王妃様のお茶会 ブルワー夫人視点
時期的には悪女事件のすぐ後位です。
本日、私宛に王妃様とのお茶会の招待状が届いた。主人に何事だろうか?と訊ねるが、元大隊長、現法務大臣で賢いはずの主人は女性の話やお茶会になるとまるで頼りにならない。
「王妃様から儂の方には奥方をお借りしたいとしか、手紙が来ておらぬ。ポーションバッグが話題になっておるようだからその事ではないか?ジェーン様のポーションバッグは素晴らしいな!儂達は特別だから、皆に羨ましがられる。ハッハッハ!」
「左様でございますか」
私は当てにならない主人に返事をしながら、ポーションバッグを持っていく事を頭に入れた。
王妃様への手土産一つにも気を遣う。考えた末、以前、名無しの薬局から私が贈られた、というのが良かろうと私は注文書に手紙を添え、名無しの薬局へと魔鳩を飛ばした。
その後、すぐにラン様から丁寧な手紙とハンドクリームや、石鹸、のど飴や脱毛剤が美しい箱に入れられて説明書と一緒に送られてきた。
私が購入した物よりも一つずつ多く送られてきており、添えられた手紙には「傷薬やポーションはご家族へどうぞ。注文された商品は一つずつ多めに入れております。これは当店のサービスです。宜しければブルワー夫人も王妃様に渡される前にお使い下さい。今後も御贔屓に」と書かれてあった。
ああ、のど飴や脱毛剤は使った事が無い、王妃様に質問された時に助かるわ。
商人では新商品をサービスで頂いたりするけれど、流石ラン様だわ。
ああ、それにしても、本当に何のお茶会なのかしら。
もやもやしたまま時が過ぎ、あっという間にお茶会の日となり、私は王宮内の王妃様のサロンへ案内された。座ってお茶を飲んでいる王妃様に腰を落として挨拶をすると王妃様がカップを置いて話し掛けられた。
「ブルワー伯爵夫人。来てくれて嬉しいわ。突然ごめんなさいね」
王妃様のサロンに入ると、そこには王妃様と王妃様の姪の侯爵令嬢、王妃様の姉の侯爵夫人、それに筆頭侯爵家の夫人がすでにいらっしゃった。
我が家よりも全て家格が上の方ばかり。私は内心、本当に当てにならない主人に八つ当たりをしたくてたまらなかった。
「アリス・ブルワーが王妃様にご挨拶を申し上げます。本日はお招き下さり有難うございます。遅くなりましたでしょうか?」
「いいえ。私達が早かっただけよ。楽にして、どうぞ座って頂戴」
私は腰を一度戻し再び礼をして、皆にも挨拶をし、座る前にもう一度礼をした。
「気楽にして頂戴。今日は内輪のお茶会なのよ」
「有難うございます」
そう言われて気楽に出来る訳ではないが、ふっと肩の力を抜くふりをする。
我が家と王妃様は特別仲が良いと言う訳ではないが、派閥間のトラブルもない。主人や甥が要職に勤めているので、その付き合いがある程度にとどめている。
このメンバーを見ると王妃様と本当に仲の良い方のみ。それならば猶の事、何故私が呼ばれたのか。
私がお茶を一口飲むと、王妃様はその様子を見られ話しだされた。
「ふふふ。そうは言っても急に声を掛けたから驚くわよね?今日のお茶会の話は宵闇の魔女様の事なのよ。最近、魔女様の噂を流す不届き者がいたのよ。もう、捕らえたわ。貴女の夫も動かれてたでしょう?煩く鳴いた愚かな小鳥は青い鳥であったの。巣の中の親鳥の事も考えないといけないのよ。禁じられた歌まで歌い、小鳥が愚かな事に美しい竜に噛みつこうとしたのよ」
ふう、っと溜息をつかれて、周りに目配せをする。
「少し前から大魔女様から噂をどうにかしろ、と言われていたの。お茶会を通じて噂を探ったり、新しい魔女様の噂を広めてみたの。大魔女様からは、「お前の好きに動いていい、とにかく貴族の女共をまとめろ」と言われていたのよ」
私が来る前に他の者は聞いていたのか、皆は黙って頷いている。
私もゆっくりと相槌を打つ。
「それでね。困っている時に王立劇場の監督が私に会いたがっていると姉から話が来たのよ。魔女様を主役にした劇を作りたいけれどどうだろうか、と。脚本を読むとなかなかいいのよ。で、これだわ!と思ったの。ホグマイヤー様に劇の事を相談すると、「面白そうだな、やれ」と許可を頂いたわ。、貴女はジェーン様と面識があるのでしょう?かの方のお好みや普段の御様子をご存じではないかと思って呼んだのよ」
「左様でございましたか。たしかに我が屋敷で訓練はされましたがジェーン様とは私も二回程しかお話はしたことがございません。それでも良いのでしょうか?」
「ええ。お話を出来ただけでも十分だわ。でね、私の友人、姪、この子達の共通の趣味は観劇よ。で、脚本を少し変更して貰う予定なの。悪女を登場させて、戦いと恋の話に変更して貰うわ。勿論ただの劇よ。現実とは違う。でも劇を観た客達は、今回の騒動をこのようなものだったのだと思ってくれると思うの」
侯爵夫人達も力強く頷く。
「それに、今日貴女が持って来てくれた手土産。名無しの薬局の物でしょう?名無しの薬局とも懇意なのね?」
「懇意と言って宜しいかは分かりませんが、以前、ジェーン様より手土産を頂きまして、本日はそれと姉弟子のラン様のおすすめを献上させて頂きました」
