報告に参りました
瞬きする間に私は無事に王太子殿下の執務室に転移が出来た。
突然、執務室に現れた私達に護衛騎士は剣を触って、すぐに手を離した。
クリスさんは王太子殿下と護衛騎士の方々に手を上げて、ゆっくりと礼をした。私も慌てて杖を下ろして礼をし、クリスさんの横に並んだ。
「やあ、ジョージ様。お元気かな?突然押しかけて申し訳ない。国王陛下に連絡をして頂けるかな?ホグマイヤー様からの突撃許可が出たからね、最短距離で来させて頂いたよ。今、教会の方にはゼンがマリアさんに会いにいってる。ベンも王都中を飛び回ってるよ。ハヤシ大隊長も呼んで頂けるかな?」
突然現れ、話し出したクリスさんに王太子殿下は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに頷くと側近の方の方を向いて指示をだした。
「国王陛下とハヤシ大隊長に緊急の伝令蝶を。灰茶の魔法使い様、宵闇の魔女様の緊急事態だ。ホグマイヤー様からの緊急の許可付きだそうだ。ハヤシ大隊長は陛下の執務室に来るようにと。私もすぐ向かうと伝えてくれ」
「は」
すぐに緊急の伝令蝶が飛び、王太子殿下は目の前の書類を棚に片付けるように指示を出すと、上着を羽織られた。
「お二人ともゆっくりとお茶を飲む暇はなさそうですね。さ、参りましょうか。他に必要な者はいませんか?もう、陛下に連絡は行っているでしょう。陛下の執務室に飛んで頂いて結構ですよ。私も連れて行って貰えますか?騎士は二人程急いで陛下の執務室に来てくれ、残りは待機だ。急ぎの案件はマッケンジーに任せる」
「「は」」
騎士や側近の方が礼をして、一歩後ろに引かれた。
「他の人選は陛下にお任せしようか。私達は報告に来ただけだからね」
クリスさんはジョージ王太子に頷くと私の方を見た。
「陛下の執務室はロゼッタさんは訪れた事があるかな?」
「はい、大丈夫です。今ので転移のコツは掴めました。もし分からなくてもクリスさんに付いて行く事が出来ると思います。クリスさんの魔力を掴んで行きますので。クリスさんの魔力粒子を練って私にくっつけれそうです」
クリスさんは目を丸くして笑った。
「ああ、なら心配ないね。私がジョージ様を連れて先に飛ぶからね。では、ジョージ様、いいかな?転移」
クリスさんが消えてすぐ、私も転移をして国王陛下の執務室に飛んだ。
私達が現れると国王陛下は立ち上がって礼をした。
「ご機嫌いかがですか。灰茶の魔法使い様、宵闇の魔女様」
「国王陛下、突然申し訳ない。ホグマイヤー様から突撃許可を頂いたからね。遠慮なく来させて頂いた。長い話になるかな。ハヤシ大隊長も呼んでいるんだよ。王妃様にも後ほどホグマイヤー様が仕事を渡されるそうだ。ひょっとしたら王妃様には直接ホグマイヤー様からもう手紙が着いているかもしれない」
「成程。楽しい話ではないと言う事ですな、どうぞお座り下さい」
陛下は私達にソファーを勧め、私達が座るともう一度礼をして自身も座られた。王太子殿下は陛下の横に座るようにクリスさんから言われ、頷いて座られた。
「国王陛下、突然申し訳ありません。報告に参りました」
私が礼すると、陛下が頷きクリスさんを見る。
「陛下はロゼッタさんの噂を知っているね?」
「ええ、最近は噂が少し落ち着いてきたと報告を受けましたが。新しい噂を流す為に第二軍団も動いて、効果が出始めていると。アナやマリアもお茶会や教会で話をしていると報告を受けましたが役に立ちませんでしたか?」
「いいや。噂だけで済めば良かったのだけれどね。コレを見て欲しい」
クリスさんは布に包まれた焦げたハンカチを出した。
「呪物だ。呪いのハンカチだよ。もう、呪い返しをしてある。ベンが返した。禁呪を使用した犯人も分かっている。標的はロゼッタさんだ」
「なんと・・・」
「噂を流すだけじゃ満足出来なかったのかな。醜い。非常に醜い呪いだ。魔女や魔法使いが生まれると、必ず何か起きる。今回は魔女に手を出す愚か者が出てしまった。そして私達がここに来た理由は分かるね?」
