サミュエル君と噂話
ランさんは休憩の札をサッとドアに掛けて出て行った。
ランさんの行動力は凄い。
お店も勝手にお休みにしちゃうし。
「もう。ランさんは話を聞かないんですから。サミュエル君、教えてくれて有難うございます」
「ロゼッタ様、大丈夫ですか?ロゼッタ様は何か言われたりしていないですか?昨日、店に戻ってからチェンさんや近所の人に宵闇の魔女様の噂の事を何か知らないか聞いてみたんです」
私が頷くと、サミュエル君はお茶を少し飲んだ。
「チェンさんも噂話を聞いた事があるって言ってました。あの、勿論良い噂もありました。可愛い魔女様、とか、綺麗な魔女様とか。お披露目の祝福が素晴らしかったとか。でも、あの、前はサレ女、とかもあったようで・・・。しばらくすると噂は少なくなって、最近また多いようなんです。僕、あの時に言い返せたら良かったと思ったんです」
私は首を横に振ると、耳を少し垂らしたサミュエル君を見た。
「有難う。トラブルになりますから言い返さなくていいですよ。サミュエル君は何も言われてないですか?サミュエル君に迷惑がかかる時は教えて下さい、チェンさんにも伝えて下さいね」
「そんな!迷惑なんて!僕に悪口を言われるのならいいんです。僕、慣れてますし。それに最近はちゃんと言い返せますし、手を出されたらやり返します!でも、ロゼッタ様が悪く言われるのを聞く方が辛かったです。驚いて動けませんでした。僕の事でロゼッタ様がまた悪く言われるかもしれません・・・」
「サミュエル君が半獣人なのは悪い事でもなんでもないですよ。サミュエル君が悪く言われる時は私もランさんも戦いますよ。ただ、噂って、面倒ですよね・・・。相手がはっきりしませんから。直接言われたわけではないので、対処のしようがないですね」
サミュエル君はしょぼんとして、カップを持って耳は垂れたままだった。
「えっと、以前の噂はですね、サミュエル君も知っているかも知れませんが、私が以前お付き合いした人との事でサレ女って噂はありましたね」
「・・・軍団隊員の恋人が浮気をされたのでしょう?」
「え、あ、はい、その通りです・・・。情けない事に相手は複数らしいです。それで、サレ女と言われまして・・・」
「あの、以前チェンさんが聞いたのはサレ女と、怪我をした可哀そうな女の子と言う事らしいです。薬局は薬師協会に入ってますかね?うちは商店協会に入っていて、チェンさんが一月に一度くらい集まりに出かけるんですけど、そこで聞いたそうです。王都で起こった事等が皆で情報共有されたりするので、第二軍団からのお知らせなんかも聞いて来るんですよね。そこで、見習い魔女様の軍団隊員の恋人が浮気がバレて恋人に怪我をさせたと聞いたらしいです。商店協会に出席していた人の中にたまたま現場を見た人がいたらしくて、ロゼッタ様と軍団隊員さんの事をそこで詳しく話をしていたそうです」
「成程。それで、市場で皆がおまけをしてくれていたのかな。ホーキンス隊長がすぐに動いて、見回りを強化したりもしていましたものね」
「ええ、不祥事があった事を隊長や副隊長が各協会に知らせたようですね。軍団の事を怒っている人も多くいましたが、その後の対応は悪くなかったって隣の店主さんも言ってましたね。だから、ロゼッタ様の事も皆知っていたんだと思います。なので前回はどちらかと言うと、年配の人が知っていたのですが、今回は若い人を中心に噂が流れているようです。チェンさんは知りませんでしたから」
なんでしょうね、と言ってサミュエル君を見た。
「小さな子から手を振られたり。年配の人から勇者の礼をされたりはあったのですけどね。うーん、最近、うちの薬局の前が出会いの場になっていてちょっと困ったりして、ホーキンス隊長や王宮に人払いをお願いしたりしましたね。人が集まるから噂が立つのですかね?」
「たしかに最近、名無しの薬局の店の前で女性を見かけますね」
「ええ、隊員や騎士達を待っているようですよ。あ、この間の大隊長訓練、サミュエル君のおかげで、無事に終える事が出来ました。身体中が筋肉痛になってしまいましたが」
「訓練が無事に終わって良かったです」
アルちゃん達も頷いてサミュエル君を見ていた。
「ええ、おかげさまで。ダガーも隊長達に投げつけましたよ。ハルバートも使えましたし、アルちゃん達も隊長達をやっつけてました。サミュエル君に習った通りに出来ました」
サミュエル君は笑って耳をピコピコしていた。
「でも、噂話はどうしようもないですね。男を誑かす・・・。うーん、モテた覚えは・・・。うーん、そもそもモテるってなんだろう?・・・。ランさんみたいな感じですよね?」
サミュエル君は可愛く、首をコテンと傾げてカップを持った。
サミュエル君もモテる気がする。
兄さん達もモテてるらしいし、私の周りはモテる人だらけね。
「ラン様みたいな、と言うのは分かりませんが・・・。告白されたり、プレゼントを貰ったりデートに誘われたりとかはモテているんではないでしょうか?」
そうよね、うん、間違いなくランさんだわ。
「分かります。ランさんは沢山商品買って貰ってますし、ぽーっとなったお客さんはランさんのいいなりですよ。ラブレター付きの花束を貰ったりもしてますもの。うん、私はないですね・・・、あ!プロポーズされました!」
「え?・・・・、相手は誰ですか?」
「ふふふ。ブルワー法務大臣のお孫さんで、七歳の可愛い男の子ですよ。十以上も歳は下ですし、私よりも強くなったら考えると言いましたが、丁寧にお断りしましたよ。でも、これは違いますかね、ふふ。将来有望な子ですよ」
「ああ、良かった。金と黒じゃなかった・・・。何、七歳にさせているのですかね」
「うーん。仕事に影響が出たりするのも困りますし・・・、参ったなあ」
「あの、僕も何かお役に立てる事があったらと思います。良かったら頼って欲しいです・・・」
私はお茶を飲んで、考える。サミュエル君は手をもじもじさせて私を見てくる。
本当、可愛い。
「有難う、サミュエル君。噂を教えてくれて助かりました。早く知る事が出来て良かったです。サミュエル君にはいつも助けて貰ってます。今後も宜しくお願いします。近々、訓練着の注文を出してもいいですか?今度詳しく話しましょうね」
「はい!いつでも連絡して下さい!すぐに駆け付けます!」
「頼もしいですね・・」
私はお茶をのんで、サミュエル君と話し、サミュエル君が帰った後もふむふむと考えた。
どうしたらいいのかしらね。
アルちゃん達をなでているとランさんからは魔蝶が届き、チェルシーさんとご飯を食べてそのまま帰ると連絡を受けた。
あの二人でご飯食べたら、お酒を飲みながら長くなるだろうな。
「ランさん、気をつけて下さいね。急ぎの注文は終わってます」と魔蝶を送った。
私ものんびりとする事にして、溜まっていた手紙の返事を書いたり料理を作ったり、マジックバッグの中の整理をして過ごす事にした。
さあ、どうしたものかなあ、と思ったが、勝手に流れている噂をどうしていいのか分からないので、とりあえずは放って置くことにした。