ブール領からコロン領へ
次の日の朝。
私は薬を作り終わった後、気付いたら寝ていたようでアルちゃんとフォルちゃんによってベッドに運ばれていた。
本当、うちの子達は優しくいい子だ。
朝起きて、ベッドに寝ている事に驚いているとアルちゃんが「お水」と言って、コップを差し出してくれた。
「おはよう、アルちゃん。ジロウさんとハワード隊長は?私、寝ちゃったのね」
私がお水を飲んでアルちゃんにコップを返すと、「フォルがご飯貰いに行った」と言われて、ウェルちゃんがタオルを渡してくれる。
「ロゼッタ、おはよう。顔洗う?」
「ウェルちゃん、おはよう。二人はすぐに帰ったの?」
「ええ。寝顔は見せてないわ」
そうか、良かった。
よだれを垂らしていたり、白目を剥いたりしていたらどうしようと思ったけど皆のおかげで助かった。
アルちゃんは前から私に対して過保護だけど、最近はウェルちゃんもフォルちゃんも私の世話を焼きたがる。
出来た使い魔達を持ったわね。
流石、私。
そう思いながら顔を洗って部屋に戻ると、フォルちゃんがアルちゃんと一緒に食事をテーブルに並べてくれていた。
「おはよう、フォルちゃん。昨日はベッドまで運んでくれたのね?有難う」
「ロゼッタ、おはよう。いいよ。僕、運ぶの上手」
「皆も食べる?凄い量ね。私、沢山食べると思われているのかしら?」
「フォルが沢山頂戴って言ってたわよ」
「あらま」
ウェルちゃんがピピピと鳴きながら可笑しそうに言い、フォルちゃんは言いつけられてもご機嫌で、しっぽを振りながら座っている。
「美味しそうだよ。ロゼッタ」
「はい。皆も一緒に食べましょう」
私も席に座ってアルちゃんを見ると、アルちゃんは鞭を使ってグラスにオレンジジュースを注いでいた。
「ねえ、アルちゃん。昨日はジロウさんもハワード隊長もあの後すぐに帰ったの?」
「うん、問題ない」
アルちゃんがフォルちゃんを見ると、フォルちゃんは大きなパンにかぶりついていた。
「んっぐ。アルが二人にお菓子あげてたよ」
「あら、そう。私、いつ寝ちゃったのかな」
フォルちゃんが答えて、アルちゃんがペロリと舌を出した。
「あいつらが話している途中。問題ない」
フォルちゃんが「ウェルも食べなよ」と嬉しそうに頷いてウェルちゃんもパンをつまみだした。
「ロゼッタ、大丈夫よ。仲良く帰っていったわ」
「あいつら戦いの話してた。問題ない」
「そう?二人にはお礼の贈り物もしたいから、魔鳩を事務所に飛ばしておきましょう。ランさんにも連絡しなきゃね。ハヤシ大隊長にも迷惑かけたのよね」
「ランさんには連絡してるわよ。ハヤシ大隊長にもランさんから連絡がいってるわ」
「おお。流石ウェルちゃん。なんだか、だんだん皆がすごくなってる。最近、おしゃべり上手よね?」
フォルちゃんは卵料理を食べながら嬉しそうに頷いて、アルちゃんは私の口元を拭いていた。
「僕達ロゼッタの魔力沢山貰ってるからね。もっと強くなりたい」
「そうね」
フォルちゃんが食べながら言うと、ウェルちゃんが相槌を打つ。アルちゃんも頷いて私のお皿にせっせと食事を取り分けている。
「うん、俺らだけでいい。他の奴はいらない」
「皆が優秀すぎて、私、ダメ魔女になっちゃうかもよ?」
皆は「それでもいいねー」なんて言って笑いながらご飯を食べている。
師匠が何もしなくなったのは優秀な使い魔のおかげな気がする。ジルちゃん達も凄いもの。
「ねえ。二人へのお礼、消臭スプレーはどう思う?あ、臭いって遠回しに言ってるみたいかな?石鹸?これも駄目か。携帯食料と傷薬は?それともいつも私が作ったものを贈っているから、何かお店にいって買った方がいいのかな」
もぐもぐ食べながら三匹に相談したけれど、フォルちゃんは「お菓子」と言って、ウェルちゃんは「そうね。欲しい物は見えない物ね」と言いアルちゃんは「必要ない。ポーションで十分」と言った。
食事を食べ終わると、荷物をまとめギルド所長に宿泊が急に伸びた事の謝罪をし、ブール領を出る事を伝え「ハンカチ探しの依頼」を出した。二日程自分でブール領を見て回ったが怪しい魔力を感じる事もハンカチを見つける事も出来なかった。
