逃げるんじゃない、旅立つんだろ?
師匠の使い魔ちゃん達はお久しぶりなので、紹介です。
ジル・・・黒猫使い魔(今は薬局か、ランさんの側にいる事が多い)
バル・・・黒蛇使い魔
ギル・・・黒蝶使い魔
王宮から戻って少しゆっくりとした後、私はキッチンでお菓子を食べてる師匠に訓練をお願いした。
「師匠、私の攻撃魔法を見て貰っていいですか?」
「なんだ、ロゼッタ。暇になったのか。じゃあ原っぱでも行くか」
師匠はそう言いお菓子を一口で食べると、私を連れてあっという間に野原に転移をした。
「ロゼッタからのお願いは珍しいな。どれ、お前の新しい武器を見せてみろよ」
「はい、師匠」
私はハルバートを出し、思いっきり魔力を出した。辺り一面を金色の魔力粒子で覆っていく。
「ほう、ロゼッタ。格好いいなア」
師匠はニヤリと笑って、杖をコツンと地面で叩くと魔法陣を出した。
「私は手を出さん。好きに打ち込んでこい」
「はい、師匠」
私はクズ水晶を撒き、魔力を散らした。
ニヤリと笑う師匠が、怖い。全力でいかないとやばい。手を出さないと言われてるのに、圧が凄い。
私は、ふうっと一つ息を吐くと、ハルバートを思い切り投げた。
「雷」
ドガーーーン!!!っという音と同時に雷を師匠めがけて撃ちこんだが、師匠は防御膜と風魔法、他にも何か使ったのかケロリとして杖を振って喜んでいた。
「おお、ロゼッタ。雷、恰好良いな。お前もなかなかやるな。今度、第六の熊の所にいけ。それでぶっとばしてみろ。紹介してやろう。なあ、海に雷を撃ったらどうなるんだ?ヒヒヒ」
「はあ、もう、悔しい。師匠は少しも焦げませんね」
私は次にダガーを使って、水矢や火球、土壁を見せ、影縫いを上手くするために一時的に光魔法で影を強くすると師匠は頷いた。
「いいな。考えて行動しているな。魔力はもっと絞って一気に出せ。キュッとして、ピュッとした感じだ。おい、お前らも見せろ」
「師匠、その説明じゃ分かりません。あ、風魔法と火魔法を一度に使うとどうですかね?」
師匠はアルちゃん達にも訓練をさせ、煙草をふかしながら時々火球を打ち込んでいた。皆、武器を使いながらギルちゃんと師匠に相手をして貰っていた。私はダガーをバルちゃんに打ち込みながら、合わせ技を師匠に見て貰った。
「おお、ロゼッタ、いいぞ。竜巻の威力を抑えて、火球を一度に打ち込むか。火魔法の竜巻みたいになるな。水や、闇でも使えそうだな。なんでも試してみろ」
嬉しそうな師匠をみて、私は口をぎゅっと一度結んでダガーを回収すると口を開いた。
「師匠、私は王都を離れます」
「そうか。ロゼッタ、気をつけろよ。じゃあ、第三のランディにも連絡をしといてやる」
「・・・」
「軍団と仲良くしておくと、便利だぞ。面倒な事に巻き込まれたら、隊長を呼び出して丸投げ出来るからな。海の近くは、熊。田舎は第三。王都は第二。教会は第一。まあ、第四と第五は、お前が呼べばいつでもどこでも駆け付けるだろ。貴族とやり合う時は騎士団が便利だ。ダンに全部丸投げが早いがな。ジョージでもいいな。ああ、お前はクリス達魔法使い三人を呼び出して丸投げという手もあるか」
師匠は可笑しそうに、ヒヒヒと笑うと、煙草を咥えて火を点けた。
「・・・私は師匠の様に上手く出来ませんよ。なので・・・これからも仲良く出来るかわかりません。距離感って難しいんですよ・・・」
「なんだ。なんか気にしてんのか。変な所で意気地が無いな。いいか、今回の事はお前に悪い所は一つもないぞ。アホな女共が勝手に自滅したんだ。ロゼッタ、お前が気にするところはそこじゃない」
「・・・・・」
