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旅立ちは楽しく

私は荷物をまとめると、部屋を見回した。



「よし、しっかり綺麗になったわね」



マジックバッグには必要な荷物がパンパンに入っている。そしてアルちゃんにも色々収納して貰った。


明日の朝、私は名無しの薬局からコロン領に向かう。


私は国内の地図を広げて印をつけながらアルちゃん達に話し掛けた。



「本当は王都から近くの都市を順番に回って海の方に行こうかと思ったけど、思わずコロン領に行く事になったわね。でも、知っている所に行くのはちょっと楽ね」



今朝、師匠に転移でコロン領に行こうと思うと相談すると、師匠はふーむ、と言った後に、「止めとけ」と言った。



「転移を覚えてまだちょっとだろ?転移を覚えてから行った場所に行くようにしろ。魔力の流れや場所の記憶を身体にしっかり馴染ませろ。転移を覚えたてが一番失敗しやすいんだよ。火魔法の失敗は爆発ですむけどな?転移の失敗でお前、足だけ転移出来ないとかなったらどうする?」


「うわ。珍しく師匠の説明が分かりやすい・・・」


「久しぶりに行く場所も気をつけた方がいいぞ。昔な、転移した時に、転移した先が土砂崩れに巻き込まれて無くなっててな。何も考えずに転移したら空中で落っこちた事がある」


「普通、死にますね」


「まあな。転移する時に転移先が元と変わってないか確かめた方がいいな。私は忘れるがな。転移する時に防御膜を張る準備をして飛ぶといいかもな」


「流石、師匠」



私はコクコクと頷き、転移は気をつけてする事、調子に乗らないことを誓った。


今朝の師匠と話した事を思い出し、移動手段の事で悩んでいる。



「うーん。どうしようかしらねー。転移は使えないとして、乗合長距離馬車で移動しながら隣の都市まで行ってもいいけど、疲れるわよね。お金を掛けて長距離馬車をお願いした方がいいのかしら、馬だけ借りる方がいいかしらね」



私の言葉にウォンっとフォルちゃんが鳴き、ウェルちゃんもピピピと鳴いた。



「なあに?どうしたの?」



フォルちゃんがぶあっと大きくなり、ウェルちゃんも一回り大きくなった。


アルちゃんがフォルちゃんの上にペッとふかふかの絨毯吐き出し、敷いてくれた。



「え、ひょっとして、フォルちゃんに乗って行くの?ウェルちゃんが風魔法を使って、アルちゃんも闇魔法を使ってくれるのね?フォルちゃん、疲れないかしら?それにしてもフォルちゃん、大きくなれるようになったわね。格好良いわ」



フォルちゃんはパタパタしっぽを振って嬉しそうにしてくれる。



「よし。馬を借りるよりもフォルちゃんの方がいいわね。街道の脇を邪魔にならない様にフォルちゃんで行きましょう。ウェルちゃんに上空から見回りをして貰えれば、バッチリね。アルちゃんは影に入ってサポートをお願いね。乗合馬車の視線も気にしないでいいのなら助かるわ」



