迷子?
私はフォルちゃんの上で気持ちよく風を感じていた。
王都を出発して見渡す限りの草原の中を走っている。
馬車の様に酷く揺れる事もないし、馬よりも低いので怖くもない。凄く快適。魔法のおかげだろうけど、凄い速さなのに風も気持ちよい程しか感じない。
思い切り走ったり飛んだりしているのは皆も楽しそうで、アルちゃんも私の肩に乗って嬉しそうに舌をチロチロと出している。
周りには何もない。
空も広くて気持ちがいい。
「広い~空~。流れる~雲~。緑の~風~。流れる~星~。あなたのもとへ~」
私が気持ちよく歌を歌うと、アルちゃんがククっと笑って舌をぺろぺろしていた。
ウェルちゃんも上空高く飛んだり、低く側を旋回したり時々水を撒いたり。皆で楽しく進んでいて私はハッと気づいた。
「フォルちゃん、ストップ!」
フォルちゃんは軽く一度飛ぶと、ふわっと、止まって首を回して「なあに?」と言う様に私を見た。
「ウェルちゃーん!戻って来て!!」
ウェルちゃんもピピピと鳴きながらフォルちゃんの頭に止まった。皆が「どうした?」と不思議そうに私を見る。
「ねえ、ここどこ?」
見送りをしてくれている人達に感動して、そして、旅人の邪魔にならない様に街道を進まず野原をしゅぱーっと走って出発をした。
後ろを振り返りもせずにかっこよく走り去ってしまった。
道なき道を。
私が首を傾げるとアルちゃんがペッと地図を出した。
「うんうん。地図は大事よ。えーっと王都がここでしょ。で、東の王都門から出て真っすぐ走ったつもりなんだけど・・・。で、コロン領が東のここよね。ブール領が真ん中にあって、小さな村がこの街道沿いにトントンっとあって・・・。一時間程でどの辺まできてるんだろう?もう通り過ぎたのかな?村は見えない・・・。多分、今は地図のこの辺り?あー!!今どこ?地図って自分のいる場所が分からないと役に立たない!ひょっとしてやってしまった?」
私が辺りをキョロキョロ見回しながら、うわあーっと言いながらフォルちゃんから降りて、皆に地図が見えるように話すが、皆も「どこだろうね?」と、首を傾げる。
「今、王都を出て一時間位?まだ王都に近いからホーキンス隊長に助けてっていうのかな?見送りにいなかったから忙しいのかな。ウー副隊長に魔蝶を飛ばすのがいいのかな・・・。それとも田舎は第三って師匠がいってたから、第三の隊長?確か・・・、ゾルフ隊長?うううー。魔蝶や魔鳩で注文のやり取りはした事あるけど、「ゾルフ隊長。迷子になりました、助けて下さい」って言うの?初めて会うのが迷子って・・・。ねえ、皆どうしたらいいと思う?魔蝶を飛ばして助けを呼ぶ?あんなに恰好良く出発したのにいきなり迷子だなんて恥ずかしい。そもそも、自分が何処にいるか分からないのに、どうやって助けを呼べばいいの?ゼンさんなら、アルちゃん達の魔力を覚えてたから転移して助けてくれるかな・・・。ジロウ隊長やハワード隊長ならスレイプや飛竜で見つけてくれるかな」
私がぶつぶつ言っていると、アルちゃんは「落ち着け」と言い、ウェルちゃんは「大丈夫よ」と言ってくれ、フォルちゃんは「なんとかなるさ」と皆が私に優しく寄り添ってくれた。
「ふー。深呼吸しよう。はー。ふー。はー。あー、どうしよー。そういえば王都に来たばかりの時もよく迷子になったんだった・・・。歌なんて歌っている場合じゃなかった・・・」
私が深呼吸をしていると、ウェルちゃんはピピピと鳴いて空を見上げた。フォルちゃんは防御膜を張って絨毯を下に敷いてくれた。アルちゃんはペロリと舌を出すと私にむかって闇を出した。
「皆が頼もしい。ウェルちゃん、貴方は上空から道や村を探して。フォルちゃんはこのまま私の側にいてね。アルちゃんは探索を掛けてみて。霧を少しずつ、色んな方向に流して人がいるか探して貰っていいかしら?網みたいにするか、鞭みたいにして探したらいいと思うの。ウェルちゃんと連携をとってね」
私が杖を出して三匹に向きあう。
「皆、魔力をあげるわ!ハヤシ大隊長は「いつでも魔蝶を。力を貸します」なんて言ってくれたけど、これは無いわね。恰好悪いのは嫌だもの。もう最終手段はモラクスさんを呼びましょう!」