「ロゼッタ、お前が男の扱いが下手なのは悪なのか?お前が振り回されんなよ。お前が振り回してやれ。勝手に相手に期待すんな。お前の好きに転がしてやればいいんだよ。ランを見習えよ。あいついっつもなんか貰ってるぞ?でも、貢いでる奴らは幸せそうだ。お前はクソ真面目だなア。男共を侍らせて、顎で使ってやればいいじゃないか。文句言ってる奴なんて無視すりゃいいんだよ。気になるなら力で黙らせろ。お前より強い奴なんていないぞ?」
師匠は煙草を吸い込むとプハーっと煙を吐き出し、師匠はまた話し出した。
「周りの雑音にお前がガタガタすんなよ。ロゼッタ、お前はお前の見たもの、聞いたもの、感じたもので決めろ。お前の気持ちをしっかり持てよ。お前はなんだ?白金の魔女の弟子、宵闇の魔女だ。お前は私の次にいい女になるんだろう?お前はお前の好きにしろよ。で、好きにしたならお前の責任だ。後悔しても、人のせいにすんなよ。自分の後始末は出来るんだったなア?私は酒飲んで歌っていいんだよなア?」
「はい、師匠」
「あと、ランはラン。ロゼッタはロゼッタだ。ランが魔女になりたいなんて言うか?魔女のお前を妬むか?お前は何を焦ってるんだ?」
師匠はギルちゃんを大きくし、ドスンとその上に座ると胡坐をかいて頬杖をついた。
「大切なものが増えたか。欲張りになったか。強さが分かり恐れを感じたか。いいか、お前の手の中で守れるものだけにしとけよ」
「はい・・・師匠・・・」
「ロゼッタ、お前なんで泣きそうな顔してんだ?」
「泣きませんよ。ただ、少し、顔を顰めているだけです」
「お前のその顔、ブスだな」
「ひどい、師匠。・・・名無しの薬局を出て行くのですから、こんな顔にもなります」
私は眉間に皺をよせ、涙を落とさないように口をぐっと閉じた。
「はあ?お前の部屋はそのままでいいぞ。二階は掃除してるんだろう?食い散らかして出て行ったらランが怖えぞ。ああ、私の工房も今迄通り好きに使え。外でモラクスを出す時は気をつけろよ。たまには店に顔を出せよ。隣のジジイや裏のババアが煩せえからな。なあロゼッタ、お前の居場所を増やすだけだ。お前は私の弟子だぞ?いつでも戻ってこい。ついでに私の工房の掃除もしておけ」
「・・・はい、師匠・・・」
「珍しい物や、美味い物を見つけたらすぐに送ってきていいぞ。ランもお前に仕事を回すだろ。小さい錬金釜は持っていけよ。注文書が送られてくるぞ。お前、給料いるだろ?金は裏切らんぞ」
ヒヒヒと笑って、師匠はプハーっと煙草の煙を吐き出した。
「ロゼッタ。お前、どこ行くのか決めてるのか?」
「はい、師匠。三枚程、呪物が回収出来てないそうなので主要都市に祝福を掛けに行こうかとは思っています。あとは、色々見て回ろうかと。色々な場所を回ったら転移も楽に出来そうです」
「そうか。好きにしろ。でも海はいいぞ。ロマンだな。ロゼッタ、お前は逃げるんじゃない、旅立つんだろ?いいか、お前は帰る場所が増えるんだ」
「はい・・・師匠・・・」
私が下を向きそうになると頭をバチコンと杖で叩かれた。
「痛い・・・」
「ロゼッタ、情けねエ顔見せるなよ?お前の師匠は誰だ?で、お前は誰だ?顔を上げてろ。お前の一番の敵はお前だなア」
「はい、師匠!!」
私はちょっと鼻水が出たけど、涙を流さず顔を上げると、ヒヒヒと笑った師匠にお尻をバチンと叩かれた。
「師匠、痛いですよ・・・」
「さ、薬局に帰るぞ。遅くなるとランが煩せえからな。ああ?そういえば、ロゼッタ、転移がいつの間にか出来るようになったな。やっぱりこう、グッとやってパッとしたら出来ただろう?」
「気づくの遅いですよ、師匠・・・」
私は私の前を歩く、小さいけど大きな背中に呟くと、「さ、帰るぞ」と言われて、私は一人で転移をした。
第六章、完結致しました。幕間が何話かあります。
第七章まで暫くお待ち下さい。