表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/237

謝罪をするのは勝手だけど

薬局に戻った私にクリスさんはゆっくりと向き直った。



「ロゼッタさん、私はちょっとベンやゼンの手伝いをしてくるよ。何かあればすぐに駆け付ける。困った時は照明弾を遠慮なく打ち上げなさい。いいかい。どんなに弱い生き物も、最後は毒を持って噛みつこうとするからね、用心して全力で戦う事が大事だよ」


「はい、クリスさん。王宮に付いてきて頂いて有難うございました」



クリスさんは頷くと、杖を振り消えた。


私はモラクスさんとの会話を思い出していた。


どうしてこんな事になったのかしら。



「皆もこれから大変だけど、頑張りましょう」



私の言葉にアルちゃんが頷いていると、窓を魔鳩の嘴がコツコツと叩いていた。



「魔鳩さん、どうも」



窓を開けると、ポトリと私の手に手紙を落とし、魔鳩は飛び立っていった。手紙は私の名前だけが書かれていて差出人は掛かれていなかった。ゆっくりと手紙に魔力を流すが、何も感じず私は一つ溜息をついた。



「呪いの手紙とかではないのね・・・。なんだか全部が疑わしいのよね」



私は椅子に座り、封を開けて手紙を読んだ。



「ロゼッタ・ジェーン 


今すぐ、パーラメント公園の北の端の四阿(あずまや)に一人で来なさい。もし来ない場合はあなたの親しい人にハンカチを送りつける。貴方の親しい人に呪いを掛けていく。薬局の人間、親、友人、ハワード隊長に、ジロウ隊長にもね。あなたのせいで皆が苦しむの」



私は黙って手紙をたたんだ。


どんな罠を仕掛けられているか分からないけれど、皆に手を出すと言った人は絶対に許さない。私はルーカス王子から貰った訓練着に着替え、フォルちゃんと窓のすぐ側にとまっているカラスに話し掛けた。



「フォルちゃん、貴方を私の代理でハヤシ大隊長の所で戦って貰うわ。ハヤシ大隊長は一緒に訓練をしたから分かるでしょう?ホーキンス隊長もいるかもしれないわ。エマーソン隊長や騎士達も守ってあげて。貴方は防御膜も身体強化も上手だもの。頼んだわよ。カラスさん、ガレル家までフォルちゃんを案内してあげて。急いで騎士団に合流したいの」



カラスが「カー」と鳴いて、フォルちゃんが耳を立ててコクンと頷くと、私は魔蝶をハヤシ大隊長に飛ばし、ガレル家には一緒に行けなくなったがフォルちゃんを私の代理で行かせるので使って欲しい事を伝えた。


「さ、行って」


フォルちゃんは私が撫でると、ウォンと鳴いて窓から飛び出し、先に飛び上がったカラスを追って走っていった。



「あら。ウェルちゃん」



窓を閉めようとするとウェルちゃんが戻って来て、私の肩にとまった。嘴に小さな紙を咥えていて、私が開いて読むと「名前、了解。間違いなし。ベン」と書いてあった。



「さあ、アルちゃん、ウェルちゃん、遠慮は無しよ。大切な人達を攻撃すると言われたの。存分に戦いましょう」



アルちゃんとウェルちゃんは私を見ると魔力を出して頷いた。



「じゃあ、いくわよ。転移」



パーラメント公園の隅に私は転移をした。王立学園の隣にあるこの公園は友人とよくおしゃべりをした場所だった。こんな時じゃなかったら懐かしく思えるのに、と思いながら指定された四阿に向かって歩いた。


アルちゃん達は一緒だけど、アルちゃんは私の影に隠れ、ウェルちゃんは木の上を上手く使いながら隠れて飛んでいた。



私が四阿に着くと、フードを被った女性がやって来た。



「ロゼッタ・ジェーン。一人でちゃんと来たのね?」



私が黙って頷くと、私の後ろや周りをキョロキョロと見渡した。



「杖を置きなさい」



女性は私に杖を向けてハンカチをポケットから取り出した。



私は杖を地面に置いてゆっくりと女性を見つめた。私の前に立った人物はフードを取ると私を睨みつけていたが、若い女性で顔の半分に黒い痣が出来ていた。痣は魔法陣がうっすらと浮かんでいて、呪い返しをされた事がすぐに分かる。でも、やっぱり見覚えはない。



「ロゼッタ・ジェーン!早くこの顔を元に戻しなさいよ!そうしたら、ハンカチの呪いも止めてあげるわよ!言う事を聞かないとあなたの友人にも呪いをかけるわ!」


「イレーヌ・ガレル」



私が名前を口に出すと、驚いた顔を見せびくりと身体を震わせた。



「王宮下位治療師」



私が口を開くと、一歩後ずさったが杖はこちらに向けたままだった。



「王立学園卒業」


「は?・・・なに・・・?なんで・・・?」


「愚かな人。私に杖を向けて私の周りにも攻撃をすると言ったわね?一度口に出した物はなかった事に出来ないわよ」



私に向けている杖は先がぶるぶると震えている。



「ああ、もう分かっているでしょうけど、貴女の呪いは返したわ。魔術局、法務局、国王陛下に報告させて貰った。今頃、あなたの実家や、貴女がハンカチを置いた店にも騎士団が向かっているでしょうね」


