魔法使い達のお茶会 ゼン視点
ゼン視点の話です。ここで出てくる師匠呼びは、ゼンの師匠、クリスのことです。
俺は名無しの薬局の奥の工房で師匠とベンさんとお茶を飲んでいた。
「うーん。このお茶美味しいね。何処の物かなあ?ロゼッタちゃんが用意してくれるお菓子もいつも美味しいよね」
ベンさんはロゼッタが淹れたお茶を飲みながらお菓子を食べ、忙しそうに口を動かしていた。
ロゼッタは俺達に挨拶をすると、お茶とお菓子の用意をして店の方に出て行った。工房の中は魔法使い三人と、奥の部屋で寝ているホグマイヤー様だけだった。
「玉ねぎ屋パーティーもお披露目も良かった。いい絵が描けそうだ」
師匠もお茶を飲みながらスケッチブックを眺め、何かを描き足している。
「うん、ゼンの時はこじんまりとしたからね。あれはあれで、良かったけど。やっぱり魔女ちゃんは華があるね」
「ああ、ゼンの時はホールにもバルコニーにも動物が多くて大変だった。ベンの時はお披露目は良かったが、終わった後が大変だったな」
新しいお茶を自分で入れながらベンさんが聞く。
「そうかな。色々な料理で溢れた立食パーティー。美味しかったけどな。クリスさんの時はモデルを呼んだの?ホグマイヤー様が言われてたけど」
「ああ。隣国の要人が来るだろう?その時にお抱えの絵師なんかも連れて来て貰ったよ。モデルは少なかったけれど、珍しい物を見せて貰ったりね。隣国の人達も、色々持って来て自慢話に華が咲いたな。中には贋作もあって大変だったが、共通の趣味を持つ者は襟を緩めて話が出来ていたよ。まあ楽しかった」
「いいねえ。でも、今回のお披露目は魔法使いは三人だし、魔女も二人。今までで一番人数も多いし、良かったよね。ロゼッタちゃんの魔力、凄かったねえ。僕、魔法使いになりたてで、ホグマイヤー様の魔力操れなかったよ。ロゼッタちゃんは弟子だから出来たのかな?僕は師匠と二人でホグマイヤー様の魔力を練ったよ。一人で四人分も練り変えるなんてすごいよねえ。いきなり魔法使いと魔女の魔力を練れなんて無理だよね」
それは、俺も思う。
「・・・・・・」
俺はゆっくり頷きお菓子を食べると師匠もベンさんの言葉に頷いた。
「ゼンもそう思うかい?うん、ロゼッタさんは普通の魔女じゃないね。さすがホグマイヤー様のお弟子さんだよ。ほら、メリアの魔女様がいるだろう?あの方も凄いけれど、魔力だけならロゼッタさんの方が今でも上だろうね」
「うん、そうだと思うよ。この間、ゼンと二人で、ロゼッタちゃんと使い魔ちゃん達の特訓をしたんだけど、僕もゼンも全力を出さないとやばかったよ。ブルワー君達に特訓頼まれて、その予行練習?みたいな感じをしたんだけどさあ。なんだろう、ロゼッタちゃんは感覚が鋭いのかな?「ひえー」とか言ってたんだけどね、僕の攻撃をすいすい避けるんだ」
師匠は片方の眉をピクリと上げると、少し笑っていた。
「おいおい、ロゼッタさんにいきなり攻撃を打ち込んだのか?ベンは攻撃魔法が得意だろう?」
そう。穏やかな見た目のベンさんは治療魔法が得意かと思われるが、得意な分野は呪いの解呪と攻撃魔法全般。俺達三人の中では一番好戦的だ。