皆がコクンと頷き、私が杖を振って皆に魔力を注ぐと私はアルちゃんがペッと吐き出した小さなテーブルの上にティーセットを出して休憩を取る事にした。
椅子に座って頬杖をつく。
「はあ。王都を出て一時間で迷子だなんて。ちょっと防御膜を強めに貼って隠れよう。飛竜に空から見つかったりしない様にしよう」
私はお菓子を出して、フォルちゃんにも分けながらお茶を飲んで皆を待っている間にランさんから持たされた注文書を片付けていくことにした。
「錬金釜も出しますか。まさか、原っぱで錬金をする事になるなんて・・・。これが、旅の醍醐味って奴ね。色んな事も経験よ」
注文の石鹸を作り終わり、マジックバッグを覗いていると王子様達の贈り物を思い出した。
「そうだ、王子様達は何をくれたのかな。えっと、これは?手紙が付いてるわ。なになに・・・」
「ロゼッタ・ジェーン様
本日は見送りに行けず、残念だ。熱を出してしまって、王宮から出る事が出来なくなった。ジェーン様は王都を出て行かれると聞いた。どうか元気に過ごして欲しい。薬や食料をジェーン様に贈るのはおかしいと思うので、私が試しに作った水筒を贈らせて貰う。この水筒は魔力が馴染みやすい様に、蓋の部分に水晶を付けている。ジェーン様なら温めたり、冷たくしたり出来るのではと思ったのだ。ちなみに私は成功していない。成功したら教えて欲しい。どうかお元気で。
レオナルド・ケイ・オースティン」
私は水筒を見て、ふむふむ、と頷いた。
「レオナルド王子様、具合は大丈夫かしら。これは、水晶に魔力をなじませてそれを常時漏れるようにするか・・・。うーん、発動条件を付けないといけないのか・・・。蓋の部分に水晶を付けたのか。底に付けた方がいいんじゃないかな。あ、でも耐久性の問題があるのか。ふーむ。成功したらランさん、喜びそうよね。どうしたらいいのかしら?成功したら販売の許可を貰いたいからランさんからもレオナルド王子様に手紙を送って欲しい事をお願いしよう」
水筒をマジックバッグに入れると、次の包みを開いた。
「これは、ペンダント?と地図?」
鎖に魔石が付いたものと、オースティン王国の地図だった。地図は凄く簡易で道がおおざっぱにしか描かれてない。
「地図は持ってるけど、この地図ちょっと雑ね。あまり役には立ちそうにないけど。なになに・・・・」
「ロゼッタ・ジェーン様
旅に出られると聞きました。私が諸外国を回る時に便利だった方位石と地図を贈ります。魔力を方位石になじませて、一緒に贈った地図の上に浮かべて下さい。自分の現在地の場所で方位石が淡く光ります。嵐や、魔獣、盗賊等、不慮の事故は起きるものです。自分の居場所がしっかりと分かると助かる事が私にもありました。ジェーン様には転移がありますので不要かと思いましたが、宜しければお使い下さい。
ルーカス・アイ・オースティン」
私は地図をバンっと広げて魔力を石にそそいだ。
「ルーカス王子様!流石!これで迷子は解決よ!こんなものがあるのね!そうよ、それに私、転移が使えるんだった!いざとなったら王都に一度帰ろう。今はちょっと帰るのは早すぎるけど・・・」
ジョージ王太子殿下の包みも開けておこう。
包みの中は手紙だった。
「書類?」
「ロゼッタ・ジェーン様
旅立たれると聞きました。贈り物は何がいいかと思いましたが、必要な物は大抵持っておられるのではと思いましたし、旅に出られるのに嵩張るものは邪魔でしょう。金品が一番かと思いましたが、お金を贈るのも味気ない。それでもなにか手助けがしたいと思い、私の力を贈ります。魔女様のジェーン様には必要ないかとも思いますが、私の名前が役に立つこともあるかもしれません。何かの折にはお使い下さい。どうかご無事で。王都へのお帰りをお待ちしています
ジョージ・ガイ・オースティン」
一緒に添えられているのは、王太子殿下の名前入りの書類だった。
あらら。
この書類を持つ私、宵闇の魔女、ロゼッタ・ジェーンにオースティン王国王太子ジョージ・ガイ・オースティンが力を貸す、と書いてあるものだった。
「うわあ。なんだか、凄い物の感じがする・・・。王太子殿下、私がこれを悪用する可能性を考えたのかしら。優しい方だけどちょっと今度注意しよう」
私は贈り物をマジックバックに入れると、皆を呼んだ。
次の投稿は木曜日です。