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薬師長の頼み 

私の劇を知った次の日。


薬師長から手紙が届いた。



「宵闇の魔女 ロゼッタ・ジェーン様


お元気に御過ごしかな?ジェーン様、近いうちに薬師棟の方に顔を出せるだろうか?儂の腰はすっかり良くなったんじゃが年寄りはなかなかそこまで足が動かないようでしてな。申し訳ないが、配達か何かの次いでで結構じゃからちょっと薬師棟に来て欲しい。年寄りの我儘を許して欲しい。お菓子を用意して待っておるよ。


薬師長 ヨハン・ランガルト」



薬師長の綺麗な癖字の手紙をたたむと私はすぐに返事を出して、その日のお昼過ぎに久しぶりに王宮を訪れた。門番さんに挨拶をすると、皆がとてもにこやかに挨拶を返してくれた。



「ジェーン様、お久しぶりです。お元気そうでよかった」


「お久しぶりです、皆さん。私は元気ですよ。皆さんもお元気そうですね」



薬師棟の方に行く事を告げて王宮を歩いていると、私を見た人たちは皆ほっとした顔をしていた。


噂の後は私は引き籠っていたし、自分が思っている以上に色んな人に心配を掛けたらしい。


そう思いながら歩いていると後ろから声が掛けられた。



「ジェーン様。息災かな?」


「薬師長様。お元気そうで何よりです。御心配をお掛けしましたが、健やかに過ごさせて頂いています」



私が振り向くと、ニコニコ顔の薬師長が立っていて、私は道の端に避けて薬師長に挨拶を返した。



「それは何より。急な手紙で申し訳ない。年寄りの我儘に呆れんかったかな?魔女様を呼びつけるとは、と、陛下から怒られそうだよ。先程、門番が儂に連絡をくれたので、老いぼれのエスコートは嫌じゃろうが迎えに来てしまった。行き違いにならんでよかった」


「いいえ、私も久しぶりに王宮に来れて沢山の方に会えましたから良かったです」


「そう言って貰って良かったよ。では、美しい魔女様。薬師棟へ行きますか」


「ええ。喜んで」



薬師長はゆっくりと腕を出されて私がそこに手を置くと、「ほっほっほ。役得役得」と言いながら、歩き出された。


薬師長と共に薬師棟に入ると、正面に座っていた事務員が私達を見て伝令蝶を飛ばした。沢山の伝令蝶がヒラヒラと各部屋に飛んで行く姿は綺麗だった。


私が受付の方に挨拶をしようと思っていたら、薬師長が正面入り口の前でそのまま止まってしまったので私も一緒に立ち止まっていると、各部屋からドアがバーン!と音を立てて大勢の薬師が飛び出してきた。



「騒がしいのう」



そう言いながらも薬師長は動かず、そのまま私を見てニコニコしていた。



「ロゼッタちゃん来たって?」


「ばか!ジェーン様って呼べって!!」


「あ、いらっしゃるわよ!」



わらわらと皆が一階、二階からホールに立つ私達を見ながら飛び出してきた。



「ジェーン様!お元気ですか?」


「ああ!祝福は素晴らしいものでしたよ!」


「薬師から魔女になられたとはとても素晴らしいです!薬師の誇りです!」


「薬師長がエスコートに選ばれたのは素晴らしいですね!!」


「ふふふ、魔術士と治療師にデカい顔させませんよ・・・」


「ジェーン様!いつも差し入れのお菓子!有難うございます!」



ああ。薬師科で成績優秀だった先輩もいる。同級生で薬師科のトップだったブルームさんも手を振ってくれていた。


私とブルームさんは学園時代に殆ど話した事はないけど、私が薬師になれたのは彼女のおかげかもしれない。


薬師試験を受ける事を教授に報告をすると、「君が?やめたまえ。学園の質が下がるような事は」と言って笑って去って行ってしまい、黙って見送っている私に彼女は声を掛けてくれた。


多分、本当に偶々近くにいて話を聞いてしまっただけだったと思う。私が顔を上げた時に偶然目が合い、私が気まずくて笑おうとしたら、「ジェーンさん。やってみたら?私は貴女は受かると思う。筆記試験と選別試験は確かに厳しいかもしれないけど、魔力はダントツでしょ?実技試験も上手くいけばトップ通過できるんじゃないかしら。受かるかどうか決めるのは王宮薬師様達よ。学園の教授じゃないわ」と言ってくれた。


