東の森での魔女ご飯
晩餐会は穏やかな食事会だった。美味しくご飯を頂き、コロン子爵に今回の東の森の調査と、「ハンカチ」を探している事を伝え、私はそのままコロン子爵の屋敷に泊まり、翌朝待ち合わせよりも早く屋敷を出た。
のんびり歩いて冒険者ギルド迄歩いているとヒラヒラと魔蝶が飛んできて私の肩にとまった。
「ロゼッタさん、ゼンの熱は安定したよ。薬が効いたようだ。有難う」
「よかった・・・」
魔蝶からクリスさんの声が聞こえると、ホッとした。
「皆、ゼンさん元気になっているみたい。とりあえずは安心ね。すぐに薬が効いたのはよかった。今度、身長、体重、年齢を聞いてみよう」
「よかったよかった」「いくつだろうね?」「体重ならベンさんが一番重そう」と、三匹がわいわい話しているのを聞きながら歩き、顔を上げて冒険者ギルドの前を見るとアランさん達がすでにギルド前に待っていたので、私は慌ててアランさん達に駆け寄った。
「待ちましたか?おはようございます。久しぶりですね、アランさん、マークさん、ジャックさん、パンデさん。今回も宜しくお願いします。灰茶の魔法使い様に名付けて貰いまして、宵闇の魔女になりました。でも今迄通り、ジェーンでお願いします」
「お久しぶりです、ジェーン様。私達が早く来ただけです。ジェーン様のお披露目の噂はコロン領迄届いていますよ。ランクアップの贈り物も有難うございました。本日はいつもの定期検査にジェーン様も同行という事ですね?」
「うーん。ちょっといつもとは違う感じでいいですか?森の中で一泊したいと思っています。夜の森の様子も確認したいので。ついでに採取も沢山したいです。二日分の調査費用を払います」
「森で一泊ですね?ええ。問題ありません。ちょっと買い出しをしていきますか。食料を多めに持っていきましょう」
私はマジックバッグをポンと叩いた。
「食料は任せて下さい。今日は私の魔女料理をご馳走します。あと、テントも買いました。防寒用具もそろえています。皆さんの泊りの準備は出来てますよ。防御膜も張って暖かくして寝ましょう」
「流石」とパンデさんが笑い、ジャックさんもクシャっと笑って、頷いた。
「じゃ、ご馳走になります。でも一応少し買い物をさせて下さい。ないとは思いますが、はぐれた時に一人一人少し荷物がいりますから。今日は日帰り予定でしたので少し買い足していきます」
「了解です。必要経費ですのでそれは請求書貰って下さい。私のお願いで突然の宿泊ですから、私が出しますからね」
「ジェーン様は変わりませんね。お言葉に甘えて。では、早速行きますか」
「はい!」
私達は買い物をすませ、街の外に出るとアランさん達は馬に乗った。
マークさんが私も馬に乗るかと手を貸してくれたが、私は首を横に振った。
「ふっふっふ。皆さん、驚かないで下さいね!フォルちゃん!」
「はーい!」
フォルちゃんが元気よく返事をし、ぐうんっと大きくなったフォルちゃんの上に乗った。
「私はフォルちゃんで行きます。格好良いでしょう?ウェルちゃんも大きくなっていいわよ。アルちゃんは後ろの警戒をお願い、ウェルちゃんは前方を先に飛んでね。あ、フォルちゃん、風を感じれるようにしてくれる?そして、ゆっくり走りましょう。本気は出さないでね?」
「分かったよー」と嬉しそうにフォルちゃんが頷き、ウェルちゃんも「了解」と言い残して上空に飛び立つとアランさん達はパカっと口を開けた。
「門番が、魔女様が使い魔殿に乗ってこられたと言ってましたが、本当だったとは・・・。フォル殿達も先程の大きさだったので見間違いかと思っていましたが・・・」
「いやあ。参った。あれ?フォル殿達、今、喋ってなかった?凄いな」
「戦乙女って噂も聞いたが、それも嘘じゃないんだろうな・・・」
「ジェーン様は夜の女神で、眼があったら恋に落ちるって吟遊詩人が歌ってたよな。まあ、見惚れるのは分かるよ」
私はフォルちゃんを撫で「私と眼が合ってもどうにもなりませんよ。さ、皆さん行きましょう!」と東の森へと出発した。
私はフォルちゃんの上から最近の東の森の様子やコロン領の様子をアランさん達に聞き、魔獣には会う事もなく東の森へ着いた。
「いつもこんな感じですか?やはりまだ少ないんですかね?ブール領の話は聞きましたか?」
私の言葉にマークさんが答える。