「愚か者は貴族ですか・・・」
「ああ、この紋章だ」
「バーキンス侯爵の・・・。いや、これはガレル子爵か・・・」
頭に手を置いた陛下が呟く。
「ああ成程、ガレル子爵か。そこにロゼッタさんと似たような年頃の杖持ちの令嬢がいるはずだ。それが呪術者だ」
王太子殿下は側近に指示を出した。側近の方は伝令蝶をどこかに飛ばされていた。
「分かりました。貴族の不始末。魔法使い様、魔女様、ホグマイヤー様のお好きになさって下さい。どのようにされても事後報告で結構です。わざわざ足を運んで頂き有難うございます」
「こちらこそ。では遠慮なくそうさせて頂こう。こう急いでいる理由はね。ベンが呪いを返したけれどなんせ呪いが多いようなんだ。一つ一つは小さな物だし効力も弱い。呪術者は魔力も多くなく魔術にも長けてない者だろう。普通、呪いを掛ける時はこんなに何個も呪物を作る物じゃない。少し賢い者なら分かるはずなんだよ」
国王陛下は頷き、ハンカチを見た。
「愚か者は、無知で世間知らずで怖い者無しですか」
「ああ、初めて貰った剣を振り回したい幼子と同じだろう。何も考えていないだけなのか。これが五つの幼子ならまだ分かるが、ロゼッタさんと同じような年齢らしい。このハンカチは本当に大した呪いではない。一つ、二つ持っていても大した影響はないだろう。だが、呪いが溢れ暴発の恐れがある。どうも、呪術者の器は小さいようでね、暴発すると周りにも影響が出てしまう。王都の街でそのような事は起こしたくない。また、王宮内で起こらないとも限らないからね。そうならないように解呪をするかすぐに呪術者の中に抑え込むようにしよう。呪術者は死なないように出来るとは思うが、その先は期待しないでくれ」
「有難うございます。禁忌を使用した者の末路です。呪い返しを受けるのですから、命が無くて当然でしょう」
私達が話していると騎士から報告が上がった。
「ハヤシ大隊長が入室を希望されています」
「通してくれ」
陛下がすぐに許可を出されると、ドアが開き礼をしてハヤシ大隊長が入室された。
ハヤシ大隊長が挨拶をする前に、陛下が口を開いた。
「ハヤシ大隊長。早速だが、第二騎士の出番だ。ガレル子爵家に第二騎士を向かわせる必要がある。ガレル家の者が禁呪に手を出した。ジェーン様に呪いを掛けようとしたのだ。エマーソン隊長に指示を。第一のロイス隊長にも情報を共有し、王宮の守りを固めてくれ。ホーキンス隊長にも王都の警備の強化の指示を」
「は。もしや噂もその者が・・・」
「ああ、おそらくは」
頷くハヤシ大隊長にクリスさんが口を開いた。
「ハヤシ君。このハンカチを見てくれ。ガレル家は商店を持っているはずだ。そこで呪いのハンカチを売っている。このハンカチを回収し、教会に運んで欲しい。店にある物は焦げてはない。見た目は普通のハンカチだ」
クリスさんはハンカチを見せると、説明をした。
「王都に出回った分は急いでベンが回収しているし、ゼンが教会でマリアさんに説明をしているはずだ。教会に祝福を掛け、防御膜も重ねて掛けて安全を保つようにしている。集まったハンカチは解呪する予定だよ。まあ、幾らかは呪い返しをさせて貰うがね。自分が出した物だ、引き受けて貰わないと。一枚、二枚、ハンカチを持ってもロゼッタさん以外に効果はないはずだ。騎士達が手に取っても問題はないがすぐに教会に持って行って欲しい。ああ、ロゼッタさんがポーションバッグを作ってあげてたね?あれを騎士は身に着けて行くといい。ロゼッタさんの魔力が少なからず守ってくれるはずだよ」
「皆のポーションバッグにそのような効果が?」
「ジョージ様やブルワー君が持っている物は守り石もついているから殊更強いバッグになっている。魔女様が作った物が普通な訳が無いだろう?特別に決まっている。ポーションを入れる為にロゼッタさんが作ったんだ。君たちのそのバッグ、祝福がうっすらとかかっているよ。ロゼッタさんは、皆の無事を祈りながら作ったんだね。優しい魔女様だ」
クリスさんは優しい目で私を見つめ、ゆっくりと頷いた。
次話は木曜日の夜です。