私はその言葉に頷き、実技試験は運任せにし、筆記試験と選別をとにかく念入りに勉強したおかげで合格できたと思う。


合格発表の日も、彼女は私の名前を見つけてにっこりと笑ってくれた。


私が皆に手を振り返し、彼女に手を勢いよく降ろうとすると、ブルームさんはフッと笑ってゆっくりと私に勇者の礼をした。


すると、ブルームさんを中心にゆっくりと皆が勇者の礼をし、最後に薬師長が静かに礼をした。


私はゆっくりと頷いた後に、皆に礼を解いてもらった。



「皆さん、お久しぶりです」


「ほれほれ、ジェーン様が驚いておるよ」



薬師長がパンパンと手を叩くと皆が姿勢を正した。



「ええ、確かに驚きましたが。皆さん、どうも有難うございます。偉大な先輩達、頼もしい友人達のおかげで魔女になれました。薬師長からも「魔女になっても薬師である」と言って頂いています。これからも宜しくお願いします」



私が挨拶をすると、皆がわあ!!っと杖を振って魔力を飛ばしてくれて、薬師長が一つ頷き皆を解散させた。



「さあ、ジェーン様は儂とお話をされるんだよ。皆は仕事に戻りなさい」


「「「「「はい」」」」」



皆は嬉しそうに返事をすると仕事に戻って行った。


中には手を振りながら戻って行く人もいた。私はやっぱり薬師棟のこの雰囲気が好きだ。


優秀な薬師の中でも特に優秀な人達が集まっている王宮薬師棟。それなのに、薬師長が穏やかで凄すぎるせいか、薬師棟の雰囲気はいつもほんわかとしている。


私もここで働くのは憧れではあったけど、自分の成績じゃ到底無理だった。



「さ。では、儂の部屋へ行こう」



私が黙って頷くと、薬師長室に通され、お茶と美味しいお菓子が出て来た所で薬師長はふむ、と言われて話しだされた。



「お菓子の前に、ジェーン様にお願いがありましてな。コロン領をちょっと見てきてもらえませんかな?」


「コロン領ですか?また何か問題が?」


「いいや、何もありませんよ。あれからどうなったか報告は上がっていますが、ジェーン様に見てきて頂きたいと思ったのですよ」


「森の調査ならランさんの方が向いていると思いますが」


「如何にも。なので、調査はそんなに必要ないのです。()()()にコロン領を見てきて頂きたい」


「私が行く事が大事なのですね?」



薬師長は頷かれ、お茶を一口飲まれた。



「問題があった街は、一生懸命に復興をしようとする。でも、時間が経つと、皆疲れが出てきてしまうのですな。まだ、ジェーン様がこちらに帰られて日が浅い。そんな時にジェーン様がコロン領を訪れる事で、背筋が伸びる者、忘れられてないと喜ぶ者、色々です」


「いいですよ」


「・・・ふむ。ジェーン様はやはり、王都を出て行かれますか?」


「はい。つい先日、師匠に許しを貰いました」



コクリと私が頷くと、薬師長はひげを触って頷いた。



「暗緑の魔法使い様は王都に御住みではなかったが、お披露目の後は旅に出て行かれた。白群の魔法使い様は王都に御住みでしたが、嫌な思いをなされ、今は別の場所を拠点とされている。ジェーン様は薬局があるので、出て行かれるかは半々だと思ってたが」


「皆に迷惑を掛けたくないですからね。転移が出来ますのでいつでも戻れますし。師匠からも、いつでも戻ってこい、と言って頂きました。たまに帰って、師匠の工房の掃除をする役目を貰いましたよ」


「それはそれは。ラン嬢も、ホグマイヤー様も寂しくなくて結構です。儂の顔もたまには見て頂きたい」


「ふふ、勿論」


「ジェーン様は拠点の目途があるのかな?」


「いいえ、これからです。せっかくなので、コロン領に行くまでも色々見て回って、その後も、ゆっくり国中を回ります。師匠の知り合いの方に挨拶をしてもいいですね」


「ふむ、楽しんできておいで。では儂からプレゼントを。ジェーン様は魔女様であらせられるから、必要ないじゃろうが、これを渡しておこう」



薬師長は金色の指輪を私の前に置いた。



「王宮薬師棟の指輪だよ。皆は銀色だが薬師長になると自分の好きな色に出来るので儂はコレ、赤銅色だよ。ジェーン様にはやはり、金色が似合われる。各領地の薬師事務所や図書館はこれを使うと楽ですぞ。まあ、記録が残るという点はあるが、薬師関係の施設にはこれで自由に出入りできるよ」



リングを持つ薬師長の骨ばった手は少し震えていた。リングを革紐に着けて私に渡すと、薬師長は嬉しそうに笑った。



「王都を離れられても、儂らはいつでもジェーン様と同じ、薬師仲間。魔女様だからと抱え込まず、困った時はいつでも我らを頼って下さい。国中の薬師はジェーン様の仲間です」



私は目を丸くして、薬師長を見て私が差し出した手の上にポトリと落とされた指輪をぎゅっと握った。



「あ・・・有難うございます。大切に使わせて頂きます」


「ほっほっほ。さ、美味しいお菓子があるよ。楽しいお茶会と参りましょうか」



うんうん、と薬師長は頷き、ほっほっほと笑われた。




次の投稿は水曜日です。

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