ブール領での食事会
次の日。
スッキリと起きた私は部屋を出て、冒険者ギルドに降りて行くと厳つい男の人達が所長と話している所だった。
聞こえてくる内容から昨日のコボルトの事の様で、冒険者さん達の表情も昨日よりも厳しかった。
邪魔しちゃ悪いわね。
私は冒険者さん達の邪魔にならないように食堂に移動してスープとサンドイッチを注文すると食堂の奥の席に座り、昨日買った「古今東西摩訶不思議話」という本を開いた。
果物から妖精が出てきたり、鬼と呼ばれる悪魔の話が出て来た。モラクスさんの仲間なのかも知れない。読み終わったらモラクスさんにこの本をあげよう。
「じゃあ、行ってくる」
「連絡はこまめに頂戴。コボルト以外の亜種にも気をつけて」
厳つい男の人の声が響き、所長の返事が聞こえた。
ギルドの空気がピリピリしている。
本を読んでいると所長が私の所へとやって来た。
「失礼致します。魔女様、おはようございます。よく眠れましたか?」
「ええ。おかげさまで。今の人達は昨日の件ですか?」
「はい。通常ならコボルト探索なんて指名依頼は出さないのですけどね。用心はして損はないですからベテランパーティーに行かせましたよ。暫くはブール領の周りで見回りも多くさせますから冒険者達を多く見る事になると思います。何事も無いといいのですがね」
「そうですね。用心は良い事と思います。レンクさんの怪我はどうでしたか?」
「レンクは今日も出て来てますよ。休めと言ったのに、魔女様に会いたいとかいって」
所長が顔を上げた先を見ると、手を振るレンクさんが見えた。松葉杖をついているが顔色も良いし、しっかり治療をして貰ったようだった。
「元気そうで良かった。所長。昨日色々ブール領をまわったのですけど、砂糖菓子の有名なお店ってありますか?」
「ああ、何店かありますよ。一番の老舗は裏通りにある狭い店ですね。流行りの店は大通りの可愛い店ですよ。レンク、街の地図を持って来て」
所長が声を掛けると、レンクさんはささっと地図を持ってきた。
「レンクさん、具合はどうですか?」
「ジェーン様。おはようございます。今日も美しいですね。足や背中の具合は良いですよ。一応杖を使う様に言われました。薬も飲んでます。ジェーン様の顔を見たらすっかり良くなりましたね」
「それは良かった」
ウインクしながら話すレンクさんは元気そうだった。私が地図を受け取ろうとすると、横からアルちゃんが鞭でサッと取り、べーっとレンクさんに舌をだした。
「魔女様、部屋は今日も使われますか?」
「ええ。明日の昼頃ブール領を出てコロン領へとむかいます」
「かしこまりました。何かありましたらいつでも申し付け下さい」
レンクさんがアルちゃんにお菓子の店を教えながら、印を地図に付けると二人は食堂を出て行った。私は食事を終えると、今日もブール領をウロウロと動き回った。
砂糖菓子の店は二店舗共行き、ジロウ隊長に以前貰ったお菓子は大通りの流行りの店の方だった。
凄く可愛らしいお店ね。定員さんもリボンが付いているカチューシャをつけて、フリフリのエプロンをしている。
ジロウ隊長はこの店に一人で入ったのかしら?
うろうろしていると、カラーン、カラーンと正午の鐘が聞こえてきた。
「どこかでご飯を食べましょうか」
「あっち。良い匂い」とフォルちゃんがしっぽを振ってドンドンと進む。暫く進むと、美味しそうな匂いがしてきた店に入った。
「いらっしゃい・・・ま・・・せ」と、驚きながら言われ、奥の席に通されて、お勧めのシチューとパンとデザートにオレンジジュースを注文すると、「おかみさんが、サービスと言ってました」と言ってシチューを大盛にしてくれた。
玉ねぎ屋のマツさん達にもお土産を買おう。
心配ばかりかけてるもの。
私は美味しいシチューを完食して教会へ行き、街を眺めているとウェルちゃんがカラスを連れて飛んできた。
「ゼンさんのオトモダチね?お菓子をどうぞ。ゼンさんに会いに行くなら私は元気って伝えてね。今はブール領にいるけど、もうすぐコロン領に行くわ」と言うと、カラスは頷いてお菓子を咥え飛んで行った。ギルドに戻ると、所長が私を待っていた。
「魔女様。先程第五軍団の隊員の方が魔女様を訪ねてやってきました。下の食堂でお持ちですが。いかが致しましょう?」
「第五?」
誰かしら?
「隊員?誰でしょう?ハワード隊長?キムハン副隊長かしら?」
「いえ、ホーソン隊員です。女性の方です」
「え!ホーソンさん?」
私は急いで食堂に向かうと、姿勢正しく座っているホーソンさんがいた。
「ホーソンさん!!」
私がホーソンさんに小走りで近づくと、ホーソンさんは、すっと席を立ち礼をした。
「ジェーン嬢。お久しぶりです。旅立ちに立ち会えず、偶然ブールのギルドに立ち寄る仕事がありまして、冒険者達が宵闇の魔女様がギルドに来ていると耳に挟んでしまいました」
「うわあ。嬉しいです。久しぶりです。お元気でしたか?」
「ええ。体力には自信がありますからね」
「ホーソンさんは今日はお時間あるんですか?宜しければ一緒にご飯を食べませんか?」
「是非。明日の朝までに王宮詰所に連絡を入れればいいので、本日はゆっくり帰ろうと思っていました」
「ホーソンさんを借りてるってハワード隊長に魔蝶を飛ばそうかしら。今日は良ければ一緒にゆっくりしましょう!」
ホーソンさんはふふっと笑われると、ゆっくりと頷いた。
「隊長から嫉妬されそうですね。今日はもう仕事は終わっているので、連絡はしなくて宜しいですよ」
「そうですか?了解です」
食堂の厨房から私達を見ていた人に、「私の部屋に食事を二人分大盛で運んで下さい。ワインもお願いします。お金はこれで」とお金を渡すと、親指を立てて返事をしてくれた。
「さ!行きましょう!」
私はホーソンさんを連れて準備をして貰った部屋に戻り、食事が用意されるまで私はお茶の準備をして近況報告をし合った。
「ホーソンさん、チェリアさんもお元気ですか?」
私が出したお茶を礼をして一口飲むとホーソンさんは頷いた。
「ええ。チェリアも元気です。最近は王都から離れた場所を多く飛んでいましたね。王都にいる事が少なかったのですがジェーン嬢の噂は耳には入ってました。事件が無事に解決が出来てホッとしておりましたが、後味が悪い物でしたね」
私はゆっくり頷く。
確かに気分は悪かった。
「ええ。解決はしましたが、嫌な気持ちにはさせられました。でも、もう大丈夫です。ホーキンス隊長にも心配を掛けました。今日はお会い出来ませんでしたが」
「おや、従兄殿は珍しく王都から離れているのか」
優しく話すホーソンさんはランさんと同じ年位だけど、ランさんとは違った綺麗さで素敵なお姉さんだ。ライラさんもチェルシーさんも素敵だし、私の周りの女性って素敵な人が多すぎじゃないかな。
私達が話しているとドアがノックされ料理が運ばれてきた。
テーブルに食事がセットされ、「何かあればお呼び下さい」と言われてギルド職員さんは出て行った。
次の投稿日は金曜日です。