お兄さん達にお手紙を
観劇の話には驚いたが、皆が楽しそうに話しているのは私も嬉しかった。最近は嫌な話ばかりだったもの。
ランさんと話した後、さてと、と、私は二階の部屋に戻りジロウ隊長、ハワード隊長からの手紙を読み返す事にした。
二人共ブルワー法務大臣やハヤシ大隊長に叱られただけではなく、ハワード隊長はライラさんからも叱られたようだ。ライラさんから、メリア産の綺麗な扇子と共に送られてきた手紙には、私を心配する事と謝罪が書かれてあった。
「ライラさんも元気そうで良かった。今度のど飴と石鹸を贈ろう。それにしても、謝って欲しいわけではないのよね・・・。心配を掛けて申し訳ない気持ちは私も一緒だけど・・・」
私はアルちゃんを撫でながら、ペンをコツンとおでこにつけてアルちゃん達に話し掛けた。フォルちゃんは私の脚にしっぽをパタパタとぶつけて、ゆっくりと寝そべった。
「ランさんは正直に書けばいいって言ってたわね。そうね、正直に言うと、私も謝りたいわね。迷惑を掛けたのは私も同じだし。隊長達が悪いってランさんもライラさんも言うけど、私が原因よね?でも、私が謝ってもきっと、いいえ、私が、自分が、とか言いそうよね?」
アルちゃんはペッと舌を出した後にインクの蓋を開けてくれ机の上をサッと片付けてくれた。フォルちゃんは私の言葉に首をプルプルと振って耳を伏せた。
「有難う。心配してくれてるのね。大丈夫。師匠が私は悪くないって言ったでしょう?師匠の言う通りだと思うの。私も悪くない、だから隊長達も悪くない」
窓を開けるとスズメがピピっと鳴いて、ウェルちゃんは窓の外に出てスズメとおしゃべりをしていた。
「そもそもの原因は私なの。確かに一番悪いのは呪術を掛けた人だし、噂を面白可笑しく流した人だわ。でもその人達はもう罰を受けるのだから、私達はもう謝罪をしなくていいのよ。迷惑を掛けたお詫びは必要だけど。ランさんが前、言っていたの。「親しき仲にも礼儀あり」ですって。仲良くなる程ちゃんと感謝を伝えないと駄目だって言ってたわ」
アルちゃんが私の肩に乗り、ペロっと舌を出してウインクをした。
「王都を出る事も決めたし、ちゃんと手紙を書きましょう。二人に会う事も少なくなるのかしらね、ああ、寂しいわね。二人の手紙、沢山来てるのよね・・・。一番最初に来ていたものは・・・」
私は二人の手紙をガサガサと広げた。
「ロゼッタ嬢
この度のロゼッタ嬢の噂を流した犯人がレーモンド子爵夫人であり、自分が原因であったと報告を受けました。誠に申し訳ありません。お会いして謝罪をしたいと思っていますが、ハヤシ大隊長よりロゼッタ嬢の接近禁止が解けるまでは名無しの薬局に近づく事も出来ません。呪いのハンカチの事も報告を受けました。今回の事件、情けない事ですが何もお役に立てず申し訳ありません。謝るだけで足りないのは重々承知しております。
ニコラス・ジロウ」
「ジェーン嬢
ジェーン嬢と私が噂にあったと報告を受けました。また、呪いの禁呪も私のせいであったと。誓って、その令嬢と私には何もありませんが、ジェーン嬢を危険な目に晒した事はどのように償えばよいでしょうか。ハヤシ大隊長より接近禁止が出ました。ジェーン嬢が一人になりたいと言われていると。この様に手紙で謝罪をした所で、ジェーン嬢の傷が癒える事はないのですが。お会いしたいです。本当に申し訳ありませんでした。
ライアン・ハワード」
ああ、二人とも重いわ。
ずどーんって感じの重さが手紙から伝わってきちゃう。
二人共謝罪隊長になってるわね。
手紙はその後も沢山届いている。贈り物も。ジロウ隊長からはレースのリボンにお菓子に栞に魔獣全集。ハワード隊長からはガラスペンにインクにぬいぐるみにお菓子。
「手紙から凄く重い気持ちが伝わるわよね・・・。ベンさんが気持ちに魔力が乗るから、手紙を解析の練習にしたらいいって言ってたわね。この手紙は解析しなくてもジロウ隊長とハワード隊長の手紙で間違いが無いけど」
