断罪
そして数日が経った。
国王陛下との話し合いは、事実関係の確認と刑の希望や私の気持ちの確認が多くを占めたものだった。呪物の説明等もあったが、ベンさんが詳しいので、ベンさんに魔蝶を飛ばすと、ベンさんからレオナルド王子宛に呪物についての手紙が届いた。司教やハヤシ大隊長とも話をしたが、私は改めて知らない事が多すぎる事を痛感した。
呪物の話以外は、私の心情の確認や刑をどうやって決めていくかを私に許可を取るような感じで、私は新しく作られた書類に目を通したり、そこで初めてイレーヌ・ガレルと言う人がどういう人かを知った。私と同時期に学園にいて魔術のクラスで共に学んだ事は知ったが、何も接点が無い人だった。
書類を渡された時に書記官の人から、「イレーヌ・ガレルにお怒りでしょう」とポツリと言われたけど、怒りという気持ちではなかった。なので、「いいえ。彼女には相応の罰を望むだけです。私が下そうとした罰は暗緑の魔法使い様に止められました。きっと、魔法使い様がふさわしくないと思った罰だったのでしょう。この子達も私を止めたのですよ。とても優しくて賢いでしょう?」と言うと、書記官の人は、黙って頭を下げて後ろに下がってしまった。
二日程王宮に泊まり、また王宮に来る事を約束をして門番さんの所に転移で飛んだ。
一人で転移で現れた私に門番さん達は驚き、皆が転移を覚えた事に拍手をしてくれて、「元気そうでよかった、門を通る事を忘れても気にしなくていいです」と言ってくれた。
薬局に戻ると二日酔いで苦しむジョゼッペさんに薬を届けたり、心配を掛けた人に魔鳩を飛ばしたりをした。
クリスさん達は自分たちの拠点に戻ったらしく、「落ち着いたらまた会おうね」と魔鳩が届いたが、来る時もいきなりで、帰る時もあっさりなのはなんだか笑ってしまった。でも、すぐに会えると思える事が嬉しかった。
ゼンさんからはクリスさんやベンさんよりも少しだけ長い手紙が届いた。
「ロゼッタ
呪い返しの後に、ラン宛に猫で手紙を持たせた。ジョゼッペさんやマツさんにも説明をしようと薬局前に転移をしたら「いい所にいたなア」とホグマイヤー様に捕まり、薬局にジョゼッペさんと共に引きずり込まれてしまった。ホグマイヤー様は「ロゼッタから王宮を追い出されたからなア。飲んで歌えって言われたからお前も飲め。ロゼッタの事件の解決祝いだ」と、薬局で酒盛りの相手をさせられた。ベンさんも師匠もいない為逃げられず、生贄は多い方がいいと思いイアンとサミュエルを呼び出し、ホグマイヤー様の相手をさせたが生贄は足りなかった。俺は暫く王都を離れる。ロゼッタからの連絡は受け付ける。 ゼン」
と書いてあった。
ゼンさんも王都を離れ、薬局はキッチンで師匠が煙草を吸ったりして平穏が戻っていた。
のんびりと私がポーションを作っていると、ブルワー法務大臣から魔鳩が届いた。私は師匠とランさんに出かける事を伝えると、王宮に転移して門番さんに法務局に連絡をして貰った。
「ブルワー法務大臣、お元気ですか?」
「ジェーン様。ご足労、感謝致します」
私がブルワー法務大臣の執務室に入り挨拶をすると、ソファーをすすめられお茶が出された。
「いやはや、呪いとは。恐ろしいですな。剣で太刀打ち出来ませんからな」
「いいえ、気持ちを強く持っていれば良いそうですよ。なので、強い精神をお持ちの騎士や隊員は呪いに掛かりにくいと思います。かかってしまう人が弱い人ではありませんが。でも、精神を鍛えたり御守りは有効ですね」
「おお!成程、剣は呪いさえも弾きますか!鋼の精神は不屈ですな!」
「ええ、気持ちが一番です。あと、お渡ししていた御守り、効果があるのでお持ちになっていて下さい。ポーションバッグにも同じように小さな物ですが守護がかかっています、手元に置いておくと良いかと思います」
「ポーションバッグの事は陛下から聞きました。有難いことです」
ブルワー法務大臣はベルトに着けているポーションバッグをポンっと触ると頷いた。
「さて、捕らえた者の処遇が決まりました。儂からの説明が良かろうと、王太子殿下が言われました。気になる事があればいつでも陛下や王太子殿下に連絡をとも言われておりました」
「ブルワー法務大臣から聞ける方がいいですね。国王陛下からだと、王宮の奥まで歩いて行って、騎士が沢山いる中で話をしなくちゃいけないんでしょう?」
「はっはっは。さよう。では説明させて頂きます」
ブルワー法務大臣はお茶を一口飲むと今回の事件の処分について話され出した。
