旅立ちの前に
第七章もよろしくお願いします。
私が師匠と薬局に帰ると、ランさんはニコニコ顔で手紙を読んでいた。
「只今戻りました。ランさん。ご機嫌ですね」
「師匠、ロゼッタ、おかえりなさーい。師匠、ベンさんからお菓子を頂いたので師匠の分は工房に置いてますよー」
「ああ。じゃあ、私は奥に籠るか」
師匠はランさんの言葉にヒラヒラと手を振ると「菓子食って寝る」と言って工房に入って行った。私は師匠に挨拶をして、急ぎの注文が無いか錬金釜の横に立った。
ランさんは手紙をたたむとヒラヒラと手紙を振った。
「うふふ。ロゼッター。がっぽがっぽよ。ブルワー法務大臣からお金の話の手紙だったわー。刑に関しては私は言う事はないし、ロゼッタが納得したのなら後の貴族の処分は国王陛下に任せましょー。さー、こっちは新しい噂を流すわよー」
「え?まだ、噂を流すんですか?」
「ロゼッター?お掃除は徹底的によー?あ、コレ、ロゼッタ宛の手紙よー」
「有難うございます」
私は錬金釜に急ぎの注文書が無いのを確認すると、ランさんから手紙の束を受け取った。
「ランさん、噂は落ち着いたんですよね?」
「そうねー。魔女様に憧れて自滅した悪女の噂があるのはロゼッタは知ってるかしらー?」
「悪女の噂ですか?」
私は思わず顔をしかめてしまった。
本当、噂って消える事はない。皆、噂話が好きね。
「そうよー。今回の犯人をそう呼ぶらしいわよー。師匠から教えられたんだけど師匠が王妃様にお茶会で噂を広めるように言ったんですってー」
私は手紙をマジックバッグに入れると、カウンターの前の椅子に座った。
「師匠が王妃様に?」
「そうよー。宵闇の魔女様を悪女に仕立て上げようとした愚かな女がいたけれど、偉大なる大魔女様、魔法使い様を中心に王都の善良な民は馬鹿な噂を信じず、女は自滅したって噂らしいわよー。そしてその女こそが悪女だって話ねー。まあ、王家のイメージアップもあるんじゃないかしらー?」
「おお・・・。なんだか、突っ込みどころがあるようなないような・・・。その噂は師匠が考えたんですかね?たしかに師匠は偉大な大魔女ですが」
「師匠は考えてないわねー。きっと、「おい、なんかいい感じの噂を流せ」とか、そんな感じじゃないかしらー?王妃様か、タウンゼンド宰相辺りが考えたのかもね?今回の件は師匠が出なかったってのが、ロゼッタの成長って事よー」
「ランさん、師匠のモノマネ上手ですね。私も師匠に一歩、近づきましたかね?」
「半歩ってとこかしらー?」
私は成程、と頷きながらカウンターの脚が長い椅子から降りた。
「噂も大事だけど、王宮から注文が来てるわよー。レオナルド王子様お気に入りの甘い蜂蜜のど飴、頑張って作ってねー。王妃様がお茶会で勧めて、大量に注文が入ったの。王妃様のお茶会も役に立つわねー」
「ランさん、堂々と不敬は止めて下さいね・・・。まあ、王妃様が余計な事を言う時は私もやっつけますけど・・・」
私がランさんから注文書を受け取り確認しているとランさんが横に立った。
「ロゼッター。王家からの注文は多いけど、急ぎじゃないわー。今急いで作らなくて、出来上がったらウェルちゃんで名無しの薬局迄送ってくれてもいいわよ?」
私はバッとランさんを見ると、ランさんはパチンとウインクした。
「師匠と話は出来たんでしょー?旅立ちの日が決まったら教えてねー?ちゃんとジルちゃんとウェルちゃんで商品の受け渡しは出来るようにしましょうねー」
「ランさん?」
「ロゼッタがモンモンして、眉間に皺寄せているんだからすぐに気付くわー」
「ランさん・・・。さっき、師匠と出かけた時に店を出る許可を貰いました。ただ、いつでも戻って来ていいって言って貰えたんです。今迄通り、工房の掃除の仕事も貰いました。ランさん、これからも宜しくお願いします」
