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不穏な噂 

第六章始まりました。

ブルワー法務大臣達との訓練も終わった後は、筋肉痛と戦いながら薬を作る日々だった。


私は普段使わない筋肉をいじめたせいで、お尻やら脚やらが痛くて産まれたての小鹿の様に足をプルプルさせて薬局内を移動していた。



「うう・・・。転移を早く覚えたい・・・。階段使いたくない。二階に転移出来るようになりたい。こう、一瞬でベッドに行けるようになりたい」



私が魔力を錬金釜に込めながらぶつぶつ言っていると、ランさんは魔鳩に「どうもー」と言って、荷物を受け取っていた。



「ロゼッター。筋肉痛が辛そうねー」



杖を振っている私を見て、ランさんは錬金釜の横にお菓子の包みと追加の消臭薬の注文書を置いた。



「ありがとうございます、ランさん。腕も脚もお尻もプルプルですよ・・・。立っている時は良いんですけど、座る時や階段が辛いです。やっぱり運動不足ですね。身体強化魔法って後から来るんですね。私、身体強化を使ったら、勝手に無敵に慣れると思ってガンガン使ってしまいました。今、大変な事になっていますよ、自分の限界を引っ張り上げる感じなんですね。ハルバートも身体強化使わないと無理だし。もう封印しようかな・・・」


「そうねー。人間が無意識にセーブを掛けているリミッターを外す感じなのかしらねー。ロゼッタ、ここに引っ越してからアパートまでの徒歩の往復も無くなってるものねー。王宮も配達少なくなったし、サミュエル君もここに来てくれる事が多いものねー」



はあ、っと溜息を吐いて私は注文票を手に取ると目を丸くした。



「おお、消臭薬の注文がすごいですね。第一、第二騎士からですか」


「すごいでしょー。消臭薬を騎士団の隊長達に売り込みかけたらまとめて売れたのよー。ジロウ隊長達の第四軍団が使ってるって言ってみたの。ジロウ隊長が走り回ったおかげで、皆、消臭薬を常備薬として置いてくれるみたいなのよね。ほら、騎士って王宮のやんごとなき方達の側にいるでしょー?警備の為だと思うけど、騎士や隊員は香水が使えない事もあるんですって。でも、やっぱり臭いと嫌がられるから消臭薬は有難いって言われたわよー。あと臭い噴水事件があったから、皆、匂いに敏感ねー。ハヤシ大隊長も自分の執務室に一本置いておくらしいわー」


「あらら。ジロウ隊長、臭い匂いのまま王宮内を走り回るから有名になってますね・・・。トイレ噴水はランさんのせいですからね?」



私は錬金釜に魔力を注ぎぽわっと光らせて、消臭薬を完成させると、釜の横のお菓子の包みを開けた。


包みの中は焼き菓子で、カードが添えてあった。



「ジェーン嬢 暫く休みがありません。絶対食事に一緒に行きましょうね、忘れないで下さいね。また連絡致します。 ライアン・ハワード」



「ランさん、お菓子はハワード隊長からです。美味しそうですよ。皆で食べましょう」



私がお菓子をランさんに持って行くと、ひょいっと一つつまんで口に入れた。



「ランさん、最近は皆さん忙しそうですね」


「そうねー。お披露目が終わって通常業務に戻ったんじゃないかしら。どこのお菓子かしらねー?素朴な感じよね?王都では無さそうね?またどこか飛んでいるのかしらねー」


「そうですね、ホーソンさんにも最近会えません」



私も焼き菓子を口に入れると頷いた。



「ロゼッター、またベンさん達と訓練に行くのー?」


「はいランさん。雷を上手く使えるようになりたいですからね。ランさんのアドバイスのおかげで氷魔法も使えるようになりましたよ。あ、お菓子はベンさん達にも残しておきましょう。師匠の分はどうしようかな。今日は工房にはいないみたいですね」


「師匠、ちょっと前は第三や第六の隊長に突撃してたわよねー?王都にいるなら第一の隊長に突撃しているかしらー?師匠、隊長達と遊ぶの好きよね。一昨日はジョゼッペさんの店で煙草を吸ってるのを見たから今日もその辺にいるかもよ?」



