せっせとお手紙を書きます
ランさんは通常業務に戻り、私はせっせと魔鳩を飛ばした。魔蝶で飛ばせたら楽だけど、周囲にも聞かれる心配があるので、指定配達の魔鳩便に名無しの薬局の封蝋をしっかり押して送る事にした。
まずは王宮関係かしらね。
ランさんは賢いからか、時々順番をすっ飛ばして行動をする事がある。
ホーキンス隊長を呼んだのも、それが一番簡単で一番早いからだろうけど、順番を考えたら師匠に連絡してハヤシ大隊長に連絡して、ホーキンス隊長を呼ぶんじゃないのかしら
いや、師匠の後はクリスさん達に連絡をして、その後が王太子殿下かブルワー法務大臣かタウンゼンド宰相かしら・・・?
あ、でも、私がこうやって考えて、ちまちま急いで連絡する事も分かっているから、ホーキンス隊長に一番なのかしらね・・・。
「国王陛下にも伝言頼んでねー。王太子殿下に伝言頼んだらどうかしらー?」、とか、ランさんは本当に強い。王太子殿下を魔鳩に使おうとしている所が凄い。
私も結局、王太子殿下にお願いはしちゃったけど。
王太子殿下とレオナルド王子の手紙には今出回っている噂の事や、ランさん作戦で新しい噂を広める事を説明した。
そして、極秘作戦とランさんが言っていたので、内緒にしている人が多く、知っている人の名前だけを書いて、他の人には内緒にして欲しいと付け加えた。国王陛下にも連絡した方が良いだろうけど、もう、どうやって説明したらいいか分からないので、王太子殿下から説明して欲しいと思っている事も書いた。
魔鳩を飛ばしてすぐに、レオナルド王子や王太子殿下の返信が届いた。
◇◆◇◆
「ロゼッタ・ジェーン様
連絡を有難う。何か手伝えることがあったら教えて欲しいと思います。父上には私から報告しておくので、連絡の心配はしなくて大丈夫ですよ。母上、ルーカス兄上、マリア姉上には父上の判断で説明をして頂きましょう。タウンゼンド宰相にも説明が必要でしょうが、それらの事はこちらで考えます。方々に必要な説明は私達で行い、ホグマイヤー様かラン様にも手紙を私から出しておきましょう。煩わしい事は周りに任せ、せっかくなのでお好きにゆっくりとされて下さい。暫く薬局から出ないと書いてありましたので、本を数冊贈ります。宜しければまた連絡を下さい。 ジョージ・ガイ・オースティン」
「ロゼッタ・ジェーン様
先の手紙の件、了解した。ジョージが陛下に伝えるとの事だった。先程私の執務室にブルワー法務大臣がハヤシ大隊長を連れてやって来たよ。ジェーン嬢が心を痛めてないかと、二人とも戦いに行きそうな勢いであった。大男二人がわあわあ言うのは鬱陶しい事この上ない。手紙をジェーン様に送ると言っていたので、魔鳩が大量に届くのも面倒だろうからここで書かせて、同封しておく。軍団や騎士にはホーキンスしか知らせないのだろう?ブルワー達への伝言もホーキンスを使ってくれと言っていた。私にも困った事があった時はいつでも相談して欲しい。薬草全集の新しい本が出ていた。もう持っているかも知れないが贈らせて貰う。それと、魔術属性と魔力の相性についてのレポート第二弾を同封する。良ければ感想を頂きたい。 レオナルド・ケイ・オースティン」
「ロゼッタ・ジェーン様
ホーキンスから話を聞いた。馬鹿な噂が流れて愚か者がいるとの事だったが、大丈夫だろうか?必要ならすぐにでも、我が屋敷の隊を引き連れて名無しの薬局に向かわせて頂く。合戦の準備はいつでもしておこう。昼夜問わす声を掛けて欲しい。我がブルワー家はいつでもジェーン様の盾となり剣となろう。訓練の時の雷は素晴らしかった。儂が名無しの薬局にこっそり行くのはいいのだろうか? ロバート・ブルワー」
「ロゼッタ・ジェーン様
ホーキンス隊長から報告を受け取りました。この話は極秘との事。他の隊の者が名無しの薬局を訪れた際は、私に確認を取るように申し付けて頂きたい。騎士、隊員であるならば、私の命で動くはずです。話を聞かない者は、その場で好きにされて結構。ラン様にも私からそのように手紙を出しています。騎士の方はロイスに話しておきたいと思っております。ジョージ王太子殿下や国王陛下の側にいる事も多いので、必然的に耳に入っているかもしれません。私からも話しておいた方が今後、都合が良いでしょう。どうか心穏やかにお過ごしください。 ダニエル・ハヤシ」
