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呪いのハンカチ ガレル子爵令嬢視点 

少し長めです。

「ねえ、知ってる?宵闇の魔女様が王都を出ていかれるらしいわよ」


「あ、私も聞いたわ。名無しの薬局の魔女様でしょう?変な噂のせいで御心を壊されたらしいわね」


「え?私が聞いたのとは違うわね。身体を壊されて、寝込んでいるって聞いたわよ。だから動けないんじゃないかしら?」


「この間、魔女様のお披露目が終わったばかりなのに、大丈夫なのかしら・・・。軍団の方達が魔女様が薬局から出てこないって言われていたらしいわ。魔女様の悪口を言われている方がいるんですって。警備を強化するらしいわよ?」


「まあ、私が聞いたのは、王妃様が心配されているとお茶会で言われていたらしいわよ。噂を流した人達を取り締まった方がいいのでは?と零されていたらしいわ。教会でもマリア王女様が御祈りを捧げているらしいわ」


「あら、噂は本当なのかしらね。心配ね。でも、それで最近静かなのね。おしゃべりをする人が少ないと思っていたわ。以前は魔女様の事を悪く言う方も多かったものね。恐れ多い事だわ」


「ねえ、宵闇の魔女様って、大魔女様のお弟子様なのでしょう?大魔女様も怒られているのではないのかしら?」


「嫌だ、怖いわね。魔法使い様達も怒っているでしょうね」


「私達も、静かにしていましょう。魔女様の御心が安らかになればいいわね、贈り物等はしてはいけないのかしらね。教会に行ってみましょうか?」


「ええ、そうね。お祈りを捧げましょう。魔女様への贈り物も司教様に相談してみましょう」



話しをしていた若い女性達は挨拶をかわすと去って行った。


私は休日に入ったカフェから聞こえてきた話に耳を澄ませた。



(ふふふ、心を壊して引きこもっているですって?ざまあ!!)



私はにっこり笑って、紅茶を飲んでケーキを食べた。



(いい気になってるから、皆が噂をするのよ。さっさと王都から出て行けばいいのに)



ゆっくりと周りを見回すと、コソコソと話す人達が目についた。



(あの人達もあの女の噂をしているのかしらね。それにしても、軍団や王妃様が動いているとは本当かしら。まあ、王妃様も気になるくらいは言われるでしょうけど、あの女の為に実際に何かされるわけではないでしょうね)



私はゆっくりとお茶を飲んでケーキを食べ終わると店を出て王宮から近い寮に帰った。自分の部屋に戻ると机の引き出しの隠し箱からハンカチを取り出した。


噂が広まって、あの女が苦しんでいるのは愉快ね。


もっとハンカチを作って、店に持って行きましょう。



どんどん嫌われて、皆があの女から離れていけばいいのよ。


自分が一番と思っているのかしらね。


ブスのくせに。



私は実家から持ってきた本を開くと、杖を取り出し、水魔法を出しながら、本に書いてある魔法陣をハンカチに移していきながら、少し前の出来事を思い出していた。








◇◆◇◇◆◆◇◇◆◇





書庫の奥に不思議な本があると聞いたのは私が学園に在学中の事だった。


おじい様とのお茶の時間に、おじい様がご自分の若い頃の話をしていた。私は姉や従兄達と話を聞いていたが、つまらない話は早く終わらないかな、と思っていた。


おじい様は他国を旅をしていた時に立ち寄ったある古道具屋で色々な物を購入した。その時に購入したアクセサリーや置物などを孫達に見せて、皆は喜んで見たり質問したりしていたが、どれも安っぽく古臭い物ばかりだった。皆の様子に上機嫌のおじい様は、とっておきの話をするように、一冊の本を取り出した。その本は旅の途中では気付かなかったが、おじい様が旅を終え、屋敷に戻りトランクを開けると隠しポケットの中から出て来たという。


ただ、いざ開こうとしても本は鍵がかかったように開かず、表紙の文字も読めなかったらしい。



「不思議な本だ。捨てるのはいつでも出来る。書庫の奥で保管しておこう」



そう言っておじい様は書庫の奥に本をしまいこんでいた。それがこの本だよ、とおじい様は皆にその薄汚れた本を見せたが、皆は「ふーん」と言って、本当に本を開けない事を不思議がっていたが、たいして興味がないようだった。


皆が本を読めないって言う時にチラリとその本を見ると、確かに何が表紙に書いてあるのか分からなかったが、一言読める字があった。



「え?」



私は驚いて声をあげたが小さな声で誰にも気づかれず、おじい様もその本をすぐにバッグに入れてしまい、ゆっくりと見ることは叶わなかった。


お茶会も終わった次の日、お父様から書庫の鍵を借り私はその本を見に行った。


書庫の奥にその本は保管してあり、私が手に取ると本なのにうっすらと温かく感じたのを覚えている。表紙を手でなぞり、文字を読もうとするがやっぱり読めない文字だった。でも、あの時は確かに読めたのに。



「やっぱり読めないのね」



本を元の場所に置こうとした瞬間、本がピクンと動いた気がした。


不思議に思って本をもう一度見ると、読めなかった表紙の文字の一部が読めた。


昨日と同じ文字。



「呪い・・・」



私がそう呟くと本の表紙がゆっくりと開いた。


私は急いで本を閉じ、書庫を出ると鍵を掛けた。鍵を返した後もまだ胸はドキドキしていた。


その後、学園で魔術の勉強をしていると魔術書という書物がある事を知った。魔術の事が書いてある本ではなく、魔力が無いと読めない特別な本らしい。


魔術書の本の中にもランクがあり、魔力が少しあれば読める本、多くないと読めない本、選ばれた者しか読む事が出来ない本などがあるらしい。


そして本が読み手を選ぶとも書いてあり、ランクの高い本の多くは国や魔女、魔法使いが管理していると書いてあった。


「魔術書・・・」





◇◆◇◇◆◆◇◇◆◇




私はその事を思い出し、レーモンド子爵夫人にあってすぐに実家の書庫にむかった。


丁度、両親も姉も留守で家族は誰もいなかった。お父様の執務室に行き、書庫の鍵を借りると私は急いで書庫に入った。



「確か、奥のこの辺に・・・」



(これだわ)



