久しぶりの会話は
ブルワー法務大臣達が来て数日が経ったとき、ジロウ隊長とハワード隊長達二人は仲良く薬局に来たらしい。ここでも私には事後報告で、ランさんは二人を二階には上げず手紙と贈り物だけを預かって私に持って来てくれた。
「ジロウ隊長とハワード隊長が来たけど、ロゼッタは今臥せっているって説明したわー。二人ともショックを受けてるみたいだけどー、そっとして欲しいって言ったら納得して帰ったわよ。噂の事を最近知ったみたいねー」
「ランさん、大袈裟に言わないで下さい。嘘は駄目ですよ」
「嘘は言ってないわよー。ロゼッタが、ベッドでゴロゴロして休憩していたり、引き籠ってお菓子を食べて、悪い噂にショックを受けているのは本当だものー」
「え、まあ、そうですけど。そのまま伝えて無いですよね?それはそれで恥ずかしいのですが」
「優しいランさんは、ちゃんとロゼッタが噂にショックを受けて、引き籠って、ベッドでゆっくり過ごしているって言ったわよ?」
「有難うございます?」
なんだか、納得したような、出来ないような話をランさんとするとランさんは一階に降りて行った。
二人からの贈り物の包みを開けると、ハワード隊長からの贈り物はガラスで出来た小鳥の可愛い置物と以前貰ったメリアのジャムに手紙だった。
「ジェーン嬢
手紙の返事が遅くなって申し訳ありません。ジェーン嬢が噂で心を痛めていると聞きました。ホーキンス隊長もハヤシ大隊長からも詳しい話はして頂けず、心配が募っています。私に出来る事ならば何でも致しますので、いつでもご連絡ください。 ライアン・ハワード」
ジロウ隊長からは綺麗な刺繍のリボンと流行りの本にメッセージカードが添えてあった。
「ロゼッタ嬢
心配は勝手にします。何か力になれませんか? ニコラス・ジロウ」
二人とも元気そうで良かった。私から連絡をしていないのに、連絡が来て嬉しいと思うのは我儘かしらね。心配を掛けないように強くないといけないのに。
私が手紙を折りたたむと小鳥の置物をウェルちゃんがツンツンと突いて遊んでいた。
ジロウ隊長から貰ったリボンは綺麗な青色で、所々に金の刺繍が入っていた。
「私も二人に何か贈りたいけれど、あまり連絡も取れないし困ったわね。何か贈れるものはないかしら?」
私がぽつりとつぶやくと、アルちゃんはペッと舌を出した後に、お菓子の箱を取り出して私の前に置いた。
フォルちゃんは薬局からポーションを咥えて持ってきて、ウェルちゃんは帽子を持ってきた。
「ウェルちゃん、帽子は私の物よ?帽子を買って二人に贈ると言う事?」
ウェルちゃんは窓をコツンと嘴で突いた。
「ああ、防寒具って事ね。ホーキンス隊長も暑い時や寒い時のものが欲しいって言ってたわね。二人はスレイプや飛竜に乗るし、暖かい物を贈りましょうか。何がいいかしら。手元は剣を扱うし、手袋は専用があるから駄目ね。靴下は実用的過ぎるわね。うーん、マフラーは不便かしら・・・。こう、剣を振るうのに邪魔にならない物・・・」
ウェルちゃんはフォルちゃんのお腹をツンツン突いた。
「え?お腹?あ、腹巻?えー。腹巻ー?隊長達がー?ふふふ、とても可愛い感じになるわね。ふふ、のど飴を贈りましょ。それと、ポーションとお菓子ね。皆有難う。元気になったわ」
メッセージカードを書いて贈り物をまとめ、表には私の名前は書かず名無しの薬局からと分かるように包んで封をした。
「ハワード隊長
可愛い置物、有難うございました。ウェルちゃんに似ていますね。心配をお掛けしてすみません。ハワード隊長も怪我しないようにして下さいね。ジャムも有難うございました。ライラさんもお元気ですかね? ロゼッタ・ジェーン」
「ジロウさん
綺麗なリボン、有難うございます。前のリボンも好きですけど、今度の方が好きです。とにかく私も大人しく薬局に引き籠っています。本はジロウさんの趣味ですか?「小さなソフィーの冒険」という題ですが、冒険をしながら成長して恋をする、恋愛の本ですよ?それと、ジロウさんにはいつも助けて貰ってます。 ロゼッタ・ジェーン」