◇◆◇◆
クリスさん達の場所は、ジルちゃんが魔力が分かるみたいで、ジルちゃん便で手紙を送ると返信を持って帰って来てくれた。
◇◆◇◆
「ロゼッタさんへ
連絡ありがとう。噂の事は私達も聞いていて気になっていた。我らも各自、動いてはいる。勝手にしている事だから気にしないで欲しい。何か手伝える事があったら何でも言ってきてくれるかな?我々は暫く王都にいる。ホグマイヤー様とランさんにも頼るといいよ。無理はしないように。 君のパパより」
「ロゼッタちゃんへ
うわあ。引き籠りいいなあ。ジルちゃんにお菓子を一緒に持たせたから食べてね。ジルちゃんが来た時はホグマイヤー様の用事かと思って、構えちゃったよ。ホグマイヤー様の使い魔にはバレないように魔力を隠してるんだけど、この間見つかってからまた覚え直されちゃったからね、逃げるのが大変だよ。ああ、僕は最近、王宮によく行くから王宮で知りたい事があったらお手伝いするよ。クリスさんは王宮と貴族の屋敷に出かけているはずだよ。ゼンも王都に暫くいるよ。薬局には僕達ちょこちょこ顔を出すからね。あ、僕のおすすめはチョコ味だよ。ランちゃんと分けて食べてね。最近弟子がうるさいから、僕は王都から離れている事もあるけど、いつでも連絡していいからね。 ベンジャミン」
「ロゼッタへ
連絡を受け取った。噂は潰せばいい。何かある前に教えて欲しい。師匠も、ベンさんも手伝うと言っている。俺も情報を集めるのは得意だから今度薬局で話そう。最近、イライラしている女性や女性同士の喧嘩が多いとカラスが言っていた。ネズミが薬局の周りで嫌な気配が増えたとも言っていた。気をつけて。薬局の裏庭にカラスを伝言用に置いておく。使い魔達で手が足りない時はカラスを使ってくれ。急ぎの時は空に緊急の光魔法を飛ばしてもいい。すぐに駆け付ける。 ゼン」
◇◆◇◆
届いた本やお菓子を開け、私は皆にお礼の返信を書いた。
私は物置にしている二階のもう一部屋の掃除をしたり、引き籠って薬を作っていたら、皆が流した噂は瞬く間に王都中に広がって行った。
薬を作り、届いた手紙を整理していると、ハワード隊長が以前くれた手紙が目に入った。
メリア料理、楽しみだったけど、暫くは行く事は難しいでしょうね。
ジロウ隊長もハワード隊長も薬局には来ていないらしい。手紙も来ていないとランさんが言っていた。
心配を掛けているかと思ったが、そうでもない様で、ホッとした気持ちと、寂しい気持ちが少しあった。
心配して欲しい訳ではないんだけど。でも、忘れられたのかな、と思うと少し寂しいわね。
友人なら裏切られる事も無いんじゃないかと、楽しく付き合えるはずなのに私はどんどん欲張りになっているのかしら。
合えない日が続くと、二人に手紙を出したいな、と思ったけれど、「元気ですか?私は元気です」だけ書いてその先がどう書いていいのか思いつかなかった。
言いたい事も、どうしてるのかも気になったけれど、上手く書く事が出来ない。王太子殿下や国王陛下まで巻き込んで、事が大きくなっているので、作戦を台無しにすることも出来ずゴミ箱に書きかけの手紙を捨てると窓にスズメが止まってピピピと鳴いた。
窓を開けると、スズメが小さな花を咥えていて手紙を咥えた猫も入って来て、いつの間にか部屋にカラスも入り綺麗な石を机に置いてくれた。
「ロゼッタ この子達は俺の友達だ。暇な時は遊び相手にしてくれ。 ゼン」
猫が持ってきた手紙はゼンさんからで、私は一気に賑やかになった二階の部屋で沢山の動物に囲まれた。
「皆、仲良くしてね」
私がそう言うと、動物達は頷き、アルちゃん達にも礼をした。
私は一階のランさんの事を考えたり、ゼンさん達の事を思ったり、心配を掛けているだろう隊長達の事を考えた。
師匠ならどうするかを考えてから、私は息を一つ吐き出した。
心配ばかりかけるんじゃなくて、私は自分の道を考えないといけないわね、と、頬を叩いた。