「うん。お構いなしにドンドンと打ち込んだよ。でも、かすりもしなかったよ。「ひー」とか「うわー」とか言うんだけどね、防御膜を張りながら身体強化も掛けていたのかな?風魔法で攻撃の軌道を変えたのかも知れない。使い魔ちゃんもサポートしたかも知れないけれど、魔力の扱いが上手いんだ。本人は下手って言ってたんだけど、追い込まれて無意識にしてたんだろうね。ロゼッタちゃん、一度に三つは属性の違う魔法を使えるよ。とにかく器用だよ。ブルワー君は動物的にロゼッタちゃんが強いのが分かるのかな?魔女様って言ってもさあ、攻撃魔法に優れた方ばかりじゃないのにね」
「ブルワー君は本能だろうな。ベンと似た感じだろう?戦い方を見た事があるが、運動能力では説明できないような避け方をする。彼の動きは予知に近い。ハヤシ君はまだそこまではない。ただ彼は魔力も高いから面白い戦い方が出来る」
「えー、ブルワー君と同類にしないで欲しいな。ムキムキツルツルと一緒なんて嫌だよ。僕はホワッとぷよっと癒し系だよねえ。まあ、僕は二人とは戦わなくていいかな。暑苦しそうだもの。ロゼッタちゃんにはもう少しだけでも、先輩魔法使いとして格好つけたいから、頑張ったよ。ロゼッタちゃんの魔力の扱い方を見ると無駄に魔力が大きい時があるんだ。だから、やっぱり慣れてないんだろうね。あれだけ出来て、まだ、苦手って言うのがおかしいけどね。薬師だからかな、頭でしっかり覚えようとするんだよね。でも、僕は感覚的でやった方がロゼッタちゃんは伸びると思うな。彼女、天才だよね」
師匠とベンさんの言葉に俺は頷き、深紅の魔女様を思い浮かべる。
十年位前に見た時は、真っ赤な長い髪を靡かせて、ホグマイヤー様と海辺で釣りをされていたな。
近寄ると碌な事がないので、二人を見た時は俺はさっさと隠れる事にしている。
それに、ブルワー法務大臣とハヤシ大隊長の訓練は俺も断りたい。面倒だ。
「深紅の魔女様、お元気なのかな?昔はよく遊びに来ていたみたいだけど、最近は見ないね。大分御年だし、のんびりされているのかな」
師匠はお茶を飲んで笑った。
「大人しくはされてないだろう。ホグマイヤー様の飲み友達だぞ?噂をすると急にやってこられるかもしれん。この辺で止めておくのがいい。それにしても、ロゼッタさんの噂を聞いた時はどんな魔女さんかと思ったが、可愛い良い子じゃないか」
「うん。噂と全然違うね。ゼンも何か聞いた?」
「・・・・サレ女・・・・浮気されるダメ女・・・・」
「ああ、私も似たような物だ。王宮で聞いたロゼッタさんの評判は上々だ。パーティーでも色々な人に好かれていた。頑張り屋の可愛い魔女って言うのが一番多い評判だったな。まあ、少し前にサレ女もあったようだがね。詳しく聞くと、ロゼッタさんの恋人が浮気をして、ロゼッタさんが捨てたそうなんだ。バカな男だ。後悔しているだろうね」
「・・・・・・」
俺が杖を握ると師匠が苦笑いした。
「こら、ゼン、魔力を出すな」
「まあ、自分の眼で見て確かめるまでは気にしないけどね。それにホグマイヤー様とランちゃんがいるんだよ?変な弟子な訳がない。僕も噂を流されるのは経験があるからさ」
「そうか。で、どうする?」
師匠がニヤリと笑って俺らを見る。
「・・・・潰す・・・・」
「うん、僕らは好きにしよう。魔女の悪口なんて、馬鹿だよね。僕の時を思い出すよ。本当、皆、勉強しないよね。クリスさん覚えてる?僕の時は見た目ばっかり言われてさ。ぽっちゃりの魔法使いって駄目なの?ホグマイヤー様も怒ってくれたけど、あの時はブルワー君が一緒に怒ってくれて馬鹿にした軍団員をボコボコにしたね、懐かしいな。ランちゃん達も動いているのかな。ロゼッタちゃん達が困った時はすぐに助けてあげようよ」
