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噂話と日常 

サミュエル君から噂話を聞き、五日が経った。


筋肉痛も落ち着いてきてホッとしていたら、突然お尻がツンっとやられた。



「うきゃあ!!あう!!あ!師匠、おはようございます・・・」



お尻が痛くて飛び上がったら、筋肉痛のダメージが地味に残っていて自滅した。


「ううう」っとうめき声を出しながら師匠を見ていると、杖で私のお尻を突いた師匠は頭をポリポリ掻いて私を見上げた。



「情けねエなア。ロゼッタ、しっかり鍛えろよ。よー、酒はあるか?今日はクリスとその知り合いと一緒に飲んでくるからな」


「うう・・・まだ朝ですよ?朝ごはん食べました?師匠、夜に帰って来るのなら、キッチンにスープを作っておくので良かったら食べて下さいね。クリスさんにも宜しくお伝え下さい・・・。あと、一緒に飲む方にもお土産をどうぞ」



私は師匠にお酒とクリスさんの好きなお茶の葉とお菓子をお土産に渡した。お尻を撫でている私に、呆れた目を向けながら師匠はポシェットにお酒やお菓子を入れていった。



「おう、悪いな。最近、ウロウロして見つけた土産をやろう。ジルがお前は武器や防具が欲しそうだって言ってたからな、お前にはコレだ。ランにはこっちだ」



師匠は自分で、「やっぱり私は優しい、良い師匠だな」と言いながら、大きなペン程の太い釘の様な武器を十本程と、よく磨かれた盾をくれた。



「有難うございます、師匠。この釘はなんですか?盾はフォルちゃんが喜んでますけど・・・」


「ああ、魔力を流してみろ。闇魔法が得意なお前なら使えるだろう。モラクスに使い方を聞いてみろ」



ランさんには趣味の悪い宝石が沢山ついた箱だった。


師匠は私が朝ごはんにどうぞ、と言って渡したパンを受け取るとヒラヒラと手を振り、「じゃあなー。お前、もっと鍛えろよ。ダンをもっと転がしてやれ」と言って消え、私はお尻を気にしながら店の方へ出て行った。



私の本業は薬屋だからあまり鍛えなくていいと思うのだけど、師匠に言ったら怒られそうだから黙って見送った私は賢いと思う。


全く、師匠は私を何処に向かわせたいのかしら。



「おはようございます、ランさん。師匠は今日もお出かけですよ。クリスさんとお知り合いの方とお酒を飲むそうです。まさか朝から飲みませんよね?コレ、師匠からランさんにお土産です」


「おはよう、ロゼッタ。さー、朝でも飲むんじゃなーい?あら、趣味は悪いけれど中々の宝石ねー。あら?コレ秘密箱ね?いいじゃなーい、師匠のお土産のセンスが少し上がったわー」


「私は武器と盾を貰いましたよ。ジルちゃんが師匠にお勧めしてくれたらしいのですけど、私、武器よりも宝石とか、本とか、可愛いヘアピンが欲しいですよ」



私はカウンターに寝転んで、片目を開けてこちらを見るジルちゃんを撫でると、ジルちゃんはあくびをして目を閉じたので、可愛いヘアピンのお土産は無理かもしれない。



「まあ、フォルちゃん達が喜んでるみたいだからいいんじゃなーい?使い魔同士でお願いしてたのかもねー。私は午後から配達回りをしてくるわね。細々とした用事も終わらせてくるわー。今日は店を午前で閉めるわよー」


「了解です。気をつけて下さいね」



ランさんはカウンターに座ってノートを出して、早速秘密箱を開けようと触り出していた。私は店のドアを開けて開店の札にすると、店を開けた。


開店を待っていた人が入って来て、私は急ぎの注文を作り、フォルちゃん達は店の警護に移動した。お昼を回ると配達に行くランさんを見送り店を閉めた。その後、久しぶりに外で食べようと玉ねぎ屋に入るとお客さん達の視線が刺さった。



「ごめんよ、ロゼッタちゃん。ここでロゼッタちゃんのパーティーを開いた噂が広まってね。客が増えてんだよ。しばらくは薬局に注文を届けようか?常連が多い時はロゼッタちゃんをそいつらの近くの席に案内出来るんだけどね」