ランさんは頷くと、うんうん、と言って、私の髪をサラッと撫でた。
「やっぱり、師匠はそう言ったのね。ところで、仲良し隊長達には連絡をしたのー?手紙は来てたでしょー?」
「・・・はい。謝罪の手紙が来ました。ハワード隊長からも、ジロウ隊長からも。二人とも知らない所で噂が流れて、巻き込まれたので二人とも被害者なんですけどね。私は二人を守る事は出来ませんでした。皆を守りたいのに、まだ弱いですね」
私の言葉にランさんは首をコテンと傾げた。
「ロゼッタはー、優しいからそう言うかも知れないけどー。私は隊長達は被害者で加害者でもあると思うのー。だって、いい大人だもの。ロゼッタより年下なら許してあげるけどー。隊長職のいい大人よ?気付きませんでしたー。知りませんでしたー。ロゼッタに守って貰うなんて、馬鹿だわー。ただ、被害者であるのも認めてはあげるわ。脇がガバガバに甘いけどー」
「相変わらず、ランさんは二人に厳しい・・・。まあ、二人ともお兄さんですけど。なんだか、謝られるのも辛くって。二人共辛いんだろうな、とか、隊長だから大変だったかな、とか。あと・・・、また私、間違えたのかな、とか・・・。色々考えてしまって会い辛くて結局会ってないですし」
「ロゼッター?そう思っているのなら、手紙は出した方がいいわー。ロゼッタが隊長達を切りたいならもう連絡しなくていいけれどー。少しでも仲良しと思うならロゼッタは連絡を取って自分の気持ちを正直に伝えた方がいいと思うのー」
「正直にですか?」
「そうよー。別れる相手なら正直に言う必要はないわ。わざわざ指摘してあげる必要もないの。時間の無駄よー。でも、これからも付き合っていくのなら、ちゃんと相手に自分の気持ちを伝えて相手の声も聞いた方がいいわ。会話は大事ねー」
私はコクンと頷く。ランさんは胸の前で腕を組んで指を一本立てた。
「成程・・・」
「別に深く考える必要はないのよ?試しに手紙を書いてみたら?きっと、あのへなちょこ隊長達はモダモダしてるわよー。ハヤシ大隊長と、ブルワー法務大臣から名無しの薬局に接近禁止が出ているものねー」
「あ。私が誰とも会いたくないって言ってしまってるから・・・。ランさん、知らない事がないですね」
「それとロゼッタ。これからも薬局は簡単に辞めさせないわよー?師匠みたいにウロウロするんでしょー?ちゃんと出張手当を着けてあげるわー。給料も少し上がるわよ?」
ランさんはふふふ、と笑って、アルちゃん達にもウインクをした。
「頼りになる使い魔ちゃん達もいるし、ウェルちゃんで使い魔便をして貰うなら配達料は皆にもあげましょうねー。皆も名無しの薬局の一員だものねー?自分のお小遣い欲しいわよねー?」
三匹も嬉しそうにランさんの言葉に頷いていた。
「ランさん!給料アップ、嬉しいです!」
「そうよー。だからロゼッタ、辞めちゃだめよー。多分、凄く注文もまた入るようになると思うの。ポーションバッグも凄く注文が入ったのよ?今度は魔術局からよー?サミュエル君も頑張るんだから、ロゼッタも頑張ってねー」
「はい、ランさん。特別ボーナスも期待します」
「ふふふ。任せて。ロゼッタはー、名無しの薬局の宵闇の魔女よ。そして、私の妹弟子なんだから貧乏な魔女になんかさせないわー」
「はい、ランさん」
「ロゼッタ、新しく販売先を見つけた時はガンガン売ってきていいわよー?」
「はい、ランさん!沢山売ってきます!!営業も頑張ります!!」
「ふふふ、さー。ロゼッタは奥で手紙を書いたらいいわー」
ランさんは「もっと驚く事があるわよー」と言っていて、何か気になっていたが、それはすぐにサミュエル君が持って来てくれた紙で知った。
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