皆は嬉しそうにコクリと頷き、私は杖を振って魔力をあげた。



「アルちゃん、モラクスさんの本とこの間の本を出してくれる?」



アルちゃんが頷き、ペッと本を出すと私は杖を振った。



「モラクスさーん。ちょっとだけ出てこれますか?」



魔法陣が浮かぶと、ニヤッと笑ったモラクスさんが出て来た。



「なんだ、解決したか」


「はい。私は王都を離れますので、今日は多めに魔力をあげます。暫くモラクスさんを本から出せないかもしれませんので」


「ふむ、旅に出るか」


「あと、これ。国王陛下から確認をとって、この魔術書は私が貰いましたのでモラクスさんにあげますね」



モラクスさんは嬉しそうに目を細めると、汚れた魔術書を手に取り手の中に消した。



「よし、我がお前に貸し一つだな」


「王都にいつ戻って来るかは分かりませんが、他の場所でも魔力は本に注ぎますね。モラクスさんが私に用事がある時はどうにかして教えて下さい」


「そうか。ないだろうが、用事がある時はまた狭間で教える。ではな」



モラクスさんは嬉しそうに頷くと消えた。



ふう、と私が言っていると、コンコンとドアがノックされた。



「ロゼッター?もう準備は終わったのー?」


「はいランさん。何か忘れ物があったら、ウェルちゃんに取りに来てもらいますので、その時はお願いします」


「大丈夫よー。ウェルちゃんはこまめに来て欲しいわー。注文書を預けたいものー」


「ふふ。はい、ランさん。どこでもバンバン作りますよ」


「さ、ロゼッタ。今日はマツさんの所でご飯食べましょ。師匠の奢りよー!!」



ぐいっとランさんに引っ張られて、店をでて玉ねぎ屋に入ると、ジョゼッペさんからチェルシーさん、サミュエル君もいて、店内は光の花で埋め尽くされていた。



「さ。主役の登場だ。ロゼッタの旅立ちだ。皆、今日は飲んで歌え!」



師匠の言葉に、皆が拍手し、口笛が鳴り、歓声が上がった。


私はランさんに腕を引っ張られ、大きなテーブルの席にドンっと座らせられると、マツさんからドンドン料理が運ばれてきた。


私が座って食べだすと、サミュエル君が隣に座った。



「ロゼッタ様!元気そうで何よりです」


「サミュエル君も。今回は本当に有難う。凄く助かりました。サミュエル君も一緒に食べましょう」



へにょんと耳を垂らして、サミュエル君は頷くと私が勧めた骨付き肉を手に取った。



「サミュエル君、何かありましたか?元気がないみたい」


「・・・ロゼッタ様が王都にいないなんて・・・」


「帰ってきますよ」


「冬祭りも戻ってこられるか分かりませんよね?」


「うーん、そうですね。約束は出来ません。転移が出来たら戻ってこれるんだけど、覚えたてだから・・・。そっか、冬祭りも来月ですね。クリスさん達ともお祝いしたいと思ってますから、帰って来ると思いますが・・・」


「分かってます!ロゼッタ様が忙しいのは。冬祭りに戻ってこれなくても僕は勝手に贈り物をしますからね。ロゼッタ様が帰ってこなくても、注文はどこからでも受け付けますし、薬局にロゼッタ様宛の手紙も送りますから。僕は勝手にロゼッタ様を待ってます。ずっと待ってます。うう・・・。頑張って下さい・・・。僕も素敵な洋服や刺繍を沢山作ってますから・・・」



耳をぺしゃんこにしてウルウルの目でサミュエル君が私を見る。



「サミュエル君。有難う。お互い頑張りましょう。すぐに戻ってきますよ。コロン領の仕事が終わったら一度は薬師長に報告もしないといけませんし。サミュエル君の刺繍、私、大好きです」


「ロゼッタさまあーーーー!!うわああーーーん!!」



サミュエル君は泣いてしまったが、皆は優しく見守って私はよしよし、とサミュエル君を慰めた。



「おい、サミー。旅立ち前に湿っぽくすんなよ。お前ももっといい男になれ」



師匠がボトルを持ってドカンとサミュエル君の隣に座り、サミュエル君のグラスにワインを勢いよく注いだ。



「ホグマイヤーさまあーーー・・。うう・・・。僕を・・・。見つけてくれたのがロゼッタ様なんです・・・。最近は街の人も優しくて、帽子が無くても歩けるんです。ロゼッタ様のおかげなんです・・・。うわあああん」


「ああ、こいつ、もう飲んでたな。泣き上戸かよ。まあ、ロゼッタ。ほっとけ」



師匠はそう言うと、サミュエル君の頭をコツンと叩いて魔力を流した。サミュエル君はコトンと寝てしまった。泣いていた目元は赤くて、頬も涙の痕があって私はハンカチで優しくふいてあげた。



「師匠、サミュエル君と仲良くなったんですね」


「ああ。名前を聞いた時に多分そうかと思ってたが、こいつのジジイと昔、やり合った事があってな。一度一緒に飲んだ時に確認したら間違いなかった。あいつの息子が獣人以外と結婚するなんてな。こいつ、猫被ってるが、悪い奴じゃない。猫被ってるのも、偏見から自分を守る為だろうよ」



師匠は私のグラスにもワインを注ぐと自分のグラスにも満たして、グイっと飲んだ。



「さ、ロゼッタも飲んで歌え。サミーは後で起こしてやる。ロゼッタが頬にチューでもしてやれば一発で涙も引っこむだろ」


「ふふふ、引っ込みますかね。あ、ブルワー法務大臣のお孫さんのオリバー君からプロポーズされた時に手にチュッてされましたよ。確かに驚いてしまいましたね」


「ヒヒヒ。ロゼッタやるな。さ、旅立ちは楽しいもんだ!飲んで歌って、楽しく出て行け!そんで、お前はいつでも帰ってこい!お土産つきでな!!」


「はい、師匠!」



その日は皆で楽しく飲んで歌って、知らない人も知ってる人も皆でお酒を楽しく飲んだ。サミュエル君に私は頬にキスはしなかったけど、酔いが冷めたサミュエル君が恥ずかしさで顔を真っ赤にしている姿も可愛らしかった。



次の投稿日は土曜の夜です。

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