困った顔のマツさんに謝られて私が食堂を見渡すと、興味深々で私を見る人や、知らないふりをする人等でゆっくりと食事は出来そうにはなかった。



「マツさん、暫くは店に配達をお願いしますね。またフォルちゃんかウェルちゃんで注文を出します」


「すまないね。今日のお代はサービスするよ。あとで店に運ぶからね」



私はマツさんに、気にしないで下さいと言って店に戻った。



なんだか疲れるわね。良い視線だけじゃないのも分かるもの。



変な噂は相変わらずあるようで、店に戻るまででも、私を見てニヤニヤする男の人やひそひそ話す女の人がいた。


勿論そんな人ばかりじゃなくて、手を振って挨拶をしてくれる人もいる。私がゆっくり息を吐いて、辺りを見回すと慌てて目をさらされたり、速足でどこかに行く。



サレ女の時はこんな感じではなかったわね。


あの時は、同情的な眼が多かったが、今は面白そうに見たりちょっと睨んだりする人もいる。嫌いな人に向ける目線っていうのかしら。



はっきりと嫌がらせをされたら怒れるけど、コソコソと噂話されるだけなら何も被害がないともいえるのかしら。


困ったな。


私がふう、っと息を吐いて店に入ろうとすると、小さな女の子が私のローブをチョンっと触って、自分の洋服を指さした。


私が顔を向けると、母親が慌てて謝り、女の子は自慢げな顔をしてピンクの可愛いローブを胸を張って見せてくれた。



「まじょさまといっしょなの」


「お母さまに作って貰ったの?素敵ね。よく似合ってるわ」



女の子は綺麗に磨いた棒を腰に刺して、腰に手を当てて笑うと手を振って母親と歩いて行った。


嫌な事ばかりではないのよね。



名無しの薬局に戻ろうとすると、イアンさんがお隣の店から丁度出て来て目が合った。



「あ、こんにちはロゼッタさん。あれ?もう食べて来たんですか?」


「こんにちは、イアンさん。まだ食べてませんよ。マツさんの所はお客さんが多くてゆっくりできなかったので配達にして頂きました」


「ああ。最近、マツさんの所も多くなりましたからね。ロゼッタさん、良かったらうちで食べます?俺、マツさんの所に注文に行く予定だったので、ロゼッタさんの配達の変更も行って来ますよ?親父が裏で寝てますけど貰い物のパイがありますし。良かったら食って下さい」


「いいのですか?フォルちゃんに配達の変更をお願いしましょう。イアンさんの分も、マツさんにイアンさんの所に配達して貰うように手紙書くから届けて来てね」


「あ、いいんですか?じゃあ、スープを親父の分と俺の分をここに届けて貰えるように頼んで貰えますか?金はこれです」


「ええ、フォルちゃん、宜しくね」



私は急いで手紙を書くとフォルちゃんに預けて、お隣のお店に入った。



「どうぞ、ロゼッタさん。店の奥に休憩室があるので、そこで食べましょう。親父達が酒を飲んだ後なので、ちょっと片付けますね。俺も丁度飯にしようと思っていたんですよ」


「お邪魔します。ジョゼッペさんが寝てるのは、うちの師匠のせいじゃないですかね?もしかして、昨日は師匠と飲んでいましたか?」


私が訊ねると、イアンさんはニヤッと笑ってテーブルの上を簡単に片づけて、奥のジョゼッペさんに声を掛けた。



「親父!ロゼッタさんが来てるよ!一緒に飯食うかい?」


「・・・馬鹿・・・お前、デカい声出すな・・・。後で、食うから残しとけ・・・。ロゼッタちゃん、ごめんよ・・・」



奥からジョゼッペさんのか細い声だけが聞こえたきた。



「ジョゼッペさん、お気になさらず寝てて下さいね。えーっと、アルちゃん、この文字の瓶の商品をカウンターの後ろの棚から持って来れる?確か上から二段目のむかって右奥よ」



アルちゃんはコクンと頷くと、影に消えて、二日酔いの薬を持って来てくれた。


私がアルちゃんを撫でて、イアンさんに瓶を渡した。



「イアンさん、ジョゼッペさんが二日酔いならこれを飲ませて下さい。場所代替わりでお代はいりませんので。楽になると思いますよ」


「あ、すみません。親父、ほら、これだけ飲んで」



イアンさんは奥に入ると、薬を渡して戻って来た。



「助かります。親父、すぐにホグマイヤー様と飲みすぎるんですから。年を考えて欲しいですよ」


「ふふ、うちの師匠、先程また飲みに出かけましたよ。少しは大人しくして欲しいですね」



そんな話をしているとマツさんからのご飯が届き、美味しく頂いた。


イアンさんのアクセサリーの話を聞いたり、クズ水晶や、欠けた宝石などを安く売って貰って、パイをお土産に貰い私は店に戻る事にした。



「ああ、そうそう、名無しの薬局の前に女の子が良く来るでしょ?おかげで、うちもアクセサリーが売れるんですよ。安い物ばかりですけど、まあありがたいですね」


「お役に立てているのならよかったです」


「ええ、店に来た女の子が言ってましたけど、恋の御守り用のアクセサリーが王都で流行っているらしいですよ」


「恋のハンカチではなくて?恋愛グッズがここでも売れているのですね」


「意中の相手の色をこっそり隠して持つのが流行りの様です。ネックレスにして服の下に着けるのが流行りなのかな。後、ブレスレットも流行ってますけど、これは贈り物や恋人同士で持つのが流行っているみたいですね」



ほほう、と私はカウンターの近くに並べられたアクセサリーを眺めてから、お礼を言ってイアンさんの店を出た。








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