「まず、禁呪使用のイレーヌ・ガレルは王宮魔術棟の奥に生涯幽閉となりました。ジェーン様は刑を全て任せると言う事でしたので、こちらで話し合ったのですが、なかなか処罰が決まりませんでした。理由を説明させて頂きます。まず、即刻処分を、との声もありましたが、公に処刑をした方がいい意見と内密に処刑をした方がいい意見と出ました。魔女様に呪いを掛けようとしたのです。即刻、重い刑罰を民に知らしめよ、という意見ですな。もう一つは、お披露目が終わったばかりの時に国外に恥をさらすわけですからな、内密に処理を、という意見ですな。また、直接的な大きな被害が無い為、刑を軽くしてはどうかとの声もありましたが、陛下が許されませんでした」
私は頷いて、目の前に出された書類を見た。書類には私が国王陛下と話した後に、どういう経緯で処分を決めたかが細かく書いてあった。
「呪いの事を公にした方が良いのかが悩み所でしてな。そこも意見が分かれましたが、公表する内容としては、「呪いに興味があった下級治療師が愚かにも魔女様に憧れを抱き、呪いを掛けようとしてしまったが、呪いは成功せず、呪いに食われ破滅してしまった。魔女様、魔法使い様が呪術者を助け、一命は取り留めたものの危険な状態な為、魔術局での隔離療養が必要となった」と発表する事になりました」
「嘘ではないが、本当でもない感じですね」
「ええ。お許し下さい。レオナルド王子様が下級治療師が呪いに手を出したことは魔術士、治療師の口からはすぐに広まるので隠す事は出来ない、が、あくまで呪いは失敗した、とする方がよいと申されました。下級治療師に呪いが使えたのなら、自分も使いたい、やってみたい、と思う愚か者が出てくるはずだと。人の欲は計り知れませんからな」
私が頷くと、ブルワー法務大臣は紙を指さしながら続きを話し出された。
「貴族牢や医療事務所ではなく、王宮魔術棟で隔離をする理由ですが、みせしめですな。呪いに手を出そうとした者の末路を魔術棟の者に見せる為です。呪いに手を出そうとした者はこうなる、もしくは、魔女様、魔法使い様に手を出そうとした者の姿を目に焼き付けよ、との事です。今回は魔法使い様達も動き教会も協力しています。民も貴族も何かあったと触れを待っています。隠す事は出来ません。また、触れに何か疑問を持つ者がいても、その触れは魔女様、魔法使い様の総意であると分かっていますからな。このように発表をさせて頂こうと思っております」
「触れを出す時に王都全体に一度祝福を掛けます。陛下からは許可は貰っていますので、今回は教会の屋根の上からかけようと思っています。司教やマリアさんも許可をくれました。もし、取りこぼしのハンカチがあっても、一時的に強い祝福を掛けるので、効力はなくなるはずです。まあ、王都から出たものがあればどうしようもないですが。おそらくですが、少しずつ効力は弱くなるはずです」
ブルワー法務大臣は頷いて、地図を指した。
「ガレル家のハンカチの販売枚数の確認をしています。店や子爵家にあったハンカチは全て押収致しております。取りこぼしは数枚程度ですな。ドルトン様が回収されたハンカチは解呪後チリとなったようです」
ブルワー法務大臣はお茶を飲んで喉を潤すと、それでですな、と言ってから話を続けた。
「ホグマイヤー様がガレル嬢に会いました。その時に、こう呟やかれていました。「ああ、こいつはもう、罰を受けたな。食われたか。バカな奴だなア」と。私が「罰とは?」と尋ねると「こいつの魂はもう殆どない。肉体が滅びても死者の国には行けんよ」と言われていました。生きても、地獄、死んでも地獄との事ですな」
私は黙って頷いた。
「また、ガレル家ですか、この呪いには直接関係の無い事が分かっていますが、無罪と言う訳には行きません。娘が起こした事件、また商店を通じて呪物を広めてますからな。よって、男爵位に降格、次世代より三代ののちに功績を残せない場合は男爵位も取り上げ、平民となります。三代までチャンスがあると思うのか、三代もの間、罰があると思うのか。魔女様に手を出そうとしたのです。三代先迄責任があると言う事ですな」
「功績って具体的にはどんなことでしょう?」
「平民が準男爵位を貰う位の事ですな。事業で成功を収めた。多くの税を国に納める。新しい薬を作る。首席事務官の試験に合格する。騎士の大会で優勝等・・・。あげればキリが無いですが、まあ、難しいが不可能では無いですな。過去にこの刑を受けた家が何家かありましたが多くが婿入り、嫁入り、養子になるかして家が潰れた後の準備をしておりましたな。今回はどうですかな。過去の判例の中で一家だけ、建て直している伯爵家がありました。まあ、家のやる気次第ですな」
いやはや、と言いながらブルワー法務大臣はお茶を飲んだ。
あと一話で第六章は完結です。断罪は続きます。
次の投稿は火曜日です。