「いえ、小型の魔獣は多くなりました。ここに来るまでに一、二度は遭遇するのが普通ですね。今日はおそらくですが、魔獣の方が先に逃げ出して近寄らない様にしていたんだと思います。使い魔殿が先行していましたし、フォル殿の姿を見つけて慌てて逃げたりしたんでしょう。ブール領の事は冒険者ギルドから通達がありました。変わったコボルトの事ですね?コロンでも、昨日は辺りを巡回しましたが変化はなかったですね」
「ふむ」
私はフォルちゃん達に小さくなって貰って、森の中は歩いて探索をした。
森は前よりも緑が濃くなっていて生き物の雰囲気も多くなっていた。
私は薬草やキノコや木の皮等を取りながら森を観察し、冷たい空気を吸い込みながら以前ファン草が栽培されていた場所迄歩いていった。
「ジェーン様、ここが以前ファン草があった場所です。あの木が倒れている所までが畑でした。今も定期的にファン草が自生していないか調べています」
私は頷いて辺りを見回した。開けていて草が茂っていたけれど、特におかしな所はなかった。
「少し土を取りますね。。ランさんがいたら鑑定迄早いんだけど。うーん、ランさんに土を送ろうかな。アルちゃん、土を少しパックンって食べてくれる?そして、この瓶に入れて欲しいんだけど。少しずつ何か所か食べて欲しいの」
アルちゃんは頷くと私の肩から降りて、身体を大きくした。
アルちゃんは大きい身体になるのは嫌いなようで、いつも小さいままで私の肩や頭に乗りたがる。
大きくなったアルちゃんは翼がない竜の様だ。アルちゃんの姿にマークさん達も驚いていた。
「大きなアルちゃんも素敵よ。瓶には食べた場所の番号を振っておいたほうがいいわね」
私が瓶に番号をふり、東から順に土を詰めて行った。
「間違えないように、地図にも番号を書いてランさんに送りましょ。ランさん、キチンとしてないと怖いから。さ、後は周りの草も回収して、魔獣を何体か回収できればいいですね」
「森でも今日は魔獣が出て来ませんね。やっぱり使い魔殿達やジェーン様の事を魔獣も分かっているのかな。逃げていると思いますよ」
マークさんがそう言って、森を見回していた。
あら、困った。
「うーん。困った。どうしましょう?」
「任せて下さい」
ジャックさんがポケットから細い紐を出すと輪にしていった。
「ジェーン様。小型の魔物でいいんですよね?罠を仕掛けてきます。一泊するのなら明日の朝、罠にかかった物を回収するようにしましょう。もし罠にかからなくても、夜は魔獣も活発になりますのでそこで一匹は仕留められるかと。ただ、ジェーン様と使い魔殿がいると魔獣は逃げると思いますので、ここでお待ち下さい」
「すごい!罠!宜しくお願いします」
「ま、俺らだけになると襲って来るかもしれませんが。では行って来ます」と言って、ジャックさんはアランさん達と一緒に出掛けて行った。
「お留守番になってしまったわね。私達はご飯の準備とテントの準備をしましょう!皆手伝ってね」
アルちゃんがパチンとウインクをして、ペッとテントや椅子、机などを吐き出してくれた。
「テントは三つ?私達用が一つと、アランさん達に二つ使って貰いましょう。フォルちゃんは防御膜と竈を作る準備をお願い。ウェルちゃんはそこの鍋とポットに水を入れて、アルちゃんはテントね」
三匹は頷いて、魔法を使いながらせっせと準備をしてくれた。
「私はご飯を作るわよ。冒険者の人達って外でご飯って普段何を食べているのかしら?うーん、手の込んだ物は作れないし。ロンの所で買った道具で、作れるのはシチューね。肉も焼こう。あとは、パンにバターの準備でしょ。チーズとワインにデザートも必要ね。さ、頑張って作るわよ!!」
私は野菜を水魔法と風魔法でさっさと綺麗にすると、竈に火魔法で火を点けて、小麦粉に塩と牛乳でこねこねと炒め、刻んだ野菜に肉にハーブ、塩に胡椒、さらに少しだけ水を入れて後は適当に味を足していってシチューを作った。
「デザートは卵でクリームを作りましょうか。それを、クッキーで挟んで、果物も切って。アルちゃん、テント建てたら肉焼いてくれる?」
「了解」
私が料理を作っているとアルちゃん達はテントを張り終わり、机や椅子も出してくれて絨毯等も敷いていた。
「出来たー。そろそろマークさん達も帰って来るかしらね」
辺りに美味しそうな匂いが漂い出し、私がシチューを混ぜているとマークさん達は帰って来た。
今年も一年無事?にすごせました。来年も皆様にとって幸多い年になります様に。
次回の投稿は一月三日、水曜日です。早く出来る時はお知らせします。
では良いお年を
(o*。_。)o