「まあ、ラン様ともお話をされているのね」
皆が「姉弟子様とも・・・」と、侍女に渡しておいた手土産を王妃様の指示でテーブルに持ってこさせ、皆で見ていた。
「やはり貴女に協力して欲しいわ。ジェーン様の御様子を伺いたいのよ」
「私で宜しいでしょうか」
「勿論。ジェーン様と貴女が話された感じや人柄なんかを教えて欲しいわ。劇は出来るだけリアルにしたいの。美しく、頑張り屋の素敵な魔女様のお話しにしたいと思っているわ。嫌がらせをするのは悪い貴族の男と金持ちの平民の嫌な女にしましょう。それが悪女ね。現実の話とは少し違う様にしなければいけないわ。貴族ばかりを悪役には出来ないものね。今、皆は宵闇の魔女様の話に夢中でしょう?劇も流行ると思うのよ。この劇の許可は名無しの薬局の姉弟子様にも取れているの。脚本と女優が気に入らなけば駄目なのだけど。ラン様とも貴女に架け橋になって欲しいわ」
「かしこまりました。お役に立てるように努めます」
「良かったわ。では、話を進めましょう」
私に断る事なんて出来ないだろうが、少しでもジェーン様の為になるならばと、ジェーン様の様子を話した。
とにかく私が感じた圧倒的な強さ。そして、若々しく初々しい様子。私に差し出してくれた手土産。
孫と語らう可愛らしさ。光魔法や風魔法を優しく杖を振り、屋敷から眺める私にも見せて頂いた事。思いやりがあり、気高く美しい魔女様であったと。
そしていざ訓練が始まると我が夫でも手も足も出ず、簡単に転がし、美しい髪をなびかせて片手でひねるように、夫達は手も足もでなかった。余りある強さは美しい物であると思う。今、話題の若き隊長達も使い魔殿達に転がされていて、夫達はジェーン様の事を「聖典の戦乙女のようであった」と言っていたと説明をした。
皆は驚き感心し、そして目をキラキラさせて話を聞いていた。
「まあ・・・。天の御使いですの?・・・」
「素晴らしいわ・・・流石、大魔女様のお弟子様ね・・・」
「女神様のようね・・・訓練を見学出来ないのかしら・・・」
王妃様は扇をパチンと閉じると、近くの侍女を呼んだ。
「ジョージかルーカス、レオナルドを呼べる?急ぎよ。緊急で蝶を飛ばして頂戴。私の呼び出しなら言い訳をして断るかしら。宵闇の魔女様の件と伝えて頂戴」
話しを終えると、私達の方に向き直った。
「劇団の練習の時に、ブルワー夫人、貴女は見学して頂ける?宵闇の魔女様の事を劇団員にも伝えて欲しいの。魔女様に関しては魔術に詳しいレオナルドが一番いいだろうけど、あの子は予定を入れづらいわね。ルーカスがいいかしら。衣装の相談や、化粧の相談はルーカスがいいでしょう。誰かすぐに来てくれたらいいけど」
お茶とお菓子を食べ、流行りの化粧や、どの女優が宵闇の魔女様役にふさわしいか等を話していると、ルーカス王子様がやってこられた。
「母上。お呼びとの事でしたが、美しいご婦人達のお茶会に私が混ざっても宜しいのですか?」
「ああ、ルーカス。ごめんなさいね。ジョージとレオナルドは来れないと今連絡があったの。貴方が来てくれて嬉しいわ」
「ええ、宵闇の魔女様の事と言われてましたからね」
「貴方にお願いがあるの、名無しの薬局のラン様と連絡を取って欲しいの。王立劇場で新しく魔女様の劇を行う予定なのよ。そこで、劇団の女優や俳優、衣装の希望等をラン様と話をして欲しいの。灰茶の魔法使い様も芸術に造詣が深いから、良ければ魔法使い様とも話をしてくれる?宵闇の魔女様の事で王都の民は心配しているわ。一気に、宵闇の魔女様のイメージをアップしたいの。ホグマイヤー様のお願いでもあるわ。魔女様の劇だもの、王族が関わらないといけないと思うのよ」
「楽しそうな話ですね。私の外交の代わりを見付けて頂けるなら三か月程都合を着けましょう。後、他にも私の希望を聞いて頂けますね?」
「ええ、いいわ。私からも陛下に宵闇の魔女様の一大プロジェクトとして話をあげましょう」
ルーカス王子様は美しくニコリと微笑まれると、指を組んで頷かれた。王妃様は扇子をパチパチと動かすと、ルーカス王子に一つ頷いた。
「これからジョージとレオナルドにもお願いするわ。私一人ではとても無理ね。貴方からも二人にお願いして頂戴」
「かしこまりました。私からホグマイヤー様とラン様に手紙を出しておきましょう。魔法使い様達にも連絡をしておきます。では、さっそくジョージの所へ行って参ります」
ルーカス様は美しく礼をすると、部屋を出て行かれた。
「ふう、あの子が一番分かり辛いわ。でも、ルーカスが手伝ってくれれば私達と名無しの薬局の架け橋になってくれるし、大丈夫でしょう。私達は色々アイデアを出して劇団にお願いをしましょう」
皆が頷き、目をキラキラさせていた。
私も胸がドキドキする。
素敵な舞台にして、ジェーン様が傷ついていると言う噂を払拭して差し上げたいと思った。
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