私はゾクゾクしながら本をとると、すぐにばれないように手ごろな本を禁呪の本の代わりに置いて同じように鍵を掛けて書庫を出た。


大体がここには人が来ない。すぐに見つかる事はないだろう。鍵を返し、私は寮の自分の部屋に戻った。



「さて。あのクソ女にはどうしてやろうかしら」



私は自分の部屋で本を開いた。本が開けるのか少し緊張していたが、あっけなく開いた。ただし、開いた本の中身は殆どが白紙で、文字が書いてある所は外国の言葉なのか読めなかった。


がっかりして本を捲っていると、読める文字があった。



(呪いのハンカチ)



(呪いを掛けたい者の事を思い描きながら得意な属性の魔力を出し、ハンカチに注ぎ込む。注ぎ終わったら本に書いてある魔法陣を水でハンカチに書く。乾ききる前にまた魔力を注ぎながら相手の事を思い、ハンカチがしっかりと乾ききるまで、誰の眼にも触れさせない)



「簡単ね」



(呪いを掛けた相手に渡すのが一番効果があるが、関係のない相手に渡しても呪いを掛けた相手の好感度が下がり、呪いの相手は嫌われていく)



「こんなに簡単で効果が出るのかしら。まあ良いわ。何も知らない相手に渡すっていうのが楽でいいもの。ロゼッタ・ジェーンに近づきたくはないしね。試しに作ってみましょう」



私は実家の商店からハンカチを持ち出すと呪いのハンカチを作った。


作ったハンカチをどうしようかと商店に顔を出すと、お母様に会いハンカチの事を聞かれた。



「貴女、ハンカチを勝手の持っていったのでしょう?貴女一人で使うには多いでしょう?どうするの?」



私はとっさに恋のハンカチって噂を聞いたと嘘をついた。



「ごめんなさい、お母様。魔術の本で読んだのよ。恋のハンカチって物があるって。祝福のハンカチの様だったわ。私には難しかったから、練習しようと思って沢山必要だったのよ」


「あら。言ってくれればよかったのに・・・。成程、恋のハンカチね・・・」



お母様はピンっと来たらしく、うちの商会で可愛い刺繍を施して、恋のハンカチと言う商品を売りだすと言った。


私は、お母様が売り出すハンカチに自分の呪いのハンカチを混ぜる事にした。白いハンカチを持ち出し、呪いを掛け、商品のハンカチと混ぜる。後は適当に誰かが刺繍をして売ってくれる。


呪いのハンカチを一枚、我が家の商店のハンカチに混ぜると気付かれずに刺繍をされて店に並んだ。


ドキドキしたが誰も気づかなかったし、問題はなかった。



(でも、呪いなんてしていいのかしら。噂を流すのとは違うのではないのかしら・・・。ロゼッタ・ジェーンが呪いのせいで怪我をしたりする事もあるんじゃ・・・)



少しだけ、胸が痛んでさっきの一枚だけにして、魔術の本はすぐに返そうと商店を出て実家に向かって歩いていると、少し先の屋敷の門から馬車が出てきてそれを見送る人達を見た。



「あれは・・・、ハワード隊長とジロウ隊長?・・・」



二人は何か話していた。急いで近くまで歩くと声が聞こえた。



「ジェーン嬢の魔術はとても素晴らしい物でしたね」



(ジェーン?)



私は今、出て行った馬車を見つめた。



「あー、手のひらでコロコロと遊ばれた感じではありましたが」


「ええ、それでも全く問題ありません。大変美しかった。また、訓練をして頂けるでしょうか?あのハルバートは見せて頂きたいですね・・・。ダガーを投げつけるのも素晴らしいですね・・・」


「あー、どうですかねー。自分は長ズボンをちゃんと穿いてくれるかが気になりますね」


「ああ・・。訓練着と分かった後でも、ジェーン嬢が穿くと何故あんなに美しいんでしょうね?」


「あー。不思議ですネ。さ、うっとりするのはいいですが、ハヤシ大隊長が待ってますよ。挨拶して、我々もさっさと帰りましょう。いつまでもいると酒に付き合わされますよ」


「は!確かに。急いで帰りましょう!ジロウ隊長とはいずれきっちり勝負を着けさせて頂きます」


「あー、まあ、その勝負なら自分も負けたくはないですね」



二人は頷き、屋敷に入って行った。



(は?)



ジェーンって言ったわよね?今の馬車はロゼッタ・ジェーンが乗っていたの?


私はもう遠くに行って丁度、角を曲がり見えなくなる馬車を睨みつけた。


美しかったって言った?ハワード隊長が?ジェーンを?レーモンド夫人が言ってたのは、本当だったのね!




・・・ああ、そう。




私は本をぎゅっと握ると、実家には戻らずそのまま寮に戻った。


呪いの効果が出ても、出なくても私は何も被害はない。


勝手にロゼッタ・ジェーンは嫌われて行く。


私は何も悪くない。


ふふふ、ざまあみろだわ。




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