロン領にいないといけない時期でしたから」
「ええ。分かってます。自分で選んだ道です。私が無理にお祝いに行っても貴女を困らせるだけです」
ゆっくりとマークさんは手を離すと眉を少し下げて笑った。
「それでも傍にいたかった。私は噂を聞くことしか出来ない。分かっています。私とジェーン様はそういう立ち位置です。身の程をわきまえないといけない。それでも私は貴女を思う事を止める事が出来なかった」
「マークさん」
「好きなんです」
私はマークさんの名前を馬鹿みたいに繰り返した。
胸がドキドキして苦しい。
私は杖を振ってゆっくりと私達が乗っていた階段を地面に下ろした。
地面に立った私達にフォルちゃんが防御膜を掛けてくれた。
「マークさん。私の事を好きになってくれて有難う。私もマークさんの事を尊敬しています。でも、お付き合いは出来ません」
マークさんはゆっくりと息を吐くと頷いた。その様子を見て胸がずきりと痛んだ。
「ええ。すみません、困った思いをさせて。いけませんね。欲が溢れ出てしまいました。ジェーン様、貴女は誰より美しく、強い。それを貴女自身に知って欲しかった。ただ私が誰よりも貴女の事を愛しているのを知って欲しかった」
「マークさん、私は」
「ああ、そんな顔をしないで下さい。魔女様を泣かせたら、使い魔殿達に怒られてしまう」
「大丈夫。この子達は勝手に動くんですよ。マークさんに何もしないのは、マークさんが優しいのを分かっているんだわ。私の事をそんなに褒めてくれて嬉しい。でも、気持ちを受け取れない。ごめんなさい・・・」
「謝らないで下さい。ジェーン様は美しく気高い魔女。宵闇の魔女様です。貴女が私の手を取る事が無くても、私はいつまでも貴女の力になれるように努力をします。ジェーン様。これからも黒い角を宜しくお願いします」
マークさんは私に礼をすると、黙って聞いていたアルちゃん達にも礼をした。
二匹はコクンと頷くと、マークさんに魔力を出した。
「有難う、マークさん。マークさんは私の風魔法の先輩です。黒い角も頼もしいパーティーです。私も行く先で風魔法を褒められる事があったら、マークさんの話をしますね。素晴らしい魔術士がコロン領にいるって」
マークさんは、ぐっと拳を握ると頷かれた。
「ジェーン様。使い魔殿、すみません。一度だけ」
マークさんはそう言うと、手を伸ばし私をぎゅっと抱きしめた。アルちゃんは鞭を出して、フォルちゃんがぴくっと動いたけれど、二匹はそのまま動かなかった。
すっぽりと私はマークさんに包まれて、私の耳にマークさんの息がかかった。私は自分の心臓が口から飛び出すんじゃないかと思う位驚いた。心臓がドキドキするんじゃなくて、耳が心臓になったように煩い位ドキドキしていた。
「あ?え?」
なんとか声を出した私に、マークさんがゆっくりと目を合わせた。
マークさんの顔が近い。
眼鏡の奥のマークさんの眼が私をじっと見つめている。
「本当に、本当に好きです。ジェーン様の事、ずっと好きです。ああ、苦しいなあ」
マークさんはそう言うとふにゃりと笑って、ゆっくりと私の体を離した。
ぎゅーっと胸が締め付けられるような気持ちになったけど、マークさんが目を一度つぶって開けた時の表情を見て、ひゅっと喉が締め付けられて声が出なかった。
「すみません、有難うございます。優しいと言われているので、貴女には優しい先輩、頼りになるお兄さんのままでもいたかった。駄目ですね。ああ、でももう、一生分の幸せを頂きました。これは誰にも言えない秘密です。ラン様に知られたら、大変な事になりそうです。飛竜で突撃されるだけじゃすみませんね。使い魔殿、見守って頂き有難うございます」
優しく笑うマークさんに私は小さく頷いた。
「ランさんは飛竜から飛び降りてきますから・・・。マークさん、私、もっと凄い魔女になります。マークさんに好きになって貰った事を後悔させませんから。誰にも負けない魔女になります。マークさんはとても優しくて、素敵な先輩です」
「・・・。ジェーン様にならなんと言われても嬉しいですよ。ああまいったな。ジェーン様。私に出来る事であればなんでも言って下さい。いつでもお役に立てるように杖を振っていますから」
「・・・。じゃあ、一つ。変な魔物を見つけたらすぐに教えて下さい。マークさんは無理せず、私を頼って下さい」
「ええ。分かりました。お約束します。いつでも連絡をします」
こんなに好きと言って貰ったのは生まれて初めてだ。
マークさんとお付き合いが出来たら私はきっと幸せになれるんじゃないかしら。
魔女の私を受け入れてくれて、好きでいてくれる。それなのに、私は断ってしまった。だって、同じだけの熱を私は持ってないし、返せない。
私は幸せになっても、きっとマークさんを私が幸せにすることは出来ない。
私がそう思っていると、アルちゃんはフォルちゃんに乗ってマークさんに近づいて、「一度だけだぞ」と言ってマークさんのお尻を鞭でピシっと打った。手加減してるだろうけど、ちょっと痛そうで、フォルちゃんは「ロゼッタを泣かしちゃダメだよ」と言ってゴツンと強めに突撃をした。二人の攻撃を黙って受け取ったマークさんは「お二方、有難うございます」と言っていた。
「さ、ジェーン様。魔獣を探しに行きましょう。アル殿が隠密が上手いのでしょう?アル殿とフォル殿に先行して貰ってはどうでしょうか?アラン達だけ魔獣を狩ってきたら悔しいですからね」
「はい。あ。そうですね。あの、魔獣と魔物って言い方が違いますね。魔獣って言ったり、魔物って言ったり。なんだか変ですね。ははは」
私はパニックになっているのか、変な事を聞いてしまった。
「一般的には魔物って言いますよ。ただ、獣型の魔物の事は魔獣っていいますね。なので、もう、狩る魔物を決めている時で、獣型の時は「魔獣狩りに行くか」なんてパンデ達と話しますね。なので、どちらも間違いではないですね。スライムを狩る時や、ここはいませんけどアンデットなんかは魔物でしょうね。あと、不特定多数を指す時は魔物と言う時が多いですかね」
「あ。そうですか。成程。勉強になります」
私が頷き、うんうん、と返事をするのを、マークさんは気にせずにいてくれた。話題を探したりしていたのはバレていたと思う。
「さ、フォルちゃんは防御膜をそのまま張って、アルちゃんは隠れて魔獣がいたら、捕まえてね」
二匹はコクンと頷くと、私達の前から消えた。
「ジェーン様、行きましょう」
「はい、マークさん」
私達はその後、種類の違う魔獣を三匹程狩り、最近、マークさんが読んだ魔術本の事を聞いてキャンプ場に戻った。
そこではマークさんはもう普通に過ごしていた。
マークさんが言う通り、マークさんとの事は二人だけの秘密になった。そしてマークさんと二人きりで話したのはこれが最後になるとはこの時は思わなかった。
第七章完結です。
幕間が三話から五話続きます。
第八章開始のお知らせは活動報告でさせて頂きます。