「師匠が、元気ならいいですけどね」


「そうねー。師匠が好きにしているのは平和よねー」



そうやってランさんと話しながら商品を作っていると、サミュエル君が店にやって来た。



「こんにちは、ロゼッタ様、ラン様。商品をお持ちしました」


「いらっしゃいませ、サミュエル君。奥にどうぞ」


「いらっしゃーい、ゆっくりどうぞー」



私は身体をギクシャクしながらキッチンに通し、二人で座って注文していた刺繍をテーブルに出して貰う。



「ロゼッタ様、ポーションバッグと侍女様用の図案です。これで良ければ侍女様達の分の刺繍を始めますので、確認をして下さい。侍女様達の注文は五十で良かったですか?」


「有難うサミュエル君。図案と注文数の最終確認はランさんから侍女長にして貰います。すぐに連絡をしますね。あと、預かっていた刺繍糸は魔力を注いでいますので、これで冬祭りの分の刺繍はお願いします」


「了解しました。頑張って作りますね」


「ふふ、楽しみです」



私がお茶を注ぎ、お菓子を出してサミュエル君に勧めると、サミュエル君は頂きます、と言ってお茶を飲み、ゆっくりと顔を上げると言い辛そうに私を見た。



「あの、ロゼッタ様。ロゼッタ様の噂をご存じですか?」


「噂?」



私が首を傾げお茶を飲むと、ランさんもカウンターからキッチンの方にやってきた。



「サミュエル君、なーに、ロゼッタの噂って?」


「僕が聞いたのは宵闇の魔女様は男を誑かす魔女で、男を破滅させるらしいって言われてました」


「はあ?」



ランさんの周りの温度が一気に下がった。


アルちゃん達も大きくなって、皆の魔力が溢れた。



「何それー?ロゼッタはサレ女だったのよ?男は勝手に破滅したのよ?ロゼッタが男を誑かしたりはしてないわよー、まあ、物理的に男を転がしたのはあるわねー・・・。サミュエル君、何処でその噂を聞いたのー?」


「ランさん、ちょっと落ち着いて下さい・・。サミュエル君は悪くないですよ・・」


「ロゼッタ様、大丈夫です。ラン様、僕が聞いたのは昨日です。お使いに行った先のアクセサリーの店でお客さんが話していました。話をしていた人は質の良い流行りのワンピースを着ていましたね。顔は見えず後ろ姿だけでしたので、はっきりとは分かりませんが、ワンピースの色と形の感じだとロゼッタ様やラン様と同じような年頃だと思います。僕は飾りに使うアクセサリーの注文を店員と話をしていたのですが、その間にいなくなったのでお連れがいたかも分かりません。しっかりと聞いたわけでは無くて、宵闇の魔女って言葉が聞こえて急いで耳を澄ませたので・・、少ししか話は聞いてないのです」



サミュエル君は帽子を脱いで、耳をピコピコ動かしてくれた。



「成程ね。魔女の名前が出たから気になって聞いてくれたのね」


「ええ、僕、耳は良いので、ある程度離れていても耳を澄ませば声を拾う事が出来ます。街中では雑音が多すぎて難しいですが」



私達は頷いて、サミュエル君の話を聞いた。



「便利ねー。で、サミュエル君は他に気になる事はないのー?変わった事はないかしらー?」


「そうですね、ロゼッタ様の噂は悪口の様に聞こえました。不快な感じでした。うまく言えませんが、声色に悪意を感じましたね。それで僕も気になって耳を澄ませたのです。他に変わった事ですか・・・、ロゼッタ様の噂とは関係ないと思いますが、最近小物が良く売れますね。恋愛グッズが流行っているとお客様が言ってましたよ?お披露目で大勢の観光客が王都に訪れましたからね。出会いが多くあったのではないのでしょうか」


「悪口の感じね・・・。なんだか分かるわー。こういう直感は大事にした方がいいのよ。サミュエル君有難う。ふう、女の子は恋愛グッズが好きねー」


「ラン様、恋愛グッズで、「恋のハンカチ」と言うのをご存じですか?」



ランさんは私の方をチラリと見て、私が首を横に振ると、ランさんもコテンと首を傾げた。



「いいえー?知らないわー?それも流行ってるの?」


「最近、お客様の女性から、「これは恋のハンカチですか?」って聞かれまして、「いいえ?恋のハンカチとはなんでしょうか?」って聞いたんですよ。そしたら、恋愛の御守りとして若い女性に流行っているそうで、「うちは普通のハンカチです」って答えたらがっかりされました」


「ふーん、成程ね。サミュエル君お手柄よー。そのアクセサリー屋を教えてね。ちょっとチェルシーに聞いて来るわ。あと、色々回って来るわねー。ロゼッタ、私、出るから店は閉めて良いわよ。サミュエル君はゆっくりして行っていいからねー」


「あ、ランさん」



私が止める間もなくランさんはマジックバッグを持つと店をさっさと出て行ってしまった。




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