「ああ、私はパパだからね。可愛い娘を虚仮にされて黙っとくのは駄目だろう。ベンの話も懐かしいな。あの時ブルワー君と一緒に暴れた第五軍団の娘がこの間のパーティーに来ていた。よく似ていたよ、ベンは気づいたかな?年を取るものだな。さあ、直接潰すのはロゼッタさん達に任せようか。ホグマイヤー様の側にいれば退屈しないな。ゼンも可愛いロゼッタさんを守るだろう?お前の眼に怖がりもしない、特別な子だよ」
俺は頷く。
「・・・・可愛い・・・・」
「ロゼッタちゃんは不思議だよねえ。大人びてるけど、抜けてるし、頑張ってるけど、空回ってる気もするし、なんだか可愛いんだよねえ。ランちゃんはしっかりしてるもんね。抜け目ないし、賢いよ」
「では、我らで可愛い魔女さんを守りますか。こういう時、魔女様の使い魔殿が羨ましい。まあ、ゼンは似たようなものか。情報収集はゼンに頼もう。場所は王都を中心に調べてくれ」
俺は頷くと、魔法陣を出した。杖を振り、仲間を呼ぶ。
「・・・・猫・・・・ネズミ・・・・鳩・・・・スズメ・・・・カラス・・・・」
魔法陣の魔力を溢れさせると、暫くして店の方が騒がしくなった。
工房の扉がノックされ、ランの声が聞こえた。
「ゼンさーん、オトモダチが沢山来てますよー。裏に回るように言ってくれますー?裏庭にお願いしまーす」
俺は魔法陣をもう一度出すと、魔力を出した。
暫くして静かになり、俺たちは工房を出て裏庭の方へ回った。裏庭の扉を開けると、猫、ネズミ、鳩とスズメとカラスが庭に集まっていた。
杖を皆に向け、お願いをしていく。
(集まって貰って悪いな。この薬局の宵闇の魔女、ロゼッタ・ジェーンについて話している者が知りたい。悪口や嫌がらせをしている者を調べて欲しい。分かるか?)
俺の言葉にカラスが答えた。
(ヨイヤミノマジョサマノ ワルクチヲ シラベル。マホウツカイ サマ オマカセヲ)
猫が頷き口を開いた。
(カラスト ワレラデ ホウコクヲ スル。マホウツカイサマ オマカセヲ)
(ああ、毎日連絡はくれ。報酬は各種族に飯を渡そうか、薬も付ける、仕事の間は喧嘩は止めてくれ)
((カシコマッタ))
俺は頷くと魔力を飛ばした。皆一斉に庭から出て行った。
「・・・・・調べて貰える・・・・」
「そうか、良かった。僕はどうしようかな。うーん、王宮に行ってみようかなあ。シェフや庭師に話を聞こうかな。晩餐会の様子や、侍女さん達や下働きに声を掛けてみるよ。マリアさんに会いに教会に行ってみてもいいかな。ホグマイヤー様は動かないだろうね」
「ホグマイヤー様とは昨日、知り合いと一緒に酒を飲んだが噂の事は気にしてなかったな。「好きにすればいい」と言われていたから、噂の事は知っているようだった。私は貴族の屋敷に行ってみるか。絵師の知り合いを回ってみよう。集まるのはここで良いだろう。貴族関係は私が動こう。暫く、薬局で皆で集まろう。ゼンは王都の街の様子を頼むよ。我らが動いている事を見せるだけで、賢い者は分かるだろう。牽制にはなるはずだ。さあ、楽しくいこう」
師匠はニコリと笑うと、杖を撫で、ベンさんもニコリと笑ったが二人とも魔力がピリっとしていた。
気持ちは分かる。俺だって許せない。