「は?騎士団?国王陛下?実家は関係ないじゃない!!なんて酷い事をするの?関係ない人を巻き込まないでよ!!それに証拠は?証拠はないわ!!」



名前も知らない。話した事もない人。



「証拠?その顔が証拠でしょう?そもそも、国王陛下も動かれているのよ?魔女に手を出したのは貴女よ?貴女が私に今、杖を向けている事が問題なのよ。それだけで私は貴女を攻撃する理由があるわ。ねえ、私の師匠、大魔女様もご存じなのよ?魔法使い様達も怒ってくれている。十分な証拠があるから、動いているのよ?私達は貴女の魔力をすぐに解析出来るの。そんな事も分からないの?本当、愚かな人ね」



ぶるぶると震えて、目が座り、ぶつぶつと何かつぶやいていたが急に髪の毛を振り乱しだした。



「煩い煩い!!!あなたのせいよ!!ブス!ブス!顔が!!!私の顔が!!!戻しなさいよ!!私の美しい元の顔に!!バカなくせに魔女になっていい気になってんじゃないわよ!は!サレ女のくせに!!水矢!!!」



杖を私に向けて、水矢を放ってきた。



「土壁」



私は魔法陣を出し、ポケットに入れていたダガーを向けると水矢をはじく。やっぱり、杖が弱点と思うのね。私が土壁を出すとあんぐりと口をあけ、地面の杖を見ながら、「どうして?」と呟いていた。


アルちゃんがその間に影の中を移動し、相手の足を鞭で撒きつけた。



「何?何?なんなのよう!!」



杖を振り回しながら、水矢で鞭に攻撃をしていたが、アルちゃんの鞭は水矢をはじいて、効かなかった。アルちゃんはなんでもない様に、私の杖を鞭で拾い上げると私の手元にゆっくりと鞭を伸ばした。



「ひいい!!!!何よ!!離して!!!」



私はアルちゃんから杖を受け取るとポケットから釘を取り出し、イレーヌ・ガレルの影に投げつけた。



「せっかくだもの、使ってみましょう。影縫い」



私が投げつけた釘に杖を向け闇魔法を流すと、ピンっと糸に絡めとられたようにイレーヌ・ガレルは動かなくなった。目が動き、小さく痙攣するようだから意識はあるようだ。



「何をしたの?離しなさいよ!!」


「あら、口は動くのね」



私はもう一つ、釘を頭の近くの影に投げると、口を縫い付けるイメージをした。



「影縫い」



イレーヌ・ガレルの口がぐぐぐっと右から左へ綺麗に閉じて行った。


私は落ちたハンカチを拾う。



「これは貴女が作った、呪いのハンカチね。私の店や、隣の店の前に落としたのは貴女なのかしら?ああ、店に来る勇気はないから誰か人を使ったのかしら?ハンカチを持った人にも影響があるのに、そんな事も考えられないなんて、優しくない人ね。自分勝手で、怖がりな人なのかしら?」



私の肩にとまったウェルちゃんを撫でながら話すと、ウェルちゃんは気持ちよさそうに目を閉じて、動けないイレーヌ・ガレルの前に十本程の水矢を出して浮かせた。水矢は美しくとがり、ゆっくりと回転をして、切っ先は全てイレーヌ・ガレルに向いていた。



「!!!’(&%#%()()!!!!」



「あら、ウェルちゃんの水矢の方が何倍も綺麗で凄いわね。でも、攻撃をしちゃダメよ」



私が褒めると、ウェルちゃんは嬉しそうにしながらピピピと鳴いて魔力を一気に出すと、水矢をイレーヌ・ガレルの周りに放った。



「$##%&’())’$#”!!!!」



ザシュっと音がして、イレーヌ・ガレルの周りに一度に刺さった。



「当たってないでしょう?ウェルちゃんは良い子だから、ダメって言ったらちゃんと言う事を聞くの。だって、貴女にはちゃんと罪は償って貰わなきゃいけないから。それなのに水矢を当ててしまったら大変だもの。王宮の魔術局はただでさえ忙しいのに、その末端にいる貴女が罪を犯したのですもの。レオナルド王子様も大層ご立腹でしょうね?」


「&$”#”&’’’%#”!!!!」



イレーヌ・ガレルは口をモゴモゴと動かしながら、涙を溜めて睨みつけていた。


私は二本目の釘の魔力を少し弱めて、口を半分ほど開けるようにした。



「ぷはあ!!ねえ!!謝るわ!!謝るから!!だから許してよ!!それで顔も戻してよ!!」


「何故?貴女が謝るのは貴女の気持ちでしょう?それを許すかどうかは私の気持ちでしょう?謝るって、貴女は何もさっきから謝りもしないのに。それに何故私が許すかどうかを謝るあなたが決めるの?謝罪をするのは勝手だけど、本当、おかしな人ね」


「煩い煩い!!!!あなたみたいなブスがなんでハワード隊長と一緒に出掛けるのよ!!ジロウ隊長とも出掛けたんでしょう?ダレンに浮気されたサレ女のくせに!!薬師科の落ちこぼれのくせに!!知ってる?ダレンはあんたなんてすぐに飽きたのよ?一緒にいても楽しくないんですって!綺麗だって思ったけど、薬ばかり作って臭いんですって!だからすぐに飽きたのよ!今、あんたがちやほやされても、それはあんたが魔女だからだわ!あんたを好きになる人なんていないのよ!」


「・・・・・」



私が黙って杖をイレーヌ・ガレルに向けると、私の両耳が手でふさがれた。






次の投稿は水曜日の夜です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