魔力の扱いの練習にもなるって言っていた。手紙に残っているわずかな魔力。それを練って解析をする。
「やってみよう。解析」
私は杖を振ってジロウ隊長の手紙に魔法陣を浮かせた。
最近、レオナルド王子様のレポートを読んだり呪いの解呪について勉強をしているせいか、解析が上手になってるはず。ベンさんにお手本を見せて貰った時は手紙の上に相手の名前が相手の魔力の色で浮かんでいた。
「さて、どうかな」
魔法陣の中にモヤモヤと文字が形を作っていく。そして魔法陣の中に頭を垂らしたスレイプが浮かんだ。
「あらら」
私はもう一度杖を振って、ハワード隊長の手紙にも解析を掛けた。
「うわ」
飛竜がうつぶせになって、ピクリとも動かない。
私の魔術が下手だからか名前が出てこず、飛竜とスレイプが出てきてしまった。魔力の色・・・は出てるのかな、スレイプにも飛竜にも色が着いている。それに、表情や態度が分かるのなら、解析は成功でいいのかな。
隊長達の様子がコレなのかしら。この飛竜、死んでは無いわよね。
私は杖を振って、スレイプと飛竜を消した。
「隊長達の名前を出す事は出来なかったわね。手紙を書いた時の様子が出たのかしら?うーん、まだ上手くいかないわね。ベンさんにまた教えて貰いましょう。それにしても第四と、第五は大丈夫かしらね?」
私はそう言いながら、ペンを持ち直すと手紙を書きだした。
「ジロウさん
お元気ですか?手紙の返事が遅くなってごめんなさい。私が店に籠って心配をかけてしまいましたね。贈り物を受け取りました。有難うございます。私からも贈りますね。今回の事でジロウさんは謝らなくていいですよ、一緒に出掛けた件で私の事件にジロウさんを巻き込んでしまったのですから。謝罪合戦はもうやめましょう。私との噂も私が気付かなかっただけで、ジロウさんは以前から言われていたのでは?迷惑を掛けていたのではと今更ながら思いました。困った事があったら言って下さいね。
あと、私は王都を出ていきます。でも、名無しの薬局には戻ってきます。国内を暫くは回るつもりです。何処かで会えるかしら。ウィリデさんにも宜しく伝えて下さい。身体に気をつけて下さいね。また連絡します。
ロゼッタ・ジェーン」
「ハワード隊長
手紙を受け取りました。謝罪も受け取ります。でも、私は怒ってないのです。私を送って頂いた時があったでしょう?あの時一緒にいる所を見られてハワード隊長は事件に巻き込まれたのです。私からも謝罪を。巻き込んでごめんなさい。だから、謝るのはお互いこれで終わりにしましょう。それに、ライラさんからも叱られたのでしょう?ライラさんから私に手紙が届きました。凄く怒られたんじゃないかしら?ハワード隊長も気にしないで下さいね。いつも気にして貰っている事は感謝しています。贈り物、有難うございます。私も贈ります。
ライラさんから聞いてるかもしれませんが、私は王都を暫く出ます。国内を回るつもりです。ネーロさんにも宜しく伝えて下さい。
ロゼッタ・ジェーン」
私は二人の手紙を書くと、封をしてウェルちゃんに預けた。
ジロウさんにはウィリデさんとおそろいの組紐を。ハワード隊長はネーロさんとおそろいの組紐を贈った。私の魔力を入れ込んだ紐を編んだ物なので、どこか好きな所に着けて欲しい。
「ウェルちゃん、王宮の軍団の事務所にお願い。スズメさん達、いつも見回りご苦労様。パンを食べる?」
私がパンをアルちゃんに渡すと、アルちゃんは近くの木にパンを乗せてくれた。
スズメ達はピピっと元気よくパンを食べだした。
私はスズメ達を見て、ハワード隊長とご飯を食べに行く事は出来るのかなと思い、綺麗な空を見上げたら「空が高いですね」と言ってジロウ隊長が空に向かって背伸びをしていたのを思い出した。
次の投稿日は土曜の夜です。