元気ですか?私は元気です、以外にちゃんとメッセージを書くことが出来た。私がウェルちゃんに荷物を渡すと、王宮の軍団受付に持っていてくれると言うのでお願いした。
ランさんが材料を持って二階に上がってきて、私が二人に手紙とプレゼントを贈ると言うと、ちょっと眉間に皺が寄ったけれど、駄目とは言われなかった。
店を閉め、ランさんも帰り師匠もお出かけをしていて、私は一人でのんびりご飯を食べると裏庭に出た。
もう子供は寝る時間だからか、裏通りは静かで私がドアを開ける音が庭に響くとすぐにカラスが一羽側にやって来て、首を傾げて私を見上げた。
「カラスさん、見守りしてくれてるのね。ゼンさんのオトモダチの方ね?有難う。ゼンさんは今日は来ないみたいなの。私は元気って伝えてくれる?」
カラスに携帯食料を渡すとパクリと咥えお辞儀をして飛び立った。
空には綺麗に星が見えた。
「師匠は風魔法で空を飛べたわね」
私は風魔法で浮かぼうとしたけど、無理で、階段をイメージして透明な階段を作り上げる事が出来た。
「これはこれでまた驚かれそうだけど、でも、使えそうね。一応は風魔法だしね。なんで普通の魔法が出来ないのかしらね?」
私は透明な階段を上って屋根に座ると、そこから街を見た。
人通りも少なくて、皆、空を見上げる事も無い。
これなら夜にゆっくり外に出れると思っていたら、ウェルちゃんがピピピと鳴いた。
私がウェルちゃんが鳴いた方に顔を向けると、驚いた顔のハワード隊長が路地にいた。
「え、ハワード隊長?」
私と目が合うと、「ジェーン嬢」と口が動いたのが分かった。
「え、どうしよう。店からは出れないし・・・」
私は裏道に出れる木戸の方を指さすと、ハワード隊長はコクリと頷いたのが見えた。
私は階段を裏木戸の前まで伸ばして降りると、声を掛けた。
「ハワード隊長?」
裏木戸の向こうから一瞬遅れて、声がかえって来た。フォルちゃんがウォンと小さく鳴き、私達の周りに防御膜が張られた。
「ジェーン嬢・・・、お元気でしたか?返信を受け取りました。贈り物も有難うございます」
「元気です。すみません、ハヤシ大隊長に聞かれていると思いますが、今、私の噂が王都で色々言われていまして。色んな人を巻き込んで調査をしているのです」
「ジェーン嬢・・・。噂の事は聞きました。ハヤシ大隊長からもホーキンス隊長や王家の方が動いている事も聞いております。ああ、お元気そうで良かった。ハヤシ大隊長からジロウ隊長と二人で本日、薬局に伺った事に注意を受けました。「昼間に薬局に行くな」と言われました。それでも気になってしまって、日が落ちればいいのではと、足を向けてしまいました。こうして話が出来るとは思いもしませんでしたが」
裏木戸がキイっときしんだ音がした。ハワード隊長が寄り掛かったのかもしれない。
「心配を掛けてすみません。裏木戸を開けれればいいのですが、師匠から許可を貰ってないですし、私も薬局から出ないとランさんに約束をしているのです」
「いえ、このままで構いません。声が聞けただけでも。ああ、お元気そうで良かった・・・」
「ハワード隊長もお元気ですか?」
「はい、今、元気になりました。私が何かお役に立てれば良いのですが。私やジロウ隊長が昼間にこの辺りを歩くとご迷惑になるようですので又手紙を送ります」
「返事はすぐに出せないかもしれません。メリアのジャムも有難うございました」
「ああ、いつまでもここにいるとジェーン嬢が風邪を引いてしまいますね。離れがたいですが、今日はこれで帰ります。声が聞けてよかった」
キイっともう一度裏木戸がきしむと、「では、また」と声が掛けられて、「ええ、また」と私が言うと、フォルちゃんが防御膜を解いた。