所長に見本の恋のハンカチを預け(呪いが付いていない物)、呪いのハンカチの説明をした。所長は少し考えた後に、冒険者に依頼を出さず「極秘依頼」として受け取り、所長と一部のギルド職員預かりの仕事にすると言った。
「面倒な依頼を出してすみません。何か変な物を見つけた時は「名無しの薬局」に連絡をするようにお願いをします。こちら、前金と滞在のお礼です」と言って、お金とハンドクリームをギルド職員分渡した。
借りは作りたくない。
ランさんがタダより高い物は無いと言っていた。
「皆さんお世話になりました。また来た時は宜しくお願いします」
「是非、また冒険者ギルドへお立ち寄り下さい。ジェーン様に沢山の幸福を、新しい出会いに祝福を、ブール領冒険者ギルドよりお祈り申し上げます。再び貴女様に出会えますように」
所長は胸の前で手を合わせ、旅人を見送る挨拶をする。見送りの皆も同じ挨拶をする。
私は頷き挨拶を返す。
「皆さんにも沢山の幸せを。同じ空の下で祈ります、又再び会える時まで」と返事を返し、私が出て行こうとすると、遠くから「ちょっと待ったーーー!!ジェーンさまーーー!!」と言ってレンクさんが杖をひょこひょこつきながら走って来た。
「レンクさん」
「酷いですよ。私もジェーン様と別れを惜しむ時間が欲しかったのに。はあ、はあ。今日は治療院に行って出勤だったのです。間に合ってよかった」
ふう。っと息を吐き、肩にかけたバッグから包みを取り出すと私に差し出した。
「ジェーン様、どうぞこれを受け取って下さい。命を救って頂いたお礼です」
「走って大丈夫ですか?有難うございます。開けても?」
「ええ。貴女にぴったりだと思って選びました。私の気持ちです」
私の横にすすすっと寄って来たレンクさんはアルちゃんに、べーっと舌を出されていた。
「薔薇の香水?」
「ええ。ジェーン嬢にはやっぱり薔薇でしょう?小ぶりな小さな野薔薇も、大輪の華やかな真っ赤な薔薇でも、どちらも似合われますからね。美しいジェーン様が私が贈った香水をつけていると思うと嬉しいですし。無くなったらいつでも会いに来て下さい。一緒に買いに行きましょう。今度こそ、デートを致しましょう。え?疚しい気持ちですか?そりゃ、ありますよ。私は優しさと下心で出来ていますからね。ジェーン様にはいつでも私の胸に飛び込んで貰っていいのですけど」
レンクさんが私にそう言って、両手を開き「さあ、飛びこんでおいで」と、笑顔で私の方を向いていた。
私が本当に胸に飛びこんだらどうなるのかな。
びっくりして、アワアワするのかな。それとも、やっぱりレンクさんはレンクさんなのかしら。
私が笑って周りを見ると所長は頭を抱えていたが、周りの人も笑っていた。
「もう、本当に飛び込んだらどうするのかしら。レンクさん。有難うございます。レンクさんの命はこの香水一本の値段じゃないですよ?無くなったらまた貰いにきます。だから早く治して、頑張って働いて下さいね。私からも元気に働けるようにポーションと傷薬、携帯食料を贈ります。そして、貴方に祝福を」
私がそう言い杖を振ってレンクさんに魔力を降らすと、アルちゃんがぺっと、レンクさんにポーションや傷薬を投げつけた。
「レンクさん達に会えてよかった。では、皆さん、お世話になりました」
私が手を振って、フォルちゃんに乗ってブール領を出発すると暫くして教会の鐘の音が響いた。
「さ、フォルちゃん、思い切り走って良いわよ。貴方が本気出したらどれくらいでコロン領に着くのかしらね?アルちゃんは探知。ウェルちゃんは空から見張りをお願いね」
私がそう言うと、フォルちゃんがキラリと目を輝かせ、身体強化と風魔法を重ね掛けをした。
「ロゼッタ。落ちないでね」
「え?ちょっとまって。うわああ!!!」
私の叫び声と、使い魔達の笑い声を響かせながら私達はコロン領へと駆けて行った。